印刷業界とは

印刷業界は、印刷行為に関連した商取引と、取引に付随した産業の総称です。

経済産業省の2020年の工業統計速報によると、印刷・印刷関連業、印刷業、刷版を製造する製版業、製本業、印刷物の加工を手がける印刷物加工業、印刷の補助業務をする印刷関連サービス業の7業種に分類されています(注1)。

2020年時点で、従業員4人以上の事業所数は、9,636ヶ所(対前年比2.5%減)で、19年の製品出荷額は約4兆8,270億円(前年とほぼ横ばい)となりました。

印刷製品の類型は、下記の7分野です。

  • 出版印刷
  • 商業印刷
  • 証券印刷
  • 事務用品印刷
  • 包装印刷
  • 建築材印刷
  • その他印刷

そのうち、出版印刷と商業印刷が生産金額の5割以上を占めます(注2)。

出版印刷は新聞や雑誌など商業印刷物に対する印刷分野、商業印刷は一般企業や団体での事業活動に使用する印刷物の印刷分野を意味し、それぞれが市場をけん引しています。

印刷業界の生産方式は、基本的に印刷会社を中心とした受注生産です。
製品の出荷先は出版社や新聞社など幅広く、製品特性や自社の稼働状況によって、7業種にあげた印刷物加工会社などに業務委託する流れとなっています。

印刷業界の主要企業

経済産業省の2020年工業統計速報によると、印刷業界の事業所数は、全32産業のうち金属製品や食料品などに次いで6番目に多いです。

不況といわれる中でも比較的大きい業界規模に位置します(注1)。

実際、業界の上位企業は、産業の壁を超えた影響力を持つと言っても過言ではありません。

印刷業界で主導的位置にいながら事業を展開する主要企業を紹介します。

凸版印刷

凸版印刷は、創業100年を超える老舗大手印刷会社で、業界で高い売上高を誇ります。

事業分野は、情報コミュニケーション事業、生活・産業事業、エレクトロニクス事業の3つです。
約200社の子会社と連携しながら、多彩な事業を展開しています。

2020年12月には、SDGsの達成に向けた「TOPPAN Business Action for SDGs」を策定しました。

業界最大手として社会変化に対応した事業の展開が期待されます。

大日本印刷

大日本印刷は、凸版印刷とともに、印刷業界の二強といわれる企業です。

主力事業は、印刷事業と清涼飲料事業の2つで、それぞれに情報コミュニケーション部門と生活・産業部門、エレクトロニクス部門、清涼飲料部門を設け、事業を展開しています。

