ホンダ・日産、統合破談後も続く協業の可能性

ホンダと日産自動車の経営統合協議が打ち切りとなった。協議入りする前から始まっていた協業関係は継続し、電気自動車(EV)やSDV(ソフトウェアの更新で性能を高める次世代車)などでは協力するという。
統合協議の過程で、両社経営陣の信頼関係は揺らいでおり、これから先、協業の枠組みで成果を出すのは難しいかもしれない。だが、自動車業界の競争は激しさを増しており、両社が単独で生き残ることも難しい。経営統合ほどの効果は期待できないかもしれないが、今後も協力関係を続けるのであれば、協業の枠組みを使って少しでも多くシナジーを引き出す必要がある。

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「単独では生き残れない」自動車業界の現実と協業継続の選択

「単独では生き残れない」自動車業界の現実と協業継続の選択

ホンダと日産は昨年3月、自動車の知能化・電動化で協業検討の開始を発表し、8月には協業を深化、12月には経営統合の協議入りを公表し、急速に距離を縮めた。

背景にあるのは、自動車業界の競争環境の変化である。EVやSDV、自動運転など自動車をめぐる競争軸は多岐に広がる。こうした新分野では米テスラや中国BYDなど新興勢力が先行、既存の自動車メーカーも含め、巨額の開発投資合戦を繰り広げている。

ホンダの三部敏宏社長も、日産の内田誠社長も、「単独でやっていくのは厳しい」との発言を記者会見などで繰り返しており、どこかと組まないと生き残れないことを認めている。このため、経営統合協議が打ち切りとなった後も、ひとまず決別には至らず、協業の枠組みを残す形となった。

破談後の協業、「互いに納得できる分野で」シナジーを追求

自動車産業史に残るセンセーショナルな再編劇だっただけに、統合協議打ち切りを悲観的にとらえた見解が報道等で散見される。しかし、終わってしまったことは仕方ない。今両社間でできることは、協力関係を継続するのではあれば、協業の枠組みを生かすことだろう。

昨年8月の両社の発表によると、次世代SDVプラットフォームで共同研究に取り組み、EVの基幹部品であるバッテリーや「eアクスル」の共通化、車両の相互補完を検討するとした。3月に合意した枠組みには三菱自動車も合流している。

統合協議打ち切りの理由について、公式発表や多くの報道がなされているのでここでは割愛する。一部報道によれば、日産は独自のハイブリッドシステムをあきらめ、ホンダのハイブリッドシステムに一本化するよう、ホンダが日産に提案したことが、日産のプライドを刺激、破談の一因になった。

協業の枠組みでは、このような互いに譲れない分野で落としどころを探るのは難しい。だからこそ、経営統合しスピード感をもって意思決定する体制にしようとしたことがうかがえるが、破談となった今は、互いが納得できる分野を見出して、シナジーを深めていくしかないだろう。

自動車業界の「緩やかな関係」を生かした事例

自動車業界の「緩やかな関係」を生かした事例

資本関係のない提携や小規模出資による資本提携、いわゆる「緩やかな関係」を成果につなげている事例はある。現在、日産は三菱自動車の筆頭株主だが、日産が三菱自に出資する前から両社は提携関係にあり、成果を出してきた。例えば、2011年に軽自動車の合弁会社を設立、車両開発を共同で進め、生産は三菱自動車の水島製作所が担っている。

トヨタ自動車はマツダとスズキにそれぞれ約5%出資しており、緩やかな関係をうまく使っている。トヨタとマツダは車載ソフト開発で協力、米国アラバマ州に合弁工場を構えた。

スズキは今夏からインド製のEVを各国で発売するが、トヨタとトヨタ子会社ダイハツ工業と共同開発したEV専用プラットフォームを応用。トヨタ系列サプライヤーのアイシン、デンソー、BluE Nexusが共同開発したeアクスルを搭載する。ホンダと日産も、経営統合に至らずとも、成果を出せる分野はあるはずだ。

新たな提携先探しも進める両社、鴻海が食指

ホンダと日産は協業を継続する一方で新たな提携先を模索しているようだ。とりわけ業績不振が深刻な日産は構造改革の断行が喫緊の課題であり、提携戦略の立て直しも求められる。

内田社長は提携先について、「さまざまな分野で可能性を探求していく。ホンダとの協業の発展も視野に入れ、日産の将来の事業をどう作っていくか足早に動きたい」としている。ホンダも「(日産との経営統合が)成就しなかったので今後どう補っていくか検討していくし、プランB、Cもある」(三部社長)としている。

今回の再編劇で注目されているのが台湾の鴻海精密工業だ。劉揚偉会長は、仏ルノーが保有する日産株を買い取ることを検討しうると、報道陣に語っている。同社が、ルノーや日産だけでなく、ホンダに接触をしていることも明らかになっている。

また、日産をめぐっては、様々な提携先が取りざたされている。提携先がどこか、どこまで踏み込んだ提携になるかによって、ホンダと日産の協力関係に大きな影響を及ぼすだろう。

経営統合協議は打ち切られたが、事態は流動的であり、協業のかじ取りは困難が伴うことも予想される。

文献

2025/02/05日本経済新聞地方経済面 静岡6ページ EVでも「小・少・軽・短・美」 スズキ、トヨタの知見と融合 独自の充電性能向上策も
2025/2/17日刊自動車新聞2ページ〈会見概要〉日産との経営統合協議打ち切り ホンダ社長 最優先は「競争力のあるSDV」
2025/2/17日刊自動車新聞2ページ〈会見概要〉ホンダとの経営統合協議打ち切り 日産首脳 「強い会社」見据え議論重ねた末
台湾の鴻海、ルノー保有の日産株買い取り検討-ホンダとも会談
https://global.nissannews.com/ja-JP/releases/print/101214-01-e
「もう二度と、あんな失礼なことは言われたくない」…プライド傷つけられた「技術の日産」
日産自動車とHonda次世代SDVプラットフォームの基礎的要素技術の共同研究契約を締結 | Honda 企業情報サイト

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