感染症による介護崩壊のリスク

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介護施設では、居住者の存在から、休業対応が困難だ。施設内感染の防止や、発生時の抑制対応が大きな問題となっている。既に集団感染が公表されている施設の多くでは、新規入所を凍結するなど事業にも大きな影響が出ている。
一方、居宅介護事業では、NHKの報道によると4月20日現在で、デイサービス(通所介護)施設などを中心に少なくとも883の介護サービス事業所が休業しているとのことである。介護ヘルパーが複数の高齢者宅を連続して訪れる訪問介護サービスでは、感染拡大を懸念したキャンセルの多発や、利用者等の感染が発生したことによる事業所休業なども報道されている。

このような流れを受けて、収入の大部分がサービス実施に対する介護報酬からなる事業者は、厳しい経営環境に置かれている。また利用者にとっても、デイサービスの中止による認知症や身体機能の悪化や、ヘルパーサービスのキャンセルによる家族などの負担増加が大きな問題となってきている。介護事業はもともと収益性が高いとは言えず、体力のない小規模事業者は既に事業存続のリスクに直面している。

事業者任せの感染症対策

消毒

そもそも介護現場では、介護者と要介護高齢者、また要介護高齢者同士の接触が日常的に発生する。厚生労働省は施設介護事業者に対して「高齢者介護施設における感染症対策マニュアル」を公表し、施設における感染症対策委員会設置やマニュアル整備、研修の実施などに加え、詳細な感染防止のための具体的な行動を示してその実施を求めている。また居宅介護事業者に対しては、都道府県などの自治体や関連団体による感染対策マニュアルなどが配布されている。

それにもかかわらず、これまで全ての事業者において感染症に対する対策が十分になされていたとはいえない。身体介護の現場ではマスク、手袋、エプロンなどの着用、手洗いやアルコール消毒などは当然行われているものの、多くの施設で食事、レクリエーション、リハビリテーションなどの日々の業務では介護者が複数の高齢者を同時にケアすることも多い。

また、慢性的な人手不足が問題となっている介護業界においては、職員が多忙を極める中で、利用者ごとに防護具(マスク、手袋、エプロンなど)交換の徹底などが困難という実態もあったとみられる。更に、デイサービスの利用者送迎時に乗降介助を行う運転手や、時間刻みで利用者宅を訪問する介護ヘルパーなど、居宅介護事業者においては、事業者による職員の感染防止対策実施の確認が困難なケースも多い。

介護現場の一線で活躍する介護職員資格を得るための研修は、身体介護を対象とする初級で130時間の座学及び実習(教室実技や施設見学等)となっている。介護実技を含む幅広い項目をカバーする中で、高齢者の健康管理に関する内容は初歩的なものにとどまり、感染症は「リスクを認識すること」が要件となっている。これは前述の介護施設向け感染症対策マニュアルからは程遠いものであり、感染症対策の実効性確保は事業者に任されている状態である。

現状の介護保険報酬スキーム下で、十分な感染症対策は困難

介護

介護保険制度における介護報酬水準は居宅介護(いわゆる訪問ヘルパーサービス)であれ施設介護であれ、設備費や人件費等のコスト積み上げから決定されている。特定の介護保険施設(要介護度に応じた月額定額)を除き、原則的に介護実務の発生件数・時間をベースに報酬が支払われる。訪問介護における職員の移動時間・待機時間などは考慮されず、休業時はもちろんのこと利用者の入院などによる突然のキャンセル時にも報酬は発生しない。

このため、事業者が収益を確保するために最も重要なことは、施設稼働率や、在宅におけるヘルパー稼働率の維持・向上となる。

上場介護事業者15社が直近の有価証券報告書に記載している「事業のリスク」においては、14社が何らかの形で感染症に言及しているものの、そのほとんどは自社施設内での高齢者の集団感染の発生による社会的信頼・信用の棄損による事業への影響への言及にとどまっている。
自社従業員の感染による事業提供継続のリスクまでに言及しているのは3社に過ぎない。民間企業である介護事業者では、介護保険制度の方向性や介護報酬の変動、あるいは市場競合といった収益に関するリスクがより詳細に言及されている。

