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「コアコンピタンス」の意味とは? ケイパビリティの違いと企業の事例を解説
「コアコンピタンス」とは、企業が持つ様々な能力や機能のうち、「他社には真似できない企業の核となる能力」のことです。 競争と変化が激しいビジネスにおいて、自社の戦略や方向性を策定する上で、競合他社と差別化をはかりながら、客観的な自社の優位性を見極める必要があります。本記事では、コアコンピタンスの意味、ケイパビリティの違いについて企業事例を交えて解説します。
コアコンピタンスの意味とは?
「コアコンピタンス(Core Competence)」とは、核を意味する「コア」と能力・技術を意味する「コンピタンス」からなる言葉で、「核となる技術」と訳せます。経営では、コアコンピタンスを、企業においては「他社に真似できない“核”となる能力」と意味します。
この概念は経営学者のゲイリー・ハメル氏と元米ミシガン大学ロス経営大学院教授のC・K・プラハラード氏が、共書「コア・コンピタンス経営」(日本経済新聞出版社 1995年)によって提唱しました。
同書を発表した際にハメル氏は、コアコンピタンスの代表例として、Honda(本田技研工業株式会社)のエンジン技術、ソニー株式会社の小型化技術、シャープ株式会社の液晶技術を挙げています。
コアコンピタンスとケイパビリティの違い
コアコンピタンスと類似した言葉に「ケイパビリティ」があります。どちらも企業の経済活動における企業特有の強みをあらわす言葉ですが、大きな違いがあります。
「ケイパビリティ」とは、バリューチェーンにまたがる組織的な強みを意味する言葉であり、一方でコアコンピタンスは、バリューチェーンにおいて他社との差別化ができている特定の機能的な強みを意味しています。
コアコンピタンスが「他社と差別化できている特定の能力」であるのに対して、ケイパビリティは「組織全体にまたがる能力や企業活動の戦略論の一つ」と定義されます。
関連記事:なぜ全体像の把握が重要なのか? サプライチェーンとバリューチェーンの違い
コアコンピタンスの3つの条件
それぞれの企業に「強み」や「魅力」は保有しています。では、その強みは、すべてコアコンピタンスと言えるのでしょうか。
コアコンピタンスが意味する「企業の核となる能力」は、3つの条件を満たすものでなくてはいけません。
自社の強みがコアコンピタンスと言えるかどうか、まずはこの3条件を満たすかどうかで判定します。
条件1. 顧客に利益をもたらす能力
自社に利益をもたらす能力であったとしても、顧客にメリットのない能力は、コアコンピタンスにはなりえません。
したがって、「顧客が何らかの利益(ベネフィット)を感じられるものである」ことが必要です。
この能力の有無や程度に関しては、後述する5つのポイントや商品・サービスの販売数やリピート率などが判断材料となります。
条件2. 他社から模倣されにくい能力
他社が簡単に模倣できる技術や能力は、コアコンピタンスにはなりません。
競合他社が真似できない圧倒的な技術力、もしくは体制などが必要であり、それゆえ競争の激しい市場において競争優位性を確保できます。
前述したゲイリー・ハメル氏が挙げた3例は、他社が模倣できない圧倒的な技術力によって、シェアを拡大し、ブランドを築き上げました。
条件3. 複数の商品や分野に応用できる能力
特定の商品・サービスにのみ利用できる能力の場合、その商品・サービスの需要がなくなった場合、能力の使いどころがなくなってしまいます。
さまざまな分野に応用できる能力は市場ニーズに応じて使いどころを変えられるため、常に利益を生みだすチャンスにつなげられます。後述する富士フィルムの例はその最たるものと言えるでしょう。
アコンピタンスを見極める5つの視点
先ほど3つの条件を説明しましたが、その他にコアコンピタンスを見極める上で5つの視点が存在します。
自社の強みが、5つの視点を満たしていれば、それはコアコンピタンスであると言えるでしょう。
視点1.移動可能性(Transferability)
特製の分野や製品・サービスだけではなく、他の製品や分野にも柔軟に応用ができるかどうかで評価します。
汎用性の高さは自社にとっては事業拡大のチャンスをつかみやすいうえに、事業ポートフォリオでもひとつの分野に頼る状況を避けることができます。競合他社にとっては大きな脅威となるでしょう。
視点2.模倣可能性(Imitability)
自社の製品・サービスを他社が真似できるかという視点で評価します。
競争の激しい市場ではさまざまな企業が市場や商品・サービスの研究をしており、応用できる優れたポイントはすぐに模倣されて市場での優位性を失ってしまいます。
