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人的資本経営と企業風土 ~企業風土改革を「必ず」着手すべき理由~
企業が「人的資本経営」を進めるためには、「人事制度」「人材育成」、そして「企業風土」の三本柱の充実が大前提となる、ということを前回までの「人的資本経営」シリーズで述べてきた。今回は人的資本経営シリーズの締めくくりとして、「人的資本経営と企業風土」について私見を述べる。企業風土は人事制度や人材育成(研修)と異なり、企業にとって短期的に効果が出るような施策がなく、各企業でも改革の難易度が高いテーマとされている。
はじめに
人的資本経営における「経営戦略と連動した『人材戦略の実践』」を実現するためには、これまで述べてきた通り、下記の図表1(再掲)のように「人事制度・人事運用」、「人材育成」、「企業風土」の三本柱が充実したうえで、採用した優秀な人材が着実に能力を発揮し、その後も定着することが重要だ。
ただ、優秀な人材を採用しても、5年以内の短期で転職する人は多数存在しているのが実情だ。厚生労働省「令和2年転職者実態調査の概況」によれば、転職者のうち前職での勤務期間が5年未満である人の割合は、合計61.7%とされている。
また、自己都合の転職者が掲げた転職理由のうち、「人間関係がうまくいかなかったから」という理由で退職した人は全体の23%であり、少なくない割合を占めている。
そのほか、人材紹介会社であるパーソル社が運営する「doda」のオンラインサイトの記事「転職理由ランキング【最新版】みんなの本音を調査」(2023年3月20日公開)によると、2021年7月~2022年6月の1年間に転職した人材のうち、本音の転職理由ランキングで「社内の雰囲気が悪い」を掲げた人が全体の23.4%存在し、第3位の転職理由になっている。
こうしたデータからも、優秀な人材の定着のためには、企業風土の改善が重要な要素となっていることがわかるだろう。
良い企業風土の会社とは
企業風土(組織風土)とは、「仕事環境で生活し活動する人が,直接的あるいは間接的に知覚し,彼らの動機付けおよび行動に影響を及ぼすと考えられる一連の仕事環境の測定可能な特性」(『組織風土』G.H.リトウィンと R.A.ストリンジャー著)であり、言い換えれば企業に勤務する社員の満足や動機づけ(モチベーション)に影響を与える「心理的環境要因」のことである。
その具体的内容は、会社全体に浸透しているルールや人事制度、価値観、雰囲気を意味するが、これらに限定されるものではない。
では「良い企業風土の会社」とはどのような会社のことを言うのだろうか。そのポイントを下記の通り6つに整理してみた。
①経営理念やビジョンの共有できている、浸透している会社
経営者が企業の経営理念やビジョンを明確に社員に共有できている企業は、組織の目指す方向が全社に浸透しているため、組織としてのまとまりがある。
②会社全体の真の情報が経営陣に伝達できている会社
正しい事実や真の情報が、企業の経営者にまで伝わらない組織は、幹部と現場間の遊離を招き、全体として組織が機能しない状態に陥りやすい。
③部下や現場の社員が本音の発言や提言ができる、またはコミュニケーションができる会社(心理的安全性が確保されている会社)
社内会議の場において、上司による伝達がメインで、参加している部下が本音の意見を言えないような組織は組織が硬直化しやすい。また、同じ部署内でのコミュニケーションが円滑であることは社員が働く環境にもプラスに働く。
④部門の垣根を超えた各階層で円滑なコミュニケーションができている会社
幹部間のみならず、部門の垣根を越えてそれぞれの階層でコミュニケーションができている会社は、部門間の協力体制が構築され、部分最適に陥りにくい。
⑤社内のルールや行動規範を、メンバーそれぞれが理解している会社
会社には様々なルールや規範があり、それに従って多くの社員は行動せざるを得ないが、その内容や制定の理由を理解していない社員が多い場合、ルール・規範が遵守されない会社になるか、会社への不満が蓄積された会社になってしまう。それが企業内の雰囲気やモラルが悪化する要素になってしまう。
⑥社員のモチベーションが全体として高い会社
社員のモチベーションが高いことは、上記①と⑤の結果からももたらされるが、それ以外の要素(給与水準、評価・処遇の公平性、コンプライアンス、社内教育など)でも、モチベーションに影響を与える要素は多分にある。
