読了目安:14分
2022年展望 中国 急激な規制から安定的な政策へ
中国は2021年、経済や文化、教育など様々な方面で、規制や制限を強化した。前年の急激な政策の影響を和らげるため、2022年の中国の経済政策は「穏」(安定)に変化していくとみられる。
2021年で何を規制したのか
2021年に入るとEC企業から以降製造、サービスそして消費に影響を与えた規制は以下となる。
- IT関連サービス業への制限
- 教育ビジネスへの制限
- オンラインゲーム使用時間制限
- 芸術、芸能、大衆文化への制限
- 食料問題ともリンクした浪費制限
- 投機対象ともなり、大企業化した白酒メーカーの値上げに対する監査
- 環境規制と一部起因した電力制限
- 総量規制→不動産業の危機問題
広範囲にわたる規制の動きは、その前年・2020年から始まったと言える。
アリババグループの創業者ジャック・マー(馬雲)氏の政府批判と取られた発言から、傘下のアント・グループの上海・香港同時上場の中止、そして同氏の隠遁生活へとつながった。
企業、芸能人に相次ぐ巨額の罰金
規制は、各種審査の厳格化に繋がり、事業体への影響も見られた。IT関連が金額も大きく、まずアリババが優先的地位の乱用として独禁法違反による約3,000億円の課徴金が課せられ、テンセントも過去のM&A手続の不備等で罰金を科せられた。
日本企業関連では、IT配車サービスの滴滴出行(DiDi)グループと合弁を設立したソフトバンク、トヨタ自動車が手続不備として罰金処分を受けた。
個人では脱税として、芸能人等に多額の追徴金・罰金の支払いを命じた。
ライブコマースの薇婭(Viya)は2021年のW11(中国最大のECイベント)で一晩に85.52億元(約1,400億円)販売したビッグスターだが、過去の納税申告に問題があったとし、13.41億元(約220億円)の罰金を科せられた。
言論規制も強化
ネット上の言論規制も強化されている。
例えば「躺平」(tang ping)=「寝そべる」との言葉(ネットスラング)が一時中国内SNSで頻繁に流れたが、今は海外の中国語ネットニュースでたまに使われる程度となった。
「躺平」という言葉は、「現状に満足してのんびり暮らす」という裏の意味を持つ。
競争社会が行き着くところまで行き、高望みをしても、高給は取れない、家は買えない。それなら「無理をしないで寝そべって暮らした方が良い」という、若い世代の達観を反映している。
「その後、やる気のない世代」の拡大に警鐘を鳴らすニュースが盛んの報道された後、「躺平」という言葉は中国国内の発信では、ほぼ目にする事がなくなった。
2021年を総括すると
2021年3四半期のGDP成長率は、前年同期比+4.9%と、予測の+5.0%を下回った。
第1四半期が前年のコロナのロックダウンの反動で+18.3%、第2四半期が+7.9%。すでに回復していた第3四半期の比較が予想を下回ったことから、「減速」との見方が拡がった。
2021年は中国にとり、重要な1年であった。共産党結成100周年であり「十四五」(第14次五か年計画)の初年度でもあった。
その中でGDP成長率の2021年目標値は対前年比「+6.0%以上」であった。第4四半期の数値次第だが、第3四半期と同程度であれば、年間で8.0%前後となり、目標値をクリアする事になる。
2020年と2021年平均成長率は+5.1%となる。
何のための規制か
各種の規制は、企業活動に影響を与えた一方、成長を阻害するまでにはいたっていない。では、そもそも規制は何の為であったか。
当局寄りの視点で見ると
敢えて当局寄りの視点で見ると、法令、規則の徹底順守を目指していると推察する。これまで、チェックしていなかった部分を規則に従い確認すると、違反事項が発見されたとなる。
関連して、不当競争による市場寡占化への歯止めを掛けようとする動きは強まり、その事例として有名企業、有名人がターゲットとされている部分はある。
もう一つは格差是正の狙いもある。
格差拡大の懸念は、この数年言われ続けている。