介護事業にも規模の経済

介護事業社収益表

*介護セグメント開示のある企業では、セグメント売上及び営業利益(ニチイ学館のみ経常利益)を記載
**収支差率 =(介護サービスの収益額 - 介護サービスの費用額)/ 介護サービスの収益額
介護サービスの収益額は補助金などを含み、費用は借入金利息及び本部経費を含むため、収支差率は民間企業の経常利益と比較可能
出所:各社有価証券報告書及び決算説明資料、厚生労働省「介護事業者経営実態調査」よりFMI作成

この表は、上場介護事業者の経常利益率(一部は営業利益率)と、厚労省調査による全国介護事業者の収支差率を示している。規模が大きく体力のある上場企業が収益力に勝るケースが多いことは明らかであり、特に有料老人ホームなどでは、収益力が平均値を下回る小規模事業者の中では、現状の報酬体系の中での感染症対策の大幅な改善を行うことは厳しいであろうことが見て取れる。

報酬金額(保険点数)は原則として3年ごとに改訂され、基本的項目の報酬見直しに加えて特定要件の充足度に応じて報酬の加算や減算が追加される。高齢者人口の増加に伴う介護保険財政支出の増加が止まらないことから、改訂による報酬増額は介護人材不足に対応する処遇改善加算、高齢者の介護度重症防止、あるいは効率的な介護に資する仕組みの導入といった政策の方向性に対する、介護事業者のインセンティブを高める方向に偏ってきた。

この中で、感染症対策強化などの衛生管理インフラの向上は、介護報酬改定についての検討では置き去りにされてきたといえる。

求められる感染症対策の経済的評価と、医療・介護連携などの強化

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厚生労働省は、コロナ感染の拡大が介護事業者にも大きなダメージを与えている中で、業界の要望を受けてデイサービス事業者が訪問介護を代替することによる報酬算定を許容したり、政府の持続化給付金、職員休業助成金などの周知徹底を進めたりしている。
また、事業の継続のために必須となる防護具の不足に対しては、再利用可能な布マスクをすべての事業者の職員、利用者に対して配布する等の対応をとっている。民間企業でも、医療機関に加えて、介護事業所に対するマスクや消毒用アルコールなどの支援を拡大し始めている。

現状では政府、自治体、社会が事業者を支え、介護崩壊を防ぐことが最重要であることはいうまでもない。しかしコロナ収束後を見据えて重要なことは、明らかになった多くの問題点を分析し、在宅を含む介護現場における感染症対策について、求められる具体的な対応とその優先順位を新たに示すことである。
そのうえで、ガイドラインに沿った感染予防対策の実施の実効性を評価し、厳しい事業運営を迫られる事業者の自主対応に任せるのではなく、少なくとも実施コストに見合った介護報酬加算がインセンティブとして反映されるべきであると筆者は考えている。そのうえで、事業の一環としての職員研修、マニュアル等に基づく対策の確実な実行管理、医療機関との連携による感染症知識の底上げを行うことが求められる。

コロナ感染拡大を受けて、医療機関では初診からのオンライン診療が許可され、在宅医療が急速に進みつつある。
現在は診療・調剤の限られた領域でのスタートではあるが、特に高齢者医療に関しては、当該患者が利用する介護施設や訪問介護ステーションのケアマネージャーなども、ここに加わることが望ましい。医療機関との包括的な情報共有や連携により、利用者の常時の健康管理の強化、万一の感染症り患時の迅速な医療提供、適切な隔離などの他者への感染防止対策の徹底が可能となると見ている。

まとめ

医療・介護連携の強化や、地域での包括ケア推進が進む中で、小規模事業所が多く存在する介護事業ではコロナ感染の収束後にも一段の再編が加速する可能性は高い。介護施設においても、感染防止を踏まえた接触の削減、省力化のための介護ロボットや、個室の遠隔監視など、ICT導入によるリスク管理や効率化が更に進行するだろう。その中で、小規模で非効率な運営をおこなっている介護事業者の生き残りはますます厳しくなると考えられる。介護施設の効率的な運営による収益向上は待ったなしであり、コロナ感染の収束後には大手医療法人との提携や、介護事業者間のM&Aもより活発になることも予想される。

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