巨大な成長余地、中国のコーヒー市場

カップ数 中国コーヒー市場

中国の1人当たりのコーヒー消費は、米国だけでなく隣国の日本、韓国と比較してもかなり小さい数字である。それでも、2019年の中国コーヒー市場規模は約860億元(1.3兆円)、2026年には約2倍の1,676億元(2.5兆円)との予測もあり、成長余地の大きさが分かる。
(Forrward The Economosit https://www.qianzhan.com/analyst/detail/220/201116-bbed57b9.html

世界全体のコーヒー消費量の2017 -2020年間平均成長率(CAGR)は1.1%で世界4位の消費国である日本はマイナス1.6%となる。
(ICO 国際コーヒー機関 http://www.ico.org/prices/new-consumption-table.pdf )
そのため、中国市場での新興企業の登場や、大手企業の多角的投資が続き、同時にブランド淘汰とプレーヤーの変化も続くと考える。

ソリュブル(インスタント)が多い中国市場

コーヒー 中国
「お茶文化」が根強いとみられていた中国で、一般消費者にコーヒーが紹介されたのは1980年代の初め、ネスレ、マックスウェル(米国)によってと言われる。(日本では1960年前後に国産、輸入自由化で一気に普及)主流だった製品は「3in1」と言われる、ソリュブルコーヒー(インスタントコーヒーとの呼称もあるが本文ではソリュブルと表記)、砂糖、粉乳を混合したものであった。一部ホテル、レストランでレギュラーコーヒーの提供はされていたが、あまり一般的ではなかった。

現在でも製品構成比は、ソリュブルが約70%、レギュラーが20%、RTD(缶、ボトル)が10%と、ソリュブル人気が根強い。今後は低単価のソリュブルから、レギュラーが普及、高付加価値商品への志向が高まるとの見方もある。

「luckin coffee」登場で、変化する市場 

コーヒー 中国
1999年、スターバックスが中国で開業(当時は合弁事業でスタート)。その後台湾、香港、韓国、欧州資本がカフェ事業に参入し、チェーン化とともにコーヒー消費が拡大した。2015年以降は、ECによる新興ブランドの立ち上げが起こり、luckinがオンラインオーダー、宅配を中心としたイートインスペースを減らした小型店舗の開発を行い、急激な店舗増加策が、注目を集めた。

米国上場後、虚偽の売上高を申告していた問題などもあり、評価を落とした。しかし、フロントランナーのスターバックスが、アリババと組んでデリバリーを開始するなど、「本家」が中国市場への対応に変化を迫られた形と言える。

食品世界大手によるM&A相次ぐ

コーヒー 中国
中国市場の動向について分析する前に、世界のコーヒー市場の現状をまとめたい。日本では余りなじみのない社名も多いが、全体の資本の流れから説明する必要があるためだ。世界のコーヒー市場金額ベースでは 4,366億米㌦(2021年予想、出所:Statista)で、今後5年間の年間成長率(CAGR)は8.3%と予想される。その内、ローストコーヒーの市場は3,198億米㌦と見られる。

前述の消費量ベースより成長率が大きいのは、ソリュブルより高価なレギュラーの消費量が増えるなどの理由が推察される。

「食品」「外食」の垣根なくなるコーヒー市場

コーヒー市場は、カフェなどを経営する「外食」、豆やソリュブルなどを販売する「食品」に分かれていた。
しかし、昨今の世界的な資本の動きを見ると、大手食品会社や投資ファンドがカフェ経営会社を取り込む形で、大型M&Aが相次ぎ、外食と食品の垣根がなくなりつつあると言える。

世界のコーヒー企業ランキングは出所により異なるが、1位はネスレ、2位はJDEピーツ(ヤコブ・ダウ・エグバーツ)となる。いずれも、外食、食品いずれの市場も抑え、家庭、オフィス向けのコーヒーメーカー向け需要の獲得を目指している。

1位ネスレの戦略 

スタバ コーヒー 中国
総合食品製造業で世界1位のネスレは、2017年に米国ブルーボトルコーヒー(サードウェーブ、として日本にも進出)の68%株式を約5億米㌦で、米国のボトル・缶コーヒー飲料(RTD=Ready To Drink)Chamelon Cold-Brew社株式18%を25億米㌦で取得した。更に2018年には、スターバックス関連の商品販売権を約72億米㌦で取得している。この契約で、スーパーなどの小売、フードサービス向けに、ネスレがスタバの商品(豆やソリュブル)を販売できる。

ネスレは家庭、オフィス向けのコーヒーメーカー、「ネスプレッソ」の普及にも注力しており、この中にスターバックス製品も含め販売拡大を図っている。

2位JDEピーツ、ファンドの投資で拡大

コーヒー 中国
2位JDEピーツの拡大は、親会社JABグループ(ドイツの投資ファンド)の積極的なコーヒー産業への投資によるものだ。これまで多くのコーヒー企業にM&Aを繰り返しており、当時世界2位、3位だったJDE、キューリグ・グリーン・マウンテンなどを傘下に収めた。2019年には米国のカフェチェーン、「ピーツ・コーヒー&ティー」(Peet’s Coffee&Tea)と合併した。店舗展開は米国内一部地域に限定されているが、ロースト製品などは全米で展開。軽いコーヒーが主流だった米国で、深煎りコーヒーが普及するきっかけとなった存在であり、熱心なファンが多い。こうした積極的なM&Aにより、ネスレのシェアに迫る規模となっている。

