事業再生におけるターンアラウンドでの経営改革

事業再生の場合、ターンアラウンドをどのように行うかについては、当社が既に執筆した「ターンアラウンドマネージャーの実務」(商事法務・2015年10月20日刊行)に詳細を記載しているが、そのポイントは概ね次の通りである。

1 意識改革

再生会社は、そもそも現状のままで推移すると会社が倒産する危機にあるので、会社全体で危機感を共有することが出発点である。そして、ターンアラウンドの担い手である新経営者は、経営責任のある旧経営陣から交代した者であり、内部からの登用する場合もあるが、外部から招聘される場合が多い。

このような場合、ターンアラウンドの序盤で行われる意識改革においては、以下の施策が実施される。

① 危機感の共有(行動しなければ明日はない)と一体感の醸成(危機時には会
  社が一丸となって協力体制を構築)
② 過去の失敗の原因を除去、及び過去の否定(旧経営者時代にはできなかった
  過去の失敗を直視することが重要)
③ 再生会社を新しい会社として実質的動かしていくために必要な柔軟な思考
  (過去の経済的、心理的なしがらみを捨て、自由な思考を行う中で答えを
  発見)
④ 経営改革をやり遂げるための積極的行動(挑戦しない人よりも、挑戦して失
  敗する人の方を称賛する)

ここでは、再生企業であることを逆手にとって危機感を醸成し、全てを前向きな活動のためのエネルギーに変えていくことが重要であり、新経営者は社員に対し、このような趣旨による働きかけを頻繁に行う。

2ビジネス改革

① 構造改革
不採算な事業や店舗等からの撤退と各種コスト削減を実施する。その他、業務の効率化を図り、必要に応じて人員削減等を実施する。これによって固定費を削減し、損益分岐点売上高を下げることを目指す。

② 営業改革
収益性の観点から商品・サービス内容を見直す。それとともに、自社の商品・サービスの強みを再認識し、経営資源の投入を行って攻める分野とそうでない分野を選別する。攻める分野の営業に集中的に人材や資金を投入し、営業のPDCAが回るようモニタリングしていく。

③ 組織改革
ターンアラウンド期間中は、中央集権的に組織を動かす。指揮命令が機能するよう、新しい経営者が直接管轄する組織(取締役会、経営会議、経営企画部、社長室など)に権限を集中させる。中核的部署に各事業部から精鋭の中堅社員を集め、プロジェクト的に会社の経営課題を議論し、今後の生成計画のアクションプランを策定する。
なお、再生が軌道に乗ってきた段階では、集中した権限を分散し、部署ごとに自律的な権限行使ができるように戻していく。

④ ビジネスポートフォリオ改革
複数の事業を行う再生会社の場合は、ビジネスポートフォリオをどのように整備していくか、が重要となる。かつては、「選択と集中」という言葉が事業再生において頻繁に使用されていた。確かに、コア事業が属している産業が成長産業であり、コア事業に集中していけば継続的に利益を上げられる企業の場合は、コア事業に「集中」する戦略も妥当する。しかしながら、現在のように変化が激しい経営環境の場合、現在利益を出しているコア事業であっても、5年後までそのような状況が継続する保証はない。
一方で、現在利益を出していない事業又は赤字事業であっても、その後の経営努力次第で十分な水準まで収益化できる可能性はある。不振事業であっても、再生計画に基づいて収益化できる可能性が十分にある事業の場合には、直ちに撤退する必要性はない。
再生計画策定段階では徹底の可否を決めずに、収益化の可能性と今後の成長可能性を一定期間見極め、その間一定の経営努力をした上で撤退するかどうかの判断をする考え方もある。

ポートフォリオ構成でリスク分散を

コロナ時代になって明らかに言えることは、一つの大きな経済環境の変化で、会社の全ての事業が同時に悪影響を受けるような事業ポートフォリオ構成は好ましくない、ということである。将来の経済環境の変化の可能性を想定した上で、適切に事業リスクが分散されるようなポートフォリオ構成が望ましい。

