鉄は何度でも、安価で再生が可能

鉄は何度でも、安価で再生が可能

金属は、それが含まれる製品が古くなっても、金属自体を取り出してリサイクルする事により、新たな製品として再生できるという特性を持っている。

ただし、自律的かつ持続可能なリサイクルを続けていくためには、いくつかの条件を満たす必要がある。

リサイクルに適した5つの条件

何度も繰り返しリサイクルが続けられるための条件をまとめると、大きく、以下の5点となる。

(1) 簡単に分別ができること
(2) リサイクル工程が容易なプロセスであること
(3) リサイクルを通じて品質の劣化が起きないこと
(4) 多種多様な製品へ再生することができること
(5) 経済合理性があるリサイクルシステムが確立されていること

鉄は全ての条件を満たし何度でも再生可能

上に示した条件を全て兼ね備えているのが、鉄である。電炉を利用した製鉄法などを活用することで、「何度でも安価で」鉄は再生できる。

いわゆる“クローズド・ループ・リサイクル”がすでに実現しており、最もリサイクルに適した金属と言えるのだ。

循環型社会を形成する上で重要なエコマテリアル

環境に対する社会的意識が大きく高まっている中で、鉄鋼産業は、「製造過程で最もCO₂を排出する産業」との悪いイメージを持たれている読者の方も多いだろう。

しかし実際には鉄は、世界が目指している循環型社会を形成する上で、最も重要なエコマテリアルなのである。

鉄スクラップは日本が誇る貴重な資源

鉄スクラップは日本が誇る貴重な資源

前回記事(「鉄スクラップ考:その1~鉄スクラップは景気を語る」鉄スクラップ考① 知られざる景気の先行指標)で述べた通り、鉄スクラップとは、建設現場や自動車/家電などの廃材、あるいは自動車製造工場での加工クズなどから鉄製部分のみを回収したものである。直訳すると「鉄の屑」となる。

ただし、「屑」であっても「ゴミ」ではない。

ゴミは単に処分されるだけだが、鉄スクラップは、貴重な再生資源である。

ブラウンダイヤ

2007年頃だったと記憶しているが、当時、大手電炉メーカーである大阪製鐵の代表取締役社長を務めていた故・永広和夫氏は、鉄スクラップを「ブラウンダイヤ」と称していた。

「資源の少ない日本にあって、鉄スクラップは貴重な資源であり、有効に活用すべきだ」との話を、永広氏は熱く語られていた。

ESGなどという言葉がまだ世間で一般的に知られていなかった15年前から、彼は、鉄スクラップの重要性を指摘していたのだ。

日本の鉄鋼蓄積量は年間の粗鋼生産量の15年分に相当

<図1>日本国内の累計の鉄鋼蓄積量推移

鉄鋼蓄積量という統計がある。

これは、建築物、自動車、船舶、電化製品などとして生産された鉄の重量から、廃材など鉄スクラップとして回収された鉄の重量との差分である。
簡単にいうと、その時点で国内に存在している(蓄積された)鉄の重量であり、将来の鉄スクラップ予備軍と言える。

日本の鉄鋼蓄積量の統計をみると、2019年度は1,038万トン。つまり、一年間で1,000万トン強の鉄が国内に蓄積されたということになる。

そして、19年度末時点の日本の累計鉄鋼蓄積量は・・・

なんと14億トンに達している(図1を参照)。

これは、日本の年間の粗鋼生産量のおおよそ15年分に相当する。

昭和40年代以降の高度成長期で急速な発展を遂げた日本は、これまでに多くの鉄鋼製品を生産した。その結果、今では、世界有数の鉄鋼蓄積量を誇っているのだ。

立派な都市鉱山資源

通常、“都市鉱山資源”と言えば、スマホなどに使われているレアメタル(白金、パラジウム、タングステンなど)を指す場合が多い。

しかし、安価なリサイクルが可能な金属資源という意味合いでは、鉄スクラップも立派な都市鉱山資源と言えよう。

国内の鉄スクラップ資源を有効に活用すべき

国内の鉄スクラップ資源を有効に活用すべき

これまでみてきたように、鉄スクラップは貴重な資源であり、日本は世界有数の鉄スクラップ大国である。

ところが大きな問題がある。

現状の日本では、この貴重な資源が有効に利用されているとは言えないのだ。

欧米と比較して遅れている鉄スクラップの利用

2020年の国内の鉄スクラップ発生量は3,480万トンで、主に電炉メーカー(東京製鐵、共英製鋼など)が原料としている。ただし、国内の粗鋼生産量に占める電炉生産比率は26%にとどまっている。

これに対して海外に目を向けると、米国の電炉生産比率は実に70%に達しており、EUでも42%である。

つまり、欧米の先進諸国と比較して、日本では、鉄のリサイクル利用が遅れているのだ。

世界最高品質を目指すために「高炉」を優先させてきた

日本で鉄スクラップの利用が遅れているのは、日本の鉄鋼産業が高炉メーカー(日本製鉄やJFEホールディングスなど)による大規模製鉄所を中心に発展してきたという歴史的な背景に起因している。

