カウンセリング製品、メイクアップ製品の苦戦が続く化粧品業界

コロナウイルス感染の拡大は、一度は落ち着きを見せた。しかし、飲食や物販、エンターテイメントなどの営業が再開した一方で、東京都内を中心に感染が再び増加した。接客をともなうビジネスは、「第二波」への恐れと隣り合わせにある。

化粧品だけでなく、いずれの業態も、感染回避のための「新しい生活様式」(①身体的距離の確保②マスク着用③手洗い)を施行している。店頭には手指消毒液が常備され、入店者にはマスク着用を求めている。
肌に直接触れる商品だけに、百貨店などの対面サービスの利用や、ドラッグストアなど商品テスターを、気軽に試すことなどがはばかれる状況だ。

数字の上でも、化粧品は苦戦が続いている。経済産業省の生産動態統計によると、日本国内の化粧品出荷金額は、消費税増税直後の2019年10月に前年同期比減少に転じていた。
コロナウイルス感染拡大による訪日客の減少が顕著になった3月には、同6.6%に減少幅が拡大。緊急事態宣言が発令された4月には同25.7%の大幅減少となった。

カテゴリー別では、外出自粛やマスク着用の影響を受けてメイクアップ製品が最も大きな落ち込みを示した。
家計消費における「理美容品」支出額は、2月の前年同月比9.4%増加から3月には同0.2%減少に転じ、緊急事態宣言が発令された4月には同6.1%に減少幅が拡大した。
5月下旬以降、多くの百貨店、専門店が営業を再開してはいるものの、高価格帯ブランドやメイクアップ製品を中心として、売上回復のペースは遅いと見ている。

好調な日用品、回復遅れる高級品

化粧品の中でも、日常的な必需品に近いスキンケア製品や、マスク着用や手指の消毒による肌荒れをケアするスキンケア製品などの販売は、ECチャネルやドラッグストアチャネルを中心として緊急事態宣言発令中から変わらず堅調に推移している。

しかし、百貨店や化粧品専門店チャネルを中心とする高価格帯スキンケア製品については、営業再開後も顕著な回復には転じていない。
これらの製品では、美容部員による「お手入れ」を含むカウンセリングによる使用感や効果の実感が購買を促す大きな要因となる。
ほとんどの店舗で、消費者に直接接触する行為は中止。美容部員はマスク着用、飛沫防止シートを挟んで接客する。このためスキンケア領域でも、特に高価格帯製品や新製品の購買に陰りが出ている。
更にメイクアップ領域では、在宅勤務やマスク着用によるメイクアップ機会が減少している。加えて、百貨店やドラッグストア等ほとんどのチャネルでテスター使用が大きく制限されており、選ぶ楽しみが得られない中で消費者の購買意欲が大きく衰退している状況である。

中国、ECチャネルの力で5月にはコロナ前の水準

コロナ感染拡大の収束を宣言した中国の状況を見ると、様子は異なる。中国国家統計局によると、中国における社会消費品小売総額は1-2月には前年を20%強下回り、3月は前年同月比15.8%減、4月は同7.5%減、5月は同2.8%減と減少幅は縮まりながらも完全な回復に至ってはいない。
しかし化粧品小売総額については、3月までは前年同月比二桁の減少が続いたものの、4月は前年同月比3.5%増と回復に転じ、5月には12.9%増の270億元と、コロナ以前の水準に戻ったといえる。

この力強い回復をけん引しているのがECチャネルだ。中国ではコロナ発生以降も有形商品オンライン小売額は1~3月累計で前年同期比5.9%の増加を示し、1~5月累計では前年同期比の増加幅は11.5%と更に拡大。社会消費財小売総額におけるオンライン小売構成比は24.3%に達した。

中国国内の化粧品販売の約3割を占めるアリババ系ECサイト天猫(Tモール)のデータによると、化粧品カテゴリーオンライン販売は、リアル店舗がほぼ機能しなかった1〜2月の売上が前年同期比41%増、3月には大規模イベント「女王祭」(国際女性デーに合わせた利益還元セール)の寄与もあり前月比で50%増加となるなど好調を維持している。

