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「食品」が牽引するコロナ後の中国リテール消費
コロナ、不動産処理から経済スローダウン、さらにはデフレ懸念。最近はマイナス要素が目立ってメディアで取りざたされる中国経済だが、消費動向にはどのような変化があり、中国マーケットでの伸びはどこに期待できるのか。コロナ禍からの復調が著しい食品産業を例に考察する。
コロナ前を上回る外食・食品産業の回復基調
下の表は、2023年1ー11月の中国における社会消費品小売累計額である。建築・内装材などを除き、ほとんどが前年同期を上回っている。
この中でも外食産業の回復が大きく、コロナ前の2019年同期比で見ても13.3%増で、過去最高額だった2019年1ー12月の4.67兆元(約93.5兆円)を既に超えている。食品関連は食肉を除き原料高の影響もあり、同様にコロナ前を超える消費額となっている。
一方、不動産市況を反映して家具、建築・内装材関連は2019年度を大きく下回った。
また、小売業態別の売上は下の表の通りで、2022年から見ると、順調に拡大しているのがコンビニエンスストア(以下CVS)と専門店となる。
インターネット販売は、社会消費小売品金額に占める割合が27.5%と、2019年に20%を超えてから更に拡大している中、前年同期比で大きな伸びを示しているのが食品(+12.0%)、アパレル(+9.2%)、日用品(+7.5%)だ。国内観光の回復もあり、外食を含めた食品類の伸びが目立つ。
日系コンビニ主導で移植を図ったビジネスモデル
中国の統計では、小売業態別の同期比増減を発表している。過去のカテゴリはスーパー、専門店、百貨店だけだったが、図表2のように、2022年以降はCVSとブランドショップを加えた5カテゴリで発表している。CVSを加えたのは、後述する政策と関連性があり、地方都市の消費拡大と国有企業の活用にあると推察する。
中国で最初のCVSチェーンは、経済開放と外資導入を進めていた鄧小平総書記時代の1992年、深圳で開業したセブンイレブンだ(当時、米国Southland社のライセンシー)。その後、1996年に上海で国有企業との合弁でローソンが、2003年には上海でファミリーマートが開業。さらにその翌年は北京で日中合弁によるセブンイレブンと、日系企業がCVSモデルを中国に移植していったと言える。
そのCVSが、社会消費小売を見る上で重要な存在となっている。
急拡大する中国でのコンビニ市場
2019年から2022年にかけての中国国内のCVS店舗数と売上推移は以下となる。
2015年時点で1,181億元(約2.36兆円)だった市場が、2022年で3,834億元(約7.7兆円)、更に年平均成長率9%で拡大し、2025年には5,000億元(約10兆円)に達するとの予測もある。
中国でのCVS事業は、ガソリンスタンド併設型のチェーンである国有企業の中石化易捷(Easy Joy)と中石油崑崙好客(uSmile)が最大であった。
これに1997年広東省で設立した美宜家(Meiyijia)が2017年に1万店を超えてからFCをメインに地域展開。2022年末で3万店、2023年6月には32,000店を超える急成長ぶりで、2027年の目標を5万店としている。また4位の天福は2024年に1万店の計画を発表している。
日系では、ローソンが2025年での1万店到達を計画し、直営店舗だけでなくFC、M&Aを交えて店舗数を急増させた。2022年末時点で5,641店舗だったが、2023年8月には6,000店舗を超えている。
店舗数の変動が大きい中では旧聞となるが、中国チェーン経営協会(CCFA)が発表している店舗ランキングは以下となる。(2022年末時点)
業界の寡占化が進んでいるように見えるが、国土の広い中国であり、かつ2、3位はガソリンスタンド併設型が中心であることから、日本のような住居区、商業区での占有率はまだ低いのが実情だ。
大手は出店スピードを加速させようとし、中堅以下は創業地域を中心とした経営が主体となっている。
中国のコンビニ市場はまだ発展途上
1店当たりの人口ベースを主要国、地域と比較すると、中国国内でのCVSの出店余地はまだ充分にあるように見える。
4直轄市の中で上海を除く北京、重慶、天津とも平均を大きく下回る数値となり、重慶市の24時間店舗比率も最低である。
大都市であれば賃貸価格、出店内容に対する条件も厳しく、投資効率が低いことと各都市の消費習慣の差もあると推測するが、今後確認していく。
CVSのビジネスモデル 中国独特の事情も
① 低い日販
市場売上と合計店舗数から試算すると、中国での1店舗当たりの平均日販は2022年で4,794元(96,000円)となる。
リテールチェーン(CVS、スーパー、百貨店等)の2022年売上から見ると、CVSトップ3と日系3企業の日販(推定)は下記の通りで、店舗数は大きく差がついているものの、日販では日系が高額となる。
これは日系企業の方が、取扱いSKUの中で、高単価となるRTE(Ready to Eat=フレッシュデリ、弁当、チルドスイーツ類)比率が高いことが要因と考える。
事実、Meiyijiaは店舗数増による商品の大量安価購買を行い、低価格販売を主戦略としている。
② 商品戦略
2019年と2022年での販売構成は下記で、RTE及び生鮮商品比率が上昇しているものの、まだその他商品が半分以上を占め、販売効率が良くないと考える。
日販を上げるのにRTE類の販売増加は効果的だが、日配商品で消費期限が短いのが難点だ。中国では環境面と食糧安保の観点から、2021年に「反食品浪費法」が制定され、食品廃棄が法的に罰せられる可能性もある。
また、外食産業のデリバリー比率は30%前後と見られ、価格との競争となるとレストランの価格より低いのが一般的である。
