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2023年はインフレに見合う賃上げが実現できるか?(後編)
インフレと賃金の動向についてのシリーズ前編では、22年後半以降のインフレの動きについて議論してきた。本稿(後編)では、年明け以降に高まってきた賃上げの動きについて整理したい。
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2023年はインフレに見合う賃上げが実現できるか?(前編)
インフレに見合った賃上げが実現できるか
すでに様々なメディアなどで指摘されているが、今回のインフレ局面での最大の問題点は、賃金の上昇がインフレに追い付いていない点にある。
賃金の目減りが加速している
厚生労働省が1月6日に公表した毎月勤労統計調査をみると、22年11月の実質賃金(物価変動を差し引いたもの)は前年同月比で-3.8%と大幅に減少した。
同年4月にマイナスに転じて以降、一度もプラスに浮上していないばかりか、消費増税直後の14年5月(-4.1%)以来8年半ぶりに大きな下げ幅となり、11月としては過去最大のマイナス幅を記録した(図1参照)。
賃金の上昇が物価上昇に追い付かず、いわば「賃金の目減りが毎月加速している」状況にあるのだ。
この状態が長引くと家計の購買力は低下し、嗜好品などへの消費意欲はますます減退する。つまり、景気の下振れ圧力が強まってくることになる。
日本の賃金は米国の半分強の水準
バブル崩壊以降に給料が上がらない状態が慢性化したことで、すでに日本の給与水準はグローバルで大きく見劣りしている。
OECDの統計によれば、加盟各国の2021年の年間平均賃金は5万1600ドル。最も水準が高かったのが米国で7万4700ドル、二番目がルクセンブルクの7万3700ドル。
これに対し日本は3万9700ドルとトップの米国の半分強の水準にすぎない。
加盟国平均を大きく下回り、35ヵ国中の24番目にとどまっている。
図2を確認して頂ければ、日本の賃金水準がいかに劣位にあるかは一目瞭然である。
硬直的な賃金体系
日本の実質賃金が上昇してこなかった背景には幾つかの要因が指摘できるが、特に、日本では終身雇用体系を基本としている企業が多いことから、賃金のボラティリティ(変動性)を抑えるために下方硬直性を持たせると同時に上方硬直性も根強く存在する、という構造的な要因が大きい。
そして、デフレ下で安定志向型の発想が長く続いてきたことから、多くの日本企業が硬直的な賃金体系にメスを入れないまま現在に至っている。
明るい兆し
それでも、賃金上昇に向けての明るい兆しは見えている。
前編の冒頭に記載した岸田文雄首相の発言を筆頭に、政府内で危機感が強まっていることに加え、実際に賃上げを実施する立場にある企業からも前向きな姿勢を示す企業が出始めている。
ユニクロが最大4割の賃上げを発表
最近発表された中で最もインパクトが大きかったのが、ユニクロを運営するファーストリテイリングが3月から国内従業員の年収を最大4割引き上げると発表した(1月11日)ことだろう。
同社の柳井正代表取締役社長兼会長は、日本経済新聞のインタビューに対し「役職や勤務地に対する手当制度など、過去の延長線上の仕組みはすべて廃止する」「賃上げにより国内外から優秀な人材や若くて成長意欲のある人材を採用して組織に刺激を与える」などとコメントしている。
ジャパネットやサントリーも賃上げへ向けて動き始めている
ファーストリテイリング以外でも、ジャパネットたかたを展開するジャパネットホールディングスが「全グループ会社で23年4月より2年間で正社員の平均年収を10%引き上げる」と発表(22年12月8日)した。
また、4月から経済同友会代表幹事への就任が内定しているサントリーホールディングスの新浪剛史社長は、新春の新聞各紙のインタビューで、23年の春季労使交渉で「月収ベースで6%の賃上げを検討する」との考えを示している。
賃上げ機運は高まっている
東京商工リサーチが22年10月に実施したアンケート調査では、23年度に賃上げの実施を予定している企業は全体の82%に達していたものの、その時点では5%以上の賃上げ率を予定している企業は全体の4%強に過ぎなかった。
ところがその後は、上記のように色々な産業で賃上げ気運が大きく高まってきているのである。
本格的な賃上げ実現に向けて23年は正念場
ただ現状では、賃上げを打ち出しているのは一部の大企業にとどまっている。
中小企業にまでこの意識が浸透していけるように、政府主導で労働法制改革などのバックアップ体制も必要となろう。
23年はグローバル経済の停滞リスクが指摘されているが、日本でインフレに見合う賃上げを実現して経済活性化の好循環につなげることができるのか、まさに正念場を迎えている。
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