人口減少社会と中小企業の課題

日本低迷イメージ

日本の人口減少及び少子高齢化は、特に地方の課題としてクローズアップされて久しい。菅政権が誕生してから、デービッド・アトキンソン氏を中心に提唱されている「中小企業の生産性向上論」「最低賃金の引き上げ論」において、中小企業の再編等の議論が注目されている。筆者は、地方企業のコンサルティング支援や経済産業省のグローバルネットワーク協議会の事務局長として、これまで地方創生に積極的に関与してきた。それらの経験を踏まえて、日本の人口減少問題と、それによって影響を受ける地方の中小企業の今後の課題について私見を述べたいと思う。

GDPは4割減る 人口減少による悪影響とは

日本の人口は、2020年7月1日現在で約1億2584万人(総人口)、約7465万人(生産年齢人口)である。国立社会保障・人口問題研究所の2017年の「日本の将来推計人口」レポートの出生中位・死亡中位の予測によると、2065年の日本の人口は、総人口でみると約8800万人(約30%減)、生産年齢人口でみると約4530万人(約39%減)となり、大幅な減少が予測されている。

このような大幅な人口減少に至った場合、日本のGDPはどのような影響を受けるだろうか。GDPは、次のような計算式で示される。

GDP=国内の付加価値総額
=労働者数×労働者一人当たり付加価値額(労働生産性)
=生産年齢人口数×就業率×労働者一人当たり付加価値額(労働生産性)

これによると、2065年において就業率と労働生産性が今と変わらない場合、GDPは現在の約61%と、大幅に減少することになる。

財政破綻リスクも高まる

現在の日本(国及び地方公共団体等)の借金の対GDP比率は約240%であり、世界の中で断トツのワースト1位であることは皆様もご存じの通りである。

もし、2065年に日本のGDPが現在の61%にまで減少してしまうと、仮に国の借金が増加しないとしても日本の借金の対GDP比率は約393%となり、財政破綻リスクは現在と比較して格段に高まることになる。

ましてや、プライマリーバランス(基礎的収支)が長期間継続的してマイナスである日本にとっては、国の借金が今後も増加する可能性は高いため、将来にわたってGDPを維持し、増加させることは日本にとって重要な国家的課題である。

GDP減少を食い止めるためには

労働生産性イメージ

それでは、このような人口減少傾向を前提に、GDPの減少を食い止めるためにはどのような方法があるであろうか。上記の式を再掲した上で、次の通り式を分解して主要な解決方法を整理してみると、次の通りとなる。

GDP=A生産年齢人口数×B就業率×C労働者一人当たり付加価値額(労働生産性)
(解決の方向性)
A:出生率の向上、外国人労働者の受入増加
B:女性及び高齢者の就業率の向上
C:労働生産性の向上

このうち、出生率の大幅な向上は、現代における晩婚化・非婚化の傾向が継続していることを考えると難しい状況にある。そのため、「外国人労働者の受入増加」、「女性及び高齢者の就業率の向上」、「労働生産性の向上」の3つの方向において解決策を図りつつ、GDPの減少を少しでも食い止めることが必要である。

低い労働生産性

図1イメージ

▲出所:財務省「法人企業統計調査年報」

上記の中で最も改善余地が大きいのは、デービッド・アトキンソン氏が指摘する中小企業の「労働生産性の向上」であろう。上の図①の通り、大企業と中小企業の間の労働生産性の格差は大きく、改善の余地は十分に見込まれる。

地域内の内需に頼る中小企業

図2イメージ

▲出所:東京商工リサーチ「中小企業の付加価値向上に関するアンケート」

上記はあくまで供給者側(生産者側)での議論であるが、人口減少は、一方で、確実に国内の需要の減少に繋がることは必至である。

特に、中小企業数が圧倒的に多い日本においては内需型の中小企業が多いため、これらの企業の付加価値が減少することは確実である。上図②では、地域内で活躍する中小企業は生活インフラ関連型として分類されているが、同分類の中小企業は、製造業では24%であるものの、サービス業では過半数の55.4%を占めている。

このようなサービス業を中心とした内需型企業については、
地域内内需に頼らないビジネスモデルへの転換」を行うことも重要な対策である。

本稿では、これらの「労働生産性の向上」と「地域内内需に頼らないビジネスモデルの転換」について議論を深めていきたい。

労働生産性の向上のために

我が国の全企業のうち中小企業が占める割合は99.7%であるが、中小企業の付加価値は、全企業の付加価値の約53%であり、この大企業と中小企業の労働生産性の差をどう縮めるかが重要である。

ところで、労働生産性は、次のような計算式で算定される。

労働生産性=付加価値額÷労働者数

ここでいう付加価値額とは、企業でいえば、売上高から外部調達費用を控除した額のことを言い、これを分解すると次の通りとなる。

付加価値額=人件費+その他費用(賃借料等、支払利息、租税公課)+利益

よく業務効率化を図れば労働生産性はあがるというが、例えばIT投資等を行って業務効率化を図り、これまで10人の労働者でできた仕事を8人でできるようになったとしても、そこで余剰となった人を解雇しない限り当該企業の労働生産性は変わらない。

なぜなら、労働者数も付加価値額も変動がないからである。余剰となった人を営業サイドに回し、その人が新たな仕事を受注して売上高が上がった場合に、初めて労働生産性も上がり、当該企業の利益も増えるのである。

よって、労働生産性の向上は、

「業務の効率化」+「売上高の増加」のセットで考えるべきであり、「業務の効率化」だけでは不十分である。

1 業務の効率化(能力開発と学びの機会)

