クロスボーダーM&Aとは?

クロスボーダーM&Aとは、国内企業と海外企業による国境(ボーダー)を超えたM&Aです。

また、同じクロスボーダーM&Aの中でも、国内企業(IN)が海外企業(OUT)を買収する「IN-OUT」と、海外企業(OUT)が国内企業(IN)を買収する「OUT-IN」の2通りがあります。

クロスボーダーM&Aの現状

過去の日本のM&A市場を振り返ると、クロスボーダーM&Aのトレンドには3つの波がありました。

最初の波は1990年前後のバブル期です。あり余るほどの資金力を活かし、オフィスビルやゴルフ場など、不動産への投資を主な目的とするM&Aが多く見られました。

続く波は、インターネットの普及が加速し始めた2000年前後のITバブル期です。IT関連企業による海外投資が拡大し、バブル崩壊後に落ち込んだM&A件数は再び増加します。

そして最後は、2006年頃から現在まで続く緩やかで大きな波です。

国内市場の縮小や東南アジアをはじめとした新興国市場の成長・拡大などを背景に、業界再編やグローバル化を目的としたM&Aが活発化しています。

つまりクロスボーダーM&Aは、縮小気味の日本企業の成長のために積極的に活用される傾向となり、「OUT-IN」よりも「IN-OUT」の方が多いのが現状です。

クロスボーダーM&Aの手法

クロスボーダーM&Aでは、国内のM&Aで主流の株式譲渡や事業譲渡はもちろん、主に「三角合併」と「LBO(Leveraged Buyout)」という手法が使われます。

三角合併

三角合併とは、合併によって存続する会社(存続会社)、消滅する会社(消滅会社)、消滅会社の親会社という3つの当事者によって行われる合併です。

合併するのは存続会社と消滅会社の2社となりますが、合併の対価として、消滅会社の株主に親会社の方から株式を交付するのが特徴です。

LBO(Leveraged Buyout)

