攻め続ける、最大手


出典:各社発表や米リコード、CNBCより

ウォルマートをめぐる注目ポイントは、以下の通りだ。

1 外部リソースを取り込み、ECプラットフォーマーの地位を確立
2 リアル店舗ならではの提供価値で差別化
3 注文~受け取りのリードタイムが最短となる「店頭ピックアップ」を
  DXで最適化

消費者行動や競争環境の変化に対応するべく、ウォルマートはビジネスモデル刷新に向け、手綱を緩めていない。
ここ数週間(6~7月)を振り返っても、6月にカナダのEC運営支援大手「ショッピファイ」との事業提携を発表。7月には、全米160店でのドライブスルー型の映画館事業のローンチ、インドの「フリップカート」への約1,300億円の追加出資、保険代理店事業への参入、有料会員サービス「ウォルマート+(プラス)」の開始(メディア報道)など、新規事業・サービスの発表やメディア報道が目白押しであった。

「対アマゾン」の姿勢鮮明に

「アマゾンキラー」とも呼ばれるショッピファイとの連携は、ウォルマートがアマゾンに徹底抗戦するための布陣だ。世界最大のEC支援会社であるショッピファイは、アマゾンのようなECプラットフォーマーと一定の距離を保ちたい(ブランドの世界観を自らの管理下に残したい)と考える多くのブランド企業を取り込んで急成長してきた。今回の提携によって、ショッピファイを利用するブランドの商品が「ウォルマート・ドットコム」のマーケットプレイスで購入可能となる見通しだ。

ウォルマート・ドットコム躍進の陰で、同社グループのEC戦略を牽引してきた「ジェット・ドットコム」は今年静かにサービスを終了している。2016年に買収されたジェット・ドットコムは、打倒アマゾンに燃える幹部社員と顧客基盤という2つの無形資産をウォルマートにもたらした。
4年前にはEC領域においてアマゾンの背中も見えない位置を走っていたウォルマートは、ジェット・ドットコムの買収やショッピファイとの事業提携など積極的な外部リソースの内部化・活用によって、果敢な追い上げを見せている。

「ウォルマート+(プラス)」と仮想敵「アマゾンプライム」

前述した最新ニュースのなかで筆者が最も注目したのは、有料会員サービスの「ウォルマート+(プラス)」である。短期配送サービス(2日以内)や会員向け特別価格等の特典が定額で利用し放題となるサービス設計であり、「アマゾンプライム」を仮想敵としていることは明白だ。一部報道では、ウォルマート+(プラス)の年会費は98ドルと観測されていて、これは従来展開していた「デリバリー・アンリミテッド(2日以内の配送サービス)」の年会費と同水準にして、アマゾンの米国におけるプライム会員費(119ドル/年)を下回る設定である。
もちろん、アマゾンプライムの会員特典には、購入商品の即配サービス(注文当日~2日の商品発送)に加えて、音楽や動画といったデジタルコンテンツ視聴の追加特典等も含まれており、両社の年会費は単純に比較できない。ただし、ウォルマート+(プラス)にも、いくつかの追加特典が用意された。目玉のひとつはガソリンの会員価格(割引)販売である。
米国の消費者の1人当たりのガソリン消費量は日本の3倍以上に達することから、割引販売が家計消費に与えるプラス効果は大きいだろう。また、店舗(駐車場)を映画館に変える新規事業も、リアル店舗を持つウォルマートならではの着想だ。

「受け取り拠点」としてのリアル店舗

ウォルマートの競争戦略における最大のポイントは、受け取り拠点としての店舗ネットワークだ。約4,700店の同社の店舗網は、各店から半径10マイル(≒16KM)の商圏を想定すると、全米の消費者の約9割をカバーできると言う。
10マイル(≒16km)ならば、車で往復1時間以内の距離だ。オンラインオーダーと決済を事前に済ませておけば、店舗到着後のショッピング体験に費やす時間や体力(駐車する、カートを押して商品を選んで回る、レジを待って会計する等)、そして不要不急の他人との接触を回避できる。
ウォルマート・ドットコムでは、オンラインオーダーの商品受け取り方法として、宅配と店頭ピックアップの2つのオプションを提供しているが、利用者数は後者の店頭ピックアップに軍配が上がると言われる。消費者にとっての魅力は店頭ピックアップが無料サービスであることに加えて、商品注文から受け取りまでのリードタイムの短さ(上述の試算だと1時間程度)にあるだろう。
店頭ピックアップは、供給側に過度な負担がかからない点においてサービス設計として安定的であり、利用者に対しても、他者との接触や手間暇(店内の回遊やレジ係との近接)を減らし、宅配を待つ時間の短縮といったメリットをもたらす。