同業以外に外食産業との競合に対して、地域性嗜好や飽きやすい消費者に対する研究開発機能の保有、更にコストを下げるには製造量の増加が必要だが、その為には店舗増が必須となる。開発・製造または店舗どちらかへの投資が先行となる。
Meiyijiaの場合、FC契約で出店スピードを早めているが、同業他社よりFC費用を低く設定することで店舗獲得に繋げている。ただし、RTEの販売比率は小さく、日販上昇には自社または外部提携による開発・製造機能が必要で、日本企業含めアプローチを行っているものと思われる。
③ OMO比率は
ECプラットフォーム企業を含めたB2C企業のEC販売額から、CVS企業は上位にはいない。
2022年のEC売上高TOP1OO企業の1位はJD8,650億元(17.3兆円)、2位はアリババ2,609億円(5.2兆円)。CVSでトップはMeiyijia16.5億元(330億円)で全体の51位、次いで56位にローソン13.8億元(276億円)、CVSではないものの、日系小売業ではイオンが62位10.2億元(204億円)で、それ以外の日系企業はランクインしていない。
CVS市場で売上、店舗数トップのMeiyijiaのオンライン販売比率は3.5%で、ローソンは12.0%となる。(出所:デロイト「2023年中国网络零售Top 100报告」)
前述のKPMGレポートでは、サンプル企業72社のオンライン比率は14%と出ており、上位100社でもオンライン比率は10-15%と推測する。
24時間営業比率が低い中、小店舗でオンラインデリバリの売上を上げるには、アリババ フーマーに代表される他OMOスーパーとの競合は難しく、営業時間及びRTEなどCVS独自の商品戦略が必要になる。
政策による社区出店
2020年8月、コロナ拡大期に商務部は住宅区となる社区(中国では最小の政治単位の呼称)で住民の消費、生活維持のためにCVSのブランド化、サプライチェーンの強化、DX向上を促進する3年行動計画を発表した。
内容は、①2022年までに全国CVSチェーン店合計を30万店開業②販売累計額は50%アップ③百万人人口あたり200店以上④24時間営業店を30%以上にする、とある。
また、CVSの開発によるPB商品、商品のブランド価値を上げる為の他IPとのコラボを支持、さらに優遇策として、CVSで販売可能な食品規制の緩和、タバコ類販売許可証、中西部地区へ進出する大型チェーンの育成など具体的項目が挙げられていた。
結果として、前述の通り2022年に店舗は30万店を超え、販売額は2019年時の2,556億元(5.1兆円)から2022年3,834億元(7.6兆円)へと約50%の増額となり、出来すぎるくらい政府の計画通りの結果となった。
ただし、2022年のCCFAサンプル調査から見ると、必ずしも社区で売上が伸ばせたとは思えない。
それは、2021年CVS全体のうち社区出店型が58.7%だったが、2022年は48.0%に減少し、一方でビジネス区が17.4%から36.1%と増加していることからうかがえる。住民福祉の意味合いがある社区よりビジネス区の方が収益力があること、かつ2022年後半以降、勤務場所が在宅からオフィスに戻る時期にもあたったことが背景と考える。
再び中国政府が推進する社区への出店
2023年7月、商務部等は「15分生活圏の構築推進3年プログラム」を発表した。
住民に豊富な消費業態の選択を持たせること、徒歩15分以内でショッピング、外食、配送、健康、娯楽、ホームケアのニーズを満たそうというもので、その中にCVSの巻き込みが含まれている。
CVSが住宅区内に出店し、朝食の提供、CVSに限らないが野菜など生鮮品の販売、それに伴うDX化と増加する高齢者、そして保育サービスも導入するとしている。
これは、社区という最小の政治単位を経済単位として活性化させようという計画であり、就業、創業支援も行うとしている。
2022年、国有企業China Co-op(供銷合作社)が社区のサービス向上に高齢者、低所得者向けの福祉食堂「国営食堂」の増設案を出した(2022年12月配信記事「中国の食糧自給体制 台頭するChina CO-OPの役割」ご参照)。
今回の動きはCVSにとって、住宅区内での出店でRTEの販売増や複数のサービスを提供できる場になる可能性もある。しかし、高齢者、低所得者が中心の顧客で、また社区の失業者対策として店舗従業員に一部住民の雇用が必要となると、ビジネス区での出店とは異なる形態を検討する可能性もある。
その場合、社区と別区出店による複数業態の経営、それに伴う異なる商品戦略策定を行うこととなり、経営やガバナンスが複雑化、低効率化する課題が発生する。
一方でブランド認知度を高める機会でもあり、店舗数の増加でRTEのコストを下げることによって、新たな出店エリアに注力する可能性もあると考える。
地方都市では、China CO-OPがCVSを社区、地下鉄駅等に出店しており、食品原料調達力を活かし地域拡大と、店舗数増加を進めている。多様な形式のCVSが出現、市場拡大と共に競争激化が続くと見る。
まとめ
- 社会小売消費の拡大で、外食を含めた食品の伸びが大きい。その販路としてCVSが注目される。日本とは異なる商品構成、開店スピードで展開が進んでいる。
- OMO比率の向上、付加価値商品となるRTEの販売拡大には、店舗増も必要。FC展開の上で商品戦略は必要。中国及び日本の流通業にとっても、システム、商品開発、製造には相手国の製造業との連携、提携の深化が求められる。
- 日系、中国民営、国有と各企業が参入する中、省、市の地域性だけでなく出店エリア(オフィス、社区、公的施設(駅、病院、学校)等)毎による店舗戦略が必要となる。
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