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「ISO30414」に対応し、人的資本を重視する企業を目指すには
人的資本に関する、情報開示の国際的なガイドラインである「ISO30414」。ビジネスのグローバル化が進み、世界的にも「人的資本を重視する企業」が価値を高めているなかで、「ISO30414」への関心が高まりつつあります。その認証を取得した企業の例やガイドラインの重要性、「ISO30414」を構成する要素、取得に向けた取り組みへの姿勢について、解説します。
日清食品ホールディングスが食品企業として世界初の「ISO30414」を取得
少し前の話になりますが、日清食品ホールディングス社が食品企業としては世界で初めて、人的資本(Human Capital)に関する情報開示の国際的なガイドライン「ISO30414」の認証を取得しました。同社はグループの理念研修や企業内大学設立などを実践し、人的資本の情報開示にも注力している点が認証取得の評価対象となったとのこと。
ちなみに
- 体感型研修や職場ミーティング
- 日清流JOB型制度の導入
- 企業内大学「NISSIN ACADEMY」
- 女性活躍推進、男性育児休業取得率向上のための取り組み
あたりに力を入れています。
当方はタレントパレットを提供しているプラスアルファ・コンサルティング社の企業セミナーでパネラーとして人事部門の責任者の方とご一緒させていただきましたが、人的資本に対して人事部門と経営が一体となり取り組む姿勢が認証の取得にもつながったに違いないと感じました。
そのような人的資本に対し果敢に取り組む姿勢として、企業からの注目度が高まりつつある「ISO30414」。
社員に対するエンゲージメントの必要性とも相まって、どのように取り組んでいくべきか?と検討を始めたとの話を聞くことがポツリポツリと出てきています。当社としてはかなり推進が加速すると考えて、認証コンサルタントを育成してご支援の準備を万全に整えている状況です。
しかし、そうした予測に比べると盛り上がりに欠けるようにも感じます。名前を聞いたことはあるが、当社には関係がない…と考えている経営者がいるのも事実です。各社はどのようにおさえておくべきテーマなのでしょうか?
国際的な取引を円滑にする「ISO規格」の重要な役割とは
まずは、基本をおさえていただくべく、ご紹介をいたします。ISOは、国際的な標準を制定するための非政府組織で、正式名称は「International Organization for Standardization」です。その本部はスイスのジュネーブに位置しています。
ISO規格は、国際的な取引を円滑に進めるための基準として設定されており、製品やサービスに関する品質やレベルを世界中で統一することが目的です。この規格の制定や改訂は、日本を含む世界165カ国以上の参加国の投票を通じて行われます。主要な活動として「国際的に通用する規格の制定」が挙げられており、このような規格を「ISO規格」と称しています。
ISO規格は、多岐にわたる分野で品質や安全性を確保するための重要な役割を果たし、その種類は大きく分けて以下の二つです。
- モノ規格
- マネジメントシステム規格
モノ規格の対象は幅広く、中でも代表的な製品といえばクレジットカードのサイズと非常口マークですね。マネジメントシステム規格とは、組織の経営活動を改善し向上させるための指針となる規格です。
製品やサービスの品質、環境、労働安全衛生、情報セキュリティーなど、組織のあらゆる活動を対象とした規格が制定されています。組織運営で重要な要素となるマネジメントにおいて、ルールの制定や権限の明確化といった仕組みを構築するのが狙いです。
代表的なISOマネジメントシステムとしては、品質マネジメントシステム(ISO9001)や環境マネジメントシステム(ISO14001)があります。
ISO30414とは、アメリカではすでに上場企業に義務化されている「人的資本に関する情報開示」について定めた、マネジメント規格です。ビジネスのグローバル化が進むなか、日本企業が生産性や企業価値を高めていくためにも、今後は国際的な運用ルールに沿った人事情報の開示を進めることが必須になっていくでしょう。
「ISO30414」を構成する11の領域
それでは、ISO30414とは具体的にどのような規格なのか。また、制定された背景や今後の日本企業の人事部門で取り組むべき科学的な実践について解説します。
ISO30414とは、2018年に国際標準化機構(International Organization for Standardization: ISO)が公開した、人的資本報告に関する国際標準ガイドラインであり、企業・組織における人的資本の情報開示に特化した初の国際規格です。
