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インシュアテックとは?保険業界におけるテクノロジー活用
生命保険や損害保険など、人々の生活に必要な保険。人々のライフスタイルの多様化に伴い、様々な種類の保険サービスが登場しました。また、エクスポネンシャル・テクノロジーの影響により、保険業界の大規模な再編も進んでいます。そんな保険業界で注目されているキーワードの一つが「インシュアテック」です。 今回の記事では、保険業界に大きな影響を与えるといわれているインシュアテックについて詳しく解説します。また、インシュアテックに積極的に取り組む企業の事例、最新動向なども見ていきましょう。
インシュアテックとは?
インシュアテック(InsurTech)とは、「保険」を意味する英単語「Insurance」と「技術」を意味する英単語「Technology」の合成語です。保険分野でIT技術を駆使して、新たな保険サービスを生み出す取り組みを意味しています。「インステック(InsTech)」とも呼ばれます。
ビッグデータやAIなどのテクノロジーを活用することで、保険業界の変革にも影響を及ぼしている重要な概念です。
各企業のインシュアテックの取り組みは、保険業界における業務改善や商品開発に大きく貢献すると考えられています。
フィンテックとの違いは?
インシュアテックと似た言葉として「フィンテック」があります。フィンテックは金融業界のサービスにおいてIT技術を駆使して生まれた新たなサービスなどを指しています。インシュアテックは元々フィンテックの一種でしたが、保険業界での革新的な動きが続き、インシュアテックという言葉も頻繁に使われるようになりました。
インシュアテックによる保険業界への影響
各企業が行うインシュアテックの取り組みにより、保険業界には様々な分野で変革が起きています。以下では、インシュアテックによる保険業界への影響について詳しく解説します。
業務効率化
インシュアテックにより、保険業界の業務の効率化が進んでいます。申込内容や書類などから被保険者のリスクを判定する保険審査業務は、重要ながらも時間と手間がかかる業務でした。しかし、業務プロセスにAIが導入されたことにより、短時間で正確な審査が可能となったのです。
また、スタッフによるヒアリングやシミュレーションを行って保険商品の提案を行っていた窓口業務についても、シミュレーション段階へのAI導入で業務が短縮されました。その他にも、スマホ決済による保険料支払いや変更手続きの簡略化など、保険会社・保険加入者双方に利益をもたらす業務効率化が進んでいます。
マーケティングの改善
インシュアテックによる影響を受けている業務として二つ目に紹介するのは、保険業界におけるマーケティングです。
保険企業が持つビッグデータをAIで解析し、消費者の需要に合わせた営業活動や、詳細なマーケティングに活用されるようになりました。
政府が公開するデータとAIによる解析結果の併用により、地域別、年齢別など様々なターゲットに対するマーケティングの改善が進められています。
新商品の開発
インシュアテックは、保険業界の既存業務以外にも利用されています。急速に発展しているのが、IT技術を導入した新商品の開発です。
例えば、自動車保険では車の中のセンサー設置により走行距離や運転速度などの運転情報を収集できます。これらの情報を活用して保険者固有のリスクを算定し、安全運転を続けている被保険者に有利な保険料金設定が可能です。医療保険や生命保険でも同様の保険が開発されています。今後も、従来では考えられなかった保険商品が生まれるでしょう。
インシュアテックに取り組む企業の事例
インシュアテックは、欧米諸国を中心に先進的な取り組みが行われています。日本でも、ベンチャー・大企業問わずインシュアテックに対して様々な分野の保険でインシュアテックに関する動きが注目され始めました。
以下では、インシュアテックに関連した取り組みを行っている企業の事例を紹介していきます。
衆安在線財産保険
衆安在線財産保険は、2013年に創業されたオンラインの保険会社です。大手IT企業のアリババや保険最大手である中国平安保険などからも投資を受け、大きな影響力を持っています。
ネットショッピングの際の返送料金を補償する「返品送金保険」を一般消費者に向けて提供したところ、Eコマースの急成長の影響もあり急成長を遂げました。
2017年9月には香港取引所に株式上場し、現在もインシュアテックを牽引する存在です。損害保険ジャパン日本興亜株式会社 とも提携し、日本市場のデジタル化にも影響を及ぼしています。
第一生命保険株式会社
インシュアテックに関連する取り組みを推進している日本の企業の一つが第一生命保険株式会社です。第一生命保険株式会社では、2015年12月に「InTechイノベーションチーム」を結成し、グループ内でのインシュアテック推進に留まらず、他業種との連携体制の構築など幅広い活動を行っています。
ヘルスケア、アンダーライティング、マーケティングの3領域で先端技術の情報収集や導入などを行い、保険業界のイノベーションの創出に貢献しています。
2020年8月 には、顧客提案力の高度化・均質化を目的として、AI技術とXR技術を駆使した営業ロールプレイングの実証実験を開始しました。AIによる営業スキル評価や、XR技術の演出を活用した研修コンテンツを、オンラインで受講できるアプリケーションとして提供し、お客様とのコミュニケーション体験が可能な体制を整えています。
日本のインシュアテックをリードしており、今後も革新的な取り組みが期待されている企業の一つと言えるでしょう。
住友生命保険相互会社
住友生命保険相互会社のインシュアテックに関する取り組みとしては、健康増進型保険「Vitality」が挙げられます。2018年に開始した「Vitality」は、顧客のランニングやウォーキングなどの運動習慣と検診結果を評価し1年ごとに保険料を見直す保険です。専用アプリによって測定される運動や健康診断の結果などがポイント化され、累計ポイントが高くなると保険料の割引や各種特典の利用なども可能になる仕組みでリスク自体を減らしています。
この保険の展開にあたり、南アフリカの保険会社ディスカバリーとの提携や、東京とシリコンバレーを拠点としたインシュアテック技術の向上のための体制構築など、様々な取り組みを開始しました。
保険業界の最新動向
保険業界では、AIなどのIT技術によって価格設定や営業方法などが大幅に変化し、保険自体の役割も本質的に変化しています。
インシュアテックと並び、保険業界の変化に欠かせない存在が「クラウド保険」です。クラウド保険のシステム内では、仲介業者となる保険会社は存在しません。営業や、保険料を算定するために重要なリスク計算に伴う統計学などはテクノロジーが代替しています。
アプリケーションがデータベースに繋がっており、データベースがAIに繋がっており、保険加入者のネットワークを運営する形式です。保険料の支払いや、保険金の受け取りもネットワークの承認によって行われます。
各企業が積極的に取り組みを進めるインシュアテックや、様々な分野で商品化が進み徐々に増加を続けるクラウド保険などにより、保険のあり方は変わっていくでしょう。
インシュアテックの取り組みで最新サービスの創出へ
インシュアテックは、特に欧米を中心に進んでいる取り組みではありますが、日本の保険業界を代表する大企業でも様々な活動が行われています。時代やライフスタイル、業界の変化への対応のためにも、保険業界のフィンテックである「インシュアテック」は重要になってくるでしょう。
保険業界の業務効率化や新サービス開発など革新的な動きにも大きく関わっているインシュアテックについての取り組みで、人々の生活にも影響があるかもしれません。各企業の取り組みや最新動向などに注目していきましょう。
【参考資料】
ピーター・ディアマンディス、スティーブン・コトラー.2030年 すべてが「加速」する世界に備えよ.ニューズピックス
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