人類の英知④ 「300億年で誤差1秒の時計」と時計産業

前月号では時間計測の技術革新について書きました。今回は、時間とは何かという抽象、および、その真逆の時計産業の覇者の変遷(スイス→日本→スイス)について書きます。

本論に入る前に一点。

さすがNHKと思わせてくれる良番組、パンサー尾形さんによる「笑わない数学」(毎週水曜日)が再開されました。

同番組で、過去に本論で紹介した人類史上最高の数学者の一人、オイラーによる数式:

1+2+3+4+5+……=-1/12

がとりあげられました。正の数字を足すのになぜマイナスになるのか?! これは宇宙が10次元であるかもしれないことを示す数式です。ぜひ、同番組の再放送をご覧ください。

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時間に最小単位はあるのか

時間に最小単位はあるのか

時間に最小単位があるのかどうか?

ゼノンの矢のパラドックス、アキレスと亀のパラドックスなど時間が関連するパラドックスはよく知られています。
後者のアキレスと亀のパラドックスは以下のようなものです。

アキレスと亀が100mのかけっこをします。アキレスは10m/秒、亀は1m/秒で走れるので、アキレスには10mのハンデをつけます。すると、アキレスが10mに達した時には、亀は11mにいます。次にアキレスが11mに達したときには亀は11.1mにいます。次にアキレスが11.1mに達したときには……と続けていくと、いつまでたってもアキレスは亀に追いつけないことになります。

このパラドックスに関する解説は多数なされていますが、(少なくとも私は)「実感としてわかった」には到達していません。どうやら、時間を無限分割できないことに起因するようですが、時間の最小単位とは何なのか……と不思議な気持ちになります。

現在では、時間の最小単位は10-44秒(どんな時間でしょう!)とされているようです。

時間は流れているのか

時間は流れているのか

もう一つ不思議なのは、時間は流れているのか? です。

時間の流れについては、①心理的な方向(人間が過去から未来へと感じる方向)②エントロピーが増大する方向③宇宙が膨張する方向……に流れているといった解説がなされます。

これらのなかでは②が説得力があると思っていたのですが(グラスの水がこぼれることはあっても、こぼれた水がグラスの中に戻ることはありません)、物理学者ブライアン・グリーン著『宇宙を織りなすもの』を読んで驚いたのは、エントロピーが減少する方向に時が流れても良いではないかとの指摘でした。

言われてみればそうだ。結局のところ「時間」が定義されていない以上、「流れている」「流れていない」、その方向についても結論できないと感じます。

③について、スティーブン・ホーキング博士は、宇宙(は現在膨張していることが分かっています。どこに膨張しているのか?も不思議です)が膨張から縮小に転じると時間の流れが反転する、すなわち高齢者が若くなり、そして母親のおなかにかえっていく、になると発表し世界を驚かせました……が、その後、取り下げ、宇宙が収縮に転じるとしても時間の流れは同じ方向としました。

「存在せず!?」 そもそも時間とは何か

「存在せず!?」 そもそも時間とは何か

ニュートンは時間を絶対的なものとして認識しました(絶対時間)。この見方を覆したのがアインシュタインで、時間は空間とともに伸び縮みするものであることがわかっています。

とはいえやはり、時間とは何か、腹落ちする説明はありません。時間は「存在せず」、出来事と出来事の関係性をつなぐだけのもの、との解釈が今では一般的なようです。

圧倒的な高付加価値 スイスの時計産業の復活

圧倒的な高付加価値 スイスの時計産業の復活

さて、抽象はここまでにして、ここからは産業に関してです。

機械式時計の時代、世界の時計産業の覇者はスイスでした。しかし、日本企業が水晶時計を開発・発売すると、性能は優れ価格は安いために、機械式時計への需要は激減し、スイスの時計産業は壊滅的な打撃を受けました。日本の時計輸出額はスイスのそれを1970年代に逆転しています。

しかし、2022年において、スイスの時計輸出金額は236億スイスフラン(4兆円弱)に達し、同国の主力産業になっています(図表1)。内訳は、機械式が139億スイスフラン、電子式が22億スイスフラン。単価をみると、全体1499スイスフラン、うち機械式が3420スイスフラン(50万円)、電子式319スイスフラン。また、時計の生産国別単価をドルベースで比べると図表2のようになっています。

単価50万円。金属やガラスなど原料費を単純に合計すると1000円に満たないでしょう。圧倒的な付加価値です。

図表1_スイスの時計輸出(数量、単価、金額) 図表2_時計の国別単価の比較(2022年、usd)

同国の主要時計企業であるSwatch社の直近期業績は、売上高79億スイスフラン(1.3兆円程度)、営業利益13億スイスフラン(2000億円超)。最も成功している時計企業、もしくはブランド企業と言えるでしょう。

スイスの機械式時計の単価は1980年には51スイスフランでした。コスト的に優位にある新興国の挑戦を受けたときに、低廉品を捨て高付加価値品に特化することは先進国企業の理想の一つです(日本は安い国になりつつありますが)。

おまけ

村上春樹さんシリーズを再開したいと思っていますが、時間について、「ダンス・ダンス・ダンス」(講談社)より。エントロピー増大を村上春樹さんが表現すると「腐敗」になるのですね。

「でも私はずっとあなたのことを好きだと思うわ。それは時間とは関係ないことだと思う」
「そう言ってくれるのは嬉しいし、僕もそう思いたい」と僕は言った。「でも公平に言って、君は時間のことをまだあまりよく知らない。(中略)時間というのは腐敗と同じなんだ。思いもよらないものが思いもよらない変わり方をする。誰にもわからない」

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