ランチェスター戦略とは?理解しておくべき2つの法則

ランチェスター戦略とは、欧米の軍事戦略モデルである「ランチェスターの法則」がベースとなり、日本で体系化された実践的なマーケティング理論です。

ビジネスにおいては、企業(軍)を「弱者」と「強者」の2種類に分類したうえで、それぞれが競争で優位に立つための方法を示します。ランチェスター戦略の「強者」とは、必ずしも大企業を指すわけではありません。

強者の定義とは、市場シェアNO1であるかどうかです。どれだけ狭い市場でも、トップシェアをほこる企業がマーケットの「強者」です。シェア2位以下の企業が生き残るためには、市場シェア1位を目指す必要があります。

日本で発展したランチェスター戦略は、「弱者の戦略」と呼ばれる第一法則と、「強者の戦略」と呼ばれる第二法則にわけられます。「弱者の戦略」と「強者の戦略」について、具体例を挙げながら解説します。

ランチェスターの第一法則:弱者の戦略

ランチェスターの第一法則は、局地戦・接近戦・一騎打ちなど、伝統的な戦闘における勝敗を予測するためのモデルです。「武器効率(武器や装備の質)」と「兵力数」の2点から、それぞれの軍(企業)の戦闘力を試算します。

計算式:戦闘力=武器効率(質)×兵力数(量)

重要なのは、もし2つの軍(企業)が同じ質の武器を持っていれば、戦いの勝敗は数がものをいうという点です。

たとえば、まったく同一の武器を持つA軍10名とB軍5名による局地戦があったとしましょう。武器効率が同じであるため、両軍の最終的な損害は同じであり、A軍の側が10-5で5名残ります。

兵力数の点で「弱者」であるB軍が敗北したのに、第一法則が「弱者の戦略」と呼ばれている理由は、近代戦がモデルになった第二法則を見るとよくわかります。

ランチェスターの第二法則:強者の戦略

ランチェスターの第二法則は、近代兵器を使う確率戦、広い範囲で戦闘が発生する広域戦、互いに離れて戦う遠隔戦といった近代戦を想定したものです。

計算式:戦闘力=武器効率(質)×兵力数の2乗(量)

第一法則との違いは、第一法則では戦闘力が兵力数に比例するのに対し、第二法則では兵力数の2乗に比例する点です。ここでも、まったく同じ武器を持つ軍10名とB軍5名の近代戦を想定しましょう。

戦闘力は兵力数の2乗に比例するため、10の2乗(A軍の戦闘力)から5の2乗(B軍の戦闘力)を引くと、その差は8.66の2乗、つまりA軍が8名も生き残ります。

伝統的な一騎打ちの戦いよりも兵力差がものをいう、「強者の戦略」が当てはまるのが近代戦です。大企業に近代戦を挑んでも、リソース(兵力)で劣る中小企業は勝てません。市場シェアNO1を目指すなら、第一法則のような局地戦・接近戦に分があります。

ランチェスター戦略をビジネスで実践する3つのポイント

ランチェスター戦略をビジネスに応用するポイントを解説します。企業の規模に応じ、トップシェアを獲得するために、「弱者の戦略」、「強者の戦略」を切り替える必要があります。

①市場の細分化・セグメント化

すべての市場でトップシェアを維持できる企業は存在しません。自社の強みとなる商品、サービス、地域、ターゲットを選定し、市場を細分化・セグメント化するのが、シェアナンバーワンへの近道です。

とくにヒト、モノ、カネで劣る中小企業は、ランチェスターの第一法則にしたがい、狭い市場での局地戦・接近戦を狙う必要があります。

具体的にはニッチ市場やスキマ市場に特化しシェアNo.1企業と戦ったり、シェアNo.1企業より先に顧客ニーズを把握しヒット商品・サービスを生み出したりすることが求められます。

逆に大企業の場合、第二法則にしたがい、市場のセグメント化を防ぐ必要があります。たとえば、全国で使えるポイントカードの投入や、様々なサービスを取り込むプラットフォーム戦略により、市場を拡大していきます。1対1で戦う局面を減らし、リソースの差を活かすのが、大企業が勝つための戦略です。

②モノ・サービスの差別化

ランチェスター戦略で大切なのが「差別化戦略」です。同業他社と同じモノやサービスを展開していては、トップシェアは獲得できません。モノやサービスの質を高める(=武器効率を高める)のが、トップシェアを狙うために必要な戦略です。

たとえば、その市場のトップシェア企業が扱っていないモノやサービスを展開したり、上位グループ企業とは異なるターゲットの顧客にアプローチしたりするのが、差別化戦略の一例です。また、リソースの乏しい中小企業の場合、地域密着型のサービスを展開すれば、その地域で同業他社のシェアを奪えます。

③リソースの一点集中

戦争であれ、ビジネスであれ、大が小に勝つのが基本原則です。大企業の販売力を100、中小企業の販売力を20とすると、正面からぶつかっても勝ち目はありません。

しかし、大企業の販売力が10に落ちる地域やマーケットに全資源を投入すれば、20対10で勝てます。小が大に勝つためには、ヒト、モノ、カネといった資源を分散させず、1点に集中させて局地戦を挑む必要があります。