各企業の企業風土の良さは、社員のモチベーションが全体として(個人差はあるが)高いことが大前提にあるのだ。
日本企業の企業風土の考え方とその推移
企業風土は会社の利益と個人の利益の相関関係から語ることが可能だ。
つまり、会社の利益を向上させるためには、会社の利益と、会社で働いている社員個人の利益が一致している場合にその効果が最大化される。
言い換えれば、本来は会社の利益を図るための仕事が自分の利益にもつながるような場合に、社員のモチベーションが高まる。そして仕事の生産性が向上し、ひいては会社の利益が飛躍的に増大するのである。
一方、自己の利益につながらない仕事または自己の利益に害する仕事は、やらされ感のある仕事、興味のない仕事、過剰な量の仕事であり、社員はそうした仕事に対してやる気をもって取り組むことにはならない。
このため仕事の生産性は低くなり、結果的に会社の利益を低下させてしまう。この会社の利益と個人の利益の関係性を描いたものが、図表2である。
高度成長期からバブル時代までの日本企業は、幾多の不況を挟んだものの、比較的順調に規模を拡大してきた。
バブル経済期の世界の上場企業の時価総額ランキングで日本企業が上位を占めるような状態になったことは、皆様もご存じだろう。
この時期の日本企業は、おおむね新卒一括採用によるメンバーシップ型雇用を前提とし、終身雇用、年功序列型人事制度、年功序列賃金制度を採用していた。そして、この時期の社員の幸せな人生像は、企業の仕事を通じて賃金が増加し、企業規模の拡大に伴って役職が上がり、比較的多くの者が管理職ポストに就いて定年を迎える人生だった。
そうした人生像を描くことができたからこそ、深夜や休日も仕事(接待を含む)をする、いわゆる「会社人間」も多数存在していた。
会社はそうした社員間の親睦を深めるための社員旅行、運動会、飲み会などの行事を頻繁に開催し、自分の人生の中心が「会社」だった人も多数存在していた。このため、当時は会社の利益と個人の利益が重なる面積が大きい時代だったのだ。(図表2左図を参照)
しかし、1990年代が近づくにつれて個人の価値観は変化し、大量に物を所有して消費する大量消費時代から、個人の嗜好に沿った物を個人が選択して購入する選択型消費の時代に変わっていった。企業間においても、この時代の変化に即応できるか否かで業績格差が生じるようになった。
加えて、バブル経済の崩壊とその後の「失われた20年」の時代は、多くの企業が業績悪化に伴う事業の「集中と選択」や構造改革により、人員のリストラクチャリングを実施したことで、会社が社員の人生に責任を持つ時代は終焉したのだ。
1990年代後半以降の時代においては、各産業において企業の合併、倒産・統廃合が頻繁に行われた。大量に採用した社員にあてがう管理職ポストも不足し、終身雇用を前提としない転職の時代へ向けた変化が見られるようになった。
そうした時代の影響で、会社内で上司の指示が間違っていたと認識していてもそれを指摘することなくやり過ごす人、人事評価でマイナス点を付かないようにするため、失敗しない仕事にのみ従事する人、新しい仕事や難易度の高い仕事にチャレンジしない人が増加したことは否めない。
会議を開催しても、本音で意見を言っても何も変わらない会社への「諦め」から、上司に忖度し、何も発言しない社員が増加してしまったのだ。
加えて、何か仕事で失敗した場合に、自己の責任が回避できるような伏線を張ることに勢力を費やし、自分が会社内で失点なく生き残るという個人の利益に終始し、会社の利益がどうなろうと無関係と割り切る社員が増加してしまった。
こうした社員の中には、より高収入の転職機会を常時模索する人も少なからずいた。したがって、この時代は会社の利益と個人の利益が重なる部分が少ない時代であり(図表2右図を参照)、個人が自己の利益を追求した結果(失敗しない方が得策という思考による)、会社の利益を害するようになったことから、いわば「社会的ジレンマ」(例えば、野山で空き缶を捨てることは個人の利便性という利益には資するが、環境維持という社会の利益には反する結果となるような場合)にも相当する現象が生じていたのだ。
では今後、過去の日本企業のような個人の利益と会社の利益を共通化させる部分が多い時代は来るのだろうか。
この答えは、否だ。
なぜか。2010年代以降に進展した人口減少の傾向は加速化し、各企業において、年々、人手不足に悩む度合いは増えている。
