

2021-09-28
「ウマ娘」ショック 2000年代初頭と酷似、開発費高騰リスクを抱えるスマホゲーム業界
「ウマ娘」「原神」など多額の開発費を投下したタイトルのヒットや、中国メーカーの台頭により、スマホゲームの世界でも開発費が高騰しつつある。この状況は、3Dの高度なグラフィックスに対応を迫られ、メーカーの合従連衡が続いた2000年台初頭から中盤にかけての状況に酷似している。

シニア・アナリスト、産業調査部
1993年に三井信託銀行㈱(現、三井住友信託銀行㈱)に入行。八重洲口支店を経て、受託資産運用部にてバイサイド・アナリスト業務を担当。1999年に興銀証券㈱(現、みずほ証券㈱)、2000年に日興ソロモン・スミスバーニー証券会社(現、シティグループ証券)に入社し、セルサイド・アナリスト業務を担当。2003年から2005年にマイクロソフト㈱(現、日本マイクロソフト㈱)に在籍し、2005年日興シティグループ証券㈱(現、シティグループ証券)にセルサイド・アナリストとして復職。同社に2014年まで勤務し、フィールズ㈱を経て、2016年にフロンティア・マネジメント㈱に入社し、シニア・アナリストに就任。
詳しいプロフィール >>原神、ウマ娘の衝撃
日本のスマホゲームは、開発費を抑えながらガチャによる課金を狙うカードゲーム型が主流だった。しかし、近年は「原神」に代表される中国ゲーム会社による多額の開発費を投下したグローバルターゲットのスマホゲームの躍進。「ウマ娘」に代表される国内大手ゲーム会社による豊富な資金力や開発リソースを活用したヒットタイトルの創出が相次いでいる。
こうしたスマホゲーム業界の環境は、特に中堅以下のスマホゲーム開発会社に新規タイトル開発の困難性を意識させ、ゲーム事業の運営自体の存続も左右しかねない状況となりつつある。
2000年代初頭のゲーム業界
かつて、家庭用ゲーム機向けゲーム(コンソールゲーム)業界でも、2000年代初頭から中盤、即ちプレイステーション2(PS2)普及期からPS3ローンチ期にかけて、半導体技術の進歩により3DCGを用いた高精度グラフィックへの対応が必要となった。
映画のような画像にユーザーが慣れて行くにつれ、グローバルでヒットタイトル確立を狙うには高額の開発費投下が不可欠となり、コンソールゲーム開発会社の経営統合が相次いだ。
セガやナムコ(一時期、両社の統合も検討されていた)をはじめとしたアーケードゲーム業界の隆盛や、コンソールゲーム機ビジネスをグローバルで確立した任天堂を軸として、80年代から90年代前半にかけて、日本のゲーム業界はグローバルリーダーの地位を保持していた。
当時のゲームは、基本的に2Dベースであり、3D表現も疑似的なものに留まっていた。
しかし、90年代半ばより、進化したグラフィックチップの搭載により、アーケードゲームで3D格闘ゲームの隆盛が見られ、コンソールゲームではPlayStation、セガサターン、Nintendo64といった3D表現を可能とするゲーム機がローンチされることにより、ゲームの表現が2Dから3Dにシフトしていく。
優位性失われた2000年代
90年代後半のPlayStation全盛期では、それ以前のリーディングポジションを活かし、日本製3Dゲームが、海外製3Dゲームに対し優位ないしは同格のポジションを保っていた。
2000年以降のPS2時代では、高性能グラフィックチップを前提としたPC向けの3Dゲーム開発でノウハウを蓄積した海外ゲームパブリッシャー/デベロッパーが、グローバルヒットを前提として高額の開発費を投下して新規タイトルをリリース。そのようなタイトル群が大ヒットを記録するという業界環境に変化していった。
同時期の、マイクロソフトの(PC技術を最大限に活用した)Xboxによるコンソールゲーム機ビジネス参入も、PCゲーム開発でノウハウを獲得した海外ゲーム会社の躍進を後押しすることとなった。