昨今は、印刷と情報の強みを掛け合わせ、IoTやデータ流通、モビリティなどの事業に注力。

成長可能性が高い事業に取り組み、事業強化を進めています。

NISSHA

NISSHAは、特殊印刷を軸に事業展開している印刷会社です。

国内外に多くのグループ会社を設け、グローバル展開の実力に強みを持ちます。

事業分野は産業資材とディバイス、メディカルテクノロジー、情報コミュニケーションの4つです。

主力製品として、「成形同時加飾技術」やフィルム基盤のタッチセンサーなどを製造しています。

同社は、これまでに培ったグローバルな事業基盤を活用し、収益拡大策の構築を目指しています(注5)。

共同印刷

共同印刷は、情報セキュリティから、生活・産業資材まで幅広く事業を展開する総合印刷会社です。

印刷物という枠組みを超えた幅広い事業を展開し、成長を続けています。

事業セグメントは、情報コミュニケーション部門、情報セキュリティ部門、生活・産業資材部門の3つです。

同社は今後、事業環境の変化に対応したビジネスを展開するとしています(注6)。

印刷業界が直面する課題とは

印刷業界は、インターネットの普及による紙媒体の需要減や電子書籍の登場などの影響により、市場の衰退という大きな課題に直面しています。

業界各社は、外部の専門業者に委託するBPOの拡大など、新たな収益源の獲得を模索していますが、売上高の漸減に歯止めをかけることができていません。

ここからは、市場の衰退を中心に、印刷業界が直面する課題について解説します。

デジタル化によって縮小する市場

経済産業省の工業統計によると、国内の印刷・同関連出荷額は、1991年に約8兆9,000億円のピークに到達した後、漸減を続けています。

2018年の印刷・同関連出荷額はついに4兆台にまで落ち込みました。

ピーク時から4割近く市場が縮小し、厳しい状況が続いています。

出版、商業印刷の減少

印刷業界の市場が縮小を続ける背景には、出荷額の5割以上を占める出版印刷と商業印刷の減少があります。

統計サイト「GD FreaK」によると、の出版印刷、商業印刷の生産額は、2020年3月~2021年3月の1年間でそれぞれ5.6%減、11.5%減となりました。

いずれも過去4〜5年にわたって生産額が減少しています。

出荷額の減少は、インターネットの登場で印刷媒体のシェアが奪われていることが主因です。

人口減少の影響で、企業や自治体からの注文が減っていることも、出荷額減少に拍車をかけています。

市場の寡占化

印刷業界は、凸版印刷と大日本印刷の2社による市場の寡占化が進んでいます。

売上比でみた2社の市場占有率は6割に及び、中堅以下の企業は厳しい経営状況に置かれています。

市場の寡占化は、出版社や新聞社などエンドユーザーからの発注が、大手企業に集中する状況を招きます。

この結果、中堅以下の印刷会社は売上が減少し、印刷機械など高固定費を抱える中で、厳しい経営を迫られてしまうのです。

価格破壊による収益構造の悪化

印刷業界は、価格破壊により収益構造の悪化が進んでいると言われています。

主に、低価格なネット通販印刷の台頭が原因です。

ネット通販印刷は、ネットを介して発注できる利便性から、もともと地場の企業が受け持っていた仕事を域外に流出させています。

これにより、多くの印刷会社が、対抗策として値下げせざるを得ない状況に陥っているのです。

今後の印刷業界はどうなる?進行中の打開策を紹介

厳しい状況に直面している印刷業界ですが、新たな業態開発や海外事業など、現状打開に向けた取り組みを進めています。

以下で紹介する取り組みは、いずれも新たな収益源の確保策で、業界の動きを如実に表すものです。

そうした業界各社の動きを知ることで印刷業界の未来予測がしやすくなるかもしれません。

新たな業態開発

印刷業界は、既存の印刷事業から販促のためのソリューション提供やコンサルティング業務への転換を図るなど、新たな業界開発が進んでいます。

例えば、経済産業省が好事例として紹介するニシカワ(東京都東大和市)は、オンデマンド対応できるデジタル印刷機の導入を行い、情報加工業への業態転換に取り組んでいます(注7)。

