中小企業の事業承継問題 外部資本の活用も選択肢に

近年、中小企業の事業承継の課題に関して、世間的に認知が高まってきたと感じる。事業承継で会社を売却するという選択肢は、一昔前であれば多くの中小企業経営者にとって、心理的にもハードルの高い内容だった。時代の変化に合わせて事業承継の選択肢も増えているなか、外部資本の活用という視点で本稿を執筆した。なお、本稿に記載する内容はあくまでも筆者の私見であり、筆者の所属する組織の公式な見解ではない点はご留意いただきたい。

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7年間で6倍 中小企業でも活発化するM&A

7年間で6倍 中小企業でも活発化するM&A

近年、中小企業の間でもM&Aの活用が活発化している。

中小企業庁が公表する「『中小M&A推進計画』の主な取組状況」(2022年6月)によると、国内の中小M&Aの件数は、2014年度の362件(中小企業M&A仲介大手5社260件、事業承継・引継ぎ支援センター102件)から、2021年度は2,413件(中小企業M&A仲介大手5社899件、事業承継・引継ぎ支援センター1,514件)と、7年間で6倍超に増加している。

事業承継に伴うM&Aが増加する一方、東京商工リサーチの「全国社長の年齢調査」によると、2014年の経営者の平均年齢60.6歳に対して、2021年には62.7歳と徐々に平均年齢が上がってきている。

M&Aの件数増加による経営者の若返りが進んでいると推察される一方、日本企業のうち99%を占める中小企業にとって、依然として経営者の高齢化・事業承継は大きな課題となっている。

しかし、これまで親族内承継や廃業が一般的な選択肢となっていた中小企業経営者にとって、事業承継に伴うM&Aの活発化により、一般的に取り得る選択肢の一つとして認知され始めていると言えるではないだろうか。

国や民間金融機関も多岐にわたりサポート強化

国や民間金融機関も多岐にわたりサポート強化

また、小規模事業者にとっても裾野は広がっており、Web上でマッチング支援を行うサービスの普及により、これまで以上に事業承継によるM&Aがより身近な存在に変化している。

国としても中小企業の事業承継問題に対するサポートを強化しており、補助金などの資金面だけではなく、相談や事業承継計画の策定支援、マッチング支援など幅広いサポートメニューを用意している。

また、中小企業に接点の多い地方銀行や大手都市銀行の動きとしても、「事業承継ファンド」の設立が目立つようになった。マイナス金利環境下では融資業務での利ザヤ収益が低下し、新たな収益源の模索が必要になってきている。コンサルティング業務の強化や、ファンド事業の取り組みは地域の中小企業の課題解決という側面も強いが、新たな収益源の模索という意味合いも含まれていると考えられる。

個人が主体の「サーチファンド」新たな波に

個人が主体の「サーチファンド」新たな波に

このように、時代の変化の流れをみると、世の中に対する「中小企業の事業承継」に関する課題意識が浸透し、それに対してのM&Aという手法も広く一般的に受け入れられてきているように感じる。

もちろん、身近な存在に変化したと言っても、決して簡単なものではなく、株主(ならびに中小企業の場合、多くは経営者)が交代するというハードルは高く、これまで通り円滑に事業を継続してくためには、M&A実行後の動きが非常に重要になる点は言うまでもない。

世間的に中小企業の事業承継問題が認知された課題となっている中で、最近は新たな動きも出てきている。そのうちの一つが「サーチファンド」と呼ばれる取り組みである。

サーチファンドとは、経営者を目指す個人(サーチャー)が主体となって自ら経営したい中小企業を発掘し、出資者(ファンド)の支援を得ながらM&Aを通じて対象企業の経営権を取得し、企業価値の向上を目指す活動を指す。後継者不在の企業を探す間の生活費や調査費などの活動費用(サーチ費用)はファンドから調達し、その資金を活用する。

サーチファンドの手法は、1984年にアメリカのスタンフォード大学を卒業したJim SouthernがNova Capitalという世界で初めてのサーチファンドを立ち上げたことからスタートしている。

