中国最大の小売業は?ウォルマートに見る中国国内の消費動向

不動産産業の不調から、景気減速そして、デフレへの進行がみられる中国市場。B2Cビジネスへの影響は大きい。中国市場の小売業動向から今後の中国における消費動向を考察する。

シェアする
ポストする

    中国の小売売上は対前年比でプラスを維持

    中国国家統計局は、2024年8月社会小売売上が3兆8,726億元で、前年同月比プラス2.1%となり、1-8月累計では同比3.4%だったと発表した。中国GDPに占める個人消費額は40%弱(日本は2024年6月期54.2%)で、対前年比でプラスではあるものの、本年のGDP目標5%前後へは力弱い。

    同局が2024年9月9日に発表した8月の消費者物価指数(CPI)は、豚肉価格が16.1%上昇したこともあり、食品は2.8%値上がり。前年同月比で食品全体は0.6%上昇し、7か月連続でプラスとなった。不動産不況に伴い耐久財は値下がりし、自動車やバイクは5.5%マイナスで、前年割れの状況は2022年7月以降継続している。

    食品関連の値上げは、天候不順要因が大きく、価格上昇には一定の限界があると見られる。さらに生産者物価指数(PPI)は、マイナス1.8%で23か月連続の前年割れだ。
    社会小売の項目を対前年比伸び率順に並び替えると、下表となる。

    図表1_社会小売の項目を対前年比伸び率順

    CPIに現れるように食品関連が伸びを示す一方、家具類、建築、自動車、貴金属など高額商品の消費の落ち込みが顕著になっている。また、コロナ明けに急激に伸びていた外食消費の鈍化も見られ、節約を重視する生活様式への変化が推察される。

    業態別に見る中国小売の消費動向

    高額消費の停滞が示すように、中国国家統計局が発表している業態別での対前年比の動向は以下となる。

    図表2_業態別での対前年比の動向

    2024年よりデパート、その後にブランド店がマイナスとなり、コンビニ、スーパーは持ち直している。CCFA(中国連鎖経営協会)の2023年におけるスーパー(ハイパーマーケット、会員制店舗含む)ランキングは、以下となる。

    図表3_スーパー(ハイパーマーケット、会員制店舗含む)ランキング

    CCFA統計によると、日本出資企業では、イオン(中国)投資有限公司が13位(101.2億元=2,024億円)でトップとなる。
    2022年12月にコロナ封鎖解除後の1年間、上位10社中、米国独資のウォルマートのみが、売上増となった。店舗数が最少である点は特徴的だ。
    さらに、スーパーマーケット以外も含めた小売チェーン企業における2023年の売上ランキングでもウォルマートはトップとなっている。

    中国ウォルマートにおける店舗数の推移

    1996年、中国南部の華南地区で1号店が開業。ハイパーマーケットのウォルマートと会員制サムズクラブから始まり、現在はハイパーマーケット、スーパーマーケット(SM)、会員制店舗の3つがある。この数年は、会員制店舗を重点に拡大している。

    中国での開業から20年後の2016年、両タイプを合計すると439店舗あったが、2023年は365店舗、さらに2024年には334店舗に減少している。

    ウォルマートの店舗は2020年以降減少し、会員制のサムズクラブが出店拡大を続けた。総売上高も拡大し続け、2023年には1,202億元(約2.4兆円)に至る。
    2019年から2023年5年間での売上は+46.1%、店舗数は-17.4%、1店舗当たりの売上は+76.9%となる。

    図表4_中国ウォルマート売り上げ/店舗推移

    店舗当たり売上の拡大は、SM店舗(ウォルマート)から会員制倉庫型店舗(サムズクラブ)への移行と、EC販売の拡大によるものだ。
    サムズクラブの店舗面積は15-20千㎡、SKU(アイテム数)は4,000でPB比率の高さと安価であることを特徴としている。2016年時点16店舗だったが、2024年48店舗から、2027年までに20店舗開業を計画している。

    弊社調査では販売での特徴は、売上トップ100のうち約60%がPB商品であること、すなわち消費者購買意欲を起こさせる商品開発とそれに伴うサプライチェーン構築ができていることだ。さらに言えば、消費者は安価だが自身のニーズに合う品質の商品を購買しており、NB(ナショナルブランド)や高品質で高価な商品へのこだわりが薄れているとも言える。

    ▼関連記事はコチラ
    ハイパーマーケットとは?スーパーマーケットとの違いやカルフールの失敗を解説!

