コーヒーブームの中国

コーヒーブームの中国

お茶の本場である中国にも、コーヒー文化が急拡大している。

コーヒーの消費市場としての中国は、各方面で大きく取り上げられる。
ローカルのLuckin Coffee(瑞幸咖啡)※とスターバックスの競合も話題になった。
(参考:「Luckin Coffee」だけじゃない 過熱化する中国コーヒー市場

Luckin CoffeeはNY市場に上場後、不正会計の発覚から、上場企業を清算すると共に、一度は中国事業も縮小した。

しかし、その後は再び店舗網を拡大させ、現在はスターバックスを上回る約6,000店舗を運営する。(スターバックスは、約5,560店舗を運営、2022年1月時点) 

更にスタートアップのスペシャリティコーヒーのチェーン店も外部投資を受け、拡大を続けている。

※日本語は「珈琲」、中国語は「咖啡」

プーアル茶からプーアルコーヒー

プーアル茶からプーアルコーヒー

しかし、中国のコーヒー主産地は雲南省であり生産量が拡大している事は意外と知られていない。

雲南省南部のプーアル(普洱)は、「プーアル茶」の産地としても知られるが、いまや中国最大のコーヒー豆の産地でもある。

元々コーヒーの樹が自生していたわけではなく、20世紀初めにベトナム(仏領インドシナ)から雲南に着いたフランス人宣教師が導入したと言われている。

当初は地場消費を主体に栽培は増え、1950年代はソビエト連邦への供給目的で栽培が拡大した。しかし、ソ連との関係悪化(いわゆる中ソ対立)から縮小した。

コーヒー産地として注目された、中国雲南省

雲南省にとって、コーヒー産地としての大きな転換期は1988年、ネスレが同地をコーヒーの生育基地として展開したことだ。ここからコーヒー産業化への道筋が作られ、栽培、生育、収穫、加工技術が高まった。

雲南省政府はグローバル企業の招致に成功すると共に、コーヒーの国際マーケットの規模から、コーヒー栽培を支援し、第十二次五か年計画(2006-2010年)でタバコ、茶葉に続く三大産業として発表した。

スターバックスは2012年に現地に出資し、指定農園でのプーアルコーヒーの生産、販売、輸出を行っている。

コーヒーに最適、雲南省の特性

プーアル茶からプーアルコーヒー

プーアルがある雲南省の南側は、「コーヒーベルト」と言われるコーヒー生産に適した緯度帯にあたり、日照、降雨量、昼夜寒暖差などの天候条件が揃っている。

中国は人口全体の90%近くが漢族だが、それ以外に55の民族がいる。

雲南省には、その内25の少数民族が生活し、省全体の人口4700万人の約1/3を占める。少数民族にとって、観光産業以外の安定した就業先が不足しており、地場での産業振興が必要とされていた。

こうした労働力を活かし、グローバルブランドとの協業で、コーヒーという国際商品の生産拡大を図る事が出来たと言える。

高止まりするコーヒー価格 人口増加と、気候変動

高止まりするコーヒー価格 人口増加と、気候変動

中国など新たな市場の拡大と共に、人口増によるコーヒー需要は今後も拡大していく。現在の世界人口約70億人が90億人まで増加すると、単純増は約28%となる。

既存生産者側にとれば、需要拡大はビジネスのチャンスとなるが、水を掛けるように世界的な気象変動がコーヒー生産の大幅減少につながるとのレポートが出されている。

2010年代半ばにAustralia’s Climate Instituteが現在のコーヒー生産地の生産量は2050年までに50%減となる可能性を示唆している。

2021年、最大産地であるブラジルで降霜があり、ニュークロップ(生産したてのコーヒー豆)の生産量減が明らかになった。

それと共に、コロナによる物流の混乱、原油高による物流コスト上昇、更には余剰資金の先物市場投資と、コーヒー先物相場は高値を維持している。

産地別シェア

■各国のコーヒー生産量とシェア
各国のコーヒー生産量とシェア

(国際連合食糧農業機関・FAO 2020年76か国データより抜粋)

ブラジルをはじめ、各国の生産量は上図の通りとなる。この中で主産地ブラジル、ベトナム及び中国の増加可能性推定数量を記載した。

数量が安定しないアフリカ等は、今後も増加しない前提として計算しても、理論値として危機的な不足にはならないと見る。

貴重なアラビカ種産地、雲南

コーヒー豆は大きく2種あり、アラビカ種とロブスタ種となる。

雲南省は、アジアでは珍しいアラビカ種の産地だ。
主にレギュラーコーヒー、スペシャリティコーヒーの原料となるのがアラビカ種。ソルブル(インスタント)や缶コーヒーなど、加工品に使われるのがロブスタ種だ。

上位生産地の主要品種を見ると、ブラジルは両品種生産、コロンビア、エチオピアはアラビカ種、ベトナム、インドネシアはロブスタ種となる。

アラビカ種は単価も高いが病害の被害も受けやすく生産が難しい。一方でロブスタ種は風味で劣るものの、生産量は多く育てやすい。

雲南のようなアラビカ種の産地は貴重であり、前述のコーヒーロースター以外に、世界の農産物トレーディング リーディングカンパニーであるED&F Manも雲南省に合弁会社を設立。