海外ではスポーツや一人称視点のシューティング(First-person shooter、FPS)、多人数参加型のオンラインRPGが主流になる一方で、日本ではストーリー性の高いRPGが好まれ、海外と日本市場の乖離が目立ち始めた時期でもあった。
急激に進んだ再編
このような、高額な開発費を投下してグローバルヒットを狙うというビジネススキームは、日本のコンソールゲーム開発会社に開発費高騰リスクを強く意識させた。
ハドソン(桃太郎電鉄、ボンバーマン等)がコナミの傘下に入るなど、中堅メーカーの再編を経て、大手メーカー同士の経営統合や合併が進んだ。
2003年4月に経営統合を発表したスクウェア・エニックスの誕生を契機として、セガサミー、バンダイナムコ、コーエーテクモといった大手ゲーム会社の経営統合を誘発させることとなった。
スクウェア・エニックスの誕生に関しては、旧スクウェアの映画事業失敗による経営難。セガサミーの誕生に関しては、家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」失敗による経営難といった、個社の経営状況の悪化も経営統合を促す大きな要因とはなっている。
資本力強化で、生き残り
しかし、上記経営統合のドクトリンは、“グローバルでの競争に勝ち抜くこと”であり、2000年以降に高額開発費を投下した3Dゲームが本格化し、PS3、PS4、PS5とプラットフォームの変遷を経ても、資本力が強化された国内大手コンソールゲーム開発会社は、グローバルで一定のポジションを保持している。
ただし、日本発祥のPlayStationビジネスを統括してきたSony Interactive Entertainmentは、コンソールゲームビジネスの主戦場たる米国に本社を移転している。
スマホゲーム業界との共通点
現在のスマホゲーム業界の状況は、2Dゲームから3Dゲームに移行しグローバルプレーヤーが高額な開発費を投入して競争を勝ち抜くという2000年代初頭のコンソールゲーム業界の状況に酷似していると考えられる。
十分な開発費やマーケティング費用を投下できない場合、新規タイトルは幾多のタイトルの狭間に埋没してしまう可能性が高くなるため、国内のスマホゲーム会社は、新規タイトル開発に躊躇するケースが増えている模様である。
M&Aの引き金に
このような環境下、かつてのコンソールゲーム業界で見られた「経営統合」という手法で、開発費高騰という荒波を乗り切ろうとする国内スマホゲーム会社が現れるかに注目していきたい。
▼参考記事はコチラ
どうして?息の長い「擬人化ブーム」を読み解く
「原神」のヒットが促す変革 中国miHoYo社製ゲーム
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原神、ウマ娘の衝撃日本のスマホゲームは、開発費を抑えながらガチャによる課金を狙うカードゲーム型が主流だった。しかし、近年は「原神」に代表される中国ゲーム会社による多額の開発費を投下したグローバルターゲットのスマホゲームの躍進。「ウマ娘」に代表される国内大手ゲーム会社による豊富な資金力や開発リソースを活用したヒットタイトルの創出が相次いでいる。 こうしたスマホゲーム業界の環境は、特に中堅以下のスマホゲーム開発会社に新規タイトル開発の困難性を意識させ、ゲーム事業の運営自体の存続も左右しかねない状況となりつつある。 2000年代初頭のゲーム業界かつて、家庭用ゲーム機向けゲーム(コンソールゲーム)業界でも、2000年代初頭から中盤、即ちプレイステーション2(PS2)普及期からPS3ローンチ期にかけて、半導体技術の進歩により3DCGを用いた高精度グラフィックへの対応が必要となった。 映画のような画像にユーザーが慣れて行くにつれ、グローバルでヒットタイトル確立を狙うには高額の開発費投下が不可欠となり、コンソールゲーム開発会社の経営統合が相次いだ。 セガやナムコ(一時期、両社の統合も検討されていた)をはじめとしたアーケードゲーム業界の隆盛や、コンソールゲーム機ビジネスをグローバルで確立した任天堂を軸として、80年代から90年代前半にかけて、日本のゲーム業界はグローバルリーダーの地位を保持していた。 