そして売り手市場状態の長期化を背景に、働き方改革や社員の人権保護を重視する社会のトレンドは、ライフワークバランス重視型の社員、または自己の効率的な成長機会確保に関心の高い社員を増やした。そのため各企業は、いかに社員から選んでもらえるような居心地が良い企業になるかを競う時代に突入したのだ。
こうした環境下では、これまでメンバーシップ型雇用のような、会社の利益が個人の仕事を決めて、個人の人生をコントロールするような人事制度の企業が大幅に減少する。
一方でやりがいのある仕事を社員が選べて、自己の早期の成長機会を模索する社員に選択してもらう企業が主流となるものと想定される。
つまり、これからの企業は「会社の利益よりも個人の利益」を重視した制度である、仕事・部署の選択権付与、資格取得支援制度、国内外留学支援制度、副業許可、社内起業促進といった制度を盛り込む必要性に直面している。
それに加えて、採用時の売り手市場を背景に、仕事の中でも本音で発言できるよう機会の創出、人間関係の良好さを維持するような社風の維持、チャレンジする者が評価される人事制度の導入、会社の経営理念、会社の目標のために、相互に協力して仕事ができるような環境の整備が求められることになる。
こうした施策は個人の満足感を高めることから、社員個人の利益になると同時に、多様性(ダイバーシティ)を背景とした多様な意見を会社の戦略に生かすことにつながる点で会社の利益にもなる。
図表3は、会社の利益と個人の利益の共通部分を全体の半分程度とする状態を表しているが、これまでの図表2の左側図表と異なり、会社の利益とは離れた個人の利益にも十分な配慮を行っている点に特徴がある。
社員のモチベーション(ハーズバーグの二要因理論)
会社の企業風土の中で最も重要な要素は「社員のモチベーション」だが、その点に関してハーズバーグの二要因理論が参考になる。
フレデリック・ハーズバーグは、20世紀後半に活躍したアメリカの臨床心理学者であり、活動期間中に二要因理論というものを提唱した。この理論は、企業に勤めている社員が仕事においてどのようなことで満足し、逆にどのようなことで不満足を引き起こすのか、についての各要因を分析した理論である。
この二要因理論では、人のモチベーション要因を「動機付け要因(満足度要因)」と「衛生要因(不満足度要因)」に分類しているが、その分類をさらに会社内で明確となっている「オフィシャルな要因」と、会社内では明確でなく個々人固有の要因と個々人間の関係における要因である「非オフィシャル要因」に区分けしたものが下記の図表4だ。
動機付け要因(モチベーター)
動機付け要因(満足度要因)とは、「仕事において満足を引き起こす要因」のことであり、促進要因、またはモチベーション向上要因とも呼ばれる。
動機付け要因は、それがなくても直ちに不満は出ないものの、あればそれだけ仕事に対して前向きになれるという特徴がある。動機付け要因の要素としては、仕事において、「目標を達成すること」、「評価・賞賛されること」、「裁量と責任を持つこと」、「昇進・大幅昇給すること」、「成長・学習の機会があること」などがある。(図表4黄色の円に記載の要因)
また、昨今の人材不足、ジョブ型雇用形態の浸透、働き方改革を考慮した場合、前述の通り、会社の利益のための制度ばかりではなく、個人の利益にも配慮した制度や取り組みが重要であり、これも動機付け要因に分類されるだろう。
具体的には、「在宅勤務などの自由な働き方の許容」、「国内外の留学支援」、「副業の許可」、「資格取得の支援」がある(図表4橙色の円に記載の要因)。
衛生要因(ハイジーンファクター)
衛生要因(不満足度要因)とは、「仕事において不満を持つ要因」のことであり、不満足要因またはモチベーション低下要因とも言われる。
衛生要因は、それが整備されても満足にはつながらないが、整備されていないと不満を感じてしまうという特徴がある。
衛生要因の要素としては、「上司・同僚との関係悪化」、「企業方針の不透明性」、「不公平な人事」、「職場環境の悪化」、「労働条件の悪化」、「給与水準の悪化」、「会社の業績悪化」、「監督の強化」、「権限・裁量の縮小」、「人前での叱責」などがある。(図表4黄緑色の円に記載の要因)
企業風土変革には「動機付け要因」「衛生要因」の両要素が必要
企業風土を変革していくためには、これらの両要素を考慮しながら施策を検討していく必要性がある。
