セールス・イネーブルメントとは?

セールス・イネーブルメント(Sales Enablement)とはデジタ ルテクノロジーを活用することで、営業プロセスの効率化、育成・研修制度の整備、各プロセスの目標達成率の可視化、部門間の連携を可能にして、営業組織を強化する考え方です。

デジタルテクノロジーとは、SFA(営業支援ツール)やMA(マーケティングオートメーション)、CRM(顧客関係管理)ツールなどが挙げられます。

SFAは企業の営業部の情報や業務の自動化を分析して、ボトルネックの発見や効率化を図るシステムです。MAは顧客開拓におけるマーケティング活動を可視化・自動化するツール、CRMは顧客を中心に考えてビジネスを展開し、利益の最大化を目指すマネジメントの手法のことを指します。

つまり営業活動をデータ化・可視化して、分析することによって営業組織の目的に対してもっとも効果的な施策を設計し、営業プロセスの最適化と効率化を確立していくことです。

セールス・イネーブルメントが注目される背景

セールス・イネーブルメントが注目される背景にはいくつか要因があります。

営業プロセスの属人化と感覚営業の打破

営業活動は、営業マンの個人的裁量に委ねられる部分が多いため、属人化する傾向にあります。営業資料、ナレッジ、ノウハウ、顧客ニーズ……など営業活動のさまざまなモノやコトが属人化しており、営業組織全体の強化と平準化を困難にしています。

また人事評価制度もこの属人化に輪をかけています。営業は結果が重視されるため、プロセスが評価されにくくなっています。そのため、営業プロセスにおける課題抽出がされずに、PDCAが回らないという悪循環となります。

結果として、一部のトップセールスに営業組織が頼ることになり、育成や研修をおこなっても効果が出にくい、ということが常態化しています。そのため、アマゾンやセールスフォース・ドットコム、マイクロソフトなど世界の名だたる企業が取り入れている、個人に依存しない営業組織の構築の手法が注目を集めています。

マーケティング、人事部門と営業の関係強化

業務のデジタルシフトが進んだ結果、組織ごとのシステムの孤立が起きやすくなっています。例えば、マーケティング部門がMAや名刺管理ツールで見込み客を管理する。あるいは、営業部門が顧客情報や売上管理をSFAでおこない、採用・人事が採用管理ツールを利用するなどです。

つまり、各部門の業務効率化は成し遂げられていても部門間連携ができず、顧客データや営業ノウハウ・ナレッジなどが一元管理されないため、営業組織全体の最適化にはいたりません。

マーケティングが獲得した見込み客を営業にどう接続するのが理想的なのか、どこからどこまでの営業の業務領域なのか、を整理しながら、人事・採用とも連携して最適な育成プログラムを構築します。さらに的確なスキルセットをもった人材を獲得するなど、部門を越えて営業組織の改善をはかる必要があります。

セールス・イネーブルメント構築の5ステップ

セールス・イネーブルメントを導入するには、下記の手順を参考にしてください。

ステップ1:専任人材・チームをつくる

セールス・イネーブルメント担当者は専任人材、もしくはチームで担当するのが良いでしょう。その理由は、営業組織だけではなくマーケティングや人事、管理部門とも連携する必要があること、データの分析、業務の見直し、トレーニングコンテンツの提供など業務も多岐にわたるためです。また経営陣や営業トップが全社にセールス・イネーブルメントの有用性をメッセージングすることが重要です。部門間を行き来しながら連結させることが役割となりますので、全社的な理解がないと担当者のスピード感が失われてしまいます。

ステップ2:営業データの収集と整備

まずはSFAやCRM、MAなどに蓄積された営業データを収集します。営業プロセスのどのフェーズに課題があるのか、どのようなトレーニングをおこなうと効果があるのか、最適なツールは何か、などを裏付けし、可視化をするためにまずデータを整備しなくてはいけません。

リードから有効リード転換率、有効リードの商談率、商談からの受注率など営業プロセスにおける次フェーズへの転換率を分析します。それだけでなく、展示会、コーポレートサイト、オウンドメディアなどチャネル別の転換率など多角的に分析をします。売上の貢献度を数値化していくことで、注力するポイントや課題点が洗い出せます。

ステップ3:KPIの設定とプログラムの開発

次に営業部門が目指すべきKPIを設定します。収集したデータをもとに課題を抽出して、適切なトレーニングコンテンツや営業ツールの提供をおこないます。例えば、ハイパフォーマーのデータを分析してコンテンツを開発する手法や、営業プロセスごとの課題の解決策、顧客のライフサイクルなど継続的に提供していく必要があります。

ステップ4:成果の評価と検証

育成・教育コンテンツを提供した後は、従業員のコーチング履歴を蓄積し、コーチング後の成果を検証します。いつ、誰が、どのトレーニングを受けたのかを把握して、トレーニング後の営業成果と比較して効果検証をしましょう。

ステップ5:サイクルの確立

セールス・イネーブルメント実施後、効果検証結果を振り返ります。効果が低い施策は見直しが必要となります。また、効果があればその施策を継続するのか、それとも次のレベルへ引き上げるプログラムを開発するのか、経営陣や営業トップと連携して決めていきましょう。これによりセールス・イネーブルメントのPDCAサイクルが確立できます。

