植物工場ビジネスの短期的戦略

国内の植物工場の多くは業界スタンダードである「平面多段式」を採用しているが、世の中に登場して以降、LED化による電力コストの大幅な低減と生産性改善の継続的な取り組みにより、収益性を日進月歩で改善させ、既述の通り路地物との価格差を縮め、高価格ながらも一定の需要を創造し、事業として商業ベースに乗る水準まで到達してきた。

しかし、コスト削減が限界に近づきつつある中で大型植物工場が次々に稼働し、市場への供給量が増加。植物工場間での価格競争が激化しており、再び収益性と事業性に赤信号がともりかねない状況になってきている。この状況を抜け出すには、戦略的アプローチが必須と考える。筆者が考える戦い方のポイントを、タイプごとに整理する。

1 BtoB市場向けのアプローチ

BtoB、すなわち外食やコンビニをはじめとした流通(サラダやサンドイッチ等の用途)に関しては、購買担当者は既に植物工場の「年間を通した安定供給」「高品質」「省力化可能」(選別や洗浄の手間が省ける)のメリットをしっかり理解している。

ただし、そうはいっても末端商品の価格圧力も強いことから結局は価格が重要となってくるため、完全自由競争の中ではぎりぎりの価格を提示せざるを得なくなってしまう。

ここから抜け出すには、競合が追従しにい切り口、具体的には、他社も含めて販売可能なエリアとロットを拡大・大型化させ、大口需要家のニーズに対応できる体制を整えるといったことが有効である。

そのためには、当然品質面も担保する必要があるので、必然的に生産面まで含めた連合体(1社が幹事となり他が連なる形)が必要となる。

そもそも、生産と販売を共に1社が両方担うこと自体に無理があることもあるので、この方式は多くの生産者が生産に特化できるメリットもある。外食・流通において植物工場を自前で整えるような動きもあるが、自社で一から立ち上げることと比べ、既に生産が軌道に乗っているグループとの提携は、外食・流通にとってもメリットがある。

2 BtoC市場向けのアプローチ

一方、BtoC市場(主に食品スーパー)に関しては、棚(販売場所)を確保することも大事ながら、棚に置いた商品を消費者が認知し高価格であっても購入するような購買行動をとることが重要かつ必須である。

そのためには、「植物工場野菜」というものがそのメリットと共に認知されると共に、その中でも特に自社の商品が選ばれる状態を作る必要がある。そのためには単に一業者として野菜を卸すのではなく、しっかりとマーケティング活動を行ってブランド認知を高めると共に、ブランドがわかる状態で野菜を陳列・販売する状態を作り出すことが重要である。これにより初めて、同業他社との単なる卸価格ベースでの競争から抜け出すことが可能となる。

静岡県の新日邦社は、エリア限定ながら、TVCMも使いながら自社ブランドのリーフレタスの認知を高めている。まさしくこの考えを実現させている好事例と言えるし、宮城県の㈱GRAがイチゴをミガキイチゴとしてブランド化しているのも同じ農業分野における良き先例と言える。

ちなみに、同社は生産指導を行った農家からイチゴを買い付け、販売も行っており、BtoBで記載した販売の一本化も実現しており、その点での好事例でもある。

3 DtoC(ダイレクト販売)のアプローチ

原材料向けや卸向けといった、競合との競争にさらされる商売からの脱却として、自社でダイレクトに販売するというアプローチについては、一部取り組みつつある企業もあるが、慎重に対応を考える必要がある。

ダイレクト販売としては、自社で野菜をそのまま販売するかもしくはサラダやジュースに加工して販売するかのどちらかとなる。

ブランド周知にもつながるので一石二鳥ではあるものの、販売スペースを確保し、一定の投資を行うと共に販売員も採用して販売を行うことから、この事業の黒字化は容易ではない。

多くの食品メーカーの「直売所」や「アンテナショップ」と同じように、売上アップのために様々な商品も仕入れて販売するようになるが、自社には店舗小売のノウハウはないので、多店舗展開するようなビジネスにすることは容易ではない。
もしDtoCを本気で考えるならば、自社単独で素人商売を行うのではなく、店舗販売のプロ(企業もしくは個人)との提携・連携が必須である。難易度は高いが、うまくいくとブランディングにもつながるので、ベストな手法とも言える。

長期的な戦略

以上、短期的な戦略を中心に記載したが、中長期的には、以下のような戦略も有効となりうる。

1 川上(種苗メーカー)との連携

川上すなわち「レタスの種」の供給者である種苗メーカーと連携し、進化した品種を開発、販売していくことは、コストダウンもしくは差別化商品の提供という点で有効である。ただし、種苗メーカーとしてはより多くの生産者に種を供給することで初めて儲かるので、新種の開発に生産者が相当寄与するとことと、もし独占的に取り扱えるとしても一定期間のみであるであろう、といった点につき覚悟が必要である。

2 海外展開

まだ相対的に競合の少ない海外に挑み、先んじて市場を押さえることも有効である。
植物工場のメリットが活かせる場所であることが必須なので、路地植物の栽培不適地(寒冷等)や安心安全に対して対価を払うような場所(中国等)が向いている。

近隣を含め安価な生産地からの商品が存在していると、相対的な価格差が大きくなり事業化の難易度が増すので、留意が必要である。

3 プラットフォーマーという手段も

なお、生産・販売はリスクが高いので、他人に任せて植物工場業界のプラットフォーマーになるというアプローチもある(前述の販売窓口の一本化も広義のプラットフォーマーと言えなくもない)。

プラットフォームを提供する対象=植物工場の事業がうまくいかないとプラットフォーム自体が永続的に存続できないし、そもそもまた業界自体がかなり小さいので、プラットフォームとして存在する価値があるようになるには、もう少し時間を要すると考えられる。

「工場」ゆえの「同質化」「コモディティ化」

植物工場を含めた次世代施設園芸は、全般的に面積あたりの収量が高く工業化に向いている。
一方で、工業的であるがゆえに異業種含めた各種企業が参入し易く、同質化しやすい。
トマトの例を出すまでもなく、どこかが栽培に成功すると皆がこぞって参入し、結果として供給過剰・価格下落となることが常であるため、そのことを理解しつつ、常にどのように同質化を避けるかを意識した戦い方が必要である。

植物工場というと、キノコ(マイタケ、エリンギ等)も植物工場の一種といえるが、相応のノウハウが必要かつ価格をうまくコントロールすることで他社が参入しづらくし、大手数社の寡占状態を作り出すことに成功し高収益を維持している。こういった事例は、葉物野菜の植物工場においても参考になるはずである。

その意味では、「平面多段式」かつLEDという生産方式はコモディティ化しつつある。もし前述の戦略をもってしてもうまくいかないような場合は、平面多段方式の中での新たなイノベーション(飛躍的に効率の高い光源の開発や収穫工程の完全機械化等)か、プレンティ―社のように平面多段方式でない作り方を創出すること。そして、それを自社で囲い込み、外部流出しないようにすることが必要と考えられる。

植物工場の大きな飛躍を

コロナ禍で外食用の需要が一時的に大きく落ち込んではいるが、中長期的に見て、植物工場は間違いなく今後世界の農業の重要な一翼を担うはずである。国内の各プレーヤーには、是非現在の諸課題を乗り越え、産業として大きく飛躍し、海外にも展開していっていただきたいと願っている。

▼過去記事はこちら
植物工場ビジネスの目指すべき未来 ㊤ 現状編

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