また、2015年に買収したキューリグ社は、家庭用・オフィス用のコーヒーメーカーを製造販売している。JDEの狙いは、ネスプレッソへの対抗であり、家庭、オフィスニーズの取り込みである。グループのピーツブランドに加え、イリ―社(ill、エスプレッソで有名、買収提案をはねつけた)など、幅広いブランドのマシン用カプセルの販売を展開している。

コカ・コーラの転換

コカコーラ
ここでコーヒー市場新規参入組として注目されるのは、コカ・コーラ社だ。かつて、前述のキューリグ社に投資していたが、コーヒー市場への参入よりも、「家庭用コーラサーバー」の開発と拡販を目的としていた。結果として、家庭用コーラサーバーは普及せず、投資後1年で売却・撤退している。

しかし2018年に同社は英国コーヒー大手 コスタ(Costa Coffee)を51億米㌦で買収。グローバルコーヒー市場へ、本格的に参入した。
外食事業としてみると、コスタの世界での店舗数は約3,800。中国では2006年進出し約400店。コカ・コーラ社は外食事業の拡大もあるが、同社の強みとしているファストフード等フードサービスへの製品提供、更にコスタの特徴である業務用コーヒーマシンの設置も進めていくと見られる。

ちなみに、日本、中国、韓国ではコカ・コーラは「ジョージア」ブランドの缶・ボトルコーヒーなど(RTD)を販売しているが、グローバル商品では無い。(コカ・コーラの本社はジョージア州アトランタだが、米国でジョージアは売っていない)日本市場では、業務用コーヒーマシンの設置を進めつつ、ジョージアとの差別化を図るのではと推測する。

中国コーヒー市場が注目される理由とは

多元化するコーヒーの提供チャネル
1. 外食店で購買  店内喫食、テークアウト、デリバリー
2. 小売店で購買  レギュラーコーヒー、ソリュブル、RTD
3. オフィス・家庭で購買  マシン提供によるカプセルの定期購買
4. その他 自販機 (RTD, カップ)

メーカーの外食ブランド取り込みにより、従来の自社製品以外に消費者の購買機会を進めている。また、それぞれにECが関与する事で消費場所、機会は更に多元化する。そういう意味で、ECの先進地であり、コーヒー市場の急成長が見込める中国市場への注目は否応にも高まっている。

中国市場の現状

スターバックスは2020年末時点で、中国に4,863店を展開する。2018年度が約3,600店舗であった事から、出店スピードは速い。2021年度600店、2022年度には230都市で開業し、合計6,000店舗を目指す計画を発表している。(スタバの会計年度は9月期)

2020年度は、世界全体の約33,000店舗で売上高が前年比約11%減少し、235億米㌦となった。一方で、中国は1%増であり、21年度以降も2-4%増を予想している。更に2020年11月に江蘇省蘇州市で自社コーヒー焙煎工場、倉庫を含むコーヒー・イノベーション・パークの建設を開始。総投資額は11億元(約165億円)で、拡大する中国市場へのインテグレーション化を進めている。

スターバックスのボトル飲料等(RTD)は、1994年以降ペプシコが扱っている。中国では同ペプシコ事業を買収した即席麺の世界最大手「康師傅」(カンシーフー)が継承し製造販売している。今後、ソリュブル部門では圧倒的シェアを持つネスレが、高付加価値商品としてスターバックスの製品販売展開をどう進めるのか注目したい。

レッドオーシャン化する中国コーヒー市場

スタバ コーヒー 中国
中国のコーヒー市場の成長をみて、様々な企業が本格的に参入しており、市場はレッドオーシャン化しつつある。SNS・ゲーム大手のテンセントは2020年、カナダ最大のチェーンTim Hortons中国事業に投資、10年以内に1,500店舗開業するとの計画を発表した。今後はインターネットを含め、B2C及びB2B展開を行っていくと見られる。

カフェチェーン以外の外食では、マクドナルドが2020年11月に3年間で25億元(約400億円)投資を掛け、4,000店舗以上にマックカフェを開設しレギュラーコーヒーの提供を発表。ケンタッキー・フライド・チキン(KFC)は2019年にアップグレードしたコーヒーを「K Coffee」としてチェーン6,000店舗で展開する。

中国でケンタッキーを運営するYum Chinaは、昨年Lavazza旗艦店を開業、更に独自ブランドCOOFFii&Joyの展開を発表した。
また中国で約28,000店舗のコンビニ最大手、易捷(Easyjoy)は、ラッキンコーヒーと提携。2020年末には、EC販売の連珈琲(CoffeeBox)と合弁設立を発表。E-Coffeeとして3年以内3,000店開業を目指すとしている。

コスタを買収したコカ・コーラ社は、コスタブランドのRTDを投入。今後コーヒーマシンの設置、展開も行うとみられ、一方出店が進まない外食分野からマシンとRTDへの注力に進む可能性もある。マシンについては、セキュリティ上、オフィスビル各フロアまでデリバリーサービスが出来ない中国のオフィスユースに適合する可能性がある。ちなみに、RTDについては中国で国有企業の中糧集団との合弁と、太古(Swire Pacificグループ)の2社がコカ・コーラボトラーとなっている。

コスタカフェ使用のローストビーンズは輸入であったが、コスト面の見直しや、マシン、RTD用も含め中国国内でローストを進める、とのうわさもあり、中国市場への新たな拡販を計画していると考える。

まとめ

中国市場では他の市場より成長余地が大きい。また、EC分野では中国は規模、質ともに世界をリードしている。そのため、コーヒー産業の資本提携や、外食、小売、家庭という従来の市場にECを掛け合わせ、消費者の購買動機を増やす動きは、加速化すると見られる。

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