コンプライアンスとは

まずコンプライアンスについて解説します。経済産業省はコンプライアンスを次のように定義しています。

法令遵守。法律やモラルに従うこと。企業倫理。企業がコンプライアンスを守るには、意識改革、従業員教育、体制づくり、危機管理など、組織的な取り組みが必要引用:経済産業省

企業の経営において、法律や規則を遵守することは当然ですが、モラルや倫理といった「漠然としたもの」にも留意する必要があります。

リスクマネジメントもコンプライアンスの観点から考える

コンプライアンスは、企業のリスクマネジメントにも影響を与えています。リスクマネジメントとは、リスク要因を排除したり、トラブルが生じたときの対処法をあらかじめ決めておいたりする考え方です。リスクマネジメントを徹底することで、リスクが顕在化したときのダメージを最小限に抑えられます。

例えば、ある企業で、法律を守っていたにもかかわらず、トラブルが起きてしまった場合と、法律に違反したうえでトラブルが起きてしまった場合では、ブランドイメージの低下などで企業が被るダメージは異なります。

社員たちにコンプライアンスを徹底させることは、リスクマネジメント業務の1つといえるでしょう。

コーポレートガバナンスとは

続いて、コーポレートガバナンスについて、コンプライアンスと比較しながら、解説していきます。

コーポレートガバナンスとは企業経営者が自社の行動を制御する仕組み

コーポレートガバナンスとは、企業の経営者が、自社の行動を制御するための仕組みです。すべての企業には目的や目標があり、それを達成するには、組織全体が適切な行動を取る必要があります。そのために必要な「統治」や「支配的な行動」がコーポレートガバナンスです。

コーポレートガバナンスとコンプライアンスの関係

コーポレートガバナンスとコンプライアンスは相互に影響を与えています。つまり、コンプライアンスの強化はコーポレートガバナンスの強化につながり、コーポレートガバナンスの強化はコンプライアンスの強化につながるのです。

たとえば、コーポレートガバナンスを強化すると、経営陣による統制や支配や監視が強まってしまいます。コーポレートガバナンスの過度な強化や、強化する方向性の誤りは、経営の暴走を生み出すリスクがあります。そこで、コンプライアンスという「縛り」を経営者たちに設けておけば、暴走を防ぐことができるわけです。

なぜコーポレートガバナンスとコンプライアンスの強化が必要なのか「情報との関係」

現代の企業にコーポレートガバナンスとコンプライアンスの強化が求められるのは、「情報の力」が強まったからです。
情報は今や、企業にとって欠くことのできない経営資源になっていますが、企業の利益が毀損される原因になる場合もあります。

情報化社会が進み、情報流出などのリスクが増加

現代が情報社会であることに異論を唱える人はいないでしょう。それは、ITの普及によって情報のやりとりが、以前格段に増えているからです。
しかし、情報量の増大は、情報流出というネガティブな要素も生み出しました。そして情報流出リスクの増加が、コーポレートガバナンスとコンプライアンスの必要性を高めたのです。

悪意ある社員が起こす情報流出事件も少なくありません。コーポレートガバナンスを強化して、従業員にコンプライアンス意識を植えつけることで、情報流出の「誘惑」を起こさせないようにすることができます。

SNSなど個人の発信力が増えて炎上リスクが増加

SNSによって個人の発言力が増えたことも、コーポレートガバナンスとコンプライアンスの必要性を高めることになりました。
個人の発言力の高さを表しているのが、SNSの炎上問題です。

企業の経営方針や上司の指示に不満を持った社員は、SNSで簡単に、その鬱憤(うっぷん)を晴らすことができます。自社の社員に「SNSで会社の欠点を暴露することはコンプライアンスに反している」と教育しなければならないことは残念なことではありますが、時代はそれを要請しています。

また、SNSの炎上問題は、単純に「悪」だと断罪できない一面もあります。たとえばブラック企業による悪行は、SNSで簡単に告発されるようになりました。その情報が拡散すれば、つまり炎上すれば、ブラック企業は社会的制裁を受けるでしょう。