自社しか持っていない、他社には簡単には真似できない能力であるほどに市場での競争優位性を長く保つことができます。
視点3.希少性(Scarcity)
他にない希少価値があるかどうかという視点で評価します。
市場においては、珍しい技術や特性であるほどに自社にとって強みになります。一般的には、先ほど説明した「模倣可能性」と、次の項目で解説する「代替可能性」の2つの条件をクリアしていれば、希少性も持ち合わせていると評価されます。
視点4.代替可能性(Substitutability)
自社の製品などが他で置き換えられないものであるかという視点で評価します。
他の商品やサービスでは満たすことができないオリジナリティがある場合、当然市場においての希少価値が高く、継続的に顧客に価値を提供することができます。
代替可能性の高さを満たすことは難しいことではあるのですが、代替可能性が高いほどにその分野におけるシェアの大きさに直結します。
視点5.耐久性(Durability)
いかに競争優位性を長く維持できるかという視点で評価します。
市場におけるニーズは日々変動し、一度大きな注目を集めた商品・サービスであってもいずれは陳腐化してしまいます。
そんな中で長く優位性を保てるような能力は貴重な分、構築するのも難しくなります。「名声」「ブランド的な価値」のように、経年により耐久性を増す場合もあります。
コアコンピタンスを見極める、もしくは自社の強みを競合などと比較する際には、フレームワークを活用すると整理しやすいでしょう。
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コアコンピタンスを活用している企業の事例
最後に、実際にコアコンピタンスを活用している企業の事例を6つ紹介します。
ホンダ
ホンダ
自動車メーカーとして有名な「ホンダ(本田技研工業株式会社)」は、前述のゲイリー・ハメル氏とC・K・プラハラード氏がコアコンピタンスの実例として挙げている一社であり、低公害のエンジンを開発してこれをコアコンピタンスに据えています。
高性能なエンジン製造技術は自動車のみならず、草刈り機などの小型機械などにも応用できることから汎用性の高さも持ち合わせています。
シャープ
家電メーカーとしておなじみの「シャープ」もコアコンピタンス確立で発展を実現しました。
国内有数の家電メーカーとしてのブランド確立につなげたコアコンピタンスは「液晶パネル」の研究・開発です。電卓やデジタルウォッチから始まった液晶ディスプレイは、テレビやパソコン、工場や航空機などあらゆる業界のさまざまな電子機器部品として応用されています。
富士フィルム
写真フィルムで有名な「富士フィルム」の主力は、長年カラーフィルム事業でしたが、、デジタルカメラの普及によって徐々に衰退しました。しかし、フィルム製造における「マイクロレベルの精密技術」が富士フィルムにはあり、その技術と知見を活かし、医療やヘルスケア事業に進出しました。
従来とは異なる事業へ進出して大きな成功を収めた富士フィルムの事例は、コアコンピタンスの重要性を改めて世界中に知らしめました。
セブン&アイ・ホールディングス
セブン&アイ・ホールディングスは、「バイイングパワー」「顧客ニーズへの対応力」「店舗網」の3つをコアコンピタンスとして捉えており、さらにケイパビリティとして「組織全体を通じた仮説検証力」を保有しています。
全国にあるコンビニエンスストアとそこから得る膨大な消費データは、同社ならではの財産と言えます。消費者の生活と密に関係するコンビニエンスストアだからこその得られるデータをもとにして、異業種への参入のハードルを下げ、特に「銀行業(セブン銀行)」への参入を成功させています。
ワコール
衣料品メーカーの「ワコール」が前身の「和江商事株式会社」を創業した1949年当時、日本では下着産業はニッチな分野でした。ワコールはそれを「希少性」として捉えて逆手に取ることで「女性用下着の製造」というコアコンピタンスを確立しました。
その後、着心地の良さや機能性を重視したストレッチブラや、ファッションを楽しむためのシームレスブラなどの新商品を発売し、下着衣料品メーカーとして現在も業界1位のシェアを占めています。
コアコンピタンスを確立してサステイナブルな企業経営を
自社のコアコンピタンスを確立することで、市場での優位性を確立でき、持続的な成長につながります。
まずは自社の強みを洗い出し、その中からコアコンピタンスの条件を満たすものを選定し、その中から自社と市場の将来ビジョンに合うものをコアコンピタンスとして据えましょう。
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