2018年12月に公開されたガイドラインは、「採用」「配置・異動」や「企業文化」など組織人事全般にかかわる11の領域と58の項目から構成されています。ここで領域について紹介します。
- コンプライアンスと倫理
- コスト
- ダイバーシティ
- リーダーシップ
- 組織文化
- 組織の健康、安全、福祉
- 生産性
- 採用・異動・離職
- スキルと能力
- 後継者育成
- 労働力確保
ただし、すべての項目を開示する義務はなく、開示内容は基本的に組織や企業に委ねられています。人的資本報告基準では、企業が11の領域に分けられた58の項目について情報提供することを求めています。
企業価値を向上させる「ISO30414」の取得に取り組むには
産業構造が大きく変化するにしたがい、企業の人材活用力、企業文化などの人的資本が企業の成長に大きく影響するようになりました。投資家が企業の価値をより正確に評価するには、財務諸表のみでは不十分となり、非財務情報を重視する流れが生まれ、その中で、人的資本についても情報の開示が求められるようになってきたのです。
アメリカでは2020年8月に、米国証券取引委員会(SEC)がレギュレーション S-K(非財務情報の開示に関する要求事項)の改訂を発表しました。開示項目に人的資本情報が加えられ、同年11月から上場企業に対して義務化されています。
当時のSEC会長、Jay Clayton(ジェイ・クレイトン)氏はプレスリリースで「さまざまな業界や企業の長期的な価値において重要な原動力となりうる人的資本の開示に重点を置いていることを特に支持する」とコメントしています。日本では2020年10月に「ISO30414調査研究レポート」が国内初のレポートとして発表されました。
仮にISO30414対応をするのであればHR情報をどのように開示すべきかの検討や、自社データの収集・分析を始めていく必要があります。
例えば多くの投資家が注目する「生産性」のデータなら、どれだけ人材採用・育成・研修費用を投資して、どれぐらいのリターン(成果)があったかを明示するといったことが必要です。11の領域と58の項目の中で、まずは自社にとって事業との関連性が強く重要だと判断した項目からデータを収集していくとよいでしょう。開示への準備だけでなく、自社の状態を把握することにも役立ちます。
また、ISO30414が定める開示項目には、社員だけでなくリーダーシップにかかわる項目も含まれており、経営陣も含め組織全体で対応できる体制・仕組みをつくっていくことが求められます。幅広いデータを継続的に収集していくためには、HRテクノロジーなどをうまく活用し、できるだけ人の手をかけずにデータをとれるようにする仕組みが必須となるでしょう。
こうした経験と勘からデータ活用による人事に転換することが、ISO30414対応に取り組む第一歩と言えます。
例えば、経営方針を踏まえた数値目標を設定した人材戦略の策定。あるいは自社のHRデータの分析による強み・弱みの把握を行っていくこと。これらの取り組みによって、どうして、欲しい人材が採用できないのか?なぜ、離職者が増え続けるのか?といった課題に対して「何となく」ではなく、データに基づいた施策を行うことで、改善・進化が可能になります。
このように土壌ができてきた状況で、人的資本に関して開示目的も含めて持続可能なものにしたい、自社の人材戦略がどのように働いたのかを計測したいと思うならば、取得に関して果敢に取り組むことは効果的であると思います。
例えば、グローバル企業ないしはグローバル企業を目指すにあたって、世界的にESG投資やSDGsへの関心が高まっています。世界的な取引先および投資家からも優れた取り組みを導入する企業とみなされることはプラスに働く可能性が大きいでしょう。
また、ISO30414の取り組みは「社員のスキルや人格を企業資本として大切にする」ことがベースです。社員の意識やロイヤルティー、ワークエンゲージメント向上につながるのは間違いありません。
あるいはISO30414認証企業は「人的資本を重視する企業」と言い換えることもできます。採用活動での大きなアピールポイントになり、新卒、中途を問わず、優秀な人材の採用には優位に働きます。こうした効果を期待するなら、上場企業の開示目的に限らず、取り組むべき企業は幅広にあるでしょう。実際に非上場企業やクリニックなどでも認証を取得した例が出てきています。
興味を抱かれた企業様は検討をしてみてはいかがでしょうか?
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