EVは本当に最適か?③ 水素社会は、実現する

ゼロカーボン社会に向け、EV(電気自動車)は本当に最適なのだろうか?シリーズ3回目は、「水素社会」の実現による脱炭素化の可能性について言及したい。

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2050年 水素社会の実現に向けて

2050年 水素社会の実現に向けて

日本は、水素技術の研究開発に早くから着手しており、水素・燃料電池技術は世界最高水準だ。2017年に世界初の水素国家戦略として策定された「水素基本戦略」では、日本のエネルギー需給の構造的課題である海外化石燃料への依存、極端に低いエネルギー自給率の解消、及びCO2排出量削減目標達成を踏まえ、水素活用のロードマップが示されている。

水素は、日本のエネルギー供給構造を多様化させ、一次エネルギーの調達・供給リスクの低減に繋がる。また、利用時にCO2を排出せず、製造段階でのCCS※や再エネの活用によってトータルでCO2フリーのエネルギー源となり、電力・モビリティを始め、あらゆる産業の脱炭素化を実現する手段の一つだ。

※CCS(Carbon dioxide Capture and Storage)二酸化炭素を回収・貯蓄する技術

水素自動車の今後、燃料電池車(FCV)が主流になるか

水素を燃料とする水素自動車については、水素を直接燃焼させる「水素エンジン車」と、水素を燃料に電気を生み出す燃料電池車(FCV)がある。

直接燃焼は、2021年4月にトヨタ自動車が水素エンジンの技術開発に取り組むと発表があったが、依然として技術面での課題は多い。

しかしながら、2021年5月22日に富士SUPER TEC24時間レースで、トヨタの水素エンジン車は完走してしまった。周回によってはガソリンエンジン車より速いタイムをたたき出し、世界を驚愕させた。

今後の水素自動車の主流は、実用化に目途が見えてきている燃料電池車(FCV)であると考えていたが、レシプロエンジンの可能性も出てきた。

水素社会実現に向けた課題

〈*1〉
水素社会実現に向けた課題

では、水素社会実現・水素自動車普及への課題は何か。「①コストダウン」と「②サプライチェーン構築」の2点が大きな課題となっている。

①水素燃料のコストダウン

1点目の課題は、コストダウンだ。水素社会の実現には、水素の調達・供給コストの低減が不可欠であり、海外の安価な未利用エネルギーとCCSとの組合せ、または安価な再エネ電気から水素を大量調達するアプローチを基本として取り組んでいる。

2030年頃に、年間30万t程度の水素を調達、30円/Nm3程度の水素コストの実現を目指す。将来的に20円/Nm3程度までコストを低減し、環境価値も含めて、既存のエネルギーコストと同等の競争力実現を図っている。〈*2〉

また、日本海におけるメタンハイドレートであるが、柱状(メタンプルーム)となって海中に放出されていることが判明しており、現在は海面に達するまでにガス状となり空中に自然放出されている。メタン(CH4)そのものは地球温暖化効果がCO2の25倍あると言われているが、これを回収・精製して水素を取り出すことが可能であり、大幅なコストダウンを進め、純国産エネルギーとして利用されることも検討されている。

②水素のサプライチェーン構築

②水素のサプライチェーン構築

2点目の課題であるサプライチェーン構築では、効率的な水素の輸送・貯蔵を可能とするエネルギーキャリア技術の開発が必要だ。

日本では、輸送効率を上げる為のエネルギーキャリアとして、液化水素、有機ハイドロイド、アンモニア、メタネーションの技術開発・実証実験が世界に先駆けて行われており、2020年代半ば~2030年頃の商用化を目指している。

水素キャリアに、アンモニアを有効活用

水素キャリアに、アンモニアを有効活用

水素キャリアとして、最も導入が早いとみられるのは、アンモニアだ。

先述した水素キャリアの中で、水素密度が最も大きく、輸送・インフラ整備をより小規模に形成できる。アンモニアのサプライチェーンは既に確立しており、CO2フリーアンモニアのサプライチェーンも、2025年までに確立されるとみられる。〈*3〉

