未来は経験では予想できない

一つ目は、新聞やネットで頻繁に目にする、米国の失業保険申請者数。
unemployee
このグラフをみて、「ブラック・スワン―不確実性とリスクの本質」(ナシーム・ニコラス・タレブ著、ダイヤモンド社)を思いだした方も多いかも知れません。

同書の上巻89ページの図表は上記図表と瓜二つです(上下逆ですが)。七面鳥が毎日人間から餌を与えられ幸せな日々をおくり、人間との信頼関係指数が日々改善していたったところ、突然裏切られる(食べられてしまう)という話です。「ブラック・スワン」に関し深く考えた同書を、筆者は再度読み直しました。

A large gallopavo with a red head, beige plumage and strong beak

 

そして二つ目。日本政府が公表した南海トラフ地震の被害者数の予想です。東日本大震災の後に死者数の予想は2.5万人から23万人に修正されています。

南海トラフ地震の被害予定
今後、日本政府もしくはWHOから発表される(かもしれない)次の感染病の予想は、これまでと異なったものになることでしょう。予想の無力さ、虚しさを改めて実感させられ、筆者が思い出したのはこの一文です。

「青豆は一九二六年のチェコ・スロバキアを想像した。第一次大戦が終結し、長く続いたハプスブルク家の支配からようやく解放され、人々はカフェでピルゼン・ビールを飲み、クールでリアルな機関銃を製造し、中部ヨーロッパに訪れた束の間の平和を味わっていた。フランツ・カフカは二年前に不遇のうちに世を去っていた。ほどなくヒットラーがいずこからともなく出現し、そのこぢんまりした美しい国をあっという間にむさぼり食ってしまうのだが、そんなひどいことになるとは、当時まだ誰ひとりとして知らない。歴史が人に示してくれる最も重要な命題は「当時、先のことは誰にもわかりませんでした」ということかもしれない。」(「1Q84 BOOK1」、新潮社)

10年にわたる経済発展に沸いていた2019年の世界は1926年のチェコ・スロバキアと同じかもしれません。

未来は予想できない。そして、どんなことが起きても適切に対応し、国民を守り、企業を生存させなくてはならない為政者、経営者は大変な重責だと改めて考えさせられます。今回の危機で「指導者に求められるもの」として筆者が感じたのは以下です。

非難を覚悟で断行する

Close-up of black swan with red beak
例えば1月末に国境を完全封鎖した指導者がいれば、彼・彼女は後世に名を遺したでしょうが、その時点では想像を絶する非難を浴びたことでしょう。「ウイルスぐらいでなぜそんなことするのだ」「俺の生活どうしてくれるんだ」、と。
思い出していただきたいのです。3月初旬でさえ安倍総理が韓国からの入国を制限した時、韓国はもちろん国内からも強い非難を浴びたのですが、非難したことを誰も反省していません。状況を深く認識し、自分の判断を信じる覚悟が必要だと感じさせられました。

間違ったと思ったときは素早く変更する

とはいえ、常に正しくあることは不可能でしょう。アメリカのトランプ大統領の発言が過去3か月どのように変化したか(間違ったか)を検証する報道がされています。確かに間違いました。しかし、後から言うのは簡単です。指導者はその時々に決断し、もし間違っていれば修正していく勇気が必要だと感じます。間違ったのは、間違ったことではなく、未来を予測できないという真理のもとで間違いを認め訂正しなかったことだと言えないでしょうか。

ニューヨーク州の知事が高く評価されているのは(あれほどの死者が出ているにもかかわらず)、情感があるからでしょう。日々伝えられる死者の数は単なる数字に還元され、麻痺していきます。しかし、身近な人にはただ一つの死でしかありません。「無名って恐ろしいわね(中略)ただ115人戦死というだけ」(「気狂いピエロ」、ジャン=リュック・ゴダール監督)。

評価されるべき、認識されない指導者

book
武漢で最初の患者が出たときに、その患者を完全に隔離し、野生動物を食料とすることを禁じた指導者がいたとすれば、数十万人の命を救った英雄ということになります。しかし、この場合は、そもそもウイルス問題を世界が認識することなく、彼・彼女もその存在すら認識されません。