    EC化率の高さ

    中国ウォルマートにおけるEC販売実績は、下記の通りだ。

    売上(億元) 売上(億円) 全体売上に占める比率
    2022年 4,428,000 約8,856 40.5%
    2023年 5,386,000 約11,000 44.8%

    サムズクラブのみのEC販売額の比率は、約50%とみられる。サムズクラブでは、小規模業務向けも意識した大型包装が中心で、これがコスト削減の一因だとしている。店舗購買のみならず、会員制サイトでの購買と短時間配送の実現によって、他社より高いEC化率を実現している。

    ECと物流のプラットフォームが実現したのは、2016年にEC大手で自社物流網を早く構築したJD(京東商城)との提携と、同社株式保有(当時5%)によって築いた密接な関係に起因している。

    一方でAmazonは、自社フルフィルメント、ロジスティクスの許認可に時間が掛かり、他内資系に後れを取った。中国市場の物販優先度を下げたとも考えられる。

    他社の動き

    上述は、2014年からオフラインリテールに本格投資を開始し2016年にOMO(On-line Merges Off-line)を提唱したアリババが目標としていた点だ。
    (2024年5月 中国リテール OMOは収益モデルか

    アリババも2020年以降 自社フーマ―や、同グループの大潤発も会員制店舗を展開している。そのほか外資系では、コストコ、ドイツ系のメトロとあるが、サムズクラブの後塵を拝している状況だ。

    メトロは1996年、サムズクラブと同時期に上海に出店。ハイパーマーケットとして展開する中、2020年に中国の物美集団が80%の株式を取得し、翌年から会員制店舗に切り替えている。その過程で、従来店舗の閉店など痛みを伴っている。

    フーマ―は、X会員制店舗の拡大を進める一方で、既存店を非会員制のディスカウントストアに変えつつある。

    規模が必要な会員制店舗

    規模が必要な会員制店舗

    サムズクラブの年会費は260元(約5,200円)で、プラス会員(アップグレード会員名称)は680元(約13,600円)だ。競合する会員制店舗の会員費用と、大きな差はない。消費者は、支払う年会費以上のメリットを感じられるサービスがなければ、会員でい続ける理由はない。

    同社は、食品加工の子会社ではなく、外部企業との連携でサプライチェーンを築き、低価格を実現している。固定費を下げ、販売のスケールメリットによる購買単価の引き下げを行っており、現在は米国サプライヤーだけでなく中国サプライヤーの海外グル―プ店への販売協力も行っている。

    弊社が独自に調べた中では、食品廃棄率はネット比率が高いフーマ―で5%、ネット比率が低い生鮮スーパーマーケットでは10-15%。サムズクラブは1.5%でかつ夜間の値引きなどは通常行わない。

    サムズクラブの会員数は約500万人、継続率は80%とみられている。会員にとって商品への嗜好、品質、単価などへの満足度やロイヤリティは高いと言える。
    また、会員費と会員数から、年会費約13億元(約260億円)が固定収入としてあることがわかる。これらを販促や開発などに向けることができるのだ。

    支持する消費者は

    支持する消費者は

    不動産産業の低迷から、中国政府は国内消費の拡大を経済の持ち直しにと考えている。しかし、冒頭で説明した消費動向を見る限り、消費者の価格に対する要求の高まりと慎重な購買姿勢に変化は見られない。以下の要因より、しばらく継続すると考える。

    a)不動産市場
    2020年のハーバード大学教授Kenneth S. Rogoffらの試算では、中国のGDPに占める不動産業の割合は関連産業を含めると29%となる。不動産部門は中国経済成長の重要な柱だが、これ以上、不動産開発に大きな期待はできない。

    すでに、住宅戸数としては、在庫や建築中のものを入れると充分にあり、建設面積は減少していく。そして住宅需要の減少要因として、大きなユーザー層である25-34歳の人口が2017年でピークアウトしている点がある。

    ▼関連記事はコチラ
    人口減少の局面に入った中国 子女を持つ理想と現実

    中国の結婚では、通常、住居購買を行う。そのユーザー数が減少に向かっているだけでなく、成婚率も減少している。さらに中国の持ち家保有率は、日本の61.2%を大きく上回る96%。住宅購買が有益な投資だったため、住宅保有世帯の31.0%が2軒、10.5%が3軒以上を保有している。今後、複数の住宅投資を行う消費者は増えるとは考えにくい。

    b)住宅ローン返済
    現金購買者もいるが、ローン利用による購買者も当然いる。2024年9月末に政府は、経済促進のために大規模金融緩和策を発表。株式市場はこれを好感し、株価の上昇につながった。しかし2024年6月末時点で、住宅ローン残高は全国で38.6兆元(約772兆円)。約5,000万世帯がローン返済減の恩恵を受けるとしているものの、購買資産額の下落傾向を見ている消費者にとって生活資金は、消費よりも現金保有、またはローンの繰り上げ返済に向かうと推察する。

    c)若年層の失業率
    2023年12月より、学生を含まない新たな失業率が発表されている。

    2023年12月 2024年7月
    16-24 歳 14.9% 17.1%
    25-29歳 6.1% 6.5%
    230-59歳 3.9% 3.9%