図3イメージ

▲出所:厚生労働省「平成30年版 労働経済の分析」

これには、高度な機械の導入、工場の自動化及びIT等の設備投資による効率化と、労働者の研修やマニュアルの整備等による人材教育による効率化の二種類の手法があるが、日本では特に後者の部分が不十分と言われている。

上記の図③によれば、日本はGDPに占める能力開発費の割合が諸外国と比較して極めて少ない上、1995年以降、5年単位で見ると当該割合が減少していることが分かる。これは大企業も含めたデータであるが、大企業よりも中小企業の方が能力開発にかけるコストが少ないことは自明であり、この点の改善余地は大きい。

私は、2015年以降、グローバルネットワーク協議会という経済産業省の地方企業(地域未来牽引企業を含む)の新規ビジネスに対する支援事業の受託者の責任者として活動してきた。

その際に感じたことだが、経済産業省が地域を牽引する有力企業として認定した地域未来牽引企業であっても、比較的多くの経営者が、ビジネス戦略を習得する機会を欲していた。その際、経営者や経営幹部に対し、経営課題の発見と解決策の構築を我々が支援するだけで、彼らのモチベーションが上がる姿を何度となく目にした。

中小企業庁の下部組織に中小企業大学校という組織があり、私も、30代前半の頃に、同大学校の経営管理者コースに1年間通ったことがあるが、とても有意義な勉強の機会を得た。

しかしながら、教育のために相応にかかるコストをかけて、貴重な人材を中小企業大学校に通わすことができる余裕のある中小企業は多くないとのことであった。
その頃と異なり、現在はWEBによって地方に在住しながらビジネススクールを受講することも可能な時代であり、このような教育の機会をもっと公的な助成等により増やすことが重要と考える。

2 売上高の増加(余剰人員が出た場合は、エース級を新規事業に)

業務効率化したことにより労働者を他の仕事に配置する場合に、営業職にまわす方法が一般的であるが、なかなか目に見えた成果が出ない場合も多い。

ベテランの営業職の人でもなかなか売上高を伸ばせない中で、他の部署から素人の営業マンが配置転換されても、なかなか成果を出すことは難しい。特に、人口減少社会においては、地域内の需要自体が縮小していくため、地域内需型サービス業の中小企業が売上高を増加させることは容易でない。

業務効率化で余剰の人が出た場合、私は、当該企業の新規事業にその余剰人員を配置させることをお勧めする。

もちろん、ここでいう余剰人員とは、パフォーマンスが低い余剰の人という意味ではない。余剰が出たヘッドカウントの範囲で、その企業のエース級の人を配置するという意味である。これは、後述するビジネスモデルの転換を図る業務にも有効な手法である。

数を減らすためではなく、効率化のための再編を

図4イメージ

▲出所:総務省人口推計などからFMI作成

労働生産性の向上のために、労働生産性の低い中小企業の数を減らすべきであるという議論がある。

確かに理屈は正しいものの、人口減少及び少子高齢化の社会においては、中小企業の数は、既に大幅に減少してきている。企業数の減少を人口減少との対比で見た上記の図④によると、1999年の企業数から見て2016年の企業数は約26%も減少しており、1999年と2016年の人口減少の割合(約12%)の倍以上のペースで減少している。

中小企業の数は、ここでの企業数の約99.7%を占めるが、このような企業数の減少の大きな要因は、中小企業の社長の高齢化によるものと想定される。(下記図⑤を参照)。

この傾向は、年々強まっている。従って、中小企業の数を減らす議論は、あまり意識して行う必要はないように思われる。

図5イメージ

▲出所:東京商工リサーチ「全国社長の年齢調査」

むしろ重要なことは、休廃業や解散を行う中小企業の約6割が黒字企業であると言われている。そのような企業は、地域の雇用を維持するため、そして地域内のGDPを維持するためにも、事業承継M&Aや企業の地域内再編を行うことで、業務の効率化を図り存続させることが重要である。

地域内の内需に頼らないビジネスモデルの転換

師弟イメージ

地域内の内需のビジネスと言えば、外食、小売及び交通等のサービス業が相当するが、これらはいずれも人口減少・少子高齢化による影響を直接的に受けるビジネスであり、そのようなビジネスモデルを中長期的に転換していくことが重要である。

地域内の内需に頼らないビジネスと言えば、販売先を地域外又は国外とする製造業がその代表格であるが、WEB等でビジネスを行うIT関連の事業もこれに含まれる。

また、差別化された旅館・ホテル等の運営業も、国内外の観光客が対象なので、地域内の内需に頼らないビジネスに含まれる。
外食や小売業においても、大規模化することにより国内外に事業展開するような場合もあるが、このような展開ができるほど成功する企業はなかなか存在しない。

ただし、近時注目されている農業等の一次産業については、様々な事業者が参入してきているが、生産者側にて加工も含めた「六次化」ができる企業を育成することができれば、まさしく地域内の内需に頼らないビジネスになる。

最後に 中小企業への支援の本格化を

中小企業の経営者は、一人何役もこなしながら、日々の業務のことで頭がいっぱいの時が多いのが実情である。

よって、このような労働生産性の改善やビジネスモデルの転換を図ることを考える余裕はない。しかし、人口減少の影響は着実に進行しており、特に、地方における人口減少割合は、日本全体の平均値よりも遥かに大きいのが実情である。

今こそ、中小企業を支援する役割を担う公的機関や地方銀行が、中小企業の将来を考えて、労働生産性の改善とビジネスモデルの転換、そして事業承継・事業再編を図るための支援を本格化させることが重要である。

▽参考
中小企業白書

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