LBO(Leveraged Buyout)とは、買い手側の企業が、金融機関などから資金調達を行ったうえで売り手側の企業を買収する手法です。

このとき担保にされるのは、売り手企業の資産や将来的に見込まれるキャッシュフローなどです。最大の特徴は、自己資産を抑えながら企業買収を実施できる点にあります。

クロスボーダーM&Aのメリット・目的

続いて、国内企業同士のM&Aではなく、クロスボーダーM&A固有のメリットや目的について、大きく3つに分けて解説します。

海外進出による事業拡大

さきほど紹介したように、現状のクロスボーダーM&Aの多くは、縮小傾向にある日本企業が海外進出によって事業規模を拡大するために用いられます。

国内だけでなく、海外での売上が獲得できるのがメリットのひとつです。

コスト削減

海外に拠点を置くことで、主に人件費・原材料費・税金などのコスト削減が期待できます。

日本より人件費や原材料費の低い国であれば、現地生産によって、国内で生産する場合よりもコストを低く抑えられます。

また、課税率が比較的低い国や地域であれば、大きな節税効果を得ることが可能です。

事業基盤の獲得

M&Aによって、相手企業が保有している顧客データや生産技術、ビジネスモデルなどの事業基盤を獲得できるのも大きなメリットです。

単身で海外進出するより、すでに向こう側で構築されている経営基盤を引き継いだ方が、海外での事業活動を円滑に進めやすくなるでしょう。

クロスボーダーM&Aの成功/失敗を分ける要因

クロスボーダーM&Aは、勝負する領域を海外まで広げることで、一気に企業を大きくする魅力があります。

ただし、その失敗確率は50%を上回り、成功確率は10〜30%程度と言われ、実現させるまでには高い壁が立ちはだかるのです。

では、成功・失敗を分ける壁となる要因はどこにあるのでしょうか。

デューデリジェンスとバリュエーション

デューデリジェンス(Due Diligence)とは、M&Aの相手となる企業の価値やリスクなどを評価するためにおこなう事前調査です。

M&Aにおいては、買収によってシナジー(相乗効果)が得られるか否かの判断や、バリュエーション(企業価値評価:買収金額の査定)を正確に行う必要があります。

バリュエーションの算定は容易ではなく、とくに市場の変動リスクが高い新興国とのクロスボーダーM&Aでは難しいとされています。

また、為替レートの変動や、相手国の情勢が急変して投資資金が回収できなくなるリスク(カントリーリスク)への配慮も必要です。

そのため、成功への第一歩として、綿密なデューデリジェンスが重要となります。

関連記事:M&A を成功に導くデューデリジェンスとは?目的や種類を徹底解説

条件交渉

デューデリジェンスを通じてM&Aの対象企業を選定したら、買収前に相手企業との条件交渉へと進むことになります。

交渉は相手側のテリトリーで行う必要があり、クロスボーダーM&Aでは互いの国の言語や制度の違いが大きな障壁です。

条件交渉を成功させるには、現地事情に詳しいアドバイザーの協力をえ、国同士の情報の差を埋める作業が必須となります。

買収後の経営統合計画

買収成功後は、統合した企業同士がシナジーを生み出し、M&A後の企業価値を向上させるためのPMI(経営統合計画)が重要です。

とくにクロスボーダーM&AにおけるPMIでは、国の風土や文化の違いによるコミュニケーションの難しさが課題となります。こうした課題は、役員や従業員にとって心理的な不安の元です。

積極的なコミュニケーションの機会の提供や、国境を超えた共通ビジョンの提示による士気向上が重要となるでしょう。

関連記事:PMIはM&Aの成否を握るプロセス

1兆円をこえる大規模なクロスボーダーM&A事例

グローバル市場へ進出すべく、クロスボーダーM&Aに挑戦する企業は多く存在します。

今回は、わかりやすい目安として「1兆円」を超える大規模なM&Aを実施した日本企業を3例ご紹介します。

武田薬品工業:日本最大規模のクロスボーダーM&A

国内製薬業界のトップに位置する武田薬品工業は、2018年にアイルランドの製薬大手であるシャイアーを約6.2兆円で買収しました。

この出来事は、日本企業としては過去最大のクロスボーダーM&Aとなります。

また、この膨大な買収金額は武田薬品自身の時価総額よりも高く、かなりリスクの高いM&Aとしても注目されます。

武田薬品は、以前から世界のメガファーマ(巨大製薬メーカー)と戦うためにグローバル化を進めており、今回のM&Aによって大きな一歩を踏み出したと言えるでしょう。

ソフトバンクグループ:積極的なM&Aで勢力拡大

電気通信事業を営むソフトバンクグループ(SBG)は、1兆円を超えるクロスボーダーM&Aを繰り返し、IT・通信分野のグローバル市場での勢力を着実に伸ばしています。

ただ、直近の2020年におけるM&Aでは、2016年に3.3兆円で買収したイギリスの半導体設計大手・アーム(ARM)社を、アメリカの半導体大手・エヌビディア(NVIDIA)社に対する4.2兆円の売却という形で手放しています。

この背景には、新型コロナウイルス感染症拡大の影響や、投資先のひとつでアメリカのレンタルオフィス大手・ウィーワーク(WeWork)社の業績不振が挙げられます。

とはいえ、買収と売却と差益を考えるとかなりの高リターンになるため、今後の資金の使い道について注目が集まっています。

セブン&アイ・HD:ESGへの取り組み強化にも

2020年8月、コンビニチェーン大手のセブン&アイ・ホールディングス(HD)は、アメリカで3位のコンビニチェーン・スピードウェイを約2.2兆円で買収しました。

この買収によって、同社は北米市場を主とした店舗ネットワークの拡充、財務上のシナジー効果、ESG分野における取り組み強化の3つを目標に挙げています。ESGは、環境(Environment)・社会(Society)・企業統治(Goverance)に配慮した事業活動です。

グローバルな急成長にクロスボーダーM&Aは不可欠

クロスボーダーM&Aは、国をまたぐだけに買収や統合の難易度は高くなります。

しかし、現在は日本市場の縮小傾向もあり、大規模なクロスボーダーM&Aによって一気に事業規模を拡大する企業も出てきています。

2020年は新型コロナウイルスの感染拡大により、世界経済がダメージを負いましたが、グローバル化の加速が止まったわけではありません。

2019年ごろより東南アジアへのクロスボーダーM&Aが注目されており、今後の動向にもアンテナを張っておく必要があります。

関連記事:「ニューノーマル」下でのASEANクロスボーダーM&Aのすすめ

大企業による大型M&Aはもちろん、今後中小企業にも無関係とは言えず、グローバル規模の急成長にクロスボーダーM&Aは欠かせないでしょう。

<参考>
経済産業省「我が国企業による海外M&A研究会」(平成30年)
Shire社買収完了のお知らせ
ソフトバンクG、英アーム売却決定も待ち受ける難路
セブン&アイ・ホールディングス、米スピードウェイを210億ドルで買収(米国) | ビジネス短信

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