まずは手元流動性の確保

水島臨海工業地帯

3月期の決算発表では、多くの企業が年間の業績予想の公表を見送るとともに、足元の手元流動性の確保を重視するとのコメントが相次いだ。
手元流動性を確保するために、銀行からの融資枠(コミットメントライン)の設定の他、設備投資抑制やコスト削減が、重要な経営課題になってきている。
次世代通信規格(5G)関連の投資は拡大基調が続きそうであるが、自動車、エネルギー関連などの業績回復には時間がかかりそうであり、設備投資の回復ペースは緩やかになる見込みだ。

2020年度の設備投資は抑制の方向へ

20年1~3月期の決算発表では、新型コロナが業績に与える影響が不透明であるため、21年3月期予想を非開示とする会社や20年12月期予想を取り下げる会社などが相次いでいる。
決算発表を終えた企業の多くで、設備投資を抑制することが表明されている。
自動車業界では、トヨタ自動車は21年3月期の設備投資額を前年比微減の1兆3,500億円としているが、その他の自動車及び自動車部品会社は投資抑制のスタンスを強めている。
電機業界では、日本電産が21年3月期の設備投資額を前年比5%増の1,400億円としているが、三菱電機、村田製作所などでは前年比で3~4割削減する見込みだ。
このほか、鉄鋼業界、造船・重機業界などは、収益環境が大幅に悪化する見通しであるため、20年度の設備投資を抑制すると公表している。

4月の工作機械受注は約10年振りの低水準

受注と工作機械受注推移グラフ
設備投資の先行指標として、直近では2つのデータが開示された。1つは内閣府の公表する機械受注統計である。機械受注統計では、3月の船舶・電力を除く民需の受注額(季節調整済み)は前月比0.4%減と前年割れながらも、市場の事前予想の7.0%減を大幅に上回り、4~6月予想が前月比0.9%減との見方が示された。この小幅な落ち込みとの見方は株式市場で好感され、発表後の設備投資関連銘柄の株価は上昇に転じた。
一方で、日本工作機械工業会が公表した4月の工作機械受注は前年同月比48.3%減、前月比27.5%減の561億円と、リーマン・ショック後の2010年1月以来の600億円割れとなった。生産が落ち込んでいる自動車や航空関連向けが不振である他、顧客の投資計画の延期や受注のキャンセルなどもでている。
この2つのデータは、リーマン・ショック時にはともに大きく落ち込んだが、現時点では大きな乖離がみられる。機械受注統計の4~6月予想は、3月末時点の調査であるため、コロナの影響を織り込んでいるとは言い難い。4月の工作機械受注の動向を勘案すると、機械受注統計も弱含む公算が強そうだ。

自動車の世界販売台数、リーマン・ショック時を上回る落ち込みに

工場の自動車組み立てレーン

今後の設備投資を占う上で、自動車業界の動向が重要となりそうだ。米国の調査会社であるIHS Markitでは、5月20日、世界の自動車販売台数は前年比22.9%減の6,920万台になるとの予想を公表した。
この予想値は、新型コロナの影響がでる前の水準から約2,000万台引き下げられている。2020年の下落率は、リーマン・ショック時(2007年7,152万台→2009年6,468万台)を大幅に上回ることになる。

ただ、5月に入って、コロナによる経済活動停滞の影響が世界的に緩和されつつあるため、四半期ベースでみると、世界の自動車販売は4~6月がボトムとなりそうだ。トヨタ自動車では、世界の自動車市場は、4~6月をボトムに回復に転じ、2021年前半には前年並みに戻るとの見方を示している。
自動車及び自動車部品業界の設備投資に関しては、20年度の収益が急速に悪化することに加えて、手元流動性の確保を重視していることなどを勘案すると、回復に時間を要すると思われる。

まとめ

リーマン・ショック後の設備投資は急回復を示したが、これは、中国の大規模な経済対策、中国の自動車やスマートフォンなどの販売拡大、米国の自動車販売の回復などが牽引役となった。ポストコロナでは、自動車、航空機、エネルギー業界などの収益回復には時間がかかるとみられており、設備投資の回復は緩慢なものにとどまる公算が強そうだ。加えて、最近の米中貿易摩擦の再燃もネガティブ要因として懸念されるところである。

