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2021年展望 中国経済 コロナからの回復と寡占・所得格差対策
中国はコロナ禍からいち早い経済回復を見せ、2021年も高い成長率が予想される。そんな中、アリババなど大手先進企業への介入や食料安全保障の推進など、寡占対策や低所得者対策を進めている。
2021年GDP成長率は+7.5-9.5%と予想
中国はコロナ禍にもかかわらず、2020年のGDP成長率は+2-2.2%と予想されている。第2四半期からの対前年比プラスが、第1四半期の落ち込みをカバーしている。
2021年は、2020年成長率が鈍化した分、2019年実績の+6.1%より増加し+7.5-9.5%と各国金融関係の予想が出されている。そうであれば10月に打ち出された第14次5か年計画(十四五)の初年度として、幸先のよい出だしと言える。
また、2020年12月26日に発表された英国シンクタンク「CEBR」の報告では、従来の予想より5年早い2028年に、中国がアメリカを抜きGDP世界一位になると予想している。政治体制、コロナ発生後の封じ込めに対する批判はあるものの、経済回復スピードとコロナ影響を強く受けている他国との差が、今後の経済成長にも表れるとの見方だ。
8項目の重点任務 寡占と所得格差への対応
政策を議論、決定する機関である中国共産党中央政治局会議を受け、2020年12月16-18日と中央経済工作会議が開催された。
そこでは、2021年の経済活動について以下の8項目を重点任務として発表している。
内需拡大を進める一方で、アリババなどプラットフォーマーの寡占対策や、低所得者対策が同時に盛り込まれているのが特徴だ。
各項目概要のかっこ()内は筆者の見解である。
①国家戦略的科学技術力の強化
中小企業、スタートアップ企業の育成(新規事業、イノベーション、寡占化防止)
②産業サプライチェーンの自己制御能力の強化
産業におけるサプライチェーンのボトルネックの解決(生産効率性、海外投資含む)
③内需拡大を戦略的基盤とし堅持
内需拡大を重要点とし、その実現には就業の安定、その為の教育と社会保障の改善、製造業の設備更新、新技術投資を行い、国民の生活品質の向上を図る(雇用機会の創出、起業への教育支援)
④改革開放の包括的推進
対外開放と国有企業の改革深化、そして健全な金融機構ガバナンスを行い資本市場の健全な発展を促す(外資導入、ゾンビ企業の清算、投機マネーの監視)
⑤種子と耕作地の問題を解決する
食料安全保障の為、育種の強化、農業技術の向上、耕地面積の維持。その為の国家糧食安全産業地帯の建設(食料現自給率維持・向上へ)
⑥独占禁止を強化し、資本の無秩序な拡大を防止
独占禁止と無秩序な資本拡大の防止、両面の強化。プラットフォーム企業のイノベーションと発展、それによる国際競争力を国家は支持。但し消費者権益保護の為不正競争、金融イノベーション産業への監督管理も強化(寡占化防止)
⑦大都市の住宅の突出した問題の解決
住宅問題は福祉との関連。住居は投機用のものではないとし、賃貸住宅の増加促進に税調整を実施。更に企業が保有の遊休地に賃貸住宅建設するよう言及。(投機マネーの不動産市場への流入削減)
⑧二酸化炭素排出のピーク化とカーボンニュートラルへ
環境問題の解決解へ、二酸化炭素の排出量のピークアウトを2030年前とし、排出権トレード市場設立と大規模な国土緑化を進める。(環境問題解決と新エネルギー支援)
アリババへの圧力の背景とは
上記8項目のうち④と⑥は明らかにアリババ・グループの事業への介入であり、中央経済工作会議後の2020年12月24日、独禁法違反の疑いで当局による調査が入り、アリババの株価は大幅に下落した。
更に同30日にアリババ「T-モール(天猫)」に次ぐ二番手のプラットフォームのJD(京東)、Vipshop(唯品会)が優越的な立場濫用による売価強制指示を行ったとし、国家市場監督管理総局が処罰決定を下した。