ランチェスター戦略の成功事例

ランチェスター戦略の成功事例を紹介します。1972年に『ランチェスター販売戦略』が出版されて以来、多くの企業が導入を試みてきました。

QBハウス:「10分・1000円カット」で差別化戦略に成功

QBハウスが成功した要因は、「10分・1000円カット」という新しい路線にあります。従来の理容サービスにあった洗髪を省き、カットに一点集中して、競合サービスと差別化しつつ、リソースの分散を防いでいます。

また、競合サービスの少ないオフィス街に出店し、会社員が来店しやすい年中無休・夜間営業を打ち出して、マーケットの強者や先発企業への差別化戦略を打ち出しました。

HIS:「格安海外旅行」でトップシェアを獲得

HISが急激に成長した理由は、当時の「海外旅行=お金が必要」というイメージに風穴を開け、格安の航空券を提供した点にあります。

海外旅行に興味があるものの、お金がない若者や学生の支持を集め、シェアを大きく拡大しました。

また、ハワイのような定番スポットだけでなく、新興リゾートのツアープランを展開し、同業他社との差別化に成功しています。

営業戦略はチラシ配りが中心で、全国区の広告戦略より、確実に顧客の手元に届く「接近戦」を優先しました。

市場シェアNO1を目指すなら、勝てる場所・勝てる相手を選ぶ

ビジネスにおける強者とは、マーケット・シェア1位の企業を意味します。しかし、強者は大企業であるとは限らず、市場によっては中小企業が優勢を保ち、市場シェアNO1を占有するケースもあります。

ランチェスター戦略は、弱者が強者に勝つための企業戦略とも言い換えられます。モノ・サービスをトップシェア企業と差別化し、狭いマーケットにリソースを一点集中することが、シェア拡大のために踏むべき重要なステップになります。

Frontier Eyes Onlineでは、ビジネス・経済に関する様々な情報を提供しています。よろしければ、メルマガのご登録をお願いします。

<参考>
中小企業庁 2019年版中小企業白書

関連記事

子会社設立のメリット・デメリットとは?経営者視点から徹底解説

子会社とは、意思決定の場面で親会社の支配を受ける会社のことです。節税効果の向上や経営の安定化などのメリットが期待され、M&Aなどでもよく採用されています。 メリットが注目される子会社設立ですが、もちろんデメリットもあります。また、子会社の設立や管理に際してのポイントを把握しておくことが大切です。 そこで本記事では、子会社の意味とともに、子会社設立のメリット・デメリット、子会社を有効活用するためのポイントについて経営者視点から解説します。

「経営論点主義の弊害」を防げ コーポレートガバナンス強化のための取締役会運営の改善策

コーポレートガバナンス・コードが2021年6月、再改定された。上場企業のコーポレートガバナンスの強化が求められる中、独立社外取締役の役割がより一層重要となってきている。しかし、独立社外取締役にとって、実質的な議論がなされるような取締役会運営ができているのであろうか。本稿では、「経営論点主義の弊害」を取り上げ、それについての対応策を述べる。

マーケティング・コミュニケーションとは?役割や成功事例を解説

商品やサービスを売るために役立つコミュニケーション活動が「マーケティング・コミュニケーション」です。メディアのデジタル化により企業と顧客の双方向のやり取りが可能になり、その重要性は高まっています。 企業は広告や広報、SNSといった多彩な領域でマーケティング・コミュニケーションの展開が求められていますが、正しく実行できている企業は多くありません。 本記事では、マーケティング・コミュニケーションの意味から役割、成功事例まで解説していきます。

ランキング記事

1

EVは本当に最適か?⑤ 基幹産業=自動車を守る為に

ゼロカーボン社会に向け、EV(電気自動車)は本当に最適なのだろうか?シリーズ最終回は、日本が技術的優位に立つ「Hy-CAFE」(Hy:水素/C:Cold fusion/A:Ammonia/F:Fuel cell/燃料電池/E:e-fuel」を生かした、自動車の次世代エネルギー革命についてまとめた。

2

村上春樹さんから学ぶ経営⑯「文章はいい、論旨も明確、だがテーマがない」

前回のテーマは「変えてはならないことがある」でした。そこで今回は、本田宗一郎氏――「社の連中に技術的な話をしたことがない。話すことは、みな技術の基礎になっている思想についてである」「技術はテンポが早く、すぐ陳腐化してしまう。技術はあくまでも末端のことであり、思想こそ技術を生む母体だ」(『起業家の本質』プレジデント社)――のようなお話です。それでは今月の文章です。

3

「安すぎる日本」で国民は苦しむか? 最低賃金引上げの合理性を問う

最低賃金引上げが叫ばれている。日本の賃金は国際的に見て安いらしい。一般消費財でも、スターバックスコーヒーやマクドナルドなどグローバルブランドの商品が日本では先進国中で最低価格となっており、「安すぎる日本」として話題になっている。最低賃金引き上げは、本当に筋のよい政策なのだろうか。

4

相続登記義務化のインパクトとは?

不動産を相続した場合、不動産の名義を被相続人から相続人に変更する必要があり、この手続きを「相続登記」と呼ぶ。従来相続登記は任意であったが、2021年6月の法改正により2024年を目途に義務化されることになった。相続登記義務化の背景と、そのインパクトは何かを考察する。

5

プロスポーツチームの戦略オプション②~スタジアム・アミューズメント化経営の要所

コロナ禍において、プロスポーツチームが取り得る戦略オプションは、どのようなものがあるだろうか。今回は取り組みが活性化してきている「スタジアム・アミューズメント化」経営について、その提供価値と実現スキームに焦点を当てて解説していく。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中