そのため企業経営者や管理職は、「自ら襟を正す」ことが求められます。これは、コンプライアンス意識の芽生えといえます。また、経営者には、「正しいコーポレートガバナンスができていないと炎上する」という緊張感も生まれました。

一方でよい情報についての波及効果も絶大

情報社会では、企業のよい情報も拡散しやすくなっています。つまり、よいコーポレートガバナンスを敷き、強固なコンプライアンス意識を持つ企業は、すぐに「よい企業」と認知されます。

人手不足が深刻になっている業界において、そのなかのある企業が「コーポレートガバナンス的にもコンプライアンス的にも見事な会社」という評判が立てば、優秀な人材を確保できるようになるでしょう。

コーポレートガバナンス強化とコンプライアンス意識の向上に取り組むことのメリット

企業が、コーポレートガバナンスとコンプライアンスの強化に取り組むメリットを考えていきましょう。

不祥事リスクを軽減

経営者がコーポレートガバナンスを強化して、会社全体でコンプライアンスを厳格に守れば、企業が不祥事を起こすリスクを減らすことができます。

「統治」という言葉には集団に秩序をつくる、という意味があります。つまりコーポレートガバナンスの「ガバナンス」には、そもそも不祥事という、秩序を脅かす言動などを抑える目的があるわけです。そして、ほとんどの不祥事はルール違反によって起きるので、コンプライアンスも不祥事軽減に貢献するはずです。

つまり企業は、不祥事を減らすために、コーポレートガバナンスとコンプライアンスを両輪で進めなければなりません。さらにいえば、不祥事が多い企業は「コーポレートガバナンスもコンプライアンスも十分ではない」と評価されます。

企業イメージの向上

例えば、ある業界で多数の企業が不正していることが発覚したとします。そのなかで、まったく悪事に手を染めていなかった会社があれば、「フェアなビジネスをしている」と評価され、企業イメージが向上する可能性があります。

効率的な経営が実現できる

一方で、コーポレートガバナンスとコンプライアンスの強化に取り組むことを「コスト」や「ビジネスの支障」と考える経営者やビジネスパーソンも少なくありません。

しかし、コストや支障になるのは、取り組みを始めた当初だけで、長期的に見れば、コーポレートガバナンスとコンプライアンスが強化されれば、以前より経営や業務の効率化につながるはずです。

なぜなら、コーポレートガバナンスが機能している企業は、事業の「選択と集中」という決定を素早くできるからです。また、コンプライアンスがきちんと守られている企業は、不祥事やトラブルが減るので、従業員がストレスなく働けて、生産性の向上も見込めます。

コーポレートガバナンスとコンプライアンスの強化に取り組むデメリット

続いて、コーポレートガバナンスとコンプライアンスの強化に取り組むデメリットを紹介します。

コンプライアンスにがんじがらめ

経営者や管理職が、一般社員やスタッフたちに、あまりに口酸っぱくコンプライアンスを押しつけると、彼らは「がんじがらめだ」という印象を持つでしょう。すると、職場が窮屈になっていきます。

コミュニケーションの希薄化

また、職場が厳格化すると、従業員間のコミュニケーションが希薄になる可能性があります。

もちろん、コンプライアンスの意識が強い上司がいる職場だからといって、冗談が禁止されるわけではありませんが、冗談が言いにくい状況は生まれるかもしれません。

守りの姿勢

法律を守るには、2つの方法があります。1つ目の方法は、「法律通りに動くこと」。2つ目の方法は「何もしない」ことです。

ビジネスで「攻めの姿勢」を取ろうとすると、どうしても法律問題が浮上します。たとえば、他社と協業することは攻めのビジネスとして評価されますが、談合は法律違反です。つまり、他社と協業しようとすれば、談合にならないように注意しなければなりません。

