学生減で変わり始めた新卒採用……それでも従来の採用方法を続けますか?

日本企業の多くが、長年にわたって続けてきた新卒採用ですが、学生数の減少に伴い、変革を余儀なくされています。新卒採用自体をやめてしまう企業や、入社後に配属先が固定される職種別採用をとる企業も出てきました。しかし、多くの企業は、同時期に一括して学生をとる従来の方法のままです。あなたの会社、本当に変えることができるのでしょうか。

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「ジョブ型人事制度の導入を検討せよ」

「ジョブ型人事制度の導入を検討せよ」

日本企業がジョブ型人事制度の導入の検討に入ると、議論に出る話題として新卒採用の必要性があります。

新卒採用とは、これまで正社員としての就業経験がない学生をポテンシャル採用すること。毎年度同じ時期に一定数の人材を一括で採用する手法が取られ、一斉に開始される説明会に学生が新調したスーツで参加する姿をみかけたことは誰でもあるはずです。

最近は入社後の配属が固定されているコース別採用も出てきていますが、日本特有の雇用慣行(メンバーシップ型雇用)で採用する企業が半数以上を占めます。

「ジョブ型人事制度の導入を検討せよ」との指令が社長からあり、その相談をいただいた製造業もメンバーシップ型で年功序列、総合職のワークスタイル。

人事部長はジョブ型に移行するなら、新卒採用はどのように行ったらいいのだろうか?そもそも、新卒採用は必要なのか?手間とコストがかかるけど、半数以上が離職してしまう…と悩みを打ち明けてくれました。

入社後には社会人未経験ですから、手間のかかる研修を行うことになります。さらに入社後にミスマッチであったと考えて簡単に離職するケースが増えています。

採用~育成にコストをかけている企業にとっては「新卒採用はやめたくなる」と嘆きたくなる状況とも言えます。ならば、いっそ、新卒採用はやめてしまってはどうか?一緒に考えてみたいと思います。

就活ルールのもと採用活動の期間は長く手間がかかる

就活ルールのもと採用活動の期間は長く手間がかかる

毎年のように話題になるのが経団連による情報解禁や採用選考で足並みをそろえるために定めてきた就活ルール。廃止とか、見直しとか、試行錯誤されつつ、振り返ると大差ない前提条件で行われているように見えます。ちなみに2024年卒の学生に対して、経団連ではなく、政府から就活ルールを適用する方針が表明されています。

  • 広報解禁日:3年次3月1日~
  • 選考活動解禁日:4年次6月1日~
  • 内定出し解禁日:4年次10月1日~

微妙に変化があるようで、自分の時代と大差ないようにもみえます。ただ、間違いないのは採用活動の期間は長く、手間がかかる。この点は不変とも言えます。

企業としては学生に対する説明から選考、内定後のフォローを2世代並行で行う必要がある。2024年度入社予定の学生のフォローと2025年入社予定の1学年下の代の就活は同時に行われています。その対応をする必要があるからです。

加えて、ネット上で応募~選考が行われる時代になり、学生が一括応募で多数にエントリーした事実を知りながら、採用活動をせざるをえません。会社説明会のエントリーが500名あって、会場を広めに変更したのに、当日の参加者はわずか10名。あるいは内定を出した20名の学生からすべて辞退されたとの嘆きを、ある人事部から聞くことがありました。

でも、そんなむなしい仕事は、どこの人事部でも行われていること。このむなしさをなくすには新卒採用をやめて、中途採用だけに変えてしまうしかない…と話してくれたことがありました。それくらい、人事部にとって新卒採用の負担が大きくなっているということなのかもしれません。

新卒採用のナビサイトをやめ自社HPで幅広く採用

新卒採用のナビサイトをやめ自社HPで幅広く採用

そうした、負担と新卒採用のメリット(後述します)をトレードオフして新卒採用をやめる企業が出てきています。その1社がネット系のベンチャー企業のS社。

新卒採用に特化したナビサイトへの参画を中止。自社のHPで新卒の学生も採用する人材の一人として、選考するだけ。さらに新卒採用イコール生涯1社で働く会社選びの象徴でしたが、現代は個の時代。個人のキャリア自律を追求すると、生涯一社で働くのは割が合わない。そうした時代に合わせた判断とのこと。

あるいは、グローバル企業の人事部長からの意見として技術革新がどんどん進む時代で、イチから自社で「まっさらな新卒」を育てていては、変化のスピードに乗り遅れてしまう、新たなイノベーションが起きない、という危機感があると話してくれました。

これに加えて、起きているのがミスマッチとの認識による早期離職の増加です。入社後に「話と違う」「合わない」との認識から、早々に離職。その数が全体の3割を超えるようになっています。

その後の転職活動が容易くなったこともあり、増加傾向にあります。なかには早々の退職も視野に入れて就職活動をしている学生もいるようです。

いったん、大手総合商社に入社してからベンチャー企業に転職した方が給与もポストも優位になるので、その前提で会社選びをしました…と話してくれた若手社員の話を聞いたことがあります。

戦略的かもしれませんが、総合商社の人事部からすれば、踏み台にされたようで、嫌な気持ちになることでしょう。こうした、ストレスも踏まえて、新卒採用をやめてしまいたい。やめてしまうことはできないか?思い切ってやめてしまおうと考える会社が出てきています。ならば、新卒採用はやめてしまっていいのでしょうか?

