読了目安:15分
「日本を豊かにする外国人」の受け入れを「地方自治体主導」で ~「移民基本法」を制定せよ~
「外国人の受け入れ」の問題は、アメリカ大統領選などと異なり、日本の選挙ではほとんど争点化されない。
遠くない将来、日本の外国人比率も1割を超えるとされるが、日本には「どのような外国人を、どう受け入れるべきか」について、明確な基本方針がない。
受け入れた外国人を、生活者として捉え、最終的に責任を持って管理・支援するのは「地方自治体」だ。
自治体が主導する形で、「地域経済の活性化」ひいては「日本の経済成長」に貢献する外国人を「戦略的に」受け入れる仕組みを、「移民基本法」として早急に制定すべきだ。
「家事支援外国人」を「特区」で解禁した安倍政権
「女性の社会参加をさらに後押しするために、外国人の活用を含めて、家事代行サービスを充実させる必要がある。具体的な要望があるなら、まずは特区で、どんどん進めたらいい」
そう言ったのは、今は亡き安倍晋三元総理。今から10年前――2014年の春のことだ。
当時、内閣府にいた私は、同年の秋の国会に提出する「国家戦略特別区域法」の改正法案の中に、新たな「規制改革項目」を追加するべく準備を進めていた。ご存じの通り、国家戦略特区法は、その前年(2013年)に成立した「安倍政権の目玉政策」の一つだ。
この「家事支援外国人の受け入れ」も、追加が検討されていた改革項目の一つだった。
神奈川県や大阪府からの提案を受け、その実現のため、私たち内閣府は関係者との調整を重ねていた。しかし、法務省・厚生労働省などの規制担当官庁と、与野党の国会議員からの強い反対に遭い、膠着(こうちゃく)状態が続いていた。
こうした中で私たちは、冒頭の、安倍総理からの力強い指示を受けた。
安倍総理のリーダーシップもあり、その後、この「家事支援外国人の受入れ」のための「出入国管理法の特例措置」も盛り込まれた法律の改正が行われた。そして翌2015年の秋には、神奈川県や大阪府で内閣府・地方自治体・事業者の3者共同での管理体制が整備され、その後、家事代行サービスを担うフィリピン人の受け入れが開始された。
「自らがドリルになって岩盤規制改革を断行する」と高らかにうたい上げた安倍総理による改革の成果が、また一つ誕生した。
これ以降も、安倍政権は国家戦略特区法の改正を毎年のように行い、さまざまな分野の「外国人の受け入れ」を推進していった。
日本でスタートアップを行う「創業人材」(2015年)、アニメ関係などの「クールジャパン人材」(2017年)、日本の農業に貢献する「農業人材」(2017年)、日本で養成され免許を取得した「美容師人材」(2021年)などだ。
自治体からの提案・要望をくみ取り、さまざまな分野の外国人の受け入れが、「地域限定」でスピーディに解禁されていった。
日本ではなぜか争点化されない「外国人受け入れ」問題
話を現在に移そう。
今年(2024年)9月に行われた自民党総裁選挙や立憲民主党の代表選挙、さらに10月の衆議院総選挙でもそうだったが、経済政策の中で、ほとんど争点とされなかった重要なテーマがある。
それこそが、まさに「外国人受け入れ」の問題だ。
11月のアメリカ大統領選挙における最大の争点の一つが「移民問題」だったことからもわかる通り、多くの欧米諸国はこの深刻な問題に直面している――にもかかわらず、だ。
確かに、日本に居住する外国人の比率は、2024年初めの時点で2.7%と、軒並み10%を超える他のG7諸国に比べれば相当低い。日本政府の公式見解も「日本は移民政策を採っていない」というものだ。
しかし、在留外国人数はここ10年、増加の一途をたどっており、日本は平均して年間10万人以上の外国人を受け入れている。国立社会保障・人口問題研究所によれば、このままでは日本でも、2067年には外国人比率は1割を超えると予測されている。
遠くない将来、諸外国と同様の事態が訪れることは明らかなのに、日本は政治的には総じて、この問題から目を背けていると言わざるを得ないだろう。
諸外国でもそうだが、「移民・外国人の受入れ」の問題には、一般的に、政治家はもちろん、国民自身も慎重・反対の立場を取る人が多い。
「保守」派は、雇用や治安の面での悪影響を強く主張する。一方で、「リベラル」派として寛容さや多様性を説く人でも、人道主義の視点からは安易な受け入れに慎重な立場を取る。
「外国人受け入れ」は「政治受け・国民受け」しない――したがって「選挙戦での議論にはなじまない」テーマと言えば、そうなのかも知れない。
しかし、人口減少社会において地方の活力が失われていく中で、本来は「少子高齢化」や「地方創生」とも関連して、今まさに日本でも「外国人受け入れ」についての積極的な議論が求められているはずだ。
これまで「産業界の要望」に対応してきただけの日本政府
政治的・国民的には慎重な意見が多数を占めるのに、先ほど述べた通り、日本にも現実に多くの外国人が流入している。なぜか?