大きな問題を(問題が起きた後に)解決した人はもちろん評価されるべきですが、危険を未然に防ぎ(もしくは初期に解決し)、大きな問題にさせない指導者こそ偉大であり、我々はそのような評価眼を持たなくてはいけないと感じます。
ちなみに、アメリカのオバマ前大統領は2014年12月2日の演説で、「感染症の脅威は過去のものではない。今後も十分起こりうる。感染症に対応できるインフラを構築する必要がある。素早く認識し、素早く隔離し、素早く対応する仕組みだ。これは民主党共和党を超えた国家の問題である、国民の命にかかわる問題である。米国がこの問題にどのように対処できるのか率先して世界に示すべきだ」と述べていますが、残念ながら誰も脅威とは思わず、そして大統領も実行できませんでした。

まとめ

そもそも何が起きても生き残るようにするにはどうしたら良いのか。その企業がなくなったら困る企業であるしかない、代替できない企業であるしかないということになりますが、これは今後の連載で考えていきたいと思います。

 
▼村上春樹さんから学ぶ経営(シリーズ通してお読み下さい)
「村上春樹さんから学ぶ経営」シリーズ

関連記事

コンサルに求められる考え方(マインドセット)・行動特性:現役コンサルが解説するコンサルタントスキルの体系化②

本論考では著者が実施している経験則をベースにした社内向けコンサルタント養成研修の内容をもとに、暗黙知となっているコンサルタントスキルを全5回にわたって体系的に解説する。前回は著者の実体験に基づく課題意識とコンサルタントスキルの全体像について紹介した。今回は全てのスキルの土台となるコンサルタントとしての「考え方・行動特性」について紹介する。

人的資本とは 経営の新しい潮流

人材を資源ではなく付加価値を生む「資本」として見直す潮流が拡がっている。企業の「人的資本」に関する情報開示が制度化されるのに伴い、人事部門は従来の定型業務中心の役割から、企業の中長期戦略を実現するための戦略人事への転換が求められている。

村上春樹さんから学ぶ経営㉕ ニッチ再び。大谷選手と「何かを捨てないものには、何もとれない」

私が経営の根幹だと考える「ニッチ」(『隙間』の意味ではありません)について、再び論じたいと思います。大谷翔平選手の活躍が常識外であったため、少々長い回となります。それでは今月の文章です。

ランキング記事

1

アリババは国有化されていくのか

アリババグループの金融・オンライン決済部門のアント・グループ(前アント・ファイナンス)は、2020年11月に予定されていた上場が延期され、そのまま現在に至っている。ジャック・マー氏の中国金融政策への批判発言から端を発し、アリババは金融業に限らず様々な制限が加えられていると報道されている。この記事では、アリババの現状とともに、中国のモバイル小口決済について考察したい。

2

品質不正多発の三菱電機に学ぶ、あるべき不正撲滅方法

三菱電機の品質不正が止まらない。2021年7月に35年以上に渡る品質不正が公表された。調査を進める中で不正の関与拠点、件数が膨らみ、直近の報告では実に150件近い不正が認定されている。一方で、当社に限らず不正そのものの発生や再発は止まらない。再発防止策がなぜ機能しないのか、当社の取り組みを題材にあるべき再発防止策について解説する。

3

進む地方銀行の持株会社体制への移行

経営統合によらない地方銀行の持株会社体制への移行が増えている。銀行法改正による後押しを受けて、地域の課題に向き合いながら、事業の多角化を進めやすくして収益拡大を図るのが狙いであるが、果たして中長期的な企業価値向上に資する事業ポートフォリオの構築は進むのだろうか。

4

人的資本とは 経営の新しい潮流

人材を資源ではなく付加価値を生む「資本」として見直す潮流が拡がっている。企業の「人的資本」に関する情報開示が制度化されるのに伴い、人事部門は従来の定型業務中心の役割から、企業の中長期戦略を実現するための戦略人事への転換が求められている。

5

村上春樹さんから学ぶ経営㉕ ニッチ再び。大谷選手と「何かを捨てないものには、何もとれない」

私が経営の根幹だと考える「ニッチ」(『隙間』の意味ではありません)について、再び論じたいと思います。大谷翔平選手の活躍が常識外であったため、少々長い回となります。それでは今月の文章です。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中