当局の介入のきっかけは、アリババ創業者ジャック・マー氏の中国金融政策へ疑問を呈する発言とされる。同グループで決済サービス・アリペイ(支付宝)を運営する「アント・グループ(蚂蚁集团)」の上場申請が差戻しされ、T-モールの「二選一」(メーカーがT-モールとそれ以外のプラットフォームでの商品販売に関し、T-モールとの取引のみを強要)疑いから当局が調査を始めた。
今回の同業3社処罰は、アリババのみを標的にしているものではないとの政府アピールにも見えるが、確証はない。
しかし、EC化率の上昇によりアリババ同企業に利益が傾斜し、製造業のEC販売価格統制に繋がり、特に消費品製造業の弱体懸念と、そして成長したほどには雇用が大きく増えていない事も要因と考える。
格差拡大への懸念
中国政府は、コロナ禍が収束傾向にある中、大手による寡占、そして国民の所得格差が更に広がり、今後の経済拡大に支障を来す恐れがあると考えているとみられる。
たとえば、上記⑦で示したように、中国のアッパーミドルから富裕層は、一般的に複数の住宅を保有し、投機的な住宅投資が進んでいる。
2020年前半、一時的に住宅価格が軟化したものの大きな打撃はなかった。金融緩和により住宅市場に資金が流入し、再度価格上昇を見せた。
政府は賃貸住宅を増やすことにより、不動産市場の資金流入を減少させると共に、中・低所得者層への住宅供給を増加させる意向があると見える。
食料安全保障と低所得者対策
上記⑤の食料安全保障も重要施策に挙げられる。
2020年はコロナによるロシア、ベトナムなどの食料輸出制限に加え、中国東北地方の穀物産地への台風、虫害などがあった。中国でも穀物輸入量が増加しており、食料不足の懸念が議論となった。
政府は生産量の拡大と輸入量の状況を説明・さらに輸入食料にカウントされている最大の穀物が大豆であり、そのうち80%が搾油用、20%が飼料用で、直接口にする食料は備蓄を含めて充分にある事をアピールした。
更に生活向上と消費拡大に食料(麦、米等)の品質向上と生産量増加が必要としている。
(もちろん浪費が美化されるものとは思わないが)食料は十分あると言いながら、増産を求め、習主席みずから食品浪費を避けるよう発言するなど、ちぐはぐな印象を受けた。
実際は、食料価格は2020年10月まで上昇傾向だった。同11月に政府備蓄を放出し、ようやく安定を見せた。地域間所得格差が大きく、食料を充分購入できない国民も少なくないと考えられる。
さまざまな指標からも、中小企業就業者や低所得者の生活への負担が、増えてきている事が推察される。
平均では測れない中国
中国の2020年1-11月社会消費小売品統計を見ると、「限度額以上企業」の回復とそれ以下の回復が異なる事がわかる。
社会消費品全体、外食、小売で年商各2,000万元(約3億円)200万元(3,000万円)500万元(7,500万円)を「限度額」と規定している。
社会消費品全体では2020年1-11月累計対前年比−4.8%で限度額以上は-2.8%と大手の回復が速い。
2019年、2018年同期で見ると全体で2019年は+8.1%、18年は+9.2% 限度額以上企業は19年+3.8%、18年+6.6%である。(直近3年とも限度額以上の金額は全体の35-37%)。
2019年年まで大手より新規、中小が売上を拡大してきたが、コロナ禍の2020年は大手の回復で全体を持ち直している状態と言える。
2021年 内需拡大と格差是正の両立は可能か
2021年は「十四五」初年度であり、かつ中国共産党100周年の重要な1年となる。中所得者層を増やそうとする中、そこまで所得が届いていない相当数の国民の不満を抑え、支持を得る為の食料安全保障であり、住宅価格の抑制であり、雇用機会増加の為の寡占企業への処置であると考える。
また、コロナ禍にもかかわらず2020年の消費小売品の落ち込みが小幅にとどまっているのは、ECプラットフォームの貢献が大きい。ECはここ10年内需拡大に貢献してきたが、アリババの寡占化を抑えつつ、内需拡大をどのように図るのか注目したい。
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