論理的思考Ⅰ(論理の構築):現役コンサルが解説するコンサルタントスキルの体系化③

本論考では著者が実施している経験則をベースにした社内向けコンサルタント養成研修の内容をもとに、暗黙知となっているコンサルタントスキルを全5回にわたって体系的に解説する。前回はすべてのスキルの土台となるコンサルタントとしての「考え方・行動特性」について紹介した。そしていよいよ、今回から2回にわたって一般的にコンサルタントの主要スキルと言われている「論理的思考」について紹介する。

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論理的思考とは?~「示唆を出すこと」「論理を構築すること」

論理的思考とは?~「示唆を出すこと」「論理を構築すること」

まず、世間一般にコンサルタントと言えば「論理的思考」が最大の武器と思われがちだが、前回までの論考で紹介した4階層のスキルのうち、LEVEL1の「考え方・行動特性」、LEVEL4の「ストーリー設定・論点設定・仮説構築」があって初めて役立つスキルである。

特にLEVEL1の「考え方・行動特性」がしっかりできていて、初めて効果を発揮するスキルということを覚えておいてほしい。こちらについては、全5回の内容を読んで頂くとなぜこのようなことを言っているか納得頂けると思うので、今後に連載にご期待頂きたい。

さて、そもそもの「論理的思考」であるが、元マッキンゼー波頭亮氏の「論理的思考のコアスキル」(筑摩書房)には以下のように書かれている。

  • 「思考」と「論理」に分けて学ぶことができる
  • 「思考」とは、 思考者が思考対象に関して何らかの意味合いを得るために頭の中で情報と知識を加工すること。具体的には、分ける・比べる・くくる(=「事象の構造化」)の思考プロセスから意味合いを抽出すること
  • 「論理」とは、「根拠」と「主張」によって「論理構造」が成立し、「論理構造」の中で「根拠」と「主張」を繋いでいるもの
  • 思考することの本質と方法論を理解し、そしてそれを論理的に行えば論理的思考が可能になる

非常に学術的な解釈だが、著者は「思考して物事から新たな解釈を生むこと(示唆を出すこと)」と「主張に対して確からしさを担保すること(論理を構築すること)」に分かれると解釈しており、この「示唆を出すこと」と「論理を構築すること」を別物と考えることが大切であると考えている。

ところで、著者は第1回の記事で「近年、世の中にはコンサルタントスキルに関連する多くの書籍が出版され、インターネットなどでもコンサルタントに必要なスキル(論理的思考、仮説思考など)が多く紹介されている。しかし、著者の実体験から書籍と実践との間には大きな乖離が存在すると考える。」と述べたが、直近、局所的な技術の説明ではなく、実践に即活かせる内容の書籍を元BCG高松智史氏が執筆されているので、ここで追加紹介しておきたい。

スキル全般に渡る元BCG高松智史氏の参考図書

「論理の構築」で陥りがちな罠

「論理の構築」で陥りがちな罠

また前回同様に、著者の実体験を紹介しておきたい。

今思えば著者のコンサルタントとしての出発点は、この「論理の構築」であったと考えている。

著者は信託銀行での在籍期間、いろいろなセミナーや書籍でロジカルシンキングを学び論理的に考えることについてはかなりの自信を持ってコンサルタントへ転職した。しかし、以下のことが原因でまったく通用しなかった。

  • 何に答えればいいか分からない、何を問われているか分からない

事業会社で自分の専門領域内、自分の守備範囲内の業務をルーティンで回しすぎると、その場面や文脈(コンテキスト)に応じて「相手が求めている論点や答えるべき論点」を考えなくても業務が回るようになる。

このため、いつの間にか自分勝手に論点設定を行うことしかできなくなっている。信託銀行時代に担当していた業務の専門性が高すぎたからかもしれないが、著者はこの傾向がかなり強く、転職していざ自分の土地勘のない領域で論点設定をしようと思っても何を考えていいのか分からなくなっていた。