富の再分配を進め、.格差を縮小し、社会全体を豊かにする「共同富裕」を政府は強調しているが、内需拡大を目指す中、規制と言う名目で資金流動の大幅制限に繋がれば、かえって経済の下振れになりかねない。
電力問題について
電力不足問題は、製造業の回復で電力需要が増大しているところに、石炭不足と価格高騰が直撃して発生した。
電力問題への対応は、2021年の重点政策を過度に行った、反動であったとも言える。
その重点政策は以下となり、上記規制は政策の赤字箇所に連動している。
①国家戦略的科学技術力の強化
(新規事業、イノベーション、
②産業サプライチェーンの自己制御能力の強化
(生産効率性、海外投資含む)
③内需拡大を戦略的基盤とし堅持
(雇用機会の創出、起業への教育支援)
④改革開放の包括的推進
(外資導入、ゾンビ企業の清算、
⑤種子と耕作地の問題を解決する
(食料現自給率維持・向上へ)
⑥独占禁止を強化し、資本の無秩序な拡大を防止
(
⑦大都市の住宅の突出した問題の解決
(
⑧二酸化炭素排出のピーク化とカーボンニュートラルへ
(
( 参照:フロンティアアイズオンライン 「2021年展望 中国経済 コロナからの回復と寡占・所得格差対策」)
2022年の7大経済指針
2021年12月、22年のマクロ経済運営の方針を討議する「中国経済工作会議」が開催された。
発表された7大重点任務は以下となる。
①マクロ政策:安定かつ有効性を有する
新減税政策、中小企業支援、積極財政政策と安定した通貨政策により、内需拡大に向ける。
②ミクロ政策:企業の活性化を維持する
公平な競争を保障し独占禁止と各企業の知財、権利を強化。
③構造政策: 経済サイクルの円滑化を図る
生産から消費までのバリューチェーンと製造業のコアコンピタンスを強化し、専門・特別・新しい企業の創出を進める
④科学技術政策: 制度改革と基礎研究の行動計画の実施
国の戦略的科学技術力を強化し、主要な研究所を再編成する。国際的な科学技術協力を継続する。
⑤改革開放政策: 発展の勢いを活性化させる
株式発行登録制度の実施。国有企業改革。送電網や鉄道などの独占産業の改革。地方自治体の地方改革の奨励。外資系企業の内国民待遇と投資招致を実施。
⑥地域政策: 発展のバランスと協調性を強化させる
東部、中部、西部、北東部の主要な地域及び地域協調の開発戦略を実施。農村の活性化の促進。
⑦社会政策: 国民生活の最低ラインを保障する
基本的な公共サービスシステムの改善。大卒者やその他の若者の雇用問題を解決し、柔軟な雇用と社会保障政策の改善。養老保険の計画を推進。新しい出生政策の実施を促進。
何が最優先課題か
以上の7大経済運営方針について、「共同富裕」の実現が最終的なゴールとなる。その為の方策について、特に資本の動向とエネルギー問題の解決が、優先課題と考える。
・「共同富裕」の実現
共同富裕実現には、市場拡大と適正な所得分配を必要としている。
具体的には市場拡大による雇用推進の強化と課税・社会保障・寄付による三次分配の拡大を考えている。
三次分配については公益慈善事業に参加する企業、団体の支援を行う。その収入を公共サービスシステムの改善により教育・医療・高齢者ケア・住宅の提供に向かわせる。
この点では引き続き、政府との良好な関係を望む大企業、急成長するスタートアップ企業の寄付・慈善事業は増加するとみられる。
(三次分配:中国教育ビジネス 理想と現実のギャップ)
また共同富裕に向け、更に下記施策と提唱が出された。
・法に則った効率的資本の運用
重大なリスク防止と解決の為金融関連法の強化、地方政府の責任強化、金融監督管理委員会の強化を行う。
恒大の経営危機で社債の償還問題から表面化しており、野放図な資金の呼び込みを管理すると共に、株式の中国証券監督管理委員会の事前審査制度を各証券取引所での審査と登録制に変更し、資本運用の多様化を意図していると考える。
・一次産品の供給と消費スタイルの向上
エネルギーと農産物の供給を確保し、その為に資源生産、開発の為の鉱業技術の向上と農業生産能力の向上を促進するとある。また消費については無駄(浪費)を減らしローカーボンライフスタイルを提唱している。