当時のゲームは、基本的に2Dベースであり、3D表現も疑似的なものに留まっていた。 しかし、90年代半ばより、進化したグラフィックチップの搭載により、アーケードゲームで3D格闘ゲームの隆盛が見られ、コンソールゲームではPlayStation、セガサターン、Nintendo64といった3D表現を可能とするゲーム機がローンチされることにより、ゲームの表現が2Dから3Dにシフトしていく。 優位性失われた2000年代90年代後半のPlayStation全盛期では、それ以前のリーディングポジションを活かし、日本製3Dゲームが、海外製3Dゲームに対し優位ないしは同格のポジションを保っていた。 2000年以降のPS2時代では、高性能グラフィックチップを前提としたPC向けの3Dゲーム開発でノウハウを蓄積した海外ゲームパブリッシャー/デベロッパーが、グローバルヒットを前提として高額の開発費を投下して新規タイトルをリリース。そのようなタイトル群が大ヒットを記録するという業界環境に変化していった。 同時期の、マイクロソフトの(PC技術を最大限に活用した)Xboxによるコンソールゲーム機ビジネス参入も、PCゲーム開発でノウハウを獲得した海外ゲーム会社の躍進を後押しすることとなった。 海外ではスポーツや一人称視点のシューティング(First-person shooter、FPS)、多人数参加型のオンラインRPGが主流になる一方で、日本ではストーリー性の高いRPGが好まれ、海外と日本市場の乖離が目立ち始めた時期でもあった。 急激に進んだ再編このような、高額な開発費を投下してグローバルヒットを狙うというビジネススキームは、日本のコンソールゲーム開発会社に開発費高騰リスクを強く意識させた。 ハドソン(桃太郎電鉄、ボンバーマン等)がコナミの傘下に入るなど、中堅メーカーの再編を経て、大手メーカー同士の経営統合や合併が進んだ。 2003年4月に経営統合を発表したスクウェア・エニックスの誕生を契機として、セガサミー、バンダイナムコ、コーエーテクモといった大手ゲーム会社の経営統合を誘発させることとなった。 スクウェア・エニックスの誕生に関しては、旧スクウェアの映画事業失敗による経営難。セガサミーの誕生に関しては、家庭用ゲーム機「ドリームキャスト」失敗による経営難といった、個社の経営状況の悪化も経営統合を促す大きな要因とはなっている。 資本力強化で、生き残りしかし、上記経営統合のドクトリンは、“グローバルでの競争に勝ち抜くこと”であり、2000年以降に高額開発費を投下した3Dゲームが本格化し、PS3、PS4、PS5とプラットフォームの変遷を経ても、資本力が強化された国内大手コンソールゲーム開発会社は、グローバルで一定のポジションを保持している。 ただし、日本発祥のPlayStationビジネスを統括してきたSony Interactive Entertainmentは、コンソールゲームビジネスの主戦場たる米国に本社を移転している。 スマホゲーム業界との共通点現在のスマホゲーム業界の状況は、2Dゲームから3Dゲームに移行しグローバルプレーヤーが高額な開発費を投入して競争を勝ち抜くという2000年代初頭のコンソールゲーム業界の状況に酷似していると考えられる。 十分な開発費やマーケティング費用を投下できない場合、新規タイトルは幾多のタイトルの狭間に埋没してしまう可能性が高くなるため、国内のスマホゲーム会社は、新規タイトル開発に躊躇するケースが増えている模様である。 M&Aの引き金にこのような環境下、かつてのコンソールゲーム業界で見られた「経営統合」という手法で、開発費高騰という荒波を乗り切ろうとする国内スマホゲーム会社が現れるかに注目していきたい。 ▼参考記事はコチラ |
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