ネットスーパーで提携加速 楽天&西友など 激動の一年を振り返る

ネットスーパーは、コロナ禍において最も注目された業種の1つに挙げられる。コロナ禍における生活習慣の変化を、「勝負所」とみた各社は提携を加速。この記事では、日本のスーパーにとって激動の2020年を振り返るとともに2021年以降の展望を考察する。

シェアする
ポストする

楽天・KKRが「西友」買収 ネットスーパー・OMOを強化

 
seiyuイメージ

日本では11月中旬、KKRと楽天が、ウォルマートから完全子会社の西友株を取得することを発表した。出資比率はKKR65%、楽天が20%。ウォルマートは15%を保有し続ける。

日本のネット通販最大手の楽天と西友は既に2018年から、「楽天西友ネットスーパー」を運営。楽天が株式を取得したことによって、スーパーマーケットの実店舗のデジタル化を進めるとともに、オンラインとオフラインの双方のデータを活用したOMO(Online Merges with Offline)に力を注ぐ。

また、2020年12月3日にはレシピ動画クラシル(企業名:dely)が、イオンとのネットスーパーを始動した。

コロナ禍のネットスーパー、世界・日本で市場拡大

楽天西友イメージ

2020年は日本に限らず、世界各国にてネットスーパー市場は拡大した。

イギリスのネットスーパー専業大手であるOcado(オカド)は、コロナ影響によって昨年対比で52%増加、過去に例を見ない成長を遂げている。(2019/9/1~:2020/8/30~の13週間対比、小売セグメントのみでは+27.2%)
 
市場拡大の一方で、東京では外出自粛要請を受けた3月末には買い溜め需要の高まりからネットスーパーの受注件数が急増。各社は需要に供給が追い付かず、受注を休止。遅配等の問題を引き起こし、機能不全に陥った。

ネットスーパー 市場拡大に追いつかないインフラ

図表1

出所:Ocado決算資料

イギリスのOcadoは、先進的な自動倉庫や配送システムを有するTech企業であるが、そのOcadoにおいても、需要に供給が追い付かない事態に陥った。

ロックダウン直前に自社Webサイトのトラフィックが10倍以上に増加。対応が間に合わないことを背景に新規顧客の受付を停止。結果として、コロナの影響を受けた20年度半期では、小売セグメントの売上高は、27.2%増加した一方で、その要因は全て客単価増(+28%)のみによるものであった。

変化対応の鍵はインフラへの着実な投資

急激な需要の増加に対してOcadoも手をこまねいている訳ではない。3つの倉庫を建設するなど積極的な投資を実施。2021年末までに配送キャパシティを40%増加させると計画している。日本においても各社新たな倉庫建設を発表するなど、需要増への対応を図っている。

ネットスーパーの商品原価を除くコストのうち、大きなコストを占めるのが「ピッキング人件費」と「配送人件費」である。そのため日本のネットスーパー各社は、コスト低減のために「フルフィルメントセンター」「自動倉庫」といった配送への投資を実施。
売上高を増やすよりも、コスト抑制に繋がる投資を積極的に行っている。

日本のネットスーパーの課題は「客単価」

流通イメージ

一方で「売上高(客単価:1注文当たり単価)引き上げ」に向けた努力を注いでいる日本企業は少ない。

Tesco(イギリスのネットスーパー)の客単価は約1万円、Ocadoでは約1万5千円である一方で、日本のネットスーパー各社の客単価は5,000円~7,000円と言われている。

つまり、イギリス各社と比較して日本の客単価は「半額から3分の1」である。
同じP/L構造(売上高対費用比率)を目指すのであれば、ピッキング人件費や配送人件費も「半額から3分の1」に抑えなければならない。しかし、イギリスと日本では商品原価率や人件費に差異は殆どなく、現実的に日本の客単価(5,000円~7,000円)では利益創出が困難であることは明白だ。

客単価を上げるために

Ocadoでは「バンドル売り」や「商品を3つ購入すると●割引」などの施策のほか、品揃え面では、一般向けスーパー「Waitrose」から商品供給を受けていたが、契約を満了。それ契機に、高級スーパーである「Marks & Spence」の商品取り扱いを開始するなど、客単価増に寄与する施策を実施している。

日本はイギリスよりも生鮮比率が高く、食品の買い溜めには不向きであるとも言われる。

また自宅近所にコンビニやスーパーが存在する首都圏では、自宅の冷蔵庫変わりとしてコンビニやスーパーに毎日通う顧客も存在する。

一方、日本においても米や水・トイレットペーパーや洗剤など、買い溜めに向いている商品も存在する。嵩(かさ)や重量のある商品は、配送というネットスーパーの強みに合致する。

Amazonとも競合し易い商品群ではあるが、店舗での販売データとの融合によって購買頻度の予測向上や関連商品のレコメンド等、Amazonを大いに上回るデータによるサービス展開も可能と推察する。

スーパーマーケットが技術で先行するミールキット(調理の為に食材が用意された状態:Ready to Prepare)や味付け肉・冷凍キット(調理の下拵えがされた状態:Ready to Cook)、レンジデリカ、冷凍食品(電子レンジ後、食べられる状態:Ready to Heat)等は、コロナによって縮小した外食マーケットの代替して、単価向上に寄与するものと考えられる。

また、直近注目されているFood Tech領域には更なる余地が存在するものと想定される。

長期的な展望を基に独自の優位性を築け

ほうれん草イメージ

マイケル・ポーターはハーバード・ビジネス・レビューで発表した論文“Japanese Companies Rarely Have Strategies(多くの日本企業には戦略がない)”の中で、「ほとんどの日本企業は、お互いに真似し、製品・機能・サービスが同じだ」とし、「オペレーショナル・エクセレンスだけに頼る日本企業」を批判している。配送周りの業務効率化が進み、他社との差が縮まると、共倒れを招きかねない。日本は欧州と比較してPB(プライベートブランド)比率が低く、商品が同質化しており、価格競争に陥っている。

一方、現時点のネットスーパーではオペレーショナル・エクセレンスの余地が多分に存在するため、継続的な投資が必要となる。

まとめ

コロナを機にAIやRPA(ロボティック・プロセス・オートメーション)といった目を引く新たな技術に脚光が当たり、サブスクリプション・DX等のパワーワードがメディアでも散見される。

実際に筆者にも「DXを成功させている企業はどこか?」と言った相談がある。但し、DXは自体は手段のほか背景や戦略が無ければ、ただのビックワード(様々な解釈を生む曖昧な言葉)であり、競争優位性には成り得ない。

マイケル・ポーターによれば、「戦略の本質とは“独自性に優れたポジショニング”であり、これを担保する活動システムの構築である。」と定義している。つまり他社と同様の戦略を取るだけでなく、自社として「何をすべきか?何を捨てるべきか?(トレードオフ)」という極めて難しい判断が、経営者には求められる。

出典:Ocado Group plc:Annual Report 2019

▽参考記事
「食品宅配・ネットスーパー」の盛り上がりは本物か?
コロナで見えたネットスーパーの勝ち筋 ピックアップ型のすすめ

コメントを送る

頂いたコメントは管理者のみ確認できます。表示はされませんのでご注意ください。

※メールアドレスをご記入の上送信いただいた方は、当社の利用規約およびプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

コメントが送信されました。

関連記事