増加を続けるエネルギー需要への供給と制限は今年(2022年)も続く事は想像できるが、食糧確保への意識が非常に高い点が特徴である。発表ではハイレベルの新農場建設を継続的に促進・種子産業の活性化・農業機械設備のレベルアップと具体的施策を述べている。
・資源の有効利用
主力エネルギーが石炭である中国は石炭と再生エネルギーを含むニューエナジーの最適な組合せを進化させるとある。大企業と国有企業にエネルギー価格の供給の安定確保を担わせる。
実際には国策であり国有企業主体の動きで大型資本投下が予想される。中国電力企業聯合会によると2021年11月末時点で中国全土の発電設備総容量は23.2億Kw(対前年比+9.0%)で石炭発電設備は11.0億Kw(同+2.0%)で全体に占める割合は47.4%となり2015年時点の64%から大幅減少となっている。
世界平均では石炭比率が高くまた小規模発電所の廃棄の必要性から引き続き国有企業が中心となり電力供給のコントロールを行うものとみる。
成長への3大プレッシャー
上記経済方針を定めた中央経済工作会議ではやや悲観的なコメントが出されている。特に、経済発展の妨げとなる三つのプレッシャーについて、述べたいと思う。
外部情勢の分析:
外部環境はより複雑で深刻で不確実である。
経済発展へのプレッシャー:
①需要の縮小
②供給ショック(制限)
③(経済成長への)弱い期待
中国は、いち早くコロナの影響下から脱却し、成長を進めてきた。
しかし、他国のコロナ影響が軽微化し、経済回復が進む中、中国がこれまで同様に優位を保てるかの疑問がある。
長期目標であるカーボンニュートラルへの、拙速な対応によるエネルギー供給減は、需要の縮小にも繋がった。
また産業規制も極端な対応による企業、投資家の成長への期待が弱まる事を理解している。
同会では「穏」(wen)=安定の言葉が使われており、急速な成長目標を掲げず極端な制限を行うべきでないとの前提で、経済方針が決定されたと考える。
これらの発表前に、国務院直属の社会研究センター、中国社会科学院は2022年のGDP成長率を5.3%と予測し、政府目標値は5.0%以上へと提案した。 2020,2021年2年平均成長率が5.1%(予想)である事から2021年の様な極端な統制策を取らず、金融緩和によるコストインフレ対策により2021年を上回るとの見方である。
2019年の実績が+6.1%で低水準と評されたが、全体規模から見ても5.0%が達成可能な水準と言える。ただし施策を進めても5%を下回る場合、経済スローダウンが明確との判断になり、海外への影響も広がる可能性がある。
2022年第1四半期を注視
今年は1月31日から2月7日が春節祝日となる。2月4日には北京冬季オリンピックが3月4日は同パラリンピックが開催される。そして3月に全人代が開催される(日程未発表)。
政府はこのオリ・パラでの成功を発表し、政治、経済とも順調な発展を継続させている事を内外に最大限アピールしたい意向と考える。秋には5年に1回の党大会が開催され、2023年の共産党、国家各機構の人事も決定する。ここで周政権の3期就任を実現するためにも第1四半期が重要な時期となる。
プラス要因
指針に地方政府の責任強化があり、これは実績に応じ評価する事で、秋の党大会人事に向けた実績アピールへの期待がある。
マイナス要因
徹底したコロナ対策と人流の制限は、オミクロン株の内外感染拡大状況に伴い、より厳格化する可能性がある。だが、その場合、中国での地域ロックダウンによる疾病管理方式は、より経済活動への影響を大きくする。
実際、2021年後半に断続的にコロナ発生によるロックダウンと移動制限により10,11月とサービス業を中心に消費が下振れした。
まとめ
①2021年は長期目標への急ぎすぎた施策により、需給バランスの崩れと金融への影響がみられた
②2022年は「安定」成長を図るが、需要の縮小、供給制限、成長への期待減少―という、3つの阻害要因の克服が必要
③第1四半期のコロナ感染状況、北京冬季オリンピック・パラリンピック・全人代までの動向を注視する必要がある
コメントが送信されました。