しかし、コンプライアンスが「悪い方向で」強化されてしまうと、社員たちの気持ちのなかに、「談合はいけないことだから、他社との協業もやめておこう」という「守りの姿勢」が生まれる可能性があります。

社会の要請を加味しながらバランスを取る

コーポレートガバナンスを強化し、コンプライアンスへの意識を高めることは社会の要請であり、その取り組みを止めることはできないでしょう。そして、コーポレートガバナンスもコンプライアンスも、ビジネスを強化できる効果が期待できます。

その一方で、いずれもが厳しすぎる会社では、デメリットが生じることもあります。企業の経営者は、「最適な経営」のために、自社に合ったコーポレートガバナンスのあり方を考えて、コンプライアンスを推進すべきでしょう。そのバランスを取ることが、経営者には求められています。

関連記事

組織風土とは その重要性・改革のポイント等を解説

最近、「組織風土に問題がある」、「組織風土を変えたい」という言葉を企業経営者から聞く機会が増えてきた。「人的資本経営」の重要性が唱えられている中、優秀な人材が定着し成長できる職場環境として、組織風土は大変重要である。本稿では、組織風土の重要性と改革ポイントについて解説する。

品質不正多発の三菱電機に学ぶ、あるべき不正撲滅方法

三菱電機の品質不正が止まらない。2021年7月に35年以上に渡る品質不正が公表された。調査を進める中で不正の関与拠点、件数が膨らみ、直近の報告では実に150件近い不正が認定されている。一方で、当社に限らず不正そのものの発生や再発は止まらない。再発防止策がなぜ機能しないのか、当社の取り組みを題材にあるべき再発防止策について解説する。

経済制裁と企業の「実質的支配者」(BO)

ウクライナへの侵攻により、欧米を中心とした民主主義国はロシアに対し経済制裁を強めている。日本でも特定の国への新規投資が禁じられる中、登記される企業の実質的な支配者(BO)が誰なのか、法人が資金洗浄などに使われるのを防ぐため、明らかにする動きが始まっている。

ランキング記事

1

アリババは国有化されていくのか

アリババグループの金融・オンライン決済部門のアント・グループ(前アント・ファイナンス)は、2020年11月に予定されていた上場が延期され、そのまま現在に至っている。ジャック・マー氏の中国金融政策への批判発言から端を発し、アリババは金融業に限らず様々な制限が加えられていると報道されている。この記事では、アリババの現状とともに、中国のモバイル小口決済について考察したい。

2

品質不正多発の三菱電機に学ぶ、あるべき不正撲滅方法

三菱電機の品質不正が止まらない。2021年7月に35年以上に渡る品質不正が公表された。調査を進める中で不正の関与拠点、件数が膨らみ、直近の報告では実に150件近い不正が認定されている。一方で、当社に限らず不正そのものの発生や再発は止まらない。再発防止策がなぜ機能しないのか、当社の取り組みを題材にあるべき再発防止策について解説する。

3

進む地方銀行の持株会社体制への移行

経営統合によらない地方銀行の持株会社体制への移行が増えている。銀行法改正による後押しを受けて、地域の課題に向き合いながら、事業の多角化を進めやすくして収益拡大を図るのが狙いであるが、果たして中長期的な企業価値向上に資する事業ポートフォリオの構築は進むのだろうか。

4

人的資本とは 経営の新しい潮流

人材を資源ではなく付加価値を生む「資本」として見直す潮流が拡がっている。企業の「人的資本」に関する情報開示が制度化されるのに伴い、人事部門は従来の定型業務中心の役割から、企業の中長期戦略を実現するための戦略人事への転換が求められている。

5

村上春樹さんから学ぶ経営㉕ ニッチ再び。大谷選手と「何かを捨てないものには、何もとれない」

私が経営の根幹だと考える「ニッチ」(『隙間』の意味ではありません)について、再び論じたいと思います。大谷翔平選手の活躍が常識外であったため、少々長い回となります。それでは今月の文章です。

人気のキーワード

海外スタートアップ情報はこちら!  寄稿・執筆者募集中