次回㊦は、大企業におけるターンアラウンドの具体的な手法を紹介する

▼続きはこちら
コロナ時代における大企業の経営改革 ターンアラウンド(企業再生)のノウハウを活用 ㊦大企業におけるターンアラウンド

▼過去記事はこちら
コロナ時代における大企業の経営改革 ターンアラウンド(企業再生)のノウハウを活用 ㊤改革阻む縦割り組織

関連記事

株主を整理するスクイーズアウトとは?方法や最新事例も解説

M&Aや組織再編の過程で、100%子会社化を目的とする場合、対象会社に存在する既存の少数株主を「締め出したい」というニーズが生じることがあります。 少数株主の排除のことをスクイーズアウトと呼びますが、従来はその課税関係が複雑で使い勝手が悪いことが多々ありました。 しかし、2017年度の税制改正で大幅に内容が改正され、現在では多くの機会で機動的にスクイーズアウトが活用されるようになりました。今回は、そのスクイーズアウトについて、方法や最新事例について解説します。

村上春樹さんから経営を学ぶ⑭「世界のしくみに対して最終的な痛みを負っていない」

ネットの普及もあって最近は百家争鳴、様々な議論があふれています。民主的で自由な議論は素晴らしいことですが、その裏返しとして責任を伴わない意見が多くなります。為政者・経営者にとって「最終的な痛みを負わない」誘惑に負けず、論理的・長期的判断が重要だと感じます。それでは今月の文章です。

国際特許出願に、国家戦略はあるか 中韓が大幅増加

2020年の国際特許出願件数は27万5900件と、コロナ環境にもかかわらず過去最多を更新した。中国や韓国が大きく件数を伸ばす中、日本はどのような国家的な技術戦略をたてるべきか、考察した。

ランキング記事

1

「クララが立った!」を英訳せよ

「クララが立った!」の翻訳は容易ではない。『アルプスの少女ハイジ』を知らない国の人に、「Clara stood up !」や「克拉拉站着!」と直訳しても意味を成さない。言葉には様々な意味や記号が埋められている。それは、年代、国、民族、言語で大きく異なるからだ。

2

閉店相次ぐ銀座 コロナ禍で商業施設苦境に

東京の代表的な商業地である銀座で、店舗の閉店が増えつつある。メインストリートの「中央通り」から中に入った通りでは、閉店した店舗が目立ち、中央通りに立地するビルでも空室が散見される。

3

リカーリングビジネスはサブスクリプションとどう違う? 新しい収益モデルを解説

従来の商品やサービスを売ったら終わりの「買い切り型」モデルとは異なるビジネスモデルが目立ちます。 そのなかのひとつが「リカーリング」です。リカーリング型のビジネスには様々なメリットやデメリットがあります。 本記事では、リカーリングのメリット・デメリットや、サブスクリプションとの違いについて、具体例を挙げながら解説します。

4

内部統制報告制度「J-SOX法」とは? なぜできたのか?

企業における内部統制は、様々な業務が適正に行われ、組織が適切にコントロールされているかどうかをチェックすることを指しますが、その中でも事業年度ごとの財務報告の内部統制について定めているのが、J-SOX法(内部統制報告制度)と呼ばれる制度です。 J-SOX法は、事業年度ごとに公認会計士ないしは監査法人の監査を受けた内部統制報告書と有価証券報告書とともに内閣総理大臣へ提出することが義務付けられています。 また違反した場合は、金融商品取引法に「(責任者は)5年以下の懲役または500万円以下の罰金またはその両方(法人の場合は5億円以下の罰金)」と罰則が定められています。 しかし、結果的に企業の内部統制を強化し、不正会計などのリスクを減らすことができるため、J-SOX法は企業にとってもメリットのある制度と言えます。 この記事では、J-SOX法の解説のほか、ITシステムに関する「IT統制」についても解説しています。企業の監査部門や、内部統制に関する部署で働いている方は、ぜひ参考にしてください。

5

パワー半導体の世界シェアは?注目市場の今後の動向を解説

パワー半導体(パワートランジスタ)は、家電や電気自動車をはじめとして、さまざまなデバイスの電源管理に使われています。 多くの分野で需要が伸びており、長期的な成長が期待できるマーケットです。 日本の企業や大学発ベンチャーが競争力を保っている分野でもあり、「パワー半導体強国」として世界市場でのシェアを獲得するべく、積極的に研究開発を行っています。 本記事では、世界規模で成長をつづけるパワー半導体の市場規模や、今後の展望を解説します。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中