シェア獲得における必勝理論「ランチェスター戦略」成功事例まじえ解説

中小企業庁によると、国内企業のわずか0.3%にあたる大企業が生み出す価値は、全企業が創出する価値の47.1%にのぼります。 ヒト、モノ、カネのリソースで劣る中小企業は、競争戦略において大企業より優位に立てないのでしょうか。実は、マーケットにおける勝者(市場シェアNO1)とは、企業規模だけで決まるわけではありません。 それを実証したのが、「ランチェスター戦略」です。本記事では、市場シェアNO1を目指す企業経営者に向けて、ランチェスター戦略の概要やポイント、成功企業の導入事例を紹介します。

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ランチェスター戦略とは?理解しておくべき2つの法則

ランチェスター戦略とは、欧米の軍事戦略モデルである「ランチェスターの法則」がベースとなり、日本で体系化された実践的なマーケティング理論です。

ビジネスにおいては、企業(軍)を「弱者」と「強者」の2種類に分類したうえで、それぞれが競争で優位に立つための方法を示します。ランチェスター戦略の「強者」とは、必ずしも大企業を指すわけではありません。

強者の定義とは、市場シェアNO1であるかどうかです。どれだけ狭い市場でも、トップシェアをほこる企業がマーケットの「強者」です。シェア2位以下の企業が生き残るためには、市場シェア1位を目指す必要があります。

日本で発展したランチェスター戦略は、「弱者の戦略」と呼ばれる第一法則と、「強者の戦略」と呼ばれる第二法則にわけられます。「弱者の戦略」と「強者の戦略」について、具体例を挙げながら解説します。

ランチェスターの第一法則:弱者の戦略

ランチェスターの第一法則は、局地戦・接近戦・一騎打ちなど、伝統的な戦闘における勝敗を予測するためのモデルです。「武器効率(武器や装備の質)」と「兵力数」の2点から、それぞれの軍(企業)の戦闘力を試算します。

計算式:戦闘力=武器効率(質)×兵力数(量)

重要なのは、もし2つの軍(企業)が同じ質の武器を持っていれば、戦いの勝敗は数がものをいうという点です。

たとえば、まったく同一の武器を持つA軍10名とB軍5名による局地戦があったとしましょう。武器効率が同じであるため、両軍の最終的な損害は同じであり、A軍の側が10-5で5名残ります。

兵力数の点で「弱者」であるB軍が敗北したのに、第一法則が「弱者の戦略」と呼ばれている理由は、近代戦がモデルになった第二法則を見るとよくわかります。

ランチェスターの第二法則:強者の戦略

ランチェスターの第二法則は、近代兵器を使う確率戦、広い範囲で戦闘が発生する広域戦、互いに離れて戦う遠隔戦といった近代戦を想定したものです。

計算式:戦闘力=武器効率(質)×兵力数の2乗(量)

第一法則との違いは、第一法則では戦闘力が兵力数に比例するのに対し、第二法則では兵力数の2乗に比例する点です。ここでも、まったく同じ武器を持つ軍10名とB軍5名の近代戦を想定しましょう。

戦闘力は兵力数の2乗に比例するため、10の2乗(A軍の戦闘力)から5の2乗(B軍の戦闘力)を引くと、その差は8.66の2乗、つまりA軍が8名も生き残ります。

伝統的な一騎打ちの戦いよりも兵力差がものをいう、「強者の戦略」が当てはまるのが近代戦です。大企業に近代戦を挑んでも、リソース(兵力)で劣る中小企業は勝てません。市場シェアNO1を目指すなら、第一法則のような局地戦・接近戦に分があります。

ランチェスター戦略をビジネスで実践する3つのポイント

ランチェスター戦略をビジネスに応用するポイントを解説します。企業の規模に応じ、トップシェアを獲得するために、「弱者の戦略」、「強者の戦略」を切り替える必要があります。

