再生機構支援時、ダイエーの株価は230円だった

筆者は、2003~06年に産業再生機構(以下「機構」)に在籍し、カネボウやダイエーの再生を担当した。機構の支援先は、債務超過の企業だ。債務超過とは、株主資本(自己資本)の価値がマイナスに陥った企業を指す。

金融理論上、債務超過企業の株価はマイナスだが、株式市場で実際に株価がマイナスになることはない。また、業績が極度に不振な企業でも、株価が0円まで落ちることはない。

機構が支援をした04年12月28日、ダイエーの株価は230円だった。ダイエーだけでなく、機構支援直前のカネボウも株式市場において100円以上の株価で取引されていた。債務超過が推定される不振企業の株価がなぜ高止まりするのか。

機構内でも、株主資本価値がマイナスであるカネボウやダイエーの株式が100円以上の株価で取引されるナゾが議論された。機構内では、この原因を、株式市場参加者と企業実態との情報の非対称性に求める声が多かった。

筆者自身は、不振企業の株価の高止まりが情報の非対称性に起因するという議論に同意できなかった。機構の支援が入るということは、すなわち対象会社が債務超過状態であることのシグナルであり、情報の非対称性は発生しない。

支援後の高騰を期待

株式市場は愚かではない。上場している債務超過企業の株価が実態から離れて高止まりするのは、世界中で見られる現象であり、企業再生の阻害要因となっている。この現象は、株式市場参加者による合理的な行動の結果として生み出されている。

不振企業が政府や事業スポンサーに救済されると、当該企業の株価は高い確率で急騰する。もちろん、株式市場参加者はこれを知っている。救済のニュースの発表後に、おっとり刀で当該株式を購入しても遅い。株価は既に上がり始めている。

合理的な投資行動とは、あらかじめ救済されそうな不振企業の株式を低価格で保有し、救済発表後の株価急騰後に売り抜けることだ。余裕資金の範囲であれば、不振企業をポートフォリオで持ちたい。保有企業が救済されずに法的整理になるリスクをヘッジするためだ。

機構支援時230円だったダイエーの株価は、上下しながらも上昇トレンドをたどり、06年2月3日には終値で453円。2005年5月に10株を1株に併合したため、実際の取引株価は4,530円まで上昇した。04年12月末にダイエー株を保有していれば、1年強の保有期間で2倍のリターンを得ることができた。

極端な例は、りそな銀行だ。同行は長らく不良債権問題が指摘され、株価は低迷していた。03年5月17日、2兆円規模の公的資金注入を含めた政府支援が発表された。

政府支援発表2日後の5月19日に48,000円の底値となった同行の株価は、半年後の年末には2.8倍の135,000円となった。そして、発表1年後の04年4月末には4.6倍の223,000円と上昇した。

合理的な市場参加者が作り出す株価の高止まり

不振企業が政府やスポンサーによって救済される場合、当該企業の株式を保有している投資家は大きな恩恵に浴する。不振企業の株式が株式市場で一定の株価で取引されているのは、救済による株価急騰という収益機会のための「チケット代」だ。

金融理論の「オプション価格」と言ってもよかろう。市場参加者は、政府やスポンサーが将来的に救済する可能性がある企業の株式を「オプション価格」として売買する。対象企業が社会的に重要であればあるほど、救済される可能性は高い。

救済時期や資本投入金額について、市場の各参加者は異なる期待を抱く。救済の実現性についても各参加者の期待は収斂しない。異なる期待の参加者が多数集まることで、不振企業株式の市場性は保持され、「オプション価格」として合理的な市場株価が決定される。

株価高止まりの弊害と税務リスク

株価が高止まりした不振企業は、新規投資を受けにくくなるというパラドックスに嵌る。政府、ファンド、事業会社などスポンサーは、できる限り低位の株価での投資(資金注入)を選好するからだ。

回避困難な税務リスクも存在する。例えば、1株100円で取引されている企業の株式を10円で引き受けるとする。市場取引株価(100円)よりも相当低位で引き受ける株式(10円)の発行は「有利発行」と呼ばれる。

この有利発行を行えば、スポンサーには差額の90円(100円-10円)に対して税務リスクが発生する。出資実行時点での税務負担が発生する可能性があるため、スポンサーはこのリスクを飲み込めない。

スポンサーは出資実行する株式価値を、一般的に金融理論で計算する。理論的には、実質債務超過企業の株価はゼロあるいはマイナスだ。だが、税務当局の認識では、市場で取引されている株価が時価であり、それを下回る株価での有利発行は「贈与」となる。

時限的に有利発行や種類株式発行を認める措置の必要性

ここに政府の役割があり、時限的な制度面のサポートが考えられる。時限的に(例えば2年)、一定の要件を満たせば有利発行の税務リスク免除といった特例を導入するのはどうだろうか。

もちろん、有利発行が乱発されて、既存株主の権利が過度に脅かされないハードル設定も必要だ。株主総会での特別決議、複数のスポンサー候補による正式な入札とその開示など、特例要件を決めておくことで社会的公平性を保つことが可能だ。

別の解決法は、種類株式の認可だ。実際に筆者が担当したダイエーやカネボウでは、特殊な種類株式を発行した。これは、流動性がなく、配当が普通株式に劣後するものの、議決権がある株式であり、「議決権付き後配株」と言う。

この種類株式は普通株式と比して、流動性欠如と配当劣後で価値が減価された株式だ。結果として、普通株式よりも低位の株価での種類株式発行が可能となり、両社への合理的な資金注入が行われた。

これは政府機関の機構だから可能だったことかもしれない。しかし、現在のようにコロナ禍で資金調達が喫緊の課題となっている企業にとっては、一定の要件を前提に、この種の種類株式を時限的に広く認めることも一案だ。

政府による制度面の対応を

重要な事は、株式市場参加者の合理的な行動によって、不振企業の株価が高止まりするという不可避的現象を認識する事。そして、時限的措置としてフレッシュな資金が不振企業に流れる道筋を作る事である。政府による制度面の経済活性化策が望まれる。

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