HRテック(HR Tech)とは?人財×テクノロジーで人事業務を効率化

HRテックとは、HR(人財、ヒューマンリソース:Human Resource)とテクノロジー(Technology)を組み合わせた造語で、人事業務に最新テクノロジーを取り入れ、業務効率向上を図るソリューションです。

金融×テクノロジーのフィンテック(FinTech)、教育×テクノロジーのエドテック(EdTech)と並び、AI・ビッグデータ・クラウド技術などのデジタルテクノロジーと既存産業を結びつけ、高い付加価値を生み出す「クロステック(X-Tech)」の一種です。

関連記事:「EdTech(エドテック)とは?テクノロジーの力で教育にイノベーションを」

HRMSとの違いは?HRテックは中小企業にも広がる

HRテックという言葉が登場する以前、HRMS(人事管理システム:Human Resource Management System)が人事業務の効率化に寄与していました。

HRMSとは、SAPやOracleなどの大手ITベンダーが中心となり、大企業向けに展開した製品・サービスの総称です。

日本に先駆けて雇用問題を抱えていたアメリカでは、人事業務の効率化の必要性が高く、比較的早期にHRMSが発達しました。

近年注目を集めるHRテックは、HRMSと違い、最先端のテクノロジーを活用しています。

AIやビッグデータのほか、クラウドコンピューティング技術の発展によって、専用の機器やサーバーが不要になりました。

イニシャルコストが大幅に低下したため、大企業向けの高価な情報システムではなくなり、中小企業への普及も進んでいます。

また、ユーザー体験(UX)を大切にする消費者向けのB2C(BtoC)の考え方が取り入れられ、ユーザーインターフェイス(UI)や操作性の改善が進んだ点も、HRテックが急速に普及した一因です。

HRテックが普及している4つの社会的背景

HRテックが注目を集める要因は、「労働人口の減少」「雇用や働き方の流動化」「人材確保の難しさ」「SaaSの普及」の4つに分類できます。

労働人口の減少

少子高齢化の影響で、日本の労働力人口は減少傾向にあり、2065年には2016年比で約4割減の3,946万人となる見通しです。[注1]

勤怠管理、人事評価、人材採用、従業員教育など、多岐に渡る人事業務が求められる中、先端技術の活用によって限られたリソースの中で、生産性向上を図る必要があります。

雇用や働き方の流動化

終身雇用制度や年功序列制度を中心とした日本型雇用システムが崩壊し、労働者が待遇改善やキャリア形成を求めて会社を渡り歩く「雇用の流動化」が進んでいます。

同時に、新型コロナウイルス感染症(COVID-19)の影響で、テレワーク/リモートワークの導入企業が増えるなど、従業員1人ひとりの働き方は一層多様化しています。

これら2点の変化により、人事業務の不確実性が高まり、勘や経験則に基づく属人的な組織運営が困難になりつつあります。

AIやビッグデータの活用により、数字やデータに基づく合理的な人事業務が求められています。

人材確保の難しさ

1990年代以降、企業の競争優位を高めるうえで、従来のようなカネ(資金)やモノ(設備)の資本だけでなく、他社に模倣されづらいヒト(人材、組織)の資本を重要視する「人的資本経営」が主流になりつつあります。[注2]

優秀な人材が、カネやモノに優れた大企業ではなく、労働環境やワークライフバランスの改善に取り組むベンチャー企業やスタートアップを選ぶケースも出てきました。

雇用市場での競争力を強化し、優秀な人材を確保して競争優位性を高めるには、データとテクノロジーによる科学的な人材採用活動が欠かせません。

SaaSの普及

SaaS(サース/サーズ:Software as a Service)とは、クラウド環境を通じ、ユーザーがソフトウェアを利用するサービス形態です。

従来、企業はオンプレミス型と呼ばれる、自社サーバーを前提とした設備導入を行っていました。

オンプレミス型はカスタマイズ性に優れる一方、サーバーの構築や保守運用に多大な費用がかかり、中小企業が気軽に導入できるものではありませんでした。

しかし、ネットワーク環境さえあれば利用できるクラウド型であれば、初期コストも運用にかかるコストも抑えられます。

SaaSの普及は、中小企業やベンチャー・スタートアップを中心に、HRテックの普及が大きく進むきっかけとなりました。

急成長するHRテックの国内市場規模

上述の社会的背景により、HRテックの市場規模は拡大傾向にあります。

ミック経済研究所の調査によれば、HRテックの2019年の市場規模は349.0億円で、2018年比で136.1%の成長を遂げました。

2024年の中期予測では、1,700億円の規模に達すると予測されています。[注3]

また、ベンチャー企業やスタートアップの積極的な参入により、様々なHRテックサービスが乱立。

市場規模が急拡大を続ける一方で、エンドユーザーにとっては取捨選択が求められる局面に差し掛かっているのです。

HRテックの3つの成功事例

ここでは、「採用活動」「人材配置・育成」「労務・給与管理」の3つの課題別に、HRテックのソリューション例を解説します。

採用活動:人工知能を活用し学生とマッチング

株式会社i-plugの「オファーボックス(Offer Box)」は、人工知能を活用した検索システムにより、学生とのマッチングをサポートするリクルーティングサービスです。

企業の行動履歴をAIで解析し、ビッグデータと照合して、企業にとって理想的な人材をレコメンドします。

企業側は人材採用活動のリソースを節約し、学生へのオファーやコミュニケーションに注力可能です。[注4]