大手高炉各社は、高度経済成長期以降、トヨタ自動車を頂点とした日本の自動車産業とともに、いかに鋼材の品質を高められるか(薄くて軽くて丈夫な鋼板が作れるか)に力点を置いた研究開発を行ってきた。

必然的に、原料としては、不純物が混ざっている鉄スクラップでなく、純度の高い鉄鉱石の利用を優先させてきたのである。

使い切れない鉄スクラップを輸出

高炉メーカーを中心に発展してきた結果として、日本では、欧米と比較して電炉による生産比率が低い水準にとどまり、国内で使い切れない鉄スクラップが輸出に回っているのが現状なのだ。

日本は米国に次ぐ鉄スクラップ輸出国

<図2>世界の鉄スクラップ流通フロー

図2に示したように、日本における鉄スクラップの輸出入バランスは、2020年には934万トンの輸出超過となっている。

巨大な鉄鋼市場が形成されている米国(1,236万トンの輸出超過)に次ぐ、世界第二位の鉄スクラップ輸出大国なのである。

輸出先として、鉄源が不足しているアジア地域(1,500万トン強の輸入超過)に向けられている。

ちなみに、粗鋼生産量で世界の過半を占めている中国は、現状、鉄スクラップ発生量と消費量が概ね均衡している。

いかに鉄スクラップを有効に活用できるか

「輸出大国」というと聞こえは良い。しかし、見方を変えると、貴重な資源である鉄スクラップが、全く付加価値を付けずに資源のまま輸出されているということなのだ。

経済効率の観点からは極めて非効率な状態にあると言えよう。

国内で発生する鉄スクラップを、いかに有効に活用できるか(付加価値を付けて売ることが出来るか)が、今後の鉄鋼産業の大きな課題であると、筆者は考えている。

次回は、鉄スクラップの新たな役割について考えたい。

▼過去記事はこちら
鉄スクラップ考① 知られざる景気の先行指標

関連記事

成長と資本効率重視へ―日立製作所中期計画に見るKPIの変化―

日立製作所は2022年4月28日、小島啓二新CEO主導の日立製作所中期3ヵ年計画を発表した。リーマン・ショック直後、経営危機に瀕し、その後の事業構造・ポートフォリオ改革やESG経営で先行してきた同社の新中期計画の変化を読み解き、今後企業価値拡大にどのような中期計画が必要とされるのか、を考察したい。

高炉各社決算〜22/3期に奪還した付加価値を今期も守れるか?

高炉3社(日本製鉄、JFEホールディングス、神戸製鋼所)の2022年3月期の決算は、軒並み大幅増益を達成した。これまで失ってきた「付加価値」を見事に奪還したと言える。一方、原燃料の高騰や円安を受けたコスト増などの逆風は強まっている。前期に奪還した付加価値を、さらに広げられるのか? それとも、ユーザーからの反発で押し戻されてしまうのか? ポイントと課題を整理する。

料理宅配(デリバリー)の大問題

私は、料理宅配(デリバリー)を使わない。ビジネスモデルに深刻な問題を内包しているからだ。料理宅配業者の多くは赤字で、十分な税金を払っていない。道路など公共財の税負担だけでなく、配達員の交通事故リスクという側面からも、二重のFree Ride(タダ乗り)をしている。それでも赤字続きの料理宅配業界に、健全な発展は可能なのだろうか?

ランキング記事

1

アリババは国有化されていくのか

アリババグループの金融・オンライン決済部門のアント・グループ(前アント・ファイナンス)は、2020年11月に予定されていた上場が延期され、そのまま現在に至っている。ジャック・マー氏の中国金融政策への批判発言から端を発し、アリババは金融業に限らず様々な制限が加えられていると報道されている。この記事では、アリババの現状とともに、中国のモバイル小口決済について考察したい。

2

品質不正多発の三菱電機に学ぶ、あるべき不正撲滅方法

三菱電機の品質不正が止まらない。2021年7月に35年以上に渡る品質不正が公表された。調査を進める中で不正の関与拠点、件数が膨らみ、直近の報告では実に150件近い不正が認定されている。一方で、当社に限らず不正そのものの発生や再発は止まらない。再発防止策がなぜ機能しないのか、当社の取り組みを題材にあるべき再発防止策について解説する。

3

進む地方銀行の持株会社体制への移行

経営統合によらない地方銀行の持株会社体制への移行が増えている。銀行法改正による後押しを受けて、地域の課題に向き合いながら、事業の多角化を進めやすくして収益拡大を図るのが狙いであるが、果たして中長期的な企業価値向上に資する事業ポートフォリオの構築は進むのだろうか。

4

人的資本とは 経営の新しい潮流

人材を資源ではなく付加価値を生む「資本」として見直す潮流が拡がっている。企業の「人的資本」に関する情報開示が制度化されるのに伴い、人事部門は従来の定型業務中心の役割から、企業の中長期戦略を実現するための戦略人事への転換が求められている。

5

村上春樹さんから学ぶ経営㉕ ニッチ再び。大谷選手と「何かを捨てないものには、何もとれない」

私が経営の根幹だと考える「ニッチ」(『隙間』の意味ではありません)について、再び論じたいと思います。大谷翔平選手の活躍が常識外であったため、少々長い回となります。それでは今月の文章です。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中