同社は制作会社を買収し、VRやARといったバーチャルプロモーション事業、電子化した市町村自治体の広報誌を閲覧できるサイト運営も行っています。

情報加工業を切り口に、新たな収益源を模索している企業です。。

海外事業の加速

印刷業界は、印刷や製本など工程の一部を海外で行うなど、海外事業の展開を加速させています。

このうち、凸版印刷と大日本印刷はアジアや欧州に海外拠点を設けるだけではなく、海外企業に対しM&Aを行っています。

海外では、包装や建材、パッケージングなど産業印刷分野に力を持っている印刷会社が多いです。

そのような海外企業とのM&Aは企業の競争力向上に寄与します。

直近にみられるスペインやインドネシアの企業とのM&Aだけではなく今後も事業拡大のために他地域での海外M&Aを実施する可能性はあるでしょう。

DXの導入

印刷業界では、DX活用の動きが広がっています。

東証一部上場のラクスルは、全国の印刷会社が保有する印刷機の空き時間を利用したシェアリング・エコノミー型サービスを2013年3月にスタートしました。

他にも、オンデマンド印刷の領域で、全国の印刷会社とリアルタイムに取引できる発注プラットフォームをリリースするなど、革新的なサービスを次々と打ち出しています。

印刷工場の生産管理にIoTを導入するDXは、生産性向上に大きく貢献する取り組みです。

得意分野への注力

印刷業界は、「スクリーン印刷用製版に特化する」「電子よりも鮮明な色彩を実現する」など得意分野への注力で、生き残りを図る企業があります。

得意分野への特化は、売上を確保する事業となるだけでなく、企業間の業務提携が進む強力なインセンティブになることも、わかっています(注8)。

こうした取り組みは、年平均成長率や営業利益率が高水準な小規模事業者に目立つようです。

印刷業界が不況から抜け出すための鍵は「脱却」

印刷業界は、インターネット普及の影響を受け、生産高が漸減しており業況が厳しい業界です。

それでも、新たな業態開発や海外M&Aなど、現状打開に向けた対策を打ち始めています。

他業界の人であっても、こうした印刷業界の動向は看過するべきではありません。

印刷業界は、紙媒体のマスメディアから官公庁、一般企業まで、産業と密接に関わっている業界です。

経済の根幹を担っていると言っても過言ではなく、業界の実情を知ることで、今後のトレンドが読みやすくなるでしょう。

Frontier Eyes Onlineでは、印刷業界など、ビジネスで使えるさまざまな情報を提供しています。
ぜひメルマガに登録してみてください。

【引用・参考】
注1 2020年工業統計速報|経済産業省
注2 2019年の印刷業の生産金額は3704億円、包装印刷のみプラス成長|公益社団法人日本印刷技術協会
注3 凸版印刷株式会社四半期報告書|凸版印刷株式会社
注4 大日本印刷株式会社四半期報告書|大日本印刷株式会社
注5 NISSHA株式会社有価証券報告書|NISSHA株式会社
注6 共同印刷株式会社四半期報告書|共同印刷株式会社
注7 METI Journal|政策特集地域未来牽引企業 vol.4印刷業の新たなビジネスモデルに挑戦情報加工業を目指すニシカワ
注8 印刷産業における取引環境実態調査|令和元年度戦略的基盤技術高度化・連携支援事業 

関連記事

村上春樹さんから経営を学ぶ⑱「経済にいささか問題があるんじゃないか」

オリンピックが始まります。かつて日本のお家芸だった男子マラソンでは、アフリカ勢に押され、栄光は過去のものになりました。さて、経済では日本の台頭に苦しんだ米国は、正面から争うのではなく「競争の場」を変えることで復活しました。今度は日本がそれをやる番です。それでは今月の文章です。

「前経営陣批判」の罠 現経営陣のネガティブ・バイアスを見分けよう

業績不振の企業経営者の多くは、前経営陣の負の遺産を(無意識的に)強調する傾向がある。歴史を紐解くと、新たな為政者は自らの正統性を主張するため、その前の時代を必要以上に貶めている。インタビューなどで経営陣と接する第三者として我々は、この精神構造を十分に割り引いて企業分析する必要がある。

地銀再編とは? (予想される変化と今後の動向を解説)

地銀再編の言葉が使用されて久しいが、今後の再編に対する見方は様々だ。その場合に重要なことは、地方銀行の収益性向上の視点のみならず、地銀再編によって顧客(消費者・企業)に対してどのようなメリット・デメリットがあるかの視点である。本稿では、顧客視点からみた地銀再編の姿について解説する。

ランキング記事

1

地銀再編とは? (予想される変化と今後の動向を解説)

地銀再編の言葉が使用されて久しいが、今後の再編に対する見方は様々だ。その場合に重要なことは、地方銀行の収益性向上の視点のみならず、地銀再編によって顧客(消費者・企業)に対してどのようなメリット・デメリットがあるかの視点である。本稿では、顧客視点からみた地銀再編の姿について解説する。

2

「前経営陣批判」の罠 現経営陣のネガティブ・バイアスを見分けよう

業績不振の企業経営者の多くは、前経営陣の負の遺産を(無意識的に)強調する傾向がある。歴史を紐解くと、新たな為政者は自らの正統性を主張するため、その前の時代を必要以上に貶めている。インタビューなどで経営陣と接する第三者として我々は、この精神構造を十分に割り引いて企業分析する必要がある。

3

世界でシェアの高いドローンメーカーは?国内メーカーの展望も解説

ドローンは、世界中の産業、工業など幅広い場面で活躍しています。無人で飛び回りさまざまな業務をこなすドローンは、使い方次第でビジネスを大きく変えられる先進技術です。 ドローンの有用性に注目が集まる中、ドローンのメーカー間のシェア争いも激化しています。ドローン市場はメーカーの新規参入や入れ替わりが激しいのが特徴です。日本のドローンメーカーも、より高度な技術開発を急いでいます。 そこでこの記事では、世界でシェアの高いドローンメーカーを解説。また世界でシェアを伸ばす国内ドローンメーカーについてもご紹介します。

4

白酒偏重、中国の酒造業を分析 「貴州茅台酒」時価総額トヨタ超え

中国の酒造業界で、蒸留酒「白酒」(báijiǔ)の割合が増加している。「貴州茅台酒」(Moutai,貴州省)のように、時価総額でトヨタ自動車を上回る企業も現れた。宴席の減少、健康志向、高齢化社会に向かう中でも、どうして拡大傾向を見せているのか。中国の酒造業の現状について考察する。

5

横浜市のIR(統合型リゾート)事業者有力候補 ゲンティン(Genting Singapore)とは

横浜市における統合型リゾート(IR)の事業者の選定が大詰めを迎えている。2021年6月11日に締め切った公募では、ゲンティン(Genting Singapore)とマカオでカジノを運営するメルコ(本社は香港)を中心にした2グループが応募したとみられる。この記事では最有力と目されるゲンティンを通じ、IRの方向性や他企業の参入機会を探る。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中