24年卒の採用を増やす企業は約3割で意欲増

24年卒の採用を増やす企業は約3割で意欲増

ここまで紹介したように新卒採用をやめるとか、人材確保を最優先の手法から外すまでの決断、検討している企業は氷山の一角です。

24年卒の採用を増やす企業は約3割で意欲が増進。応募者へのPRのために初任給の引き上げを実施・検討している企業は約6割(マイナビ調査)と、大きなトレンドにまではなっていません。

やはり、長手の採用活動でメリットを享受してきた認識があるからでしょう。

代表的なメリットを紹介すると、ロイヤリティーの高いコア人材、リーダー候補が確保しやすい。若い新卒社員が入ってくることで、組織全体がリフレッシュする。新入社員に教えることで経験を言語化し、既存社員の成長機会につながる。そして、特定の企業カラーに染まっていないため、伝えていきたい企業文化の担い手としては最適。こうしたメリットを享受して、人事部の人材確保の中心に据えられてきました。

大企業だけでなく中堅、ベンチャー企業でも、この発想は同様と言えます。それくらいに頑強であった新卒採用神話が崩れることはあるのか?

減る学生、バブル世代と比べて半分に

減る学生、バブル世代と比べて半分に

崩れるもなにも、学生の数が大きく減少してきており、中心に据えたくても、それでは人材確保が難しい時代に突入しつつあります。学生数の減少は説明するまでもないと思いますが、バブル世代と呼ばれる1960年代生まれと比較すると約半分にまでなっています。

ちなみに学生の減少は、つい最近まで他人事だったかもしれません。少子化が叫ばれるなかで、新卒学生の数は大学進学率の上昇で減少が食い止められてきました。2000年は45%を切っていましたが、2022年には55%強が大学へ進学しています。(文部科学省調べ)

ところが、そうした環境改善ではリカバーできない少子化の影響が出る時代に突入しました。ナビサイトで告知をしてもエントリーが激減した。予定していた採用数には半分も届かなかった。それくらい苦労して採用した学生の3割以上がミスマッチで離職していく。こうした状況は、さらに厳しくなっていくのが明らか。それでも、新卒採用を続けていくべきなのでしょうか?

短期的に新卒採用をやめることはデメリットが多すぎる。前述したメリットを凌駕するような人材確保の手法があるわけではありません。中途採用でもミスマッチによる離職は同じくらい発生しています。

若手社員で離職が増えているのは中途・新卒採用で大きな違いがありません。ただ、入社~育成に対して時間と手間とコストがかかる。ゆえに離職が増えた時にサンクコストが大きくて、ダメージを受けた印象が残ります。

このダメージは極力下げる工夫を凝らすべき。加えて、企業はグローバル化、企業間の競争に勝つために、人材の市場価値で報酬が決まるジョブ型に近い人事制度に移行していくのは間違いありません。

職種別採用で学生と会社のミスマッチ減

職種別採用で学生と会社のミスマッチ減

新卒採用した社員のキャリアとどのように結合していくのか?改善、工夫を凝らすべきでしょう。そうした前提にのっとって、企業は新卒採用に関して、変革に取り組む企業が増えつつあります。当方がリクルートに入社した1980年代から時間が止まったように、同じ手法、同じスケジュール、同じプロセスで行われてきた新卒採用は変わろうとしています。

その改革の代表が職種別採用。職種別採用は、その名の通り新卒採用を職種別に実施する採用方式。「マーケティングコース」「セールスコース」といった形で募集することから「コース別採用」と呼ばれることもあります。(冒頭にて存在は紹介済み)

学生と会社の双方にとって、職種別採用を新卒採用に導入するとミスマッチが減るのは間違いありません。国公立の学生で人気が上昇、ミスマッチが低い企業では職種別採用を導入している企業が大半。

2023年3月に卒業する大学生・大学院生を対象に調査した「就職人気企業ランキング」で、理系学生を対象に行った調査では、トップ10に入ったすべての企業が「職種別」の採用を実施していました。

当然ながら、入社後のキャリア設計は見えやすく、ジョブ型人事制度と連動が容易などのメリットがあります。

改革しなければ取り残される

ただ、総合職~メンバーシップ型で採用して、様々な職場を経験させて、適職を見出して欲しいと考えてきた企業からすれば、大きく発想を変えなければならない。長年の採用手法を変革することになれば、人事部自体が抵抗勢力になる可能性さえあります。

知人の人事部長に職種別採用に関して、取り組み状況を聞いたところ「そんな手法は意味がない」と否定的な回答が返ってきました。当然ながら導入はされていません。

社会人経験もない学生の将来を狭めてしまうことになる。育成の機会に周囲の協力を得られなくなる可能性が高い。こうしたデメリットをあげて、現行の採用手法の正当性を語ってくれました。おそらく、戦後の日本企業の成長を支えてきたのが現行の採用手法であるのは間違いありません。ただ、変革をしないと取り残される、優秀な学生からそっぽを向かれるかもしれない危機的な状況であることは認識していないのでしょう。

これから、日本企業は様々な観点から改革が必要。新卒採用も同様と考えて取り組みを加速させるタイミングだと思います。職種別採用に関して、取り組み状況はいかがですか?

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