    全体失業率は同期間5.0-5.3%で推移している。しかし、中年以降の世代失業率は変化ない一方、消費の中心となる若い世代の失業率が増加している。

    消費の中心世代の失業率は下がらず、購買価格の低下要求、提供企業はコスト削減に人件費も検討する。従来人手を要した外食などサービス業はすでにDXから省人化を推進し、労働力が必要なのはデリバリー関連との状況だ。スタートアップの起業数が大きく減少していることもあり、閉塞感の拡大が懸念される。

    品質と価格と利便性の高さを求める消費者に、「米国企業、外資企業だから」といった理由で忌避する傾向は見られない。

    会員制店舗の課題は

    会員制店舗の課題は

    米国サムズクラブは、小規模業者や中間層、3-5人の家族を想定した大規模包装と、消費者の嗜好に合わせたPB(プライベートブランド)の商品開発と販売を行っており、中国でも同様にこれらを推進している。

    中国市場で、米国での成功要因である有料会員制、大規模包装、3-5人で構成される家族をターゲットとすることをの疑問視する声はあった。

    事実、2016年以降、OMO型の生鮮スーパーを中心とする中国企業は、大規模店舗からサテライトとして社区(住宅区)付近の中小規模倉庫型店舗を活用し、配送時間の短縮によって差別化と付加価値の創出を図ったものの、各店舗の拠点設置費用、また店舗ごとの廃棄ロスや欠品による機会損失もあり、成功モデルが未だ作れていない。

    大手のオフラインリテーラーで、JDと提携している永輝集団(2023年 SM売上2位)も、生鮮、高級SMでOMO展開したものの、事業を縮小する結果となっている。従来店舗でも、利益が出ず店舗減少を余儀なくされた。

    コロナ前から中間層は、価格上昇する消費財やNB品より、自身が必要とする品質、単価を求める傾向が出ていた。現在の不動産や雇用の状況より、会員制店舗へニーズが向いていると考える。

    店舗購買ではロケーション上、会員制店舗は不利に見える。しかし、都市の中心地にあるハイパーマート型より、郊外の会員制倉庫型店舗を物流センターとし、ECでPB商品による顧客の取り込みを行うことでEC化率を50%近くまで上げられているのも成功要因と言える。

    しかし、会員制店舗の消費者訴求は「価格」「品質」両面にあり、運営する側も粗利率は従来SMより低い設定をしている。スケールメリットを生み出すための大量販売を必要とするので、転換とトライを試みてはいるものの、今後サムズクラブを含め、このモデルがどこまで拡がるのかは、中国経済の状況による部分が大きいと考える。

    2020年の中国国勢調査では中国家庭平均人数は2.62人と初めて3人を割った。上述の結婚による住宅購買と複数世代の同居の減少、そして少子化。大都市部では、さらに平均人数が下がる。

    安価、高品質を求める消費者に食品の大包装の対価で継続ができるのか、消費者が共同購買で分配するような形式は、オンラインデリバリーが常態化している中国において、消費者がそこまでの手間を掛けるとは考えにくい。

    提携企業の持分売却と他社の動き

    提携企業の持分売却と他社の動き

    その物流が重要な成功要因の中、ウォルマートは2024年8月に業務提携しているJD株式を売却し、最大37.4億米ドルを得た。売却理由は、グループ内での集中事業への資金で、インドのデジタル決済「PhonePE」やマーケットプレース「Flipkart」のIPO準備とも言われているが、JDとの提携は取り下げていない。

    JDでのオンライン販売、物流は両社にとって有益だが、これ以上の提携メリットはなく、双方が新たなビジネスモデルを検討しているのかもしれない。
    JDは、再度自社でオフラインビジネスの構築を開始した。その中にはディスカウント店も含まれる。

    ディスカウントショップチェーンが勃興している中、会員制店舗のリテールモデルの変化とサプライチェーンに注目していく。

    まとめ

    • 不動産購買者、住宅ローン保有者は、資産である住宅価格の下落を懸念して支出に慎重だ。
    • 政府は金融緩和を行うものの、不動産業へのGDP過去貢献率が高いだけに、新規拡大策が見いだせず景況感を上げられていない。
    • 消費者の中心である中間層は、これまでの生活から品質と好みの商品選択を継続するが、安価志向が続いている。
    • 会員制店舗は中間層へのニーズに応え得るが、投資が大きく、サプライチェーン構築と効率化を必要とする本事業への参入者は限定的だ。

コメントを送る

頂いたコメントは管理者のみ確認できます。表示はされませんのでご注意ください。

※メールアドレスをご記入の上送信いただいた方は、当社の利用規約およびプライバシーポリシーに同意したものとみなします。

コメントが送信されました。

関連記事