2018年には重慶市に中国初のコーヒー取引場が設立され、ニューヨーク、ロンドンに次ぐコーヒー取引市場を目指すとしている。

小規模、労働集約型の雲南コーヒー

小規模、労働集約型の雲南コーヒー

ブラジルなどの大産地は、ニューヨーク、ロンドン市場に連動した取引価格となっている。しかし、雲南は物流に時間掛かるなどの理由もあり、世界のコーヒー相場が高値で推移しても、農民収入の上昇に必ずしもつながっているものではない。

また、高地生産であり、大型プランテーションにて、機械化による規模拡大も図りにくい。

収穫も労働集約型となり、面積あたりの収量は平均以上であるが、1人当たりの生産量は他産地に比較して小さいままである。

今後栽培面積を拡大していく中、労働力の確保とその為の収入増が必要となると予想する。

品質向上への動き

前述の事情から、雲南コーヒーは高級化を目指し、単価を上げる必要がある。

ソルブル原料からレギュラー原料への移行を外資大手からの要求に応え外資大手指定農園の認定を受け、収益の安定化を進めている。

収穫原料の選別、収穫後の加工(洗浄、乾燥、発酵等)により高品質への生産に取り組む形となり、中国、米国のスターバックスや、中国カフェチェーンでは雲南ブランドのローストが販売されている。

スペシャリティコーヒー向け生産も拡大

徐々に日本、韓国、欧州でも雲南コーヒーとして販売するロースターが現れている。

現地生産者は、スペシャリティコーヒーへの取組みに進み、付加価値を産み出している。

外資の資本とブランドにより品質評価を受け、更に一部では品質を上げ自社ブランドへの取組みに深化している。

今後はスペシャリティコーヒーとしての地位を高めていったとして、希少品での供給となるのか、高品質の量的拡大に進むのか、新たな農業産業化への動きとして注目している。

ワイン向けブドウとSDGs

コーヒー以外の産地としても注目されている。

モエ・ヘネシー・ルイ・ヴィトン(LVMH)は、雲南の別の地域に、ワイン用ブドウ園とワイナリーを2013年に建設し、出荷を開始している。

同社はこれ以外に中国内陸部の寧夏自治区にも投資し、同自治区政府は中国大手及び海外からの投資を受け入れ農産物から製品までのサプライチェーン構築を拡げようとしている。

このように飲食に関わる海外ブランドは、安全性を伴う品質管理からSDGS対応が求められ、より原料生産との協業、投資が必要である。

中国で事業を行う事により、中国市場の獲得へも繋がる。中国側としては、未使用地を利用し農業収入拡大と将来の地産ブランド育成に繋げ、農業産業化を進めたい思惑があり、支援体制を推し進めると考える。

中国市場への懸念

ただ、こうした国際企業にとって、政治や民族、紛争など人権上の問題はとくに敏感となる。

ロシアのウクライナ侵攻など、中国との関わり方によっては欧米企業の中には中国市場を敬遠する動きも出てくる可能性がある。

中国の食糧政策の中で考える

■中国の穀物輸入量実績
中国の食糧政策の中で考える
(中国 税関公表よりFMIが編集)

中国がこうした新たな農産物に力を入れる理由は、政府の農業政策を理解する必要がある。

2020年以降、政府が提示しているのが、国民が生活に充分な食料が中国にはあり、特に国際太宗商品(コモディティ)である穀物類の自給率の高さについても示している。ただ輸入食糧を見ると、2020年に続き2021年は過去最高の輸入量となっている。

各商品の国際価格は上昇している中、数量は大豆が、価格上昇に伴う搾油収益(クラッシュマージン)の減少から抑えられたが、その他食用及び養豚飼養頭数増加に伴い、飼料用穀物含め増加となっている。

為替が元高方向でありながら金額の伸びが数量を大きく上回った。しかし、ウクライナ問題でより顕在化した、穀物供給だけでなく原油価格の上昇継続による、海運コストの上昇により、輸入食糧コストの低下は見込めない状況にある。

中国は、国内食糧の不足を宣言し、投機マネーやパニック購買に走らせない様、需給バランスは取れているとしながら、非農化を抑え食糧生産の拡大に努めていると推察する。

生育期間の長い農作物は需要動向に応じた生産調整は難しく、また国民の生活安定の為、食品価格は抑えようとしがちである。これが農業の低収益化にも繋がっており、中国だけの問題ではない。ただし、急激な都市化が進み、人口増にある中国にとり、農業の活性化は大きなテーマである。同時に、「先富論」から「共同富裕」に移行を打ち上げている政府にとり重要な課題となる。

三農問題

「三農問題」とは、1996年に温鉄軍経済学博士に提起された、農村、農業、農民についての問題であり、2000年以降政府も正式に課題とし「三農」を使用している。

農民(以後 農業従事者を農民と表記)の低収入による農村の疲弊、農業参入への減少が問題視されながら、このワードを今も使用している事に農業産業化が大きな課題であると認識する。

農業人口の減少と格差については、以前「中国教育ビジネス 理想とのギャップ」にて記述しているので重複を避ける。

広大な耕作地域での単一作物栽培であればスマート農業への移行により省人化と効率化を図れる面はある。大都市から遠く離れ、人口を抱える一部内陸地域では食糧生産を担うと共に農民の収入増を図らねばならず、過去よりいくつかのプロジェクトは行われている。

コーヒーなどの農産物に政府が力を入れているのは、こうした政策的な背景によるものである。

まとめ

・雲南省は、コーヒー産地として注目されている

・「三農」問題解決のひとつとして、農業の産業化がある

・海外紛争と中国の関わり方によっては、中国市場敬遠の動きもあり得る

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