再生型M&Aへの期待

フキノトウ

コロナ後のニューノーマルとして期待される新しい事業再生手法は、再生型M&Aである。

これは、金融機関の弁済を停止する前段階において、
①業績の急速な悪化により資金繰りの悪化が見込まれる場合
かつ、
②有利子負債の返済を一定期間内に可能とするキャッシュフローがないような過剰負債がある

上記2つの条件を満たす会社に対して、メイン銀行及びサブメイン銀行だけの一部債権放棄、又はDES(債務株式化)等を伴うM&Aを実施する手法だ。

私的整理への移行は、支払停止や債権放棄等による債権者への不義理となり、お詫びを伴うことにもなる。オーナーにとって大きな心理的な圧迫が、決断を遅らせる一因となっている。
そのため、本格的な私的整理手続きを経ることなく、債務の調整を伴うM&Aを実施するという考え方だ。

これまでも事例としては、メインバンク等の主導で、優先株式によるDES等を行う事例はあった。

再生型M&Aでは、これを過半数の有利子負債額(非保全部分)になるようなメインバンク及びサブメインバンクと、債務者会社が協調して、一部債権放棄又はDES(債務株式化)等を伴うM&Aを行う手法だ。
メインバンク単独よりは、負担が軽減される。

また、従来は債務超過部分以内でDES等の手法を採用していた。
株式化することで、再生会社がスポンサーの傘下で企業価値を向上させれば、債権回収・金利収受を超える大きな利益を得る機会にもなる。
債権者にとって経済合理性があるなら、そのような制約を超えたDES(債務株式化)等を実施することもありうる。
加えて、その後に法的整理や私的整理に移行した場合を停止条件として、DES等の優先株式を債権に戻す権利(償還請求権)を。債権者が持つようにすれば、債務株式化のデメリットを回避することも可能だ。
 

ニューノーマル下の「4つの提言」

発芽イメージ

次に、現在の諸制度の一部変更を伴う前提で、事業再生のニューノーマルを考える場合、次の4つの新しい制度の導入、又は運用の変更を提言したい。

1.債権者申入れ型私的整理
債務者会社が業績悪化や資金繰りに窮している場合、法的整理であれば債権者申立ての制度が認められているが、私的整理には認められていない。
しかしながら、金融機関債権者の多数が一致して事業再生の開始を求めている中、オーナーの説得が困難なあまりに事業再生の時期が遅れてしまうことは、どのステークホルダーにとってもマイナスなので極力回避すべきである。
このため、事業再生ADR(事業再生実務者協会)や中小企業再生支援協議会等の準公的手続きにおいて、一定の割合(例えば、4分の3以上の債権額)の金融債権者が再生会社の私的整理手続開始を当該協会等に申し入れた場合には、

a債権者が当初の手続き費用を負担
b債務者の私的整理開始についての同意

上記2つを前提に手続きが開始する仕組みは有用と考える。
この場合、再生会社が当該準公的機関で策定した再生計画を受諾し、当該再生計画が正式に債権者の承認によって開始する場合に、最終的な手続き費用負担は再生会社が負担することになる。

あくまで私的整理なので、再生会社への強制は制度上難しい。しかし、当初の手続き費用負担をなくし、企業オーナーによる私的整理手続きの開始の恐怖をなくす意味(債権者申立てなので、当初段階でお詫びをする必要性はない。)で、手続きの選択肢の多様化という観点から有用と考える。

2.上場会社の申出による上場廃止制度
市場イメージ

再生会社が上場会社の場合に、スポンサーの下で再生を目指そうとしても、当該企業のキャッシュフロー(又は営業利益)創出力から算定される株式価値と、現在の時価総額が大きく乖離している場合には、当該再生会社のM&Aは成立しにくい。

数字を交えて言うと、例えば年商50億円の上場企業で、営業利益が少なく、その結果EBITDA(償却前営業利益)が1億円程度しかない企業の場合、企業価値は8億円程度(EBITDA/EVマルチプルを8倍と想定)にしかならない。
当該会社のNET有利子負債が15億円ある場合は、これだけで過剰債務7億円、株式価値0円となる。それでも市場では、同社の時価総額が20億円程度ついているようなケースがある。
このような場合、過剰債務7億円の債権放棄を前提に、企業価値5億円で当該会社を非公開化させて買収したいスポンサーが出現したとしても、非公開化のためのTOB(スクイーズアウトも含む)を行うためには、20億円以上の資金が必要となるため、この状況では当該買収は不成立となり、法的整理の道を選択するしかないことになる。