セールス・イネーブルメントの取り組み事例:Sansan

セールス・イネーブルメントへの取り組みについてSansanの事例を紹介します。

法人向け名刺管理サービス「Sansan」を運営する同社は、顧客ターゲットの拡大により、営業メンバーの「生産性」がさがってしまうことを課題としていました。

そこで圧倒的に人員が足りていなかったため、セールス・イネーブルメントの一環として、採用とオンボーディングに取り組みました。今まで、「現場に採用の当事者意識がない」ということが一つの課題でした。

そこで、離職率や営業1人あたりの生産性、ランプタイム(100%活躍するまでの期間)などを計算。その結果に基づき「この時期までのこの人数がいないと営業目標を達成できない」ということを示し、現場のマネージャーを巻き込んで採用とオンボーディングすすめました。

結果として、以前の採用数は月に2~3人ほどであったのが、3か月間で25人の採用することになったのです。

また、入社後のオンボーディングについても半年間のプログラムを作りました。これにより、新しいメンバーを現場が手取り足取り教えていたのが、プログラムにより営業メンバーの独り立ちまでのプロセスが効率化。また、教える側の生産性が向上し、ストレスも軽減できました。

このようにセールス・イネーブルメントを立ち上げることによって、採用から人材開発までPDCAがまわせるようになり、結果として今後の営業組織の強化につながります。

グローバル時代、DX時代にはスピーディな変化が必要

セールス・イネーブルメントは、最近脚光を浴びている考え方ですが、急速に浸透し始めています。これまで営業の属人化から脱却して、平準化をはかるのは困難でしたが、SFAやCRM、MAなどの登場で、営業プロセスも科学的に分析することが可能になりました。

常時、営業活動を分析して最適な改善をおこなっていくことで、営業の勝ちパターンを確立できますし、PDCAサイクルが根付くことで変化に対応できる強固な組織をつくることができます。

関連記事

戦略と戦術の違いは?具体例やマーケティングにおけるポイントを解説

企業が成長し続けていくために、全体の方針を示す「戦略(経営戦略)」を立てることは必須です。 しかし、戦略を立てるだけでは、経営には不十分といえます。自社の強みを活かし、戦略を実現するために競合とわたりあっていくには、具体的な方法である「戦術」の策定も必要です。 戦略と戦術は、似ているようで異なります。そこで本記事では戦略と戦術の違いを解説し、事例やポイントを紹介します。

子会社設立のメリット・デメリットとは?経営者視点から徹底解説

子会社とは、意思決定の場面で親会社の支配を受ける会社のことです。節税効果の向上や経営の安定化などのメリットが期待され、M&Aなどでもよく採用されています。 メリットが注目される子会社設立ですが、もちろんデメリットもあります。また、子会社の設立や管理に際してのポイントを把握しておくことが大切です。 そこで本記事では、子会社の意味とともに、子会社設立のメリット・デメリット、子会社を有効活用するためのポイントについて経営者視点から解説します。

「経営論点主義の弊害」を防げ コーポレートガバナンス強化のための取締役会運営の改善策

コーポレートガバナンス・コードが2021年6月、再改定された。上場企業のコーポレートガバナンスの強化が求められる中、独立社外取締役の役割がより一層重要となってきている。しかし、独立社外取締役にとって、実質的な議論がなされるような取締役会運営ができているのであろうか。本稿では、「経営論点主義の弊害」を取り上げ、それについての対応策を述べる。

ランキング記事

1

アシックスの逆襲「箱根駅伝着用ゼロ」から復活

2022年の箱根駅伝は、青山学院大学が6度目の総合優勝を遂げた。記録は自らの大会記録を大幅に更新する10時間43分42秒。この記事では、レースの高速化を支えるランニングシューズを例に、21年の大会で「箱根駅伝着用ゼロ」に沈んだアシックスの巻き返し戦略に焦点を当てる。

2

バルミューダ事例に学ぶインサイダー取引対応

2021年11月中頃、洗練されたデザインが人気の家電メーカー「バルミューダ」が華々しくスマートフォン市場に参入といった話題に、冷や水を浴びせるようなニュースがメディアを賑わせた。社外取締役によるインサイダー取引に係る社内規程違反と関係者の処分についてだった。本件を題材にインサイダー取引対応について考えてみたい。

3

2022年展望 不動産 住宅販売のリスクは、金利動向次第

2020年から2021年にかけて住宅の売行きが増加して、特に戸建住宅の売行きが好調だ。しかし、世界各国でインフレが進行しており、各国の利上げ次第では日本の長期金利にも影響し、高額物件の販売にブレーキがかかる可能性もある。

4

2022年展望 中国 急激な規制から安定的な政策へ

中国は2021年、経済や文化、教育など様々な方面で、規制や制限を強化した。前年の急激な政策の影響を和らげるため、2022年の中国の経済政策は「穏」(安定)に変化していくとみられる。

5

2022年展望  「二刀流」経営の本質に迫る

2021年、米大リーグの大谷翔平選手は投打にわたる「二刀流」として大活躍した。「二刀流」は、非常に難易度が高い。しかしながら、経営においても変化が早い昨今の経営環境に対応するには、複数の業界での経験・知見を持つことはとても有効だ。筆者自身も弁護士としての経験・知見が、コンサルタントや経営者としての仕事に生きている。2022年以降の経営の注目トレンドは「二刀流」であり、本稿ではその本質に迫る。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中