  • 何に答えればいいか分かっても、日本語になっていないと言われる

そして二つ目は、土地勘のない領域で文章、日本語が書けないことである。

これも上記と同様に事業会社で自分の守備範囲内のルーティン業務を行い過ぎることが原因となる。

知らず知らずのうちに事業会社では、専門性や過去のQA、文脈に頼って、ゼロから文章を書くことがなくなり、自分でも気づかないうちに日本語力が落ちてしまう。

そうすると、通常あり得ないが、例えば主語がない、むしろ自分が誰を主語で書いているか分からない文章を書いてしまったりして、マネージャーからの指摘で初めて論理が破綻していることに気づくというような事態になる。

以上のように、著者は信託銀行時代にいろいろなセミナーや書籍で学び、実務ベースでも評価されて適正に業務を遂行していたため、実は「専門性や所属組織の常識を身に着けた」だけで「論理的思考を身に着けることができていなかった」という事実に気づけなかったのである。

このジレンマに気づかずに、ずっと同じことを指摘されてやめていくコンサルタントは多いので、著者の反省を参考にしてもらえればと思う。

「論理の構築」のための三つの思考ステップ

著者は「論理を構築」する上では、以下の思考ステップを踏んでいる。

図表2

①「言いたいことに対する確からしさ」を考える

著者は自分が言いたいことが確からしいか、チェックするのに以下の2点を重んじている。

  • 答える前の事前準備

まず一つ目は、「相手が求める、若しくは答えるべき論点の確認」である。

ここでポイントなのは変に難しく、「自分オリジナルの崇高な論点がつくれないか」などと余計なことを考えないことである。最初は独力で考えるよりも、その時の文脈や会議のメンバーを想定したときに相手の考えを「読む」ことが大切だと考える。

この点に関しては前回の論考「考え方・行動特性」が重要になってくる。

「コンサルタントに必要な『行動特性』」の章で、「②次の会議の相手(クライアント・上司)の考えを読む・妄想する」ことが大切と書いたが、「論理の構築」の際はここが出発点になる。

経験の浅い若手コンサルタントにありがちなのが、自分の力で、何か一発アッと言わせる論点設定をしてやろうと相手の期待値と大きく外れた論点を設定してしまうことである。

正直経験の浅い若手コンサルタントにそんなことは期待していない。これまでの流れ、相手を想定したときにまずは相手の求める論点を解きにいくことである。

例えば、直前の会議のマネージャーとクライアントとの会話において

「このX工場の赤字を解消するにはどうしていけばいいでしょうね?」

「これは足元結構生産性は一杯まで引き上げて感じがするので、そもそも生産キャパを広げないとダメですかね?」

「では、現状のX工場の損益精査、特に固定費の精査を行った上でどの程度まで生産キャパを広げることができるか確認しましょうか」

というやり取りがあったとしよう。その場合は素直に論点を

「X工場の赤字を解消するには? 生産性の限界値は? 無駄な固定費がないか? どの程度まで生産性の引き上げが可能か? 生産性を引き上げた場合には黒字化が可能か? 実務的には対応可能か?」

と会議の話の流れを思い出して、素直に思いつく論点を上げて考えていけばいい。

一方で、クライアントをあっと言わせる論点設定も重要であるが、それは「LEVEL4」で触れたいと思う。ここでは、あくまでジュニアとして解くべき論点がある程度見えている上での話と想定して欲しい。

  • 答えになっているかの条件チェック

二つ目は、答えになっているかの条件確認である。

これは小さい報告を行うときも同様で、「論点」「結論」「根拠」「結論に対するネクストアクションやその実現方法」の四つと考えてほしい。

そして、ここで重要なのは「結論」「結論に対するネクストアクションやその実現方法」である。「根拠」をいかにロジカルにつくるかは他の参考書籍が巷にたくさん出ているのでそちらに譲りたい。この「結論」「結論に対するネクストアクションやその実現方法」であるが、この2点を有機的に考えていくことが重要である。

具体的には、いったん「結論」を考えた後、その結論を検証する意味で「結論に対するネクストアクションやその実現方法」まで思考を広げることである。これで「結論」の精度が格段に上がる。