このような場合に、再生企業が非公開化を任意で選択することが可能となり、株式の市場価格(時価)がなくなる状態にできるならば、実質的な企業価値の議論が成立することを前提に、8億円前後のTOBにより当該企業をスポンサーが買収することは可能である。
再生会社を対象としたM&Aの成立により、法的整理を回避することも可能となる。
これも、事業再生の早期化のために重要な制度変更となる。

3.希薄化率300%を超える第三者割当増資又はDESの許容
M&Aにより上場会社の再生会社を救済する場合、非公開化による買収ではなく、第三者割当増資によって過半数の議決権をスポンサーが確保する手法を採用する場合も多い。
また、私的整理において、債権放棄を金融機関の債権者に求める場合には、(債権より劣後する権利である)株式を保有する株主の株主責任に関する条項を事業再生計画に盛り込むことが必要となる。
上場会社が再生会社の場合、多数の株主から株式の無償消却について同意を取得することは困難だ。そのため、スポンサーやDES等による第三者割当増資によって希薄化(有利発行を伴う場合もある)を行うことによって、既存株主の割合的地位を下げることで、株主責任に関する条項をクリアすることが、実務として行われている。

しかしながら、上場会社に関しては、2009年7月に改正された東京証券取引所の有価証券上場規程等において、第三者割当増資による希薄化率(増資後の株式の議決権数÷増資前の発行済株式の議決権総数)が300%を超えるときは、株主の利益を侵害するおそれが少ないと認められる場合を除き、上場廃止とする旨のルールが定められている。

このため、有利発行等も交えて300%を超える希薄化率の増資をすることは難しい。株式価値を高くつけにくい再生会社のM&Aにおいては、スポンサーの支援が成立しにくい状況となっている。
本来、「希薄化率300%以内」ルールは、既存株主の保護を目的としたルールであるが、そのルールの存在によってスポンサーがつかないため法的整理に移行し、かえって既存株主の利益を損なう結果となることは極めて不合理ということができる。
このため、一定の準公的な私的整理(例えば、事業再生ADR等)において株主責任を求めるような場合(債権放棄等を伴う場合)には、当該希薄化率300%以内ルールの例外(株主の利益を侵害するおそれが少ないと認められる場合)の認定を原則として認める等の運用の変更はあるべきである。

4.公的仲裁機関による検証型プロセスにおける事業価値判定制度の導入
銀行イメージ

実態債務超過でDESや一部債権放棄等のプロセスを伴う再生型M&Aをする場合には、再生会社や債権者にとっての税務上の特典(債務免除益と通算する資産評価損等の取り込み、債権放棄損の無税引当て等)が必要になる。
そのため、事業再生ADRや中小企業再生支援協議会等の手続きの利用が必要となるが、通常の再生手続きではない事業価値判定を中心とする検証型プロセス制度の導入が期待されるところである。

この場合、通常の私的整理手続においては、債権者の公平性やスポンサー入札手続き等の透明性が求められる。
再生型M&Aにおいては、不利益を受けるメインバンク及びサブメインバンク等の了解があることで、債権者の公平性やスポンサー入札手続き等の透明性については、検証の対象外とすることができるのではないか。
事業再生ADRや中小企業再生支援協議会などに対しては、再生計画(事業及び財務)と企業価値の検証が期待され、それによって合理的な再建計画であれば、上記の税務上の特典についても適用を認めることが妥当と思われる。

日本に向いている、私的整理

事業再生の実務は国ごとに全く異なるものであり、米国のチャプター11のように法的整理を主軸として再生実務が動く国もあれば、中国のように倒産法制の整備が整い、これから景気悪化に伴う法的整理の増加が見込まれる段階の国もある。
日本は、1990年代後半からの金融危機等を経験し、「失われた20年」と言われるデフレ時代を経験した国であり、事業再生の世界においては、早期の事業再生手法である私的整理が相当程度定着している。
また、中規模以上の企業を対象としてみると、相当程度割合の企業が法的整理に移行する前段階にて私的整理の手法を採用又は検討しているように想定される。
和を貴ぶ日本人の国民性に合致する私的整理の手法は、諸外国の事業再生制度の方向性を考慮しつつも、独自性をもって進化させるべきだ。

まとめ

コロナという外的ショックは、大きな機会でもある。これを機に、コロナ後のニューノーマルな事業再生を進化させ、定着させることは、国だけでなく、金融機関の関係者と我々実務家の使命であると考える。
以 上

参照:『「2008年度上場制度整備の対応について」に基づく有価証券上場規程等の一部改正について』

▼過去記事はこちら
「7割経済」時代の事業再生 Withコロナ ㊤バブル後30年の変化
「7割経済」時代の事業再生 Withコロナ ㊥ 第三の変化

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