ターンアラウンドのノウハウを大企業に応用せよ

コロナ時代に言えることは、一つの大きな経済環境の変化で、会社の全ての事業が同時に悪影響を受けるような事業ポートフォリオ構成は好ましくない、ということだ。将来の経済環境の変化を想定した上で、適切に事業リスクが分散されるようなポートフォリオ構成が望ましい。

当社で通常使用している、事業ポートフォリオ改革で使用している図は、上記の通りなので参照していただきたい。

1 意識改革

大企業における経営改革においても、社員の意識改革が同様に必要となるが、再生会社で行う場合に比べ、いくつか難しい点がある。

危機感が足りない

大企業の場合は、それほど大きな危機が生じている訳ではないため、危機感の醸成は容易でない。
危機感の醸成は経営改革にとって必須であり、大企業であってもビジネスモデル改革を行う上では、濃淡は別として危機感の醸成は必要となる。
ただ両者の危機感には差があり、再生会社の場合の危機感は短期的な概念である。即ち、このままの状態が半年又は1年継続すると倒産するという内容の危機感である。
これに対し、大企業の場合の危機感は中長期的な概念であり、このままの状態が5年又は10年継続すると会社の経営が大幅に悪化する、といった内容の危機感である。
このような危機感は、なかなかトップダウンで説明しても会社の現場では臨場感をもって感じることは難しく、会社の経営陣の中でさえ、異論を唱える人も少なくないというのが実情である。
よって、このような中長期的な危機感については、企業経営陣、中間管理職、若手社員等各階層における企業文化を変革し、「自ら自発的に会社を変えていかなければならない」という積極的・能動的なカルチャーに変革することが必要となる。
このため、企業文化の変革には数年程度の時間をかける覚悟が必要であり、再生会社の場合のように、1年以内に変革を行うという訳にはいかない。

過去の否定が難しい

大企業の場合、資本や経営者の交替が生じる場合が少なく、過去の否定をしにくく「しがらみ」を捨てきれない。そのため、役員及び社員が過去の否定を行うことは難しい場合が多い。
特に、不振事業の責任者や、不振企業の買収を担当していた責任者を過去にしていた人が、大企業の現在の要職(社長等)にある場合、そのような話を持ち出すことはタブーである。

しかしながら、それが不振事業温存の要因となり、経営改革が進まない場合が多い。
不振事業をそのままにした上で、新たな買収や新規事業を始めることになりがちであり、企業リスクはより高まっていくことになる。

ここにおいては、過去の否定ではなく「過去は正しかったとしても、その後の経営環境の変化によって業績が悪化した場合には、それに固執することなく経営方針を臨機応変に転換しよう」といった柔軟な思考で考えることが必要となる。

そして、「あくまで全員が、客観的に現在の当社を見たとして、何が問題であり今後何をしていったらよいか」につき、オープンに且つしがらみなく協議する場の設定が必要である。

過去の失敗を責めてはならない

ここでの協議では、「他人を責めてはならない」というルールが必要となる。無責任にも聞こえるかもしれないが、「失敗の責任を取る」ことに拘るよりも、「失敗を踏まえて、未来の成功を導く」という考え方が重要である。
そうでないと、「失敗の覚悟をもって挑戦をする人」は生まれず、「失敗を回避して無難な出世を目指す人」ばかりの会社になってしまうのである。
いずれにせよ、このような過去の否定を要する局面においては、企業文化の変革が不可欠だ。そして、この場合の企業文化の変革は、往々にして企業内の幹部間又は部署間の利害が対立する場面があるため、中立的で客観的な視点を持つ第三者のコンサルタントの介在が必要な場面も多いように思う。

多数の部署を抱える大企業は、前述した通り一部署の利害を優先する「部分最適」や、その他の経営課題を抱えているため、意識改革を行う場合には、初期の時点でそのような部分最適のマインドを開放するための仕掛けづくりが必要である。
そのためには、経営幹部層及び中堅若手の階層について、日頃とは異なり部門横断的な会議やチームを設定し、それぞれでチームビルディングを行う方式が有効だ。これは、合宿等のオフサイトで実施することが一般的であり、仕事とは離れて、体を動かすゲームで部門横断的なメンバーによる共同作業を実施し、その後に、経営幹部又は各チームで、集中的に自社の強み弱み等の基本的なことから議論を進めていく場合が多い。
また、経営陣の場合は、通常の役員会と異なり、中長期的なテーマを中心に議論をすることが重要となる。このような仕掛けづくりにおいては、ファシリテーション役に外部コンサルファームを活用する方法も有効である。

