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ゲームエンジンとは?映像コンテンツへの応用も
ハードを超えたゲームの開発環境(ミドルウェア)「ゲームエンジン」の用途が広がっている。アメリカなどでは、CG映像の制作に加え、実写映画の撮影にも活用されており、各方面の制作現場で存在感が増している。
ハードを超えた開発環境「ゲームエンジン」とは?
現在、ゲームを楽しむことができるハードウェアは、専用ゲーム機、PC、スマートフォン、タブレットと多岐にわたっている。「フォートナイト」(Epic Games社)のように、各ゲーム機、スマホなどハードを超えて遊べるタイトルも増えている。
ユーザーを最大限獲得するために、可能な限りすべてのハードウェアに向けて、同一タイトルを供給することには経済合理性があると考えられるが、各ハードウェアに最適化されたプログラムでタイトルを供給すると、どうしてもコストが嵩むこととなる。したがって、開発効率化のためには、100%共通とはいかないまでも、可能な限りハードウェアの垣根を取り払った共通の開発環境でゲーム開発をすることが重要と考えられる。このようなハードウェアの固有性を可能な限り撤去したゲーム開発環境、またはミドルウェアを、「ゲームエンジン」と呼ぶ。
Unreal Engineによってゲームエンジンが普及
ゲームエンジンの利用は、専用ゲーム機とPCに同一タイトルを供給してきたアメリカのゲーム会社が先鞭を付け、1998年にEpic Games社により発売された1人称シューティングゲーム(FPS)「Unreal」の開発過程で確立された技術基盤をベースとする「Unreal Engine」がその嚆矢となった。
Epic Games社は、Unreal Engineを同業他社にもライセンスアウトし、有力ゲームタイトルの開発にも採用された。現在では、Unreal Engineはゲームエンジンの一つのデファクトスタンダードとなっている(現在のバージョンは、Unreal Engine 4)。
その他、スマートフォンゲーム開発におけるゲームエンジンのデファクトスタンダードである米Unity Technology社の「Unity」、2Dゲーム開発で多用される中国の「Cocosエンジン」などが、ゲームエンジンの代表格である。
ゲームエンジンは映像制作にも活用可能
連綿と続くハードウェアの進化に寄り添う形で進化を遂げてきたゲームエンジンは、近年では専用の3D映像制作ツールを一部代替するケースも出てきている。
ゲームエンジンを使用して映像制作をすれば、同じ3Dモデルを、映像とゲームで使いまわすことが容易となる。コンテンツのメディアミックス展開が志向されるビジネス環境下では、開発効率化、モデル共用化のためにゲームエンジンの利用は今後も増加するものと考えられる。
日本でも、Unreal Engineを用いて、セルルックアニメ(表面上は2次元調のアニメでありながら、裏では3DCGで制作されるアニメ)とゲームの開発を一部共有化する動きも出てきている。また、Unreal Engineで作られた映像や3Dモデルを基にVRコンテンツを制作することも容易である。
実写の撮影を変える、ゲームエンジン
最近では、上述のような、メディアミックス展開との好相性だけではなく、“リアルタイム映像生成能力”を起因として、映像制作基盤におけるゲームエンジンの勢力拡大が見られる。ディズニーの新規動画配信サービス「ディズニープラス」のオリジナル実写ドラマである「Star Wars マンダロリアン」(Star Warsシリーズでの初めての実写ドラマ)では、Unreal Engine 4を活用して制作されている。「マンダロリアン」では、特撮スタジオILMが用意した巨大LEDスクリーンに、Unreal Engie4でリアルタイム生成された背景映像を流し、その前面で俳優が演技をすることで、映像作品として成立させるという新しい映像制作手法が用いられた(このスキームで全体の4割強が撮影された)。
古典的な特撮セットでの撮影や、緑色のCG合成用の布を用いた画像合成(クロマキーと呼ばれる)による撮影では、撮影後の映像編集(ポストプロダクション)に多大なコストと時間を要するが、ゲームエンジンのリアルタイム映像生成能力を活かしてポストプロダクションを含めた制作期間短縮を達成した実例となる。
ゲームエンジンへの対応が遅れる日本勢
このような巨大LEDスクリーンにリアルタイム映像生成能力を組み合わせる映像表現は、大型のアーティストライブにも取り入れられる可能性もあるだろう。もちろん、この手法にしても、国内の標準的なドラマ制作コストやライブ制作コストには見合わないと考えられるため、国内でこの手法が一般化するとは考え難いが、新しい映像体験の技術基盤として、ゲームエンジンの存在感は今後も拡大するだろう。
日本では、Unreal Engineのエンジニアは相対的に少ないとされており、グローバルでのゲームエンジンを活用した新しい映像体験の創出という潮流に乗り遅れる可能性がある。海外エンジニアの活用やM&Aによるエンジニアの確保など、新しい映像体験の確立にどのように取り組むか、エンタメ関連企業のゲームエンジンの活用動向に注目していきたい。
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