村上春樹さんから学ぶ経営 番外① 危機と指導者~人類最後の人間

この連載の第4回目において、コロナ禍での「危機と指導者」について書きました。そこから2年。人類の手の及ばぬ災害や疫病であればまだあきらめがつきますが、戦争という人の愚かさ故の危機となると悲しみと怒りが行き場を失います。村上さんとは少し離れますが、再度、「危機と指導者」について。

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最後の人間

最後の人間

あなたは、私は、人類史上何番目の人間だろうか?・・・そして、何番目の人間が最後の人間になるだろうか?

「世界を支配するベイズの定理」(ウィルアム・パウンドストーン、青土社)の原題は「The Doomsday Calculation」。すなわち、人類最後の日を予想しようという書籍です。
途方もない問題ですから、日本題に採用されているベイズ推定が機能するかどうかは別として、多方面の知――カオス理論、フラクタル概念、宇宙解釈理論等々--によって、事前確率を修正し終末を予測する試みです。

20万年前に人類の一人目が誕生し、その数は日々増加してきました。1・・・100万・・・1億・・・100億・・・そして、現在、人類の累積数は1000億人程度と言われ、その数は毎秒増えています。

誰しもに固有の番号、例えば94,999,999,999番目や100,000,000,000番目があることは確かで、不思議な気持ちになります。

同書の冒頭では、何人目の人間が最後の人類になるかについて、宇宙物理学者リチャード・ゴットによる簡潔な推論が紹介されています。

同氏によれば、これから生まれてくる人間の数は、九五パーセントの信頼水準において、これまでに生まれてきた人間の数の三九分の一から三九倍の間に入る、すなわち、一八億人から二兆七〇〇〇億人の間と概算しました。

そして、人類の存続期間は12年~1.8万年になると推論しています(全て1993年時点での、累計人数が700億人、一年あたりの出生数が1.5億人との前提に立った推論)。

核が議論されるようになったことは、ベイズ推定の事前確率を悪化させ、ゴッドの推論値を短縮させたかもしれません。

▼参考記事
村上春樹さんに学ぶ経営④~作品に潜む成功へのヒント~ 危機と指導者

戦争を経験した人

戦争を経験した人

ウクライナの人々が経験していることをまさに経験したのが、懐疑的実証主義者として知られる、ナシーム・ニコラス・タレブ氏です。

同氏を一躍著名にし、世界中で読まれた「ブラック・スワン」の第一章では、彼が懐疑的実証主義者になることになった経緯が書かれています――戦争です。タレブ氏はレバノンの出身で、祖父は同国の副首相まで務めた名家の出です。

「あなたの気持ちわかるよ」は常套句ですが、実際は同じ経験をした人だけに許される言葉でしょう。例えば、風邪でもコロナでも癌でも、全く同じ経験をしない限り、その人の痛み・感情を正確に理解することはできないでしょう。その点において、同書の第一章は今読むべきことが書いてあり、少し長いですが、引用します。

「一〇〇〇年以上にわたって、地中海の東海岸にあるシリア・リバネンシス、あるいはレバノン山と呼ばれていた地域には、一二以上の宗派、民族、思想を持つ人々が暮らしていた。(中略)文化や宗教がモザイク模様のように入り乱れ、共存のいい例になっていた。(中略)レバノンと呼ばれる国は、どの切り口から見ても、平和の楽園に思えた。」
「しかし、銃弾と迫撃砲が数発飛び交って、レバノンの「天国」は一瞬で消えてなくなった。(中略)一三世紀近くに及ぶ素晴らしい他民族の共存の後に、どこからともなく黒い白鳥がやってきて、かの地を天国から地獄に変えた。」
「ひどいありさまだった。前線が街のど真ん中にあって、戦闘はだいたい居住地で起こったからだ。」
「大人たちは、戦争は「あとほんの数日で」終わると言い続けていたが、結局一七年近くも続いた。」
「ブラック・スワン」 ダイヤモンド社

タレブ氏は、防空壕の中で本を読み、思想し、懐疑的実証主義哲学者になりました。

慣性

慣性

2022年2月24日に、ロシアによる侵略戦争がはじまって5カ月たちます。開戦当初の映像に驚愕した私たちは、すでに戦争に慣れてしまっています。

Yahoo!Japanのトップページにあった「ウクライナに関する情報」ボタンもなくなっています。欧米では、インフレによる日常生活への影響もあって、「ゼレンスキー疲れ」の空気もでてきていると報じられています。

一方、同地では700万人が国外に逃れ難民となり、数万人が殺害され、生き残った人たちも5カ月にわたる防空壕暮らしを強いられているのです。

慣性とは恐ろしいことです。上述したゴッドの推論を当てはめれば、今回のロシアによる侵略は5日~16年続くと推定されますが、日々、その予想は後ろに傾斜してきたと言えます。タレブ氏がレバノンで経験したことです。

エアコンと平和

エアコンと平和

Financial Timesのアン=シルベース・シャサニー氏は、「国を率いている人物によって、これほど大きく変わるものなのか」との書き出しから始まる長文の寄稿のなかで(2022年5月18日日本経済新聞掲載)、軸が定まらず右往左往しているように見えるドイツのリーダーに対して、イタリアのドラギ首相は、外交による解決は簡単ではないとの認識にたち、「平和とエアコンのどちらかを選択する時だ」と国民に呼びかけ、厳しいエネルギー制裁に賛成し、EUの改革のための青写真を示した、としています。

戦争開始直後のこの連載で私は次のように書きました(村上春樹さんから学ぶ経営㉖ 常に卵の側に立つ)――「石油価格が上がるからSWIFT制裁はできない、とは耳を疑う。エアコンの温度を1℃下げよう、防空壕にはエアコンなどないのだから、と導くのがリーダーではないか」。

地球が誕生して46億年。その間に、地球上の生物の70%以上が絶滅した大絶滅が5回あったといわれています(いわゆる「Big 5」)。

大絶滅の原因としては、巨大隕石の衝突、火山の爆発、大陸移動などとされています(例えば、竹内薫、丸山篤史「まだ誰も解けていない 科学の未解決問題」、中経出版)。

仮に、核戦争が起きれば、多くの種は絶滅し、「Big6」となってしまう可能性があります。

終末の日を早めないために

終末の日を早めることがないように、世界のリーダーは、慣性に流されることなく、痛みは伴うとしても、世界は何のために存在しているのかを人々に訴え、行動を促すことが責務と言えるでしょう。

▼村上春樹さんから学ぶ経営(シリーズ通してお読み下さい)
「村上春樹さんから学ぶ経営」シリーズ

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