新型コロナショックに伴う産業への影響

人気のない街

2020年3月10日現在、新型コロナウイルスの日本の感染者は、クルーズ船ダイヤモンドプリンセス号の感染者を含めて1277名、死者は19名を記録している。

日本はWHOから、中国を除く感染懸念国4国(他は韓国、イタリア、イラン)の一国として捉えられ、この新型コロナウイルスの問題は、これまでの前例にない強い感染力を示している。

世界保健機関(WHO)は2月28日、新型コロナウイルスによる肺炎(COVID-19)の危険性評価で世界全体を「高い」から、最高の「非常に高い」に引き上げた。「パンデミック」(感染症の顕著な感染や死亡被害が著しい事態を想定した世界的な流行)には至っていないものの、「現実味を帯びてきた」との見方を示している。

新型コロナウイルスによる産業への影響について、概況は以下のとおりである。

①国内消費への大きな影響

無人のスーパー

日本で最初の新型コロナウイルスの感染が確認されたのは1月15日であるが、その後、ダイヤモンドプリンセス号からの乗客の下船も相まって、国内の感染者は飛躍的に増加し、一気に国内に感染者増大への危機感が芽生えるようになった。

2月25日の日本政府の基本方針発表及び27日の首相の要請などにより、小中高等学校は政府の休校要請に伴う春休みの繰り上げとなり、企業も、政府の要請に基づき自宅でのテレワークや時差通勤の推奨などを実施している。また、各地の観光地では、外国人観光客のみならず日本人観光客の姿も激減しており、各地で人が集まるイベントなどについては広く自粛となっている。

これによって、物理的に人が集まる旅館ホテル、百貨店、スーパー、ショッピングセンター、スポーツ施設、遊園地・映画館・劇場などの娯楽施設、各種外食チェーンは軒並み客数減に伴う売上高の大幅な減少に苦しんでいる状態にある。

②中国を中心とした製造業の部品調達リスク

china

日本の自動車産業において、その製造に使用する電子部品などの多くを、中国企業や自社系列企業の中国工場に依存している。

その他、アパレルや機械製造会社でも多くの会社が、中国工場や中国の取引先の製造会社に製造部分を依存している。このような企業は、自社製品の製造ペースのリスケジュールや、代替品の調達に奔走している。

③世界的な消費支出減少も視野に

toile

新型コロナウイルスの感染は、すでに全世界で約70か国に広がっており、3月4日時点で感染者数は約8万9000人、死者が3100人となっている。アメリカなどでもマスクやトイレットペーパーなどの買い占めが起きるなどの混乱状況が発生しており、中国企業以外の大手企業でも、今後の業績悪化を懸念する声が広がっている。

このような中、国内や中国のみならず、欧米含む全世界的な消費支出の縮小が懸念される。海外の企業は、不要不急の積極的な設備投資を控える傾向も出てくると思われる。そのため、輸出や海外製造販売を行っている企業の売上高の減少も大いに懸念される。

④東京オリンピックの中止などがあった場合にそれに伴う影響

olympic

2020年7月下旬に予定される東京オリンピック開催は、日本にとって悲願である。しかし、5月から6月頃には、中止をするか否かの決定を迫られることになる。

その時期までに新型コロナウイルスの感染の終息が見えて、オリンピックに参加する主要国(例;アメリカなど)が、安心して選手団を日本に送り出せる状況が整わない限り、オリンピック開催は危ぶまれる。

仮に、東京オリンピックが中止となった場合、多数の国内外の予約者を抱えている旅行会社やホテルなどの観光業者、東京オリンピックのためにイベントを実施する予定だったタレント業者やイベント業者、そしてオリンピック特需を見込んでいたその他の企業を含めて、影響は甚大と思われる。

オリンピック委員会は、すでに多額のコストをオリンピック開催のために投下してきた筈なので、チケットの返金などの問題も生じる。

事業者が受ける更なる制約

夜

1カ所に人を集めるサービス業(小売業、旅館ホテル、遊戯施設、交通など)については、新型コロナショックがピークを過ぎるまでは、営業の縮小又は停止を強いられる可能性が高い。

政府は、既にスポーツ・文化イベントなどの開催を自粛(2週間程度)するよう要請しており、東京都も、お花見などに伴う宴会の自粛の要請も実施している。加えて、ディズニーランドやUSJも当面の間、閉園をすることを決定し、各地のコンサートやライブイベントも次々と中止が決定されている状況にある。

今後、人が集まる施設(旅館ホテル、百貨店、スーパー、ショッピングセンター、遊園地・映画館・劇場、学校など)については、一定期間の営業の自粛を地方自治体が要請する可能性は否定できない。
小中高等学校の休校要請については全国一律であったが、施設などの営業活動の停止については、経済への影響が大きいこともあり、感染者が多いエリアと思われる地方自治体毎に判断がなされるものと思われる。

現在の政府や地方自治体による遊戯施設やイベントの営業自粛や、休校などの要請は、法的な根拠に基づくものではない。しかしながら、すでに利用者や顧客が大幅に減少している状態にある。また、政府の要請もあって世の中全体の自粛ムードがある中で、政府の要請に従わない営業活動は、インターネットが普及している現在においては批判中傷の対象になりかねないので、結果的に、自粛をするケースが多いものと思われる。

特措法の影響

cashflow

この点について、現在政府内で議論をされている新型インフルエンザ等対策特別措置法の改正が実現し(現行法でも適用ができるという見解も有力である)、新型コロナウイルスが、同法2条1項の「新型インフルエンザ等」に該当することとなった場合、政府は、「その全国的かつ急速なまん延により国民生活及び国民経済に甚大な影響を及ぼし、又はそのおそれがある」等と判断した場合に緊急事態宣言を実施することができるようになる。

