ネット広告がテレビCMに追いついた

図1 媒体別広告費の推移

インターネット広告の躍進が続いている。

我が国の広告費についてのデータは、経済産業省『特定サービス産業動態統計調査』と、電通の『日本の広告費』があるが、本稿は前者を用いて議論を展開する。

従来、広告費内訳にインターネットの項目はなかった。データの収集は2006年に開始された。

2006年のインターネット広告費は1,200億円で、日本の広告費のわずか2.1%を占める限定的な存在だった。

2020年はコロナの影響で、多くの媒体で広告費が減少した。しかし、インターネット広告はむしろ勢いを増し、年間広告費が同年はじめて1兆円を超えた。そして、翌2021年には1.4兆円近くに達し、テレビの広告費に比肩するレベルとなった。

ネット広告の利点とは

ネット広告の利点とは

テレビCMなど「マス広告」と比べて、インターネット広告の利点は何だろうか。

一般的には、低予算でスタートできる、アプローチしたい消費者を狙って宣伝できる、実施した広告の結果を事後的に検証しやすい、などが挙げられる。利点は多そうに見える。

マクロでは広告費効率は低下している

図2 我が国の広告費とGDPの関係

しかし、マクロ数字を見る限り、インターネット広告の増加によって、広告費全体の効率は上がっていない。

むしろ、20世紀と比較して、インターネットが普及した21世紀の方が、広告費効率は多少下がっている。

図2における折れ線グラフは、日本のGDPに対する広告費の比率(右軸)だ。20世紀は1%を切る水準だったが、21世紀に入ってからは1%超の水準へとじわり上昇している。同じGDPを産み出すために必要な広告費がより嵩むようになっていると言える。

一方、棒グラフ(左軸)は、GDPを広告費で割ったもの(GDP/広告費)だ。前述の折れ線グラフの逆数であり、1単位当たりの広告費を投じることで得られるGDPを示している。この数値を見ても、広告費を投じることによって産み出されるGDPが漸減しているのが分かる。

テレビCMvsネット広告はコップの中の争い?

電通の『日本の広告費』など広告費に関するニュースが報じられる度、「テレビvsインターネット」という構図で解説がなされる。そして、個々人をターゲットとしたインターネット広告の先進性や効率性が喧伝される。「テレビの死」なども同じ文脈だ。

図1のデータをもう一度直視しよう。テレビの広告費は言われるほど激減していない。ピークであった2000年の1.7兆円から見ると減少しているが、2021年でも依然として1.4兆円という高水準だ。

円グラフの「右半分」

図3 媒体別広告費、30年間の変化

図3は、1988年と2021年の媒体別広告費の内訳を示している。

1988年に存在していなかったインターネット広告が、2021年には23.9%を占めるまでに増加した。広告費における構造変化は、「円グラフの右半分」という“コップ”の中で生じた

広告費のシェアにおいても、テレビは依然として大きな存在だ(多少のシェアダウンはあるが)。

ひとり大負けしている新聞広告

ひとり大負けしている新聞広告

大負けしたのは新聞だ。

全広告費に占める新聞の比率は、1988年には20%近い高水準にあったが、2021年には4%を切る水準に大幅に低下した。

リアル広告は依然として重要だ

リアル広告は依然として重要だ

図3を見て、もう一つ言える重要なことは、日本の広告費のうち約半分を「その他」と呼ばれる一般広告が占め続けていることだ。これは、34年前の1988年から現在まで不変だ。

統計上「その他」の中には、様々な種類の広告費が混在しているため、断定的なことは言えない。

しかし、少なくとも想像できることは、建物の壁面の広告、イベント実施による広告、飲食店の店先の人形、といった「リアル広告」が大きな存在であるということだ。

広告代理店的視点では、どうしても図3の「右半分」を見がちだ。しかし、日本の広告費を考える時、「リアル広告」こそが、最大で最重要の媒体だ。

ロンドンのトラファルガー広場でライオン像に遭遇すると、どうしても三越を想起する。新幹線から車窓を眺めると、田んぼの真ん中に場違いに目立つ看板をどうしても見てしまう。スキージャンパーのインタビューではスキー板に目が行ってしまう。

「リアル広告」は強い。時に図々しく、我々の視界に飛び込んでくる。ドン・キホーテのテーマ曲「Miracle Shopping」が頭から離れなくなる時がある。記憶にも長く残る。世代や歴史も越える。

まとめ 広告における「リアル」を考える

「テレビvsインターネット」という、クラシックで伝統的な構図からいったん離れよう。

我々は家に閉じこもらない限り、リアル広告の中で生きている。コロナ後は、リアル広告との接点はむしろ増す可能性さえある。

テレビとインターネットの融合が一部で叫ばれているが、そこに「リアル」を融合することで、強くて、持続可能な広告が誕生するはずだ。

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