よく若手コンサルタントは、マネージャーから「で?」「それって結論? 何の意味があるの?」というツッコミを受けるのだが、これは「結論に対するネクストアクションやその実現方法」がセットで考えられていないことが原因であることが大半である。

例えば、上記の「X工場の赤字解消」を例にとると、ありがちなジュニアの答えとして「生産性は限界でしたが、生産キャパはある程度は引き上げることは可能そうです」という報告が想定される。

これは、「じゃあ結論このX工場は赤字解消できるの? 次どうすればいいの?」というツッコミを受けそうな感じがする。

だが、事前に「結論に対するネクストアクション」を想像しておけば、「これを報告しても全然次につながらないな。これはどの程度までキャパを広げることができて、それで赤字解消するか確認しておかないと、次の具体的なアクションプランの作成にいけないぞ」と思考が広がるはずである。

本当にこんな初歩的なミスがあるのかと思われるかもしれないが、時間が限られている中で作業を進めていくと起きてしまいがちな罠なのである。

②現状の正しい整理・理解

もし、上記の「①『言いたいことに対する確からしさ』を考える」だけで考えることができたなら、①のステップだけで良い。

しかし、80%程度は一度ダイレクトに答えをつくりにいっても何か視点が抜けているような違和感があったり、手持ちの分析結果では答えが出なかったりするものだ。

そういう場合には、もう一度現状を正しく整理・理解することをお勧めする。

具体的には、自分がこれまで分かっていることやこれまでの経緯を丁寧に書き出して、漏れている視点や意思決定に重要な事実を見落としていないかを考える。

著者の場合には、紙とペンを使って箇条書きにして考えていることを可視化したり、ロジックツリーや相関図を書いてみたりする。そうすると自然と考えが整理されてくる。

しかし、なぜか経験の浅いコンサルタントほどこれをやらない。是非迷ったときは試すことをお勧めしたい。

③日本語へのこだわり

最後は総チェックという意味での日本語へのこだわりである。

ある程度答えがまとまってドキュメント化した際には日本語ベースでのチェックを行うのが良い。日本語のチェックを行うだけで、結論として足りていない部分や根拠として不十分な部分が見えてくる。

具体的に著者は以下の点を無意識的にチェックしている。

  • 主語・述語・目的語……など日本語の文法的に過不足がないか
  • 言葉のつながり、文のつながりなど文章の繋がりが適切であるか
  • 要約と具体が共存しているか
    (端的な抽象化された結論がありながら、具体的な事象が書かれているか)
  • 順接・逆接等の文構造が正しく成立しているか

我々コンサルタントはクライアントよりも業務に対する理解は浅い場合が多いが、知らないが故に端的に物事を捉えることができたり、忖度なく事業を深堀出来たりする。

しかし、若手コンサルタントは業務理解が浅すぎるため、事象を正しく捉えることができない場合が多い。

この時突破口になってくるのが、日本語の文法的なアプローチである。日本語を正しく使うと自然と専門的な内容を理解できたり、物事の本質が見えてきたりする。詳細は他の書籍に割愛するが、是非試してほしい。

「オペレーションスキル」も重要

「オペレーションスキル」も重要

そして、最後に補足的な位置づけで、「オペレーション」の重要性を説いておきたい。

解説してきた「論理の構築」における思考ステップだが、分かっていてもなかなか実践できるようになるまで時間がかかる。そのために、Excel、PowerPointなどオペレーションのスキルを最大限に上げて作業の時間を最小限にし、思考する時間を最大限確保するかが重要となってくる。これも疎かにしがちな点なので、心に止めておいて頂きたい。

最後に

「論理の構築」だけでは、コンサルとしての付加価値を最大限発揮できないが、ある程度答えの見えている課題に対しての主張や検証を行うにおいては非常に効果的な思考法であると考える。今回の内容が少しでも皆様のお役に立てればと考える。

次回は「思考して物事から新たな解釈を生むこと(示唆を出すこと)」を解説するのでこちらも楽しみにしておいて頂きたい。

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