アンモニア燃料はCO2を排出しない

アンモニアは、燃料として直接利用(脱水素が不要)も可能であり、利用時にCO2を排出しないというメリットがある。
現在、日本のアンモニアの直接利用技術のレベルは世界最高水準にあるとされており、船舶燃料として、実用化に向けた研究事例も多く出てきている。〈*4〉

自動車に関しては、アンモニアの直接利用は今後下火になると見込まれる。

EUの次期排ガス規制「Euro7」(仮称)でアンモニア排出規制も加わることが有力なためだ。〈*5〉

アンモニアを内燃機関の燃料として使った場合、排気ガスにCO2は含まれないものの、未燃アンモニア(高濃度になると臭気を含み、有害となる)を含む。

以上の理由から、今後、アンモニアは水素のエネルギーキャリアとしての活用が拡大するものと考えている。現在、広島大学や名古屋大学などでも、アンモニアの水素分解技術が研究されている。〈*6〉

水素技術、諸外国の猛追

水素技術、諸外国の猛追

近年、諸外国の水素戦略も活発になってきている。

EUは、2020年7月に水素戦略を発表。2030年までに電解水素の製造能力40GWを目指すとともに、暫定的に、低炭素水素(化石+CCUS※)も活用しながら、水素の製造、輸送・貯蔵、利用に向けて取り組んでいる。また、官民連携によるクリーン水素アライアンスを立ち上げている。〈*7〉

※CCUS(Carbon dioxide Capture, Utilization and Storage)貯蔵した二酸化炭素を利用すること

日本の水素は割高

水素技術、諸外国の猛追

EUは水素の生産において、価格競争力を有する。現在の水素製造方法としては、天然ガスに含まれる炭化水素を、水素と二酸化炭素に分離する方法が一般的だが、価格差は現状、日本の約4分の1の水準だ。

これは、天然ガスを輸入に頼る日本に対し、国内にガス田を持ち、一定量の自給が可能なためである。また第①回(石炭火力は無くならない)でも述べた通り、再エネ価格が大きく異なるため、水を電気分解し水素と酸素に還元することで得られるグリーン水素も価格競争力が高い。〈*8〉

官民一体で水素産業育成を

今後、環境規制が厳しくなる中で、諸外国は水素技術で猛追してくることが予想される。経産省は2030年に水素価格を現状の3分の1に抑える目標を掲げているが、官民が一体となって、先述の課題解決に取り組み、水素産業を育成していく必要があるだろう。〈*2〉

〈注釈〉

*1:トヨタ自動車:「トヨタ、モータースポーツを通じた『水素エンジン』技術開発に挑戦」

*2:経済産業省:資源エネルギー庁「水素基本戦略」

*3:名古屋大学:「水素エネルギー利用拡大に向けたアンモニア合成・分解触媒の開発」

*4:内閣府:「SIP(エネルギーキャリア)の取り組み~水素エネルギーキャリアとしてのアンモニアの役割~

日経新聞:「伊藤忠や今治造船、次世代船で中韓に対抗」

日経新聞:「日本郵船・IHI原動機・日本海事協会、アンモニア燃料タグボートの実用化に向けた共同研究開発を開始」

*5:日経XTECH:「車にアンモニア対策、次期排ガス規制ユーロ7 リッチ運転禁止へ」
   
*6:広島大学:「アンモニア分解ガスから燃料電池自動車の燃料水素を高効率で回収する水素精製装置を開発」

名古屋大学:「水素エネルギー利用拡大に向けたアンモニア合成・分解触媒の開発」

*7:経済産業省:資源エネルギー庁「今後の水素政策の検討の進め方について」

*8:日本経済新聞:「水素価格、欧州は日本の4分の1 生産や投資規模で格差」

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