人材配置・育成:活躍人材の定量化により脱「感覚人事」を

株式会社トランスの「アッテル(Attelu)」は、AIによる適性診断によって、社内の活躍人材を見抜くアナリティクスサービスです。

勘・感覚・経験則に基づく属人的な人事ではなく、客観的なデータ分析に基づく従業員教育や人材の再配置が実現可能です。

AIによる適性診断には、10万人分の学習データが使われており、高い生産性の高い人材と低い人材の違いを正確に定量化できます。[注5]

労務・給与管理:クラウドサービスで労務手続きを一元管理

株式会社SmartHRのクラウド人事労務ソフト「SmartHR」は、手作業だと煩雑な労務手続きをペーパーレス化し、クラウド環境上で行うツールです。

給与計算や年末調整、人材採用に伴う入社手続き・雇用契約なども、ネットワーク環境があればオンラインで全て一元管理可能です。

労務手続きの作業効率を高め、自社のコア業務に人材を集中できます。[注6]

HRテックの導入は自社に合ったサービスの比較検討を

HRテック市場は急拡大をつづけており、多くのベンチャー企業やスタートアップが新規参入し、様々なサービスが乱立しています。

HRテックの導入により、人事部門の生産性向上や、雇用市場での競争力強化など、課題解決につながった企業も登場しています。

しかし、そもそも定量化が難しいコミュニケーションやモチベーションに関する課題は、やはり「人」が解決する必要があります。

HRテックを「道具・ツール」として活用し、過度に依存しない姿勢が重要です。

HRテックのパフォーマンスを最大限に活かすためにも、自社の状況を把握し、自社に適したサービスを導入しましょう。

【参考サイト】
[注1]みずほ総合研究所 少子高齢化で労働力人口は4割減
[注2]日本ユニシス 競争優位のための人的資本経営
[注3]株式会社インプレス HRTechクラウド市場が急成長、2020年度は前年度比136.4%の476億円へ─ミック経済研究所
[注4]株式会社i-plug OfferBoxの仕組み
[注5]株式会社トランス アッテル
[注6]株式会社SmartHR 人事・労務を、ラクラクに。

関連記事

銀行法等改定に伴う地域金融機関における事業多角化の潮流

2021年11月22日に施行された銀行法等改正(以降本改正)により、業務範囲規制及び出資規制が緩和されました。それに伴い、各地域金融機関での事業多角化(コンサル、人材派遣、投資専門子会社、地域商社など)が進んでいます。銀行の業務拡大範囲や問題点などについて解説します。

成長と資本効率重視へ―日立製作所中期計画に見るKPIの変化―

日立製作所は2022年4月28日、小島啓二新CEO主導の日立製作所中期3ヵ年計画を発表した。リーマン・ショック直後、経営危機に瀕し、その後の事業構造・ポートフォリオ改革やESG経営で先行してきた同社の新中期計画の変化を読み解き、今後企業価値拡大にどのような中期計画が必要とされるのか、を考察したい。

高炉各社決算〜22/3期に奪還した付加価値を今期も守れるか?

高炉3社(日本製鉄、JFEホールディングス、神戸製鋼所)の2022年3月期の決算は、軒並み大幅増益を達成した。これまで失ってきた「付加価値」を見事に奪還したと言える。一方、原燃料の高騰や円安を受けたコスト増などの逆風は強まっている。前期に奪還した付加価値を、さらに広げられるのか? それとも、ユーザーからの反発で押し戻されてしまうのか? ポイントと課題を整理する。

ランキング記事

1

CIO(最高情報責任者)の設置を 経済安全保障におけるその利点

「海外子会社・グループ会社で不正が起きているのではないか」「海外拠点からの内部通報が少ないが、問題をちゃんと把握できているのか」。企業の担当者からこのような相談をしばしば受ける。その解決策の一つとして、チーフ・インテリジェンス・オフィサー(CIO、最高情報責任者)のポスト新設を提案したい。CIOの機能は経済安全保障のリスクを見極める上でも有効と考えられる。

2

「隠れユニコーン」をさがせ

日本にはユニコーン(時価総額が10億ドル以上の未上場企業)が少ない。しかし、米国でもシリコンバレー以外にはユニコーンはほとんどない。日本では東証がシリコンバレーと同様の機能を果たしてきており、「隠れユニコーン」が存在している。ユニコーン待望論は、本質的には大きな意味がない。

3

アリババは国有化されていくのか

アリババグループの金融・オンライン決済部門のアント・グループ(前アント・ファイナンス)は、2020年11月に予定されていた上場が延期され、そのまま現在に至っている。ジャック・マー氏の中国金融政策への批判発言から端を発し、アリババは金融業に限らず様々な制限が加えられていると報道されている。この記事では、アリババの現状とともに、中国のモバイル小口決済について考察したい。

4

品質不正多発の三菱電機に学ぶ、あるべき不正撲滅方法

三菱電機の品質不正が止まらない。2021年7月に35年以上に渡る品質不正が公表された。調査を進める中で不正の関与拠点、件数が膨らみ、直近の報告では実に150件近い不正が認定されている。一方で、当社に限らず不正そのものの発生や再発は止まらない。再発防止策がなぜ機能しないのか、当社の取り組みを題材にあるべき再発防止策について解説する。

5

進む地方銀行の持株会社体制への移行

経営統合によらない地方銀行の持株会社体制への移行が増えている。銀行法改正による後押しを受けて、地域の課題に向き合いながら、事業の多角化を進めやすくして収益拡大を図るのが狙いであるが、果たして中長期的な企業価値向上に資する事業ポートフォリオの構築は進むのだろうか。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中