ニューノーマル、Gゼロ下の世界秩序

世界経済のニューノーマル(新常態)とは、新型コロナウイルス(Covid-19)の影響のみならず、経済環境やそれらを受けた政治運営を含む複合の産物だ。これは、ASEAN諸国も同様である。

ユーラシアグループ社長イアン・ブレマー氏は、今年に入り色々なメディアで、「Gゼロ下における世界の新秩序への3つの潮流」として、

①脱グローバル化(政治面での国際連携の脆弱化)
②ナショナリズムの台頭(ヒトの考え方の保守化助長)
③中国の台頭

との3点を挙げている。

また、国際会議(主に安全保障)の主要アジェンダとして「Westlessness(西側の消失)」が議論される状況でもある。この動きは先進各国のみならず、その影響を受けてASEAN諸国でも顕在化している。

以下、ASEAN諸国における顕著なケースについて紹介の上、日本企業等の参入に際しての考察ポイントの優劣の分類を試みた。

日系等外資の参入メリット要素が多い国

1 ベトナム:政治体制不変・開放的◎/日系等外資参入メリット◎

2021年1月の共産党大会で、共産党書記長の選任(5年に1度)が予定されている。現在はグエン・フー・チョン国家主席が党書記長を兼務(現在2期目)。高齢で健康問題ありとの報道もある中で、グエン・スアン・フック首相が後任の最有力候補と言われている。
前回大会時には親日派とも言われていたグエン・タン・ズン(当時)首相を退けて2期目に突入した経緯あるが、現政権でも対日環境は良好だ。現体制続投でもフック首相であっても現状路線の大きな変化はないと予想する。

経済開放政策は当面継続することが予想され、EUとのFTA締結(衣料品・履物等の輸出にメリット)、外資企業の脱中国の受け皿として期待される。世界銀行によれば2030年までにGDPを+2.4%・輸出を+12%押し上げる効果が期待との分析もある。

2 マレーシア:政治体制変化・開放的となる可能性△/日系等外資参入メリット〇(但し潜在的政治リスクあり)

ムヒディン首相下で、当時の同国首相ナジブ氏の政権交代劇を生み、ゴールドマンサックスなども巻き込んだ不正政府系ファンド「1MDB」に関連して逮捕起訴された重要人物の不起訴が立て続けに発表されている。
マハティール氏に対する国民からの復活期待も薄れ、マハティール氏は引退を表明。(同氏子女の政治参画表明もあるが)、当面、ナジブ氏の政治影響力が強くなる可能性大と考えられている。
汚職政治回帰との危惧の声があがる一方、ナジブ派は外資開放政策には非常に前向きであり、経済面ではプラスへ作用する期待も一部ある。具体的には、5億リンギ(125億円)以上の新規投資をした製造業の法人税率を15年間ゼロにするとの発表が最近行われている。

3 ミャンマー:総評;政治体制不変▲/国内への日系等外資参入機会は増加見込み〇

11月に上下院総選挙の開催が決定(5年に一度)、定数計664議席のうち軍人議員枠として確定する166議席を除く498議席が民間ポスト対象であり、議席だけでいえば現在のタイより民主的である。
一方、最大勢力で現在382議席を持つアウン・サン・スー・チー党首のNLDにとって、これまでの5年間、スー・チー氏が憲法の規定で首相になれずに「国家顧問兼外相」との役割にとどまり、ドラスティックな開放政策を打ち出せなかった。
加えて、少数民族ロヒンギャへの迫害問題を解決できなかったとの批判がある中でで選挙を迎えることとなり、過半数議席数(333席)の確保は安泰ではない。

とはいえ、今回の総選挙での大敗の可能性は低いと思われ、経済開放の方向性については不変と思料する。

その他、以下の諸国でも参入に際してのプラス面が多いと思われる。

4 インドネシア:2019年ジョコ大統領再選、当座の政治リスクは少ない(総評:政治体制不変〇/外資誘致積極的〇(医療関連業種向け誘致に積極的))

5 フィリピン:ドゥテルテ大統領の任期は残り2年(再選なし)。当座の政治リスクは少ない中、同氏はインフラ投資に引き続き積極的(政策名「Build ! Build ! Build !」)。近時は、セブ島など2島を結ぶ橋梁と道路に係るインフラ関連投資で1540億円の円借款契約(総評:政治体制不変〇/外資誘致積極的〇)