一般的なM&Aと異なり、「サーチャー」がM&Aを行うことが特徴と言え、「サーチャー」自身が買収後は経営者として企業に入り込む。「サーチャー」は、MBA取得後のキャリアの一つとして、英米圏のビジネスパーソンから注目されている。

日本におけるサーチファンドは、ようやく動き始めた段階であり、サーチファンド事業者は、2023年時点で5社が確認できる。

実際にサーチャーがM&Aに至った事例も増加しており、メディアへの露出も徐々に増えることで注目度の高さがうかがえる。余談ではあるが、弊部(経営執行支援部門)出身者もサーチャーの活動を通して、実際に企業の事業承継M&Aを行った事例も出てきている。

具体的な投資実行後の流れとしては、サーチャーが自ら投資先企業の経営者として経営を行い、企業の企業価値向上を目指す。期間としては3-5年程度を想定しており、その後、投資家(ファンド)へ資金を返還する流れが一般的である。

投資家への資金返還の方法としては、上場や経営陣・従業員による株式買い取り等が選択肢となってくる。経営者(サーチャー)は、ストックオプションなどにより経済的なインセンティブを享受する。

事業承継を進める企業側にとっても、経営経験を積んでいきたいという個人(サーチャー)にとっても、新たな選択肢として「サーチファンド」という選択肢が今後、増えてくることも想定される。

企業グループ傘下に入る選択肢も

企業グループ傘下に入る選択肢も

また、一方で、M&A後にIPOや更なるM&Aによる出口ありきの事業承継ではなく、企業グループ傘下におさめつつ、永続的に傘下グループとして事業運営を行う新たな動きも見られる。日本経済新聞(電子版)2021年2月1日の記事では、以下のような内容が紹介された。

「転売しないファンド」増加 事業承継の受け皿に

「後継者不足などの課題を抱える中小企業を引き継ぎ、経営が軌道に乗った後も株式を持ち続ける事業モデルの投資会社が増えている。株式が転売されることを理由にファンドへの事業承継を避ける企業オーナーが多いためだ。投資会社は引き継いだ企業を傘下に取り込み、グループとしての成長を目指す。経営者の高齢化や新型コロナウイルスの感染拡大などで事業承継の需要が高まる中、新たな受け皿として注目を集めている。(後略)」

具体的な企業事例は本稿では割愛するが、一般的なファンドにとって、買収した企業の出口戦略は非常に重要な要素である。

上場を目指したり、他社へのM&A、経営者・従業員へ株式売却をしたりなど、多様な選択肢があるが、いずれとも違う形として、自社で保有し続けるファンドが増加しているという記事内容である。

事業承継によって、企業の株主や経営者が数年おきに代わってしまう場合、実際に勤務する従業員からすると混乱が生じる可能性がある。もちろん、経営並びに株式を譲る側も会社を売却後、さらに別の企業に転売されるという懸念点も、永続的保有を前提とするファンドであれば、心配しなくてよい。

まとめ

これまで見てきたように、今後、中小企業の廃業や事業承継の課題解決の選択肢として、外部資本をうまく活用していくという選択肢も裾野が広がってきていることは事実である。

以前はファンドと聞くと「ハゲタカファンド」が連想されるなど、イメージが悪い時期もあったが、近年はそのような印象も大きく変化していると感じる。当社もフロンティア・キャピタル(https://frontier-cptl.com/)というファンド運営を行い、長期的な視点による企業サポートを行っている。

中小企業の事業承継は、経営者・株主にとって大きな問題である。親族内承継が選択肢として取れない企業や、後継者不在の企業には、ファンドなどの外部資本をうまく活用して自社の事業承継を進めていくことも効果的な選択肢になるのではないだろうか。

事業承継はどの企業でも直面する課題であり、以前よりも選択肢が増えてきている点は追い風と言える。早い段階から準備していくことが重要で、その中の選択肢の一つとして「外部資本の活用」を考えるきっかけになれば幸いである。

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