まとめ

新型コロナとアマゾン、2つの脅威を退け続ける米国ウォルマートの強さは、

1 外部リソースの活用(事業提携や買収)によるECプラットフォーム機能の
  強化
2 リアル店舗ならではの商品・サービスの割引販売
3 オンライン注文・決済と店頭ピックアップによる顧客体験の向上

の三つに支えられている。ビジネスモデルの再構築が待ったなしの日本の小売業・サービス業にとって、示唆の多い成功事例と言えるだろう。

関連記事

GDP2065年までに4割減予想 中小企業の生産性向上が不可欠

日本の生産年齢人口がこのまま減り続け、企業の生産性が向上しなければ、日本のGDPは現在より2065年には約4割減ることになる。そうならないためには、企業数の99%以上を占める中小企業の生産性向上が不可欠だ。中小企業再編の議論が高まる中、特に地方企業が何をするべきか、考察した。

テスラの躍進とESG/SDGs投資 GAFAに続くプラットフォーマー

イーロン・マスク氏が率いるテスラ社の時価総額が2020年中にトヨタ自動車を上回り、一時US$8000億を突破し、既に4倍近い差をつけた。20年中に7倍以上という株価上昇の背景は、ESG/SDGs投融資資金の拡大、同氏が率いる宇宙開発会社「スペースX」社(非上場)の企業価値急拡大などと推測される。この記事では、テスラの急伸長の背景にあるESG/SDGs投資の拡大と、エネルギー分野におけるプラットフォーマーを視野に入れた成長戦略について考察する。

工作機械受注に回復感 中期的なEVシフトのリスクとは

日本工作機械工業会が公表している工作機械受注は、5月をボトムに回復しており、11月(速報)は前年同月比8%増の882億円と2年2カ月振りの前年比プラスに転じた。一方で、国内外で電気自動車(EV)の普及を加速させる政策を打ち出すニュースも相次いでいる。EVシフトは金属部品の使用を減らすことにつながり、工作機械業界にとってネガティブファクターであり、中長期的なリスク要因となりそうだ。

ランキング記事

1

パワー半導体の世界シェアは?注目市場の今後の動向を解説

パワー半導体(パワートランジスタ)は、家電や電気自動車をはじめとして、さまざまなデバイスの電源管理に使われています。 多くの分野で需要が伸びており、長期的な成長が期待できるマーケットです。 日本の企業や大学発ベンチャーが競争力を保っている分野でもあり、「パワー半導体強国」として世界市場でのシェアを獲得するべく、積極的に研究開発を行っています。 本記事では、世界規模で成長をつづけるパワー半導体の市場規模や、今後の展望を解説します。

2

コロナ禍に有効なアーンアウト条項とは シンガポール案件からの考察

コロナ状況下でもASEAN地域においてPEファンドによる売却が積極的に行われている。アーンアウト条項を通じ、コロナ状況下のリスクを買い手と売り手で分担している例もみられ、危機時の参考事例として紹介・考察したい。

3

リカーリングビジネスはサブスクリプションとどう違う? 新しい収益モデルを解説

従来の商品やサービスを売ったら終わりの「買い切り型」モデルとは異なるビジネスモデルが目立ちます。 そのなかのひとつが「リカーリング」です。リカーリング型のビジネスには様々なメリットやデメリットがあります。 本記事では、リカーリングのメリット・デメリットや、サブスクリプションとの違いについて、具体例を挙げながら解説します。

4

事業承継M&A オーナー経営者に配慮すべき4つの視点

事業承継M&Aを進める際に最も大切なのは、売り手側のオーナー経営者との向き合い方だ。多くの場合、オーナー経営者は大株主であり、資産家であり、地域の名士でもある。個人と会社の資産が一体となっている場合も多く、経済合理性だけでは話が進まない場合も多い。M&A交渉においてオーナー経営者と向き合う際の留意点を4つの視点からまとめてみた。

5

破壊的イノベーションと持続的イノベーションの違いは?メリットや事例を解説

破壊的イノベーションとは、既存事業のルールを破壊し、業界構造を劇的に変化させるイノベーションモデルです。 この概念は、ハーバード・ビジネススクールの教授であった故クレイトン・クリステンセン氏の著書『イノベーションのジレンマ』で提唱されました。それ以降、飽和状態となりつつある市場に必要なイノベーションとして注目されています。 本稿では、破壊的イノベーションの理論や企業の実践例から、破壊的イノベーションを起こすために必要となる戦略までを解説します。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中