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日産・ホンダ協業、「eアクスル」サプライヤーの行方
日産自動車とホンダの協業検討について、前回記事では企業文化の違いに焦点を当てた(ついに来た日産・ホンダ協業 文化の違いを乗り越えられるか | Frontier Eyes Online by フロンティア・マネジメント (frontier-eyes.online))。本稿では、協業検討の対象に上がっている電気自動車(EV)の主要モジュール「eアクスル」について、国内関連サプライヤーの合従連衡の可能性を取り上げる。
採用広がるeアクスル
eアクスルは、モーター、インバーター、減速機(ギア)などを一体化した電動車向けのモジュールで、ガソリン車のエンジンにあたる重要部品だ。電動車の開発期間を短縮化でき、生産コストも抑えられることから、車載電池と同様に重要性が増している。
これまで自動車メーカーは、モーターやインバーター、ギアをそれぞれ内製、もしくはサプライヤーから調達し、自社内で一体化するのが主流だった。それをサプライヤーが一手に引き受ける潮流が強まっている。
主要メーカーは、中国市場で台頭する現地メーカーのほか、独ヴィテスコ・テクノロジーズ(コンチネンタルのパワートレーン部門が独立し発足)や独ZFフリードリヒスハーフェンなどの欧米メガサプライヤー、日本勢ではニデックや、デンソー・アイシン・トヨタ自動車が出資するBluE Nexusなどだ。
富士経済によると、中国メーカーの参入や生産拡大による低価格化に伴い、EVを中心に搭載が進んで、2035年の世界市場は21年比37.5倍の5670万台となる。
激化する国際競争、主戦場は中国
市場拡大とともにeアクスルをめぐる競争は激化している。主戦場は中国だ。現地EVメーカーや部品メーカーは、開発スピードの速さが特徴的で、モーター、インバーター、ギアだけでなく、DC/DCコンバーターなども含め、さらに一体化を推し進めた小型・軽量化が進展。主要部品メーカーと比べ、半値程度の価格帯を実現しているとされる。
先行するニデックは、21年の中国市場で推定シェア27%の首位だったが、「競争相手が赤字を垂れ流している。価値を認めてもらえない競争はやるべきではない」(永守重信会長<発言当時>)として収益性をより重視する方向にかじを切り、24年3月期の世界販売見通しを54.5万台から35万台に下方修正した。
競争が激化するeアクスルにおいて、日産とホンダにどのような連携がありうるか。それぞれのサプライヤーの動きから推察する。
トランスミッションの雄、日産系ジヤトコ
日産の電動車戦略で重要なサプライヤーがジヤトコだ。日産が75%出資する系列会社で(その他は三菱自動車15%、スズキ10%)、トランスミッションを主力とし無段変速機(CVT)で世界シェアトップの座にいるが、EV市場の拡大に合わせて、30年までにeアクスル500万台の生産体制を敷く方針を打ち出した。25年の市場投入を目指して日産と共同開発を進めている。
ホンダは日立Astemoの主導権握る
ホンダのキーサプライヤーは日立Astemoだ。日立製作所の自動車部品事業会社日立オートモティブシステムズと、ホンダ系列サプライヤー、ケーヒン、ショーワ、日信工業が経営統合して21年に発足した。出資比率は日立66.6%、ホンダ33.4%だったが、昨年には日立40%、ホンダ40%、産業革新投資機構(JIC)系ファンド20%となり、ホンダのCFO経験者が社長に就いてホンダが主導権を握った。
電動化事業を強化しており、25年度までに同事業で3000億円の投資を実行、25年度の売り上げ収益を4000億円超、30年度にはその2倍以上とする計画だ。その一環でeアクスル分野を拡大、ホンダが26年からグローバル展開するEVには、日立Astemoのeアクスルが搭載される予定だ。
一本化でスケールメリット享受
日産とホンダの協業検討は始まったばかりで、どこまで踏み込んだ内容になるかは不透明だが、eアクスルの調達で協業に踏み切るならば、両社が経営権を握るジヤトコと日立Astemoを軸に調達網の再構築を図るのが自然の流れだ。
ジヤトコは、開発中のeアクスルを、日産が今後発売するEVや「e-POWER」車(ハイブリッド車の一種)向けに供給する。ジヤトコは、トランスミッションで培ってきたギアが強みで、技術力の高さは業界でも定評がある。同社のeアクスルには、日立Astemoのモーター、インバーターを採用することが決まっており、両社の強みを持ち寄ってジヤトコがTier1となって供給する。
一方、日立Astemoがホンダに供給するeアクスルのモーターとインバーターは日立Astemo製であり、ジヤトコのギア技術を組み合わせれば、ジヤトコが日産に供給するeアクスルと構成部品を同じにできる。スケールメリットを引き出すには、日産とホンダに供給するeアクスルを一本化するのが望ましい。
系列以外、選別進むか
系列以外でも日産とホンダに対し、モーターやインバーターなどeアクスル関連部品を供給するサプライヤーは多くある。
かつて日産系の筆頭格だったマレリ(旧カルソニックカンセイ)は、米ファンドコールバーグ・クラビス・ロバーツ(KKR)傘下に入って日産との資本関係を解消、イタリアの自動車部品メーカーマニエッティ・マレリと統合したことで日産依存度は低下した。しかし、日産の旗艦EV「リーフ」の初代モデルからインバーターを供給しており、日産の電動車戦略の一翼を担ってきた。現在は経営再建の途上にあり、eアクスルを主軸の一つに据える。
また、日産圏で取引を拡大しているモーターメーカーとして明電舎がある。もともと三菱自動車向けに駆動用モーターを供給してきたが、日産の主力「ノートe-POWER」の駆動用モーター・インバーター一体型ユニットを受注したほか、日産と三菱自が共同開発した軽自動車規格のEV「サクラ」「eKクロスEV」にも採用された。中国市場投入を念頭にeアクスルの量産も計画している。
三菱電機は、日産とホンダにインバーターやパワー半導体の供給実績がある。同社は、今月、自動車機器事業を分社化した。同事業は収益が低迷しており、経営判断を迅速化するのが狙いだ。21年にはeアクスルへの参入を表明した。電動化分野では協業先を探しており、新会社への外部資本受け入れも視野に入れている。
こうした非系列サプライヤーの選別も日産とホンダによる協業の検討課題になるだろう。選別に伴い合従連衡に発展する可能性がある。
サプライチェーンの競争力向上に期待
日産・ホンダ協業の検討対象は、知能化分野を含めて多岐にわたる。中でも、調達面の協業は、完成車メーカー同士の合従連衡でこれまでも実績があり、果実をとりやすい領域だ。日産とホンダには、激しい国際競争でも生き残っていける、競争力あるサプライチェーン構築を期待したい。
参考文献
「2022年版 機電一体電動パワートレイン“eAxle”の2035年までの市場展望」富士経済
「車載デバイス2024」産業タイムズ社
マークラインズ
各社発表資料
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