世界のEVシフトは不安定化の恐れがあるも、自動車の技術革新は続く

グローバル自動車市場におけるEVシフトは足元で継続しているが、今後の見通しについてはやや不透明感が漂っており、不安定化する可能性がある。一方、中長期的なEVシフトは持続するとみられ、それとともに自動車の技術革新は続く見通しだ。筆者はEVシフトによる自動車の技術革新を現地・現認するための展示場を訪問する機会を得たので、本稿最後に同展示場についても触れたい。

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日本、欧州、中国、米国ともにEVシフトは継続

日本、欧州、中国・米国ともにEVシフトは継続
筆者が訪れた三洋貿易株式会社の瑞浪展示場(出所:https://caresoft.co.jp/pr-page/

EV(電気自動車)に関する記事を目にしない日はないように感じる。コロナ禍前後で顕在化したグローバル自動車市場におけるEVシフトは、少なくとも数字の上では、今年に入っても継続している。

2023年8月の日本国内の自動車販売におけるEVの占有率は1.9%と2022年の1.5%から上昇。また、EV販売で先行する欧州の2023年8月のEV占有率は20%超(2022年12%)、中国の同月の同占有率は23%(2022年20%)といずれも上昇。米国も2023年8月のEV占有率は9%(2022年6%)となっている。

補助金削減や値下げなどEV市場の今後はやや不透明感が漂う

補助金削減や値下げなどEV市場の今後はやや不透明感が漂う

一方で、EV市場の今後の見通しについてはやや不透明感が漂う。欧州では過去数年間の急速なEVシフトをけん引してきた補助金が削減傾向にあるほか、直近では英国が内燃機関車の新車販売の禁止時期を2030年から2035年に先送りすることを表明するなど、EV普及を減速させるような動きがある。

自動車の最大市場である中国のEV販売は依然大きく伸びているが、今年前半より各社の価格競争が激化しており、値下げによる需要の押し上げ効果は小さくない。

また、米国でも一部メーカーのEVのディーラー在庫が大幅に増えているとみられ、値下げによる販売テコ入れの動きがみられる。中国に次ぐ自動車市場である米国では2030年までに自動車販売の半分をEVにすることを目指してIRA(インフレ抑制法)による減税措置などが導入されているが、最近の世論調査では次にEVを買う可能性が非常に高いと答えた米国人は2割にとどまるとの報道もあった。

EVシフトは今後不安定化する可能性、中長期的トレンドは持続

EVシフトは今後不安定化する可能性、中長期的トレンドは持続

コスト、航続距離、充電インフラ、充電時間など、EV普及の課題はいまだ残る。グローバル自動車販売に占めるEVの占有率は二桁となったが、こういった課題に再び目が向けられることで、これまでのEVシフトに対する一時的な揺り戻しがあってもおかしくないだろう。

一方で、各国政府によるカーボンニュートラルの動きや、自動車メーカーのEV戦略が大きく変化することは考えにくい。EVシフトは今後不安定化する可能性があろうが、中長期的なトレンドとしては持続するだろう。

eアクスルの主要部品一体化「X in 1」など技術革新次々と

eアクスルの主要部品一体化「X in 1」など技術革新次々と

中長期的なEVシフトとともに自動車の技術革新は続く。自動車メーカーはEVの心臓部とされるバッテリーやeアクスルの性能改善やコスト低減にリソースを注ぐ。

バッテリーの技術革新の一例としては日系自動車メーカーなどが2020年代後半の量産化を目指す全個体電池が挙げられる。また、eアクスルは主要部品を統合・一体化する「X in 1」といった技術トレンドが浮上している。その他、パワー半導体などの進化も続くだろう。

EVシフトによる自動車の技術革新は既存の技術領域にも波及する。熱マネジメント、軽量化、低騒音化、リサイクル化、コスト低減など、従来内燃機関車において求められてきた技術ニーズも、EVにおいて重要性が増すことで、さらなる革新につながるだろう。熱マネジメントにおいてはより効率的な冷却システムや、放熱材の開発。軽量化においては樹脂材の採用拡大などが期待される。

低騒音化、リサイクル化においては、組付性の改善や接合部位の可逆化につながるような新たな接合材の開発が注目される。

コスト低減は現行のEVにおいてもっとも優先度の高いニーズの一つだが、ギガキャストなどの革新的な技術の導入による大幅な部品点数・工数の低減が期待される。技術革新は生産技術領域にも及び、自走式組み付けラインのような新たなクルマづくりが試みられようとしている。

EVシフトによる自動車の技術革新を現認するための格好の場

上述のようなEVシフトによる自動車の技術革新を現認するための格好の場が存在する。筆者が訪問する機会を得た三洋貿易株式会社の瑞浪展示場だ。

岐阜県瑞浪市にある同展示場では最新のEV 10車種を分解展示、展示部品の総数としては4万点以上に及ぶ。また、分解部品に加え、三洋貿易株式会社が販売代理店を担うベンチマーキングソリューションプロバイダーのCaresoft社のデータなども用いて、EVに対する包括的なベンチマーキングを実施できる国内唯一の拠点となっている。

同展示場は、それぞれの車種に搭載されている部品について、モーターやインバーターなどのEVパワートレインシステム、バッテリーや空調の温度管理を担うサーマルマネージメントシステム、その他フレーム・骨格部品や内外装部材など、部品群ごとに比較検討がしやすいようなレイアウトとなっている。

テスラや中国メーカーのEVなど、完成車も数台用意。話題となっている最新EVに試乗し、敷地内を実際に走行することも可能だ。

EVの分解展示を見る中で、改めてEVのパワートレーンの部品点数の少なさ(内燃機関車と比べて)や、バッテリーの大きさ(まさにシャーシ=バッテリーといったイメージ)が印象に残った。

また、テスラ車の分解展示では、初めて目にしたギガキャスト部品に加え、他社と比べて車体部品の組み付けに接着剤を多用している(おそらくコスト低減などが目的か)のが目についた。同展示場は一般見学の申し込みも受け付けており、EVや自動車技術にご興味がある方は是非一度訪問されることを推奨したい。

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