①市場の細分化・セグメント化

すべての市場でトップシェアを維持できる企業は存在しません。自社の強みとなる商品、サービス、地域、ターゲットを選定し、市場を細分化・セグメント化するのが、シェアナンバーワンへの近道です。

とくにヒト、モノ、カネで劣る中小企業は、ランチェスターの第一法則にしたがい、狭い市場での局地戦・接近戦を狙う必要があります。

具体的にはニッチ市場やスキマ市場に特化しシェアNo.1企業と戦ったり、シェアNo.1企業より先に顧客ニーズを把握しヒット商品・サービスを生み出したりすることが求められます。

逆に大企業の場合、第二法則にしたがい、市場のセグメント化を防ぐ必要があります。たとえば、全国で使えるポイントカードの投入や、様々なサービスを取り込むプラットフォーム戦略により、市場を拡大していきます。1対1で戦う局面を減らし、リソースの差を活かすのが、大企業が勝つための戦略です。

②モノ・サービスの差別化

ランチェスター戦略で大切なのが「差別化戦略」です。同業他社と同じモノやサービスを展開していては、トップシェアは獲得できません。モノやサービスの質を高める(=武器効率を高める)のが、トップシェアを狙うために必要な戦略です。

たとえば、その市場のトップシェア企業が扱っていないモノやサービスを展開したり、上位グループ企業とは異なるターゲットの顧客にアプローチしたりするのが、差別化戦略の一例です。また、リソースの乏しい中小企業の場合、地域密着型のサービスを展開すれば、その地域で同業他社のシェアを奪えます。

③リソースの一点集中

戦争であれ、ビジネスであれ、大が小に勝つのが基本原則です。大企業の販売力を100、中小企業の販売力を20とすると、正面からぶつかっても勝ち目はありません。

しかし、大企業の販売力が10に落ちる地域やマーケットに全資源を投入すれば、20対10で勝てます。小が大に勝つためには、ヒト、モノ、カネといった資源を分散させず、1点に集中させて局地戦を挑む必要があります。

ランチェスター戦略の成功事例

ランチェスター戦略の成功事例を紹介します。1972年に『ランチェスター販売戦略』が出版されて以来、多くの企業が導入を試みてきました。

QBハウス:「10分・1000円カット」で差別化戦略に成功

QBハウスが成功した要因は、「10分・1000円カット」という新しい路線にあります。従来の理容サービスにあった洗髪を省き、カットに一点集中して、競合サービスと差別化しつつ、リソースの分散を防いでいます。

また、競合サービスの少ないオフィス街に出店し、会社員が来店しやすい年中無休・夜間営業を打ち出して、マーケットの強者や先発企業への差別化戦略を打ち出しました。

HIS:「格安海外旅行」でトップシェアを獲得

HISが急激に成長した理由は、当時の「海外旅行=お金が必要」というイメージに風穴を開け、格安の航空券を提供した点にあります。

海外旅行に興味があるものの、お金がない若者や学生の支持を集め、シェアを大きく拡大しました。

また、ハワイのような定番スポットだけでなく、新興リゾートのツアープランを展開し、同業他社との差別化に成功しています。

営業戦略はチラシ配りが中心で、全国区の広告戦略より、確実に顧客の手元に届く「接近戦」を優先しました。

市場シェアNO1を目指すなら、勝てる場所・勝てる相手を選ぶ

ビジネスにおける強者とは、マーケット・シェア1位の企業を意味します。しかし、強者は大企業であるとは限らず、市場によっては中小企業が優勢を保ち、市場シェアNO1を占有するケースもあります。

ランチェスター戦略は、弱者が強者に勝つための企業戦略とも言い換えられます。モノ・サービスをトップシェア企業と差別化し、狭いマーケットにリソースを一点集中することが、シェア拡大のために踏むべき重要なステップになります。

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<参考>
中小企業庁 2019年版中小企業白書

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