例えば、今期の個人業績で高い目標を達成した部下に対し、「素晴らしい業績だね」と称賛したにも関わらず、その部下に対する人事評価で昇給を十分にさせない場合、動機付け要因は満たされる一方、衛生要因が満たされず、この部下のモチベーションは低下するだろう。
一方、このケースにおいて、部下に対する賞賛はしないものの、十分な昇給をさせた場合、部下は不満を感じないが(昇給が当然と思っている)、上司が自分をどのように評価をしてくれているのか不明のため、必ずしも部下のモチベーションは高まらない(上記の十分な昇給がない事例よりはモチベーションが高いが)。
これらを考慮すると、動機付け要因である「賞賛の言葉」と、業績に応じた十分な「昇給」の双方が備わって、高いモチベーションで仕事ができるのだ。
企業風土を改善するためには
このような検討の結果、実際に自社の組織風土を変革(改善)し、良い企業風土を醸成していくためにはどういった施策が有効だろうか。
一般的に、企業風土改革を行う企業が採用する方法として、社長直轄プロジェクトを実施し、会社のミッションやパーパスの構築を行い、それを共有する過程で、全社員に会社の理念やミッションの浸透を行う活動がある。
前述の通り、良い企業風土の企業の特徴の一つとして、会社の経営理念やミッションが社員に浸透されていることがあるため、この手法自体は間違いではない。この活動を通じて、社員間でグループ・ディスカッションを進め、コミュニケーションの活性化を図ることも可能である。
しかし、このような活動で活性化された社員間のコミュニケーションは、その1年~3年後でも維持・継続されているだろうか。
答えは否の場合が多い。なぜなら、このようなプロジェクトベースの活動は焚火において、落ち葉や紙を燃やす状況に等しく、燃え上がった炎は短時間で鎮火してしまうのが通例なのだ。(図表5左下の絵の状態)
着火した火を継続的に燃やすためには、落ち葉と一緒に薪をくべることが重要であり(図表5真ん中の絵の状態)、さらに長期間、炎を燃やし続けるためには、練炭をくべる方法が有効だ。(図表5右上の絵の状態)
これを企業風土改革でいうと、社内プロジェクトで活性化された社員の人間関係や信頼関係を長期間維持するために、社員が自発的に会合を開き、信頼関係を継続するための仕掛けや支援制度が必要となる。
具体的な施策例は、以下の通りである。
オフィシャルな取り組み
①部下への権限移譲
若手中堅社員のモチベーションを高めるために、部下への権限移譲を実施する手法が有効だ。この場合重要なことは、権限・裁量と責任はセットであることを理解して仕事に従事してもらうことであり、そのような立場で活動することで、優秀な部下の早期の成長を促すことが可能になる。
②オフサイトミーティングの実施
社員間の人間関係を活性化させ、本音で意見を語り合う関係性を構築するのに適した場が、オフサイトミーティングである。真面目に、真面目な内容の会話をする場である会社の各会議では、上司の発言に耳を傾ける参加者が大多数であり、本音の意見を出す者が少ない場合が多い。一方で気楽に、気楽な内容の会話をする飲み会・懇親会は、ひと時の人間関係の親密さは醸成できるものの長続きをする人間関係は構築できない。
筆者が推奨するのは、スコラコンサルト社の創業者である柴田昌治氏が提唱する、気楽に、真面目な内容の会話をするオフサイトミーティングである。この会議では、自己の生い立ちや経歴を語ることから始まり、人間同士の本音の話を行いつつ、真面目な会社の事業に関する話を行うのである。
このような会議を定期的に行うことで、オフサイトミーティング以外でも相談しあえる人間関係が構築され、長続きする信頼関係が醸成されるのだ。(図表6参照)
③部門横断プロジェクトの実施
部門横断プロジェクトも、人間関係構築のための格好の場になる。ただ、会社から定められた制約条件のあまりに多いプロジェクトでは、本音による自由な議論が出せない。テーマは決めるものの、制約条件はなるべく緩くして、メンバーの自発的な裁量に基づくプロジェクト設計を可能とし、本音による発散的な議論を交えた会議を重ねる方法でプロジェクトを実施することで、長期的な信頼関係の醸成につなげることができる。
④社員の人事評価制度及び人事運用の見直し
失敗しない選択をした社員だけが昇進していくような人事評価制度の企業は、本音の議論や提言を行う気力を社員から奪い、社員間の関係、会社と社員の関係を疑心暗鬼にしてしまう。会社への貢献度で公平に社員を評価し、成果が出なくても挑戦した事実に高評価を与える評価制度に改定すべきである。また、制度のみならず、人事の運用においても、挑戦した結果において大きな失敗した人にも再度チャンスを与えるような柔軟な人事運用を行うよう見直すべきだ。
