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日本企業、アセアン域内のM&A金額ペース大幅減退
日系企業によるアセアン域内のM&A実績(日系企業による域内企業の株式取得)が、大幅に縮小している。レコフデータによると、2019年のM&A取引金額は計3,872億円で、前年の6,622億円から4割以上縮小した。
小口化するM&A
アセアンへの進出が縮小している原因としては、大型案件が少なく、2018年の三井物産によるマレーシア医療企業「IHH」向け増資(2,300億円)などの反動があったこと。加えて、大企業による慎重姿勢の顕在化との指摘もある。
金額ベースで大幅に減る一方で、M&A件数でみると前年比で増えている(2018年:138件→2019年:164件)。先の取引金額からの単純割り算で言えば、案件が小口化しており、これも慎重姿勢との論調にもなり得る。しかし、この点について、域内M&Aにたずさわる筆者の実感はやや異なる。
M&A案件の小口化は、慎重姿勢というよりはむしろ、①投資する側に大企業のみならず中堅・中小企業がM&Aに参入してきたことに加え(当社取引事例:広島県未上場オーナー企業によるフィリピン所在のサブコン企業の買収など)、②投資対象市場が未成熟で大企業が存在しない市場にまで広がりが出てきたこと(同事例:警備会社・空調等エンジニアリング会社・ビル清掃会社など)、③スタートアップ企業への出資機会の増大(同事例:中古自動車のEC事業など流通系IT事業が中心)の3点が背景にあるとの印象であり、M&Aとの手段を講じるプレーヤーが増え、裾野拡大の傾向にあると言える。
なお、M&A対象国上位(2019年:164件)は、①シンガポール(63件)、②ベトナム(33件)、③インドネシア(20件)、④タイ(15件)、⑤マレーシア(11件)、⑥フィリピン(9件)と続く。
当社(フロンティア・マネジメント)でも、2019年度中には3件の域内M&A(完了ベース)の日系企業からの投資を支援する機会を得たが、いずれも裾野拡大の象徴的な案件だ。
3件のM&A の特長
- 欧米企業のアジア事業売却
- フィリピン事業承継
- マレーシア上場企業との資本業務提携
マーケティング中の潜在案件や、検討途上で断念したものを含め、近年強く感じるのは、M&A機会の背景・ニーズの多様化だ。買い手側の視点で見た場合、従来の日本市場縮小を背景とした販路確保・現地での認知度(=ブランド)取得との視点に加え、以下のようなニーズが増えている。
- 外資規制業種への積極的参入: サービス産業や小売・流通、建設など、進出事業領域の拡大
- チャイナ+1の拍車: ベトナムやタイを中心とした製造機能の移転・拡張ニーズ
- 技術者確保(メンテナンス・アフターサービス要員): インフラ建設等大型プロジェクトに必要な空調・水道機器メーカーによる、従前の現地ディストリビューター任せ(据付・定期メンテナンス)の体制から、自社サービスの一環とした技術者を確保するニーズ
- 既存パートナーの切換え・ノンコア整理・撤退
このような背景・ニーズは、2020年に入りますます増える傾向にあり、M&Aの機会も確実に増加に繋がるだろう。売り手側からのニーズとして、ASEANでも未上場企業のオーナー高齢化による事業承継型M&Aが増えている点も、件数増加に拍車を掛けるだろう。
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