また、中堅若手の階層に対しては、普段はあまり接する機会のない全社ビジネスに関する議論を行う機会の提供を行うとともに、「失敗を恐れ挑戦しない人」よりも、「失敗を恐れずに挑戦をする人」の方が貴ばれる企業文化の醸成が重要だ。そのためには、上記のようなオフサイトミーティングの他、度重なるゼミ形式での教育研修や、そのような精神を反映した人事制度への改革も必要となる。
近時、大企業において社内ベンチャーが奨励されているが、ここで成功した社員はもちろんであるが、失敗した社員でも、その社員の経験は貴重な経験として評価し、人事制度的にも不利なる影響を与えない仕掛けが必要だ。
社内ベンチャーの場合は、独立して行うベンチャー企業と異なり、成功した場合の巨大な報酬がないのであるから、不利益だけを負わすような仕掛けでは挑戦する人は出てこないと思われる。

このような意識改革については、企業の意識改革の専門コンサルティング会社(株式会社スコラ・コンサルト)の創業者である柴田昌治氏の著書「なぜ、それでも会社は変われないか」(日本経済新聞出版)が大変参考になるので、是非とも一読されたい。

2 ビジネスモデル改革

大企業がビジネスモデル改革を行う場合に、再生会社と異なる点は次の通りである。

1 過去のしがらみや従業員の雇用の問題があるため、不振企業の売却に躊躇す
  る企業が多い
2 資金に余裕があり、事業ポートフォリオの再構築のため、新規の企業買収に
  よる拡大が可能

ターンアラウンドで実施するビジネスモデル改革のうち構造改革及び営業改革は、各大企業の問題状況に応じてそのノウハウの一部を使用して実施する場合もしない場合もあるが、企業毎にノウハウの活用範囲が異なることから、ここでは詳細な記述はしない。

組織改革については、一時的に、全社への危機感醸成の目的と経営改革の本格的実施のために、「経営改革本部」「構造改革本部」等の臨時的組織を設置する方法は有効である。
当該組織に部門横断的なメンバーを集約することで、部門の垣根を取り払った議論をすることが可能となるし、場合によっては、そこに各部門の中堅若手の優秀メンバーを集めることにより、経営者にとって新たな経営人材の発掘及び教育の場になる可能性は十分にある。

また、企業のポートフォリオ改革であるが、上記①の不振事業の売却は、トップダウンで容易に決断できる企業であればあまり論点にならないが、そうではない場合には、前述の意識改革のところで述べたように、役員合宿等のオフサイト会議で時間軸を使いながら議論をしてくことが必要となる。
この場合に一つの解決策になるのは、不振事業を期間限定で外部のコンサルティングファーム等を起用しながら事業改革を行い、当該期間終了時に、売却するかどうかを決定するという時間軸を使う方法である。

誰が見ても不振事業で将来の成長の余地はない産業に属する場合や、コア事業との連関がない場合には売却又は撤退の判断しかないが、不振事業の中には、将来成長可能性のあるポテンシャル成長事業(図の②の区分の事業)が存在している場合もある。
このような場合、当該事業に関わる全関係者があきらめをつける意味、そして当該事業に携わる社員の奮起を促すためにもそのような仕掛けは有効であるし、少しでも収益改善がされれば、売却価格が高くなる可能性が生じる。

また、確率は高くないものの、黒字化して成長可能性を当該期間内に見ることができれば、将来のコア事業として経営資源を投入していくこともありうる。なお、このような場面で外部のコンサルティング会社を起用する意味は、「従来のメンバーが単に奮起をする」ということでは、必ずしも全ての可能性を模索したことにはならないので、外部の目やノウハウも必要という趣旨である。
よって、不振子会社の場合は、親会社の社員がそのような外部目線による改革をする役割を担う場合もある。

上記②の新規の企業買収については、買収を行う前段階で、将来を踏まえたビジネスモデルの転換又は多様化の戦略を検討することが必要であり、その後にM&A戦略の策定を行うことになる。
M&Aにおいても、誰が見ても優良な企業は、熾烈なコンペに晒されるため、価格が吊り上がることから必ずしも適切な買収にならない可能性は否定できない。
また、自社のビジネスの成長戦略がないと、買収した会社とのシナジーを発揮できるかどうかの見極めもできないことから、シナジープレミアムの面で売り手にとって魅力的な価格を提示することはできず、ひいては買収が成立する可能性は低くなる。

また、その後のM&A戦略の策定は、事業戦略をベースに具体的に候補企業をリストアップして打診をするまでのプロセスを詰めていく作業であり、その段階から、外部のアドバイザーを起用する方法も有効である。