関連記事

中国が席巻、スマホゲームの新潮流~中国の開発力と資金力の活用~

中国のゲームが、世界を席巻している。PCオンラインゲームやスマホゲームで世界一の市場に成長しているのに加え、開発力でも圧倒している。テンセント(騰訊)など中国大手は、豊富な資金を背景に各国のゲームメーカーに出資。日本のスマホゲーム市場でも、「荒野行動」(NetEase)など、中国開発タイトルが上位にランクインしている。

クラウドキッチンとは?Uber Eatsとともに変貌を遂げる飲食ビジネスのこれから

新型コロナウイルスの流行と、約2ヶ月に及ぶ緊急事態宣言による人々の外出自粛は、外食産業に深刻な影響をおよぼしています。一方で、ここ数年飲食業界で話題になっていた「クラウドキッチン」が、コロナショックによってさらなる注目を集めることになりました。 クラウドキッチンは、ネット注文&デリバリーに特化した新しいビジネスモデルです。Uber Eatsなどのデリバリーアプリの普及に後押しされる形で拡大しつつあるクラウドキッチンは、今後の飲食ビジネスを変容させる可能性を秘めています。本記事はクラウドキッチンについて、その仕組みや特徴、クラウドキッチンを活用するメリットなどを解説していきます。

エッジAIとは?概要からクラウドAIとの違い、事例まで解説

カメラを使った「顔認証システム」や、無人での自律走行が可能な「ロボット農機」など、末端のデバイス(カメラ、農機)に直接学習モデルを実装するケースが増えてきました。システムの末端(エッジ)にAIを搭載しているため、この技術を「エッジAI(edge AI)」と呼びます。 エッジAIの市場規模は年々拡大をつづけ、多くの産業分野で注目を集めています。本記事では、エッジAIの概要やクラウドAIとの違いについて、実際の導入事例を紐解きつつ解説します。

ランキング記事

1

新たな消費スタイル「トキ消費」とは?モノからコト、さらに次の消費行動へ

誰もがスマートフォンを持ち、SNSを通じてリアルタイムに情報や体験を共有する現代、「トキ消費」という新たな消費スタイルが生まれています。企業の経営者やマーケティング担当者は、最新の消費行動やニーズのトレンドを抑え、新たな戦略を立てなくてはいけません。本記事では、新たな消費スタイル「トキ消費」や「イミ消費」の特徴や、従来の「モノ消費」「コト消費」との違いについて、具体例を挙げながら解説します。

2

村上春樹さんから学ぶ経営①~作品に潜む成功へのヒント~

弊社のネットメディア立ち上げにあたり、できれば面白いことを書きたいと考えました。筆者の出自はハイテク産業の調査であり、ハイテク産業に関するあれこれを書くことが期待されていることでしょう。ただ、それではつまらない。なにせ私の著作の一つは『経営危機には給料を増やす ~ 世界一位企業をつくった天邪鬼経営』(日本経済新聞出版)。もちろん、時にはハイテクさんに関することも書くとして、変わった切り口で経営を議論していきたいと考えました。

3

ドローン宅配のメリット&課題を解説!物流に革命を起こすのはAmazonか?楽天か?

かねてから物流業界は、ドライバー不足や再配達の増加が課題とされていました。そこに、新型コロナウイルスの影響で宅配需要が急増し、物流業界はいまだかつてない窮地に陥っています。そんな物流業界の救世主として期待を一身に集めているのが「ドローン宅配」です。 今回は「空に革命を起こす」と言われるドローン宅配について、メリットや懸念点などを中心に解説していきましょう。

4

「PCR」で読み解くポストコロナのサービス業

「つながりたい」「つながりたくない」。ポストコロナの消費者は、矛盾する2つの欲求を抱える。サービス業は両立できないニーズにどう応えるのか。「PCR」(Place/Point,Content,Remote)をキーワードに読み解いた。

5

「池袋」サブカルの聖地への進化

池袋が、サブカルの聖地としての存在感を増している。女性のアニメファン層を取り込み、秋葉原と並びたつ存在に成長した。「消滅可能都市」に指定されるなど危機感を強める豊島区によって、積極的な施設整備が進められており、勢いはさらに加速しそうだ。

人気のキーワード