それはひとえに、「人手を確保したい」「人手不足を解消したい」という「産業界のニーズ」によるものだ。ここ10年来の技能実習生や海外留学生の増加がそれを象徴している。
日本の産業界の多くに、海外からの「安価な単純労働力」に頼ろうとする傾向が見られるのだ。
具体的に言えば、日本の産業界は、個別の業界ごとのロビー活動の一環として、自らの業界における「外国人の受け入れ」を日本政府に要望してきた。それに応じて、政府は、外国人の受け入れが可能となる業種の追加・拡充を重ねてきた。
残念ながら、そのプロセスの中には、「外国人受け入れ政策」の柱となる「基本方針」などは、存在しなかった。
諸外国のような問題が本当に深刻化する前に、今こそ日本にも「外国人受け入れ政策」についての「基本方針」や、具体的な「基本戦略」が必要なはずだ。
新たな「育成就労」制度は、一歩前進とも言えるが
日本政府は、今年(2024年)の通常国会で、出入国管理法や技能実習法などの改正を行った。
これにより、2027年までに、これまで「国際貢献」を建前としていた「技能実習」制度が廃止され、代わって新たに、「人材の育成・確保」を目的とした「育成就労」制度がスタートすることになった。
「技能実習」制度については、「国際貢献」という目的が、制度の運用実態と明らかに異なっている。ただ、名目とはいえ目的が「国際貢献」であるため、技能実習生は3年間の就労後、直ちに帰国する必要がある。
こうした問題点を踏まえ、新たな「育成就労」制度は、より高い技能レベルを対象とする「特定技能」制度と接続し、3年間の就労で特定技能に移行できる仕組みとなった。
実態と建前のねじれを解消し、外国人の技能向上プロセスに沿った形で在留資格制度を見直すことで、外国人の長期の就労に道を開いた点は、一歩前進として評価できよう。
日本が好きで、日本で専門の技能・技術を身に付けた外国人が、徐々に日本の産業・経済社会にとって欠かせない戦力になっていく――「育成就労」と「特定技能」が結び付けられ、このような外国人の育成・就労が連続的に進むことを期待したい。
他方、「育成就労」については、「技能実習」と異なり、同一の職場で1年ないし2年超働くなどの要件を満たせば、本人の意思で、これまで原則禁止とされていた「企業間の転籍」もできるようになる。
「転籍」に伴い、地域を越えて移動する外国人就労者も増えるだろう。彼らの管理・評価方法も、これまで以上に複雑化し、難しくなる。ひとたび受け入れた外国人の、日本経済・社会に与えるインパクトも一層大きくなる。
外国人の人権・意思を尊重すれば、「転籍」自体を否定するつもりはない。しかし、このように新制度の影響が大きくなることを考えれば、繰り返しになるが、そもそも日本として「どのような外国人の受け入れが望ましいか」といった「基本方針」の議論を、すぐにでも開始すべきではないだろうか。
外国人受け入れのポイント(1)「地域活性化・経済成長」の視点
ここで、この「外国人受け入れ」の問題についての、一つの重要な考え方を提示したい。
それは、「地域経済の活性化」ひいては「日本経済の成長」という問題と一体的に捉えていく、というものだ。
具体的に言えば、外国人を、単に「人手不足解消のための安価な労働力」としてではなく、地域経済・日本経済の「担い手」と位置付け、「地域、ひいては日本全体を豊かにする外国人」すなわち「我が国の経済成長に貢献する外国人」については積極的に受け入れていく、という考え方だ。
ただし、ここには一つ大きな問題がある。
ここで言う「地域や日本を豊かにする」とか「経済成長に貢献する」ということを、明確に定義し基準を定めるのは、口で言うほど容易ではない。
「日本を豊かにする外国人」とは?