意識改革とビジネスモデル改革を両輪に

本稿を読んで、「なるほど当社もそのような改革が必要である」と感じる方もいれば、「当社は経営改革の必要はない」又は「自社のメンバーで経営改革は可能であり、再生会社のターンアラウンドのノウハウは不要である」と感じる方もいるものと思われる。ただ、どのような状況であれ、経営改革を行う場合には「意識改革」と「ビジネスモデル改革」を両輪で行うことが重要であることをご理解いただければ幸いである。

▼過去記事はこちら
コロナ時代における大企業の経営改革 ターンアラウンド(企業再生)のノウハウを活用 ㊤改革阻む縦割り組織
コロナ時代における大企業の経営改革 ターンアラウンド(企業再生)のノウハウを活用 ㊥再生企業におけるターンアラウンド

関連記事

ハイブリッドクラウドを導入するメリット・デメリットや活用事例を紹介

現在多くの企業は、業務効率化や生産性向上のため、IT化によって自社のサーバーやデータを管理する必要があります。 従来は企業内だけで通信するネットワーク内にサーバーを設置し、データを管理するオンプレミス(自社運用型)が主流でしたが、近年はクラウド環境の導入が進んでいます。 クラウド(クラウド・コンピューティング)とは、誰でもアクセスできるインターネット経由でサービスを利用できる技術です。 さらにクラウド技術の活用が進むにつれ、最近では「ハイブリッドクラウド」という運用スタイルが広がっています。このスタイルには一体どのようなメリットがあるのでしょうか? 今回は、ハイブリッドクラウドについての基礎知識やメリット・デメリット、ハイブリッドクラウドを活用した事例などを解説します。

スピンオフとスピンアウトの違いとは?国内外の事例や税制についても解説

近年、複数の市場に挑戦する多角化企業が事業を分離し、企業価値の向上のためにそれぞれの事業に集中特化した経営戦略を採用する事例が目立ちます。 こうした事業フォーカスを強化するための事業展開に、「スピンオフ」や「スピンアウト」と呼ばれる手法があります。 それぞれどのような共通点や違いがあり、どのようなメリットがあるのでしょうか?本稿では、国内外の事例や税制の観点も交えてご紹介します。

景気循環の波「キチン・サイクル」とは?その定義やメカニズムについて

景気循環の波を語る上で欠かせない「キチン・サイクル(キチンの波)」とは、一体どのようなものなのでしょうか。この記事では、キチン・サイクルの定義やメカニズムに言及し、その他、3つの波について詳しく解説していきます。

ランキング記事

1

パワー半導体の世界シェアは?注目市場の今後の動向を解説

パワー半導体(パワートランジスタ)は、家電や電気自動車をはじめとして、さまざまなデバイスの電源管理に使われています。 多くの分野で需要が伸びており、長期的な成長が期待できるマーケットです。 日本の企業や大学発ベンチャーが競争力を保っている分野でもあり、「パワー半導体強国」として世界市場でのシェアを獲得するべく、積極的に研究開発を行っています。 本記事では、世界規模で成長をつづけるパワー半導体の市場規模や、今後の展望を解説します。

2

コロナ禍に有効なアーンアウト条項とは シンガポール案件からの考察

コロナ状況下でもASEAN地域においてPEファンドによる売却が積極的に行われている。アーンアウト条項を通じ、コロナ状況下のリスクを買い手と売り手で分担している例もみられ、危機時の参考事例として紹介・考察したい。

3

リカーリングビジネスはサブスクリプションとどう違う? 新しい収益モデルを解説

従来の商品やサービスを売ったら終わりの「買い切り型」モデルとは異なるビジネスモデルが目立ちます。 そのなかのひとつが「リカーリング」です。リカーリング型のビジネスには様々なメリットやデメリットがあります。 本記事では、リカーリングのメリット・デメリットや、サブスクリプションとの違いについて、具体例を挙げながら解説します。

4

事業承継M&A オーナー経営者に配慮すべき4つの視点

事業承継M&Aを進める際に最も大切なのは、売り手側のオーナー経営者との向き合い方だ。多くの場合、オーナー経営者は大株主であり、資産家であり、地域の名士でもある。個人と会社の資産が一体となっている場合も多く、経済合理性だけでは話が進まない場合も多い。M&A交渉においてオーナー経営者と向き合う際の留意点を4つの視点からまとめてみた。

5

破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いは?メリットや事例を解説

破壊的イノベーションとは、既存事業のルールを破壊し、業界構造を劇的に変化させるイノベーションモデルです。 この概念は、ハーバード・ビジネススクールの教授であった故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱されました。それ以降、飽和状態となりつつある市場に必要なイノベーションとして注目されています。 本稿では、破壊的イノベーションの理論や企業の実践例から、破壊的イノベーションを起こすために必要となる戦略までを解説します。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中