政治的側面から、日系等外資の参入には課題点を持つ国

6 タイ:政治体制軍部色強化・保守化×/日系等外資参入機会は少▲

連立政権下での舵取りが難しく、TPP支持派のソムキット副首相やウッタマ財務相が辞任。近く行われる内閣改造では、保守派が台頭するとみられる。結果としてこれまでソムキット副首相が推進していたTPP参加について及び腰(不参加とは言わないが結論先送り)となる可能性が高い。
軍部主導政権に対する海外からの批判も強いものの、先進各国が保守的政策をとる中で、プラユット首相にとっての目下の関心事は、軍部主導の内政安定とのことと推察する。

経済成長の柱の一つである観光が打撃を受ける中でのTPP不参加は、もう一つの成長エンジンであるべき輸出でベトナムやインドネシアなどに水をあけられる可能性高く。経済成長は遠のく。
実質的な軍事政権体制は当面継続し、旧タクシン氏勢力も往来不能の現下では影響力発揮のチャンスは少ないとみられる。
タイ大手企業によるベトナムを中心にASEAN事業買収の動き多く(セントラルグループ・CPグループ・タイビバレッジなど)、日系企業にとって競合社となるケースも散見される。他方で、国内では農業分野での投資優遇措置を強化しており、当該分野での外資受入余地もあるだろう。

まとめ

上述の通り、現下のASEAN諸国の政治運営は多分に保守化する方向にある。一方でこの動きが外資受入を大きく阻害するものでない点も再確認できただろう。加えて、現下の「Gゼロ」の状況も、米国大統領選挙の結果で大きくゲームチェンジする可能性もある。
チャーチル元英国首相が過去にこのようなコメントをしていたと学生時代に聞いて印象に残っていたが、最近読んだコラムでも取り上げられていた。
「米国はあらゆる選択肢をやり尽くしたあとに、常に正しいことをする」。
ニューノーマルとは常に変化するものと心得る必要もあろう。

ランキング記事

1

EVは本当に最適か?⑤ 基幹産業=自動車を守る為に

ゼロカーボン社会に向け、EV(電気自動車)は本当に最適なのだろうか?シリーズ最終回は、日本が技術的優位に立つ「Hy-CAFE」(Hy:水素/C:Cold fusion/A:Ammonia/F:Fuel cell/燃料電池/E:e-fuel」を生かした、自動車の次世代エネルギー革命についてまとめた。

2

村上春樹さんから学ぶ経営⑯「文章はいい、論旨も明確、だがテーマがない」

前回のテーマは「変えてはならないことがある」でした。そこで今回は、本田宗一郎氏――「社の連中に技術的な話をしたことがない。話すことは、みな技術の基礎になっている思想についてである」「技術はテンポが早く、すぐ陳腐化してしまう。技術はあくまでも末端のことであり、思想こそ技術を生む母体だ」(『起業家の本質』プレジデント社)――のようなお話です。それでは今月の文章です。

3

「安すぎる日本」で国民は苦しむか? 最低賃金引上げの合理性を問う

最低賃金引上げが叫ばれている。日本の賃金は国際的に見て安いらしい。一般消費財でも、スターバックスコーヒーやマクドナルドなどグローバルブランドの商品が日本では先進国中で最低価格となっており、「安すぎる日本」として話題になっている。最低賃金引き上げは、本当に筋のよい政策なのだろうか。

4

相続登記義務化のインパクトとは?

不動産を相続した場合、不動産の名義を被相続人から相続人に変更する必要があり、この手続きを「相続登記」と呼ぶ。従来相続登記は任意であったが、2021年6月の法改正により2024年を目途に義務化されることになった。相続登記義務化の背景と、そのインパクトは何かを考察する。

5

プロスポーツチームの戦略オプション②~スタジアム・アミューズメント化経営の要所

コロナ禍において、プロスポーツチームが取り得る戦略オプションは、どのようなものがあるだろうか。今回は取り組みが活性化してきている「スタジアム・アミューズメント化」経営について、その提供価値と実現スキームに焦点を当てて解説していく。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中