一般的に、受け入れる外国人を議論する際、その技能・技術レベルに応じて、「高度外国人材」と「それ以外の外国人材」という二つに区別することが多い。また、それに合わせて、前者には高い賃金が、後者には安い賃金が支払われているという単純な前提の下での議論が、しばしば行われる。
このステレオタイプな「二元論」の帰結は、前者(高度外国人材)は受け入れるべきで、後者(それ以外)は受け入れるべきではない、ということになる。
しかし、そもそも人材の持つ技能や技術を、簡単に高・低で評価することは難しいし、言うまでもなく「高度な技能」や「賃金の高い」外国人の「全て」が「日本を豊かにできる」わけではない。逆に、そうでない外国人でも「経済成長に貢献できる」人もいる。
必ずしも「個人」として「高度」な技能を持たなくても、例えばアシスタント的な立場で「チーム」に貢献することで、日本経済に貢献できる場合もあるだろう。
また「技能・技術」と「賃金」の関係も、それほど単純ではない。例えば、真に高度な技術を持った人材が、比較的安い賃金でもやりがいを感じて、日本の企業・経済に貢献しているケースも多々存在する。
私は「積極的に受け入れるべき外国人」を議論する際、まずは上記のような「二元論」から脱却すべきと考える。そして、その「定義・基準」を決める鍵は、「地域」にあると考えている。
外国人受け入れのポイント(2) 受け入れは「地方自治体の主導」で
どんな外国人を受け入れても、彼らは「職業人」であると同時に「生活者」である。そして、日本人の住民との関係を含め、生活面で問題が生じれば、それはそれぞれの「地域」ごとに解決されなければならない。
「地方自治体」、特に市町村などの「基礎自治体」が、最終的に責任を持って問題の処理を行うのだ。
もちろん、負担ばかりではない。外国人の受け入れは、地場産業の活性化など地方創生のための重要な手段として、地域に大きなメリットをもたらす面もある。
だからこそ「地方自治体」は、外国人が日本で生活するに当たって、日本語教育を始めとするさまざまな生活面での支援も、責任を持って行う。
そう。「外国人受け入れ」のポイントの2点目は「地域主導」なのだ。
以下の具体的なスキームにより、「外国人受け入れ」と「地域活性化/地方分権」を一体的に進めていくことを提案したい。
まず「地方自治体」に責任とともに「権限」も持たせ、前述の「地域を豊かにする外国人」の「定義・基準」を、地域ごとに設定させる。
それに基づき自治体ごとに、「どの分野(業種)に、どの程度の技術・技能水準を持った外国人を、当面どのくらいの期間、どの国から、どの程度の規模(人数)で受け入れていくか」という「計画」を策定させ、「要望」という形で国に提出させる。
こうして積み上げられた「地域ごとの要望」を全国的に集計したものが、日本国全体の「基本戦略(計画)」となる。政府は、これを最大限実現するために、諸外国との調整などを行う。
受け入れた外国人は、地方自治体が責任をもって管理・支援する。
参考になる諸外国の制度~日本でも「移民基本法」の制定を~
上記のような仕組みは、実はオーストラリアやカナダでは、すでに制度化されている。
具体的には各州が受け入れを希望する移民の数や属性を国に登録し、実際に受け入れた後は、移民をしっかりと管理・支援するというものだ。
移民の都市部への流出を防ぐために、国が各州の移民の「残留率」を常にモニタリングする仕組みも設けられているという。また、こうした厳格な管理のみならず、住居面などの移民への支援も州が主導して行う。
こうした諸外国の制度も大いに参考にしながら、「地域、ひいては日本全体を豊かにする外国人」を受け入れることを「基本方針」とした上で、実際の受け入れは、責任と権限を持った「地方自治体が主導」する形で実現していく――
こうした考え方とスキームを、日本でも「移民基本法の制定」という形で法定化していくことが、いよいよ必要な時期に来ているのではないだろうか。
冒頭で述べた通り、「外国人受け入れ」の問題は、保守系の国会議員を中心に、慎重・反対意見が多い。しかし、典型的な保守リーダーのイメージも強かった安倍総理は、国家戦略特区を活用しながら、家事支援人材を皮切りに多くの分野で外国人の受け入れを推進した。
特区制度も、志の高い「地方自治体」に責任と権限を与え、それぞれの地域の活性化につなげる仕組みだ。
現在の石破総理は、安倍政権当時、内閣府地方創生担当大臣として国家戦略特区も担当しており、私の上司だった。今般の石破新政権においても、「移民基本法」の検討とともに、特区制度の活用も含め、必要な「外国人の受け入れ」が積極的に進められることを、切に願っている。
なお、本稿については、私も副会長を務めている一般財団法人「未来を創る財団」(会長は国松孝次・元警察庁長官)が2023年7月に主催したフォーラム「地域おこしと外国人受入れ」を参考にした。
フォーラムの当日は、参加者による積極的な議論が行われたが、特に、京都大学名誉教授の石川義孝氏からは、「地方創生」という新たな在留資格の創設など、斬新な提案もいただいた。以下のURLを参照されたい。
一般財団法人未来を創る財団『動画配信』フォーラム「地域おこしと外国人受入れ」』
(https://theoutlook-foundation.org/archives/1455)
コメントが送信されました。