⑤多彩な表彰制度の構築(ほめる文化の浸透)
社員表彰制度はどの会社でも存在しているが、単なる個人業績だけでなく、見えない努力をしている社員をも表彰する制度が重要だ。また、表彰まで至らなくても、上司、部下あるいは同僚がお互いを明示的にほめる習慣を浸透させるような活動を実施する方法も有効だろう。
⑥社員の働き方に関わる制度改定
社員の個人の利益にも配慮すべき時代において、会社の利益に直結しなくても、柔軟な働き方(在宅勤務他)、社員の希望による転部制度、副業の承認、資格取得支援制度、留学支援の構築で、社員のモチベーションを高めることも企業風土改革のためには重要だ。
⑦教育研修制度の充実
自己の成長を企図する若手の優秀な社員に対しては、教育研修制度の充実も重要だ。従来のように、自己の所属する企業の業務に必要な知識のみを教える教育研修ではなく、会計、法律、金融など今後ビジネスをしていく上で幅広い知識を習得し、ビジネスの理解が深まるような科目を若い頃から履修させることも、社員のモチベーション向上のために必要だ。
非オフィシャルな面の改革のための取り組み
①経営幹部チームビルディング
経営幹部同士が不仲な企業、あるいは、幹部間の人間関係が希薄である企業も少なくない。
大企業では長期間特定の部門に所属し、自部門の利益のためにビジネスをしてきた人も多数存在し、そのような人が昇進して会社の役員になると、他部署への理解に乏しく、他部署の経営幹部との信頼関係が存在しない場合も多い。
これまで対立してきた部署同士では、各部署の幹部同士が不仲である場合も少なくない。しかし、経営陣間不仲な企業で、良い企業風土の会社は存在しないのが通例だ。
経営陣は企業に所属する職員の鏡であり、異なる部署出身の経営陣同士の信頼関係が構築されれば、それぞれの部下同士の交流が自然と生まれ、社員同士の信頼関係の構築が進むことで企業風土の改善につながるのだ。したがって、経営幹部によるオフサイトミーティングを実施することで、経営陣を一つのチームとして構築していく手法は重要だ。
②自主的な勉強会・協議会の開催支援
社員同士が気楽に真面目な内容の会話をする機会が、会社が設定した会合に留まるのでは、醸成された信頼関係が長続きしない。
あくまで各部門内外のメンバーが、自主的に勉強会や協議会を非公式に開催し、そこで会社の将来の戦略を語り合ったり、時として、相互の仕事で生じた課題の調整をしたりできるような関係が理想的だ。
会社は、こうした会合の会場や懇親会の費用負担をするといった支援を行い、自主的な会合の場をより多く設けることを支援すべきではないだろうか。
③次世代の経営人材育成のためのグループ教育の実施
次世代の経営人材育成のために、会社内で選抜された次世代の経営人材をグループ化して、ビジネス教育を実施する手法も有効である。なるべく1年程度の時間をかけて、各部門で活躍する優秀層を集めた集合教育を実施することで、部門間の垣根を超えた緊密な人間関係の構築が可能になる。
④部門間の垣根を超えて実施される懇親会の実施
気楽に、気楽な内容の会話をする懇親会の開催も、コロナ禍が終焉しつつある今後はより活発化させる方が、社員間のコミュニケーション促進のために望ましく、会社はこのような会合の開催を支援すべきだろう。
最後に
企業風土の改革が難しいことは、まぎれもない事実だ。
だからと言って、そうした改革に手をつけても意味がないと考えることは早計である。人材の確保がより一層難しくなっていく今後の日本において、会社の就職を決める就活生が重要視する要素が「社風」であるため、その改善をもっと強く意識すべきではないだろうか。
「社風」が本当に良い企業かどうかは、面接官の社員の話し方や雰囲気でおおむねわかるものだ。また、「社風」の良い会社であれば、その他の労働条件に多少難があっても社員の定着率は高まる。
最後にお伝えしたいことは、企業風土の改革は人的資本経営を行ううえで「できれば」ではなく、「必ず」着手すべき分野であるということだ。
参考文献
①「人事制度の基本」 西尾 太著 日本実業出版社
②「日本企業の風土改革」柴田昌治著 株式会社PHP研究
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