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クラウドキッチンとは?Uber Eatsとともに変貌を遂げる飲食ビジネスのこれから
新型コロナウイルスの流行と、約2ヶ月に及ぶ緊急事態宣言による人々の外出自粛は、外食産業に深刻な影響をおよぼしています。一方で、ここ数年飲食業界で話題になっていた「クラウドキッチン」が、コロナショックによってさらなる注目を集めることになりました。 クラウドキッチンは、ネット注文&デリバリーに特化した新しいビジネスモデルです。Uber Eatsなどのデリバリーアプリの普及に後押しされる形で拡大しつつあるクラウドキッチンは、今後の飲食ビジネスを変容させる可能性を秘めています。本記事はクラウドキッチンについて、その仕組みや特徴、クラウドキッチンを活用するメリットなどを解説していきます。
クラウドキッチンとは?
クラウドキッチンとは、飲食スペースを持たないデリバリー専業の業態・ビジネスモデルのことです。
一般的なレストランビジネスは、実店舗を構え、厨房で調理したものを飲食スペースで提供します。
これに対し、クラウドキッチンは実店舗を構えずネットで注文を受け、借りたキッチンで調理したものを消費者の自宅などにデリバリーします。
Uber Eatsや楽天デリバリー、出前館などのデリバリーアプリの一般化とともに、クラウドキッチンを活用して料理を提供する飲食店・シェフが増えつつあります。
クラウドキッチンは実店舗を持たず、存在が見えにくいことから「ダークキッチン」や「シャドーキッチン」とも呼ばれます。
また、クラウドキッチンというビジネスモデルを導入している飲食店を「ゴーストレストラン」や「バーチャルレストラン」と呼ぶこともあります。
フードデリバリーの市場規模
スマホの普及によってデリバリー・出前サービスが進化し、飲食店・ユーザー双方の利便性が高まったことから、フードデリバリーの市場規模は右肩上がりで推移しています。
NPD Japanが2019年4月に発行したレポートによると、国内フードデリバリーの市場規模は2015年が3,564億円であったのに対し、2018年は4,084億円と堅調に拡大しています(※)。
※出典:NPD Japan「<外食・中食 調査レポート>成長する出前市場、2018年は4,084億円で5.9%増」
2020年は新型コロナウイルスの流行によって中食ニーズが高まり、デリバリーの利用者が急増しています。
コロナショックが終息を迎えても消費者がレストランに戻ってくる保証はなく、むしろ外食を避けるのではないかという見方も多く、フードデリバリー市場は今後も大きく成長していくことが見込まれています。
クラウドキッチンの特徴と活用するメリット
従来のレストランビジネスとの比較をまじえながら、クラウドキッチンの特徴やクラウドキッチンを活用するメリットを解説していきます。
実店舗不要=開業コストの大幅削減
従来のレストランビジネスはいわゆる「箱ビジネス」で、実店舗を構えるのが大前提です。
家賃や内装費、インフラ整備や厨房設備など、開業コストは1,000万円超とも言われます。
好立地に出店するほど賃料は高くなりますが、売上が立地に大きく左右されることから莫大な初期投資をして開業するのが通常でした。
一方、クラウドキッチンは店舗を構える必要がなく、テーブル・椅子、内装も不要です。キッチンスペースの賃料だけで済むので、開業コストは大幅に下がります。
後述するKitchen BASEのようなシェア型のクラウドキッチンを利用すれば、初期投資はほとんどかからないでしょう。
立地の影響を受けにくいのもポイントで、リスクを抑えて飲食ビジネスを展開できます。
接客スタッフ不要=人件費の大幅削減
レストランビジネスは毎月の家賃や光熱費のほか、接客スタッフの人件費が負担になります。外食産業は従業員の離職率が高く、採用コスト・教育コストの負担も大きくなりがちです。
クラウドキッチンは、接客の必要がないので人件費を抑えられ、毎月の固定費を大幅に削減できます。
その代わり、料理の配送はUber Eatsなどのデリバリーアプリに外注する必要がありますが、実店舗を持つ飲食店に比べればランニングコストの負担は大きく軽減できるはずです。
オンラインデリバリー利用者数の増加=販売チャネルの拡大
近年、可処分所得の減少により外食を控える傾向にあり、共働き世帯の増加もあって中食を利用する人が増えています。
いつでもどこでも様々なジャンルのメニューを選び、専門店の料理を手軽に楽しむことができるオンラインデリバリーは、現代の消費者ニーズにマッチしたサービスだと言えます。
新型コロナウイルスの流行も影響し、2020年は中食ニーズが急増しています。
クラウドキッチンを活用したオンラインデリバリーは今後、飲食店の主要な販売チャネルになっていくでしょう。
クラウドキッチンの事例
クラウドキッチンの事例を、日本と海外で一つずつ紹介します。
日本の事例:Kitchen BASE(キッチンベース)
Kitchen BASE(キッチンベース)は、2019年に東京・中目黒にオープンしたシェア型のクラウドキッチンです。株式会社SENTOENが運営しています。
約20坪のシェアキッチンには4つの独立した厨房設備があり、デリバリー向け店舗や宅配弁当など、複数の入店者に月額制で提供しています。
キッチンを貸し出すだけでなく、入店者のマーケティング支援をおこなうのがKitchen BASEの大きな特徴です。
デリバリーの注文は基本的にオンラインでおこなわれるため、売上や客単価、リピート率などのデータが日々蓄積されていきます。
このようなデータを分析して入店者にフィードバックしているため、入店者はデータに基づいて客観的に経営を見直すことができ、メニューの改善など販促強化につなげることができます。
海外の事例:Rebel Foods
Rebel Foodsは、インドでクラウドキッチンを展開するスタートアップ企業です。
世界的に見てもインドはクラウドキッチンの成長が著しく、数多くのフードテックベンチャーが参入するほか、Amazonもインドのクラウドキッチンに参入し、競争が激化しています。
そのなかでRebel Foodsは、インド国内15都市で1,100ヶ所以上のクラウドキッチンを展開。
2020年5月には5,000万ドル(約53億円)の資金調達をおこない、インドの次期ユニコーン企業になることが期待されています。
クラウドキッチンのこれから
日本でもクラウドキッチンに参入する企業が相次いでおり、飲食業界の活性化が期待されている一方で、クラウドキッチンに懸念がないわけではありません。
今後、クラウドキッチンが台頭し、店舗を持たないゴーストレストランが増えていけば、当然、競争が激化していきます。
そうなると、プラットフォームで露出するための広告コストが高騰する可能性があります。
また、現状ではUber Eatsなどのデリバリープラットフォームに集客を依存しているため、テイクレートの上昇によって利益が少なくなるといったデメリットも考えられます。
飲食業界に新しい風を吹き込むクラウドキッチン
ネット注文&デリバリーに特化したクラウドキッチンは、まさに現代の消費者ニーズに合致するビジネスモデルです。
ゴーストレストランの増加によって競争激化が予想されますが、ユーザーにも、シェフにも、新たな体験をもたらす存在として期待が寄せられています。
独立を考えるシェフにとってもクラウドキッチンは心強く、開業にともなうコストやリスクを大幅に下げることができます。
レシピと調理技術さえあれば、誰でも飲食ビジネスを始められる時代が到来しつつあるのです。
既存の飲食店も、近い将来はクラウドキッチンやオンラインデリバリーの仕組みを活用し、マルチチャネルで商品を提供することが必須になっていきそうです。
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