中国で急拡大、シェアリングエコノミー・シェアキッチン with コロナ

一度はコロナウイルス感染拡大を抑え込んだかにみえた中国・北京で、再度コロナが発生した。根絶が難しい中、コロナとどのように向き合うべきか。コロナが市場をどう変えるのか。中国の外食産業におけるシェアリングエコノミーの動向を通じて考察する。

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生鮮市場での発生


写真説明:北京の「華堂商場」(イトーヨーカドー)

外国人の入国制限を厳格に行う中国では、感染者は海外からの帰国者に限定されているように見えた。しかし、首都北京で6月11日、生鮮市場(新発地)で新たな感染が報告された。(7月1日現在累計 325人)

当初の発生地である武漢同様、発生場所が水産市場である上に、輸入サーモンからもウイルスが検出された。市場関係者の住居など、市内37地域がブロックされた。建物入場時にはアプリによるチェック、検温を徹底。市外との出入りの際にも、徹底した検査が行われ、他省への拡散はほとんどなく、北京の発症者は1人/日まで鎮静化している。(7月1日時点)

外食企業の危機再来?


写真説明:入り口での検査を行う北京の「華堂商場」(イトーヨーカドー)

生鮮市場(水産、食肉、野菜果実)での発生により食料供給懸念も出された。しかし、再検査などに時間は掛かったものの、供給に問題は出なかった。
小売店の水産売場は、商品が減少しており、原材料検査と、購買意欲の減退両方の影響が推測される。


写真説明:商品の少ない生鮮売り場

食品がクローズアップされた事から、北京市では日本食店をはじめ、外食産業へのダメージは大きく、対応が求められている。店内の衛生管理、従業員教育。そして原料の産地、経路等のトレース管理などである。

今回は、卸市場と言う「密」の空間が原因とみられるとは言え、感染経路は人からなのか、物への付着からなのか。様々な臆測が出ているが、確証はない。

幸いに爆発的な感染者数増にはつながらず、6月末段階で鎮静化している。ウイルスの特性や変異などが把握できない以上、今後も発生の度に対応を繰り返す必要が出てくる。

生活の豊かさを楽しむ行為でもある「外食」への懸念は、無くならないと言える。

シェアリングエコノミーとシェアキッチン

前回、中国の外食の二極化について執筆した。特別に場所を必要とする「外食」(高級化する)と場所を選ばぬ「外食」(ファーストフード化)である。重篤率の関係はあるが、再発するコロナへの対応では後者のスタイルを選ぶ企業が多いのではないだろうか。
その流れの中で、店舗の座席を減らすだけでなく、そもそも座席を持たないテイクアウト、ケータリングの比率が高くなっていく。

参考:ウィズコロナ 中国外食産業の変化

急成長する中国のシェアリングエコノミー

中国では国家データセンター(国家信息中心)がレポートを発行しており、市場動向が見える。2019年のシェアリングエコノミー市場は32,828億元(約52.5兆円)と大規模であり、日本以上にキャッシュレス決済の定着とICT化、プラットフォーマーの多様性が見える。

日本の総務省によると日本国内のシェアリングエコノミーの市場規模は2017年の636億円から、2021年には1,071億円へ成長するという予測が出ている(平成30年情報通信白書より)。人口を考慮しても、「桁違い」の差がついている。

特徴的なのは日本では「民泊」と言われる宿泊シェアサービスが中心なのに対して、中国では生活サービスが圧倒的な規模を持っている点だ。これは日本より安価な労働資源を保有しているから、と言える。 

生活サービスのうち、外食ケータリングが3割弱を占め、それ以外は家政、清掃、修理、保育、代行運転、外食以外の配送及びシェアキッチンなどが入る。

外食ケータリングとシェアキッチン

店内調理を行う外食店舗は各種許可が必要だ。営業許可証、公共衛生許可、消防安全、酒類専売許可などであり、開業までの費用は大きい。コロナの影響で、店内での喫食数が減れば、コストを回収できず大幅な損失が出る。

コロナ影響の長期化に加え、接触や密集を避ける消費者心理から、テイクアウト、ケータリングの利用が増えている。そのため、最初から座席を設けない外食産業の成長も見込まれている。

世界的には米国のシェフ派遣ビジネス「kitchit」(サービス終了) からとみられるが、中国でも2015年前後からシェフ派遣のサービスが普及した。

現在注目されているのは、テイクアウト専用の店舗向けに調理場所を提供する、シェアキッチン(別称 クラウドキッチン)だ。

参考:クラウドキッチンとは?

一つのスペースを区分けして、複数の飲食業者がシェアするスタイルだ。上海の「Jike Alliance (吉刻聯盟)」北京の「Panda Selected」(熊猫星厨)が代表格で、投資資金を集め広く展開している。

2019年でシェアリングエコノミー投資は前年比で減少となったが、コロナを契機にケータリングに重心を置くブランドチェーン企業への投資が増えそうだ。

シェアキッチンの課題と外食産業の方向性

シェアキッチンは開業コストが下がる分、新規参入障壁は下がり、競争激化が予想される。
シェアキッチンは、業者ごとのスペースが10数㎡程度であり、調理内容、材料保管スペースも限定される。そのため、メニューを絞り込んで勝負する必要がある。

一方、シェアキッチン内で1社でも食中毒など衛生問題や、疾病が発生した場合、他社も同時に影響を受ける可能性は高い。

Panda Selectedは中国国際貿易促進委員会、チェーン外食企業らとシェアキッチンサービス基準を発表し、中国内でのシェアキッチンのスタンダード化を図っている。

今回の北京生鮮市場でのウイルス検出により、政府、消費者とも原材料産地、検査内容への要求は更に高まる。一時的に競争は激化するが、そうした要求の高まりから、早期に企業淘汰が始まるかも知れない。

現状では、ECケータリングの供給は、需要の伸びに追いついていない。シェアキッチンが、ケータリング拡大の一助になる気配がある。

中国外食産業の多様化はこれだけではない。著者は過去の記事で、スーパーで外食企業のECミールキットの販売や、外食ブランド製品の開発は紹介したが、最近ではスーパーでのキッチンのシェアリングも行われている。

参考:コロナウイルス(COVID-19)と「宅経済」の進展

スーパーの店舗内でシェアキッチン同様の小スペースで調理し、外食メニューを総菜テイクアウトとして販売している。中国の流通業は商品開発力に弱く、外食ブランドとの結びつきを強めることで、味と品質への信頼を高めようとする狙いがある。

まとめ

コロナによる外食産業の環境変化で、テイクアウト、ケータリングの比重は上昇する。それに伴い、店舗を持たない外食業向けに場所を提供するシェアキッチンが普及、安全基準の強化や標準化が進む。食品製造業と流通、外食企業のボーダーは低くなり、提携も一気に進むとみられる。コロナによる環境変化は早く、加速している。先進的な動きがみられる中国の動向から、目が離せない。

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