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国の戦略物資となった半導体産業、さらなる成長に「環境負荷」抑制が避けて通れない
半導体の需要が低迷している。WSTS(世界半導体統計)は、2023年の市場規模は、前年比で10.3%縮小するとの春季予測を発表した。それを裏付けるようにファウンドリ世界上位企業の売上高が、前四半期比で軒並み二桁減少している。しかし、需要低迷にもかかわらず、半導体産業の設備投資は、バリューチェーンの川上、川下を問わず旺盛だ。
日本国内では、大手半導体メーカーのソニーグループ(熊本)やローム(福岡)、製造装置メーカーでは東京エレクトロン(岩手)やディスコ(広島)など大規模な投資計画が発表されている。
今後の動向が不透明な中で、各社が「将来の準備を進める」意思決定に至った背景には、地政学リスクを踏まえた半導体の位置づけの変化がある。米CHIPS法、欧州半導体法など、西側主要国は、軒並み半導体産業への支援策を打ち出している。
半導体は、国策として保護していくべき戦略物資と位置付けられたのだ。
日本でも半導体支援法を根拠に、TSMC(台湾積体電路製造)の熊本工場建設費用の40%にあたる4760億円、Rapidus(ラピダス)の先端ロジック北海道工場の建設に3300億円を補正予算から計上した。Rapidusの量産開始には5兆円が必要と見込まれており、今後も国費からの補助が継続する。
ボラティリティの高い半導体産業にとって、将来の資金リスクを回避できる意味は大きい。今後、製造メーカーに投じられた資金が、バリューチェーンの川上へと順次受け渡されるとの観測が、思い切った設備投資を可能としているのだ。
環境負荷の克服が不可避の経営課題に
一方で、これだけの巨額の国費が投入される以上、産業全体への注目も高まり、事業の成否「以外」にも厳しい目が向けられる可能性は高い。
特に各社の事業拡大に伴って増大するリスクとして、サステナビリティ課題を指摘したい。
本来的に、半導体産業は環境負荷をかけるものだ。例えば半導体製造工場だけに限っても、各段階で周辺環境に大きな影響を及ぼす。
半導体デバイスの製造プロセスでは、大量の水、特殊な薬品、シリコン基板が投入される。米インテルの半導体工場では、米フォードの自動車工場の3倍もの水が必要とのレポートもある。
また、プラズマを活用する処理や高温に加熱する処理においては、大量の電力消費や製造装置駆動のための燃料投入が不可欠だ。世界全体のエネルギー需要のうち情報産業が占めるシェアは、2030年以降には20%に達する見込みで、その多くが半導体産業に由来するとされる。
工場内では、地球温暖化係数の高いガス(二酸化炭素、メタン、フロンなど)や産業廃棄物 (廃液、廃材、廃水/廃ガスのスラッジなど)が発生し、化学物質使用は作業者の健康と安全を危険に晒し、工場からの騒音・振動が周辺地域に影響を及ぼす。
半導体産業各社はこうした環境負荷の抑制に向けた取り組み姿勢を、ステークホルダーから厳しく問われる可能性を軽視するべきではない。
最優先は「従来型」抑制策の推進強化。特にエネルギー最適化のための関連投資
半導体産業各社は従来から、産業特性に由来する環境負荷抑制に向けて、無策だったわけではない。本稿では「従来型」と位置付けている継続的な取り組みを、3つの切り口から紹介したい。
①プロセス:
- 不良品発生率低減
- 工場内の温度制御高度化
- フォトリソグラフィプロセスに不可欠な有機フッ素化合物の代替素材開発
②エネルギー使用:
- 不断の省エネ追求
>エネルギー消費量の特に多い空調システムと製造装置の見直し
>コジェネや蓄熱の活用
>クリーンルームの効率最適化(部屋面積や排気システムの最小化、熱回収など) - 再生可能エネルギーへの置換
>長期的かつ安定的な電力契約への切替え
>発電、送電プロセスの効率化投資
③提携:
- 「スコープ3」削減に向けたサプライヤーとの連携
>太陽光発電事業者との再生可能エネルギー共同調達契約をサプライヤーと共同で購入 - 企業間連携の推進
>共同研究による技術革新
>目標と活動進捗の共有
「①プロセス」関連の項目には、10年単位の研究開発が必要で、方向性自体は正しいものの、なかなか成果が出ていない「古くて新しい」課題が含まれている。
であれば、国策支援を受ける戦略物資供給産業としては、目に見える成果を創出するため、「②エネルギー使用」の最適化に向けての投資に、最優先で取り組むべきだ。
半導体の国際団体であるSEMIが2022年11月にパリ協定および1.5℃目標の達成に向け半導体気候関連コンソーシアム(Semiconductor Climate Consortium:SCC)を設立したが、こうした「③連携」が「②エネルギー使用」の見直しを後押しし、中長期的な「①プロセス」革新のための知的交流の場になることを期待したい。
半導体がもたらす「次世代型」貢献の可能性
そして、「従来型」の取り組みに加えて、半導体産業はその最先端の技術とデバイスユーザーとの協働によって、より大きな役割を果たすことができるはずだ。
「従来型」とのわかりやすい対比のため、本稿では「次世代型」貢献と定義するが、デバイスユーザーの半導体利活用によって解決可能性が高まる論点を、ここで3点例示したい。
- 通信領域:
>5G 基地局向けソリューションの実現により、あらゆる高速伝送に貢献 - 自動車領域:
>CPU、GPUの適用による自動運転実現
>各種電子デバイスの能力最適化による燃費削減や各種規制への貢献
>EVバッテリーからの電力供給 - 産業領域:
>データセンタなど大量の電力を消費する拠点における産業機器のCO2排出量の削減
>再生可能エネルギーの制御デジタル化
上記の論点はすべて、直接・間接的に、エネルギー使用のコストを最適化することに資する。ただ、「従来型」と比べて、ステークホルダーからはその関連が見えづらい。
「次世代型」の環境負荷への貢献を、企業・業界全体で可能な限り定量化し、抑制目標を設定することが、説明責任を果たすことになるはずだ。
半導体製造における環境対策へのコスト負担は、最終的には製品価格へ転嫁されるが、コスト以上の便益を利用者にもたらすことができれば、正当化される。
「次世代型」貢献によって、半導体産業全体のサステナビリティが更に向上するだろう。
サステナビリティリスクの低減は、人材確保にも寄与
本稿では当面の資金リスクが解消されて、拡大フェーズに入った半導体産業が直面する環境負荷の存在を指摘し、その克服可能性を論じてきた。
実は、国内の半導体関連企業の方との対話では、「最大の経営課題は人材の確保」という回答が圧倒的に多い。エンジニアもセールスも、成長どころか業容の維持にも足りていない企業すら存在する。
資金リスクを克服した今、環境負荷などのサステナビリティリスクも低減していくことで、産業の魅力が訴求されるはずだ。
半導体産業が、魅力的な人材が集う真の成長産業であり続けていくために、微力ながら応援していきたい。
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