この場合、各都道府県知事は、住民に対し、生活の維持に必要な場合を除き自宅などから外出しないこと(45条1項)や、学校、社会福祉施設、興行場の施設管理者や興行を行う施設利用者に対し、施設使用や催物の開催の制限・停止を要請すること(同条2項)が可能となる。このような法的根拠の伴う要請が感染者の多発している県で発令されると、その地域の全てのイベント等の休止が長期的に継続し、当該地域の生活は一変し、一層の沈滞ムードと仕事や生活への影響は甚大となる。

緊急事態宣言下において影響を受ける企業とは

人のいない駅

仮に、いくつかの感染者が多発している地域に対し、感染者の封じ込めのために地域封鎖などを行う必要がある場合には、政府は、緊急事態宣言を行い、それに基づき、該当県の知事が、住民の自宅からの外出の禁止要請を行うことが想定される。

そうなると、まずは、鉄道、バスなどの交通インフラについて、県外への移動するインフラの停止と、県内における利用者が日常生活を行うのに必要最低限の移動手段の範囲を残して、大幅なダイヤの縮小が想定されることになる。この場合、中堅企業が経営主体となっている地方の鉄道事業者やバス事業者は、大幅な売上高の減少となる。

工場での製造を行う製造業の場合、緊急事態宣言下で、住民の外出禁止となればそもそも工場の稼働ができなくなる。そうでない場合、それなりに機械などにより自動化されている工場では、稼働時間の調整をすることにより、濃厚接触者を作らない形での勤務を行うことが想定される。これに対し、労働集約的な要素が強い工場の場合は、工場の稼働により濃厚接触を伴うため、操業の自粛を行う必要性が生じる。

学校(大学を含む)は、緊急事態宣言下では、自宅でも学習できるようなオンライン学習を導入して、授業を継続することが求められる。ただし、そのようなLIVEでのオンライン学習の仕組みの導入が未了の学校も多数存在するため、そのような場合、教師が授業の様子を動画撮影し、それを自宅にいる学生にインターネットで送信し、学生はそれを見ながら自宅学習するなどの次善策も考えられる。

テレワーク化が旧型「営業」を変える

remotework

各種企業のうち事務職・営業職を中心とするオフィスの場合であるが、緊急事態宣言下において自宅からの外出が原則禁止されるような場合は、PCとスマホを利用したテレワークに限定された範囲で事業の継続が可能となる。

この場合、経理、人事、総務などの管理部門職はテレワークに馴染みやすいが、顧客への営業を伴う営業職については、従来通りの顧客訪問ができないため、テレワーク状態では業務に支障が生じることは必至である。

しかし、Skype for BusinessやMicrosoft Teams などのテレビ会議システムやチャットツール導入で、社内会議のみならず、顧客との会議が自由にできるようになる。営業職の場合も、既存顧客との面談はこれにより代替可能であることから、「外回り営業」を最小限にとどめることは可能である。

これに対し、新規に営業開拓をする活動についてテレワーク化はほぼ困難ではある。しかし、開拓先の顧客のメールアドレスやIDを名刺交換などで入手している場合には、インターネットを通じた資料のメール送信などによる営業は可能だ。この手法が慣れてくれば、従来の訪問や会食によるベタな営業から現代型の営業に変換していく良いきっかけになるようにも思われる。

複数の事業計画案策定を。資金繰に詰まらないために

plan

現時点でも観光業や小売業に関連する事業者において売上が大幅に減少している企業も少なからずある。もし緊急事態宣言が全国各地で発令されるようになると、事業活動の大幅な制約となり、各企業の今年度における事業計画の見直しに着手せざるを得ない。

このような危機時における事業計画の策定は、

  1. 今回の新型コロナショック前に想定していた事業計画案を原計画案
  2. 直近の2月、3月における売上減少を加味して策定した成行き的な事業計画案を第一案
  3. 緊急事態宣言を想定して当該事業計画案に更なる掛け目をかけた事業計画案を第二案

として、策定する。
その上で、当該複数の事業計画案に対し、それぞれ危機が回復するまでの時期を何通りか想定するため、事業計画案を計四案か六案につき策定することになる。

今度は、各事業計画案ごとに月次の資金計画を策定し、資金繰りがいずれの案においても大丈夫かどうかを検証することになる。

もし、いくつかの事業計画案に基づく資金計画において、資金繰りが厳しくなるような企業は、早めに、メインバンクなどと協議を行い、前もって借入などを実施しておくことも有効である。もちろん、現預金化することができる有休資産や余剰資産などを持っている企業は、当該資産の売却を前もって実施しておくことも有効である。

また、このような時期においては、先行きが見えにくい点もあるため、通常の企業においては、新規事業や大幅な設備投資や企業買収などの実施は躊躇せざるを得ないことが想定される。

収束後の「反撃」に向けて

反撃

これまでのSARSやMARSの前例をなぞった場合、新型コロナウイルスの感染は、感染の開始時から半年ないし8か月程度(2020年秋ごろ)で終息になることが想定される。

もし、終息したとしても、新型コロナショックによって減少した外国人旅行客が従来通りに戻るまでには終息時から1年以上はかかることが想定される。世界的な流行で下降することが必至の世界経済も、回復までには相当程度時間がかかるものと思われる。

先行きが見通せない一方で、ビジネスの回復時期は必ず来る筈である。資金繰りなどに不安のない一定規模以上の企業においては、その時期にスピーディな反攻ができるよう、新規事業、設備投資や買収などの検討は継続することが良いと思われる。

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