日本でもEC販路での化粧品売上は堅調ではあるが、中国のオンライン販売の成長率や構成比は、日本を大幅に上回っている。
製品カテゴリーでも高価格帯を含むスキンケア、メイクアップの双方が高成長を示している。この差をもたらす要因として注目するべきは、中国におけるデジタルマーケティングの進化と充実だ。

従来から中国の化粧品市場では、KOL(Key Opinion Leader:日本におけるインフルエンサーにあたる)によるオンライン動画配信が、消費者の購買行動に大きな影響を及ぼしている。このため多くのメーカーECチャネルにおいて有力KOLを用いたライブコマース配信を行い、新製品などの積極的な販促を行うことも一般的となっている。

デジタルマーケティングは、KOLから、メーカー主導に

KOLのライブコマースによる効果は一時的にとどまることや、コロナ禍で消費者がリアルに製品と触れ合う機会が減少したことも受け、最近ではメーカーによる直接的な情報提供や、ブランドマーケティングとしてのライブコマースが増加している。
この動きはグローバルブランドのみならず、実店舗が休業となった中で美容部員が店舗毎のアカウントでWeChat(微信)のミニプログラムによるインタラクティブなライブ動画を配信した「PERFECT DIARY(完美日記)」や、「女王祭」キャンペーンで工場の生産ラインからWeChatでライブ動画を配信した「gooben(果本)」など、現地の有力メーカーも積極的なデジタルマーケティングの拡大を進めている。

直近の大型イベントであった618セールでも、「淘宝」(タオバオ)での売上トップ10のライブ配信者の中で、ブランド自身のライブ配信が6割を占め、KOLによるライブ配信を超えた模様だ。

非接触リテールでの疑似体験

店頭での接触が制限される中で、デジタル技術の進化も目覚ましい。
傘下にAR技術開発のトップ企業の1つ「ModiFace」を有するロレアル(フランスの化粧品世界大手)は4月、スマホカメラを使ったバーチャルメイクサービス「AIファンデーションアダプター」を実用化した。
使用者の顔をスマホカメラで360度スキャンし、解析したデータをもとに、AIが最適なファンデーションの色をお勧めする仕組みで、世界に先駆けてTモールのメイベリン旗艦店に実装した。

また世界的にリモートワークの需要が増す中で、ロレアルはグローバルでSNAP社と協業。ビデオ通話や動画プラットフォームなどで利用できるフィルターを作成し、傘下の4ブランドが展開する製品によって背景やメイク、ヘアカラーが加工されるサービスを5月に開始した。

小売側でも、アジア最大のドラッグストアチェーンWatsons(香港)は、中国エリアにおいて台湾・パーフェクト社のARメイクアプリ技術を用いた ARスマートミラーを導入、100種以上の化粧品を使用した場合の仕上がりを瞬時にミラー型モニターに映すバーチャルメイクサービスを提供している。

日本でも、従来から消費者による試用ニーズの高い口紅について、資生堂やロレアルなどがECサイトでのバーチャルメイクサービスを提供している。
店舗における美容部員によるメイクサービスが制限され、テスターの利用についても厳密な衛生管理、感染対策が必要となる。今後は、リアル店舗での接客の補助ツールとして、多くのアイテムでバーチャルメイクの需要は高まると予想される。

スキンケア領域においても、効果的な製品使用方法の動画による説明や、個人の肌悩みに対応したチャットでの製品提案など、店舗滞在時間を短縮やサンプル配布の効果を最大化するような取り組みがますます必要とされるだろう。

オンラインを利用した販売促進施策としては、コーセーでは自社通販サイト“Maison KOSÉ”上で、店舗に所属する美容部員によるメイクやスキンケアの紹介画像を投稿する『STAFF START』を株式会社バニッシュ・スタンダードから3月に導入。顧客に対してオンライン上で最適な商品提案を行っている。
またオルビスでは、自社 EC 内の AI チャットサポートで行うビューティアドバイザーによる有人チャットサービスを株式会社AI Shiftより導入、4月よりオンライン上で店舗同様の接客体験を提供している。

まとめ

このような化粧品業界のDXへの取り組みは、今後更に加速する。AIやARといった領域でのベンチャー企業とのコラボレーションなども進むと見ている。旧来型の販売方法からの改革が、待ったなしで求められている。

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