ビジネスエコシステムとは?自然界のしくみをビジネスに置き換えた考え方

まず「エコシステム(Ecosystem:生態系)」とは、自然界における生物と周囲の環境が相互作用することで生命を共存繁栄させるしくみです。

ここでの自然界をビジネスや経済の世界に重ね合わせたものが「ビジネスエコシステム」と呼ばれます。

つまり、経済圏における業界・企業・顧客、製品・サービスなどが相互作用することで、新しい収益構造や価値の創造ができ、経済の持続や成長を促すという考え方です。

たとえば、製造業における水平分業型の「サプライチェーン」を挙げてみましょう。

サプライチェーンでは、サプライヤーやメーカー、流通業者や小売業者など同じ業界内で複数の企業が分業するため、生産から販売までの収益化プロセスが整備されています。

すなわち、サプライチェーンはビジネスエコシステムの一種と捉えられるでしょう。

ほかにも、異なる企業同士や研究機関が協力し合い、新しい価値の創造を目指すオープンイノベーションや、起業家が投資家に転じて新たなスタートアップを生み出す循環など、ビジネスエコシステムと呼べるしくみは多く存在します。

DXとともに変化するビジネスエコシステム

近年のビジネスエコシステムは、さらに拡大・多様化する傾向にあります。

その背景にあるのは、ITの発展とともに進むデジタル化の流れです。

デジタル化は、ITによってヒト・モノ・コトの情報がつながり、よりよいビジネスや日常生活を実現することを意味し、昨今では「DX(デジタルトランスフォーメーション)」というワードでトレンドとなっています。

では、デジタル化がなぜビジネスエコシステムに影響するのでしょうか。

「拡大」と「多様化」のふたつの観点でそれぞれ解説します。

なぜビジネスエコシステムが拡大するのか

デジタル技術の一種であるIoT(モノのインターネット)を例に、スマホアプリで遠隔操作できるエアコンについて考えてみましょう。

この場合、モノであるエアコン本体とは別に、遠隔操作できるサービス(コト)を付与するためにアプリケーション開発が必要となります。

そこには開発に必要なソフトウェアやサーバー、あるいはクラウド環境などを提供する企業が介在し、外注する場合はシステム開発を専門とする企業も関わってきます。

つまりITに支えられるサービスがある分、関連する企業や業界、製品やサービスが増加するのです。

「フィンテック(金融×IT)」や「メドテック(医療×IT)」といった既存産業をITと結びつけて高い付加価値を生み出す「クロステック(X-Tech)」も活発化しており、ビジネスエコシステムは今後も拡大していくとみられます。

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なぜビジネスエコシステムは多様化するのか

デジタル化は、製品やサービスに関わるプレイヤーを増やすだけでなく、市場に多様な取引関係を生むプラットフォームとしての役割も果たします。

プラットフォームの例として、以下が挙げられます。

  • 個人間取引を可能とするサービス
  • アプリ上から複数の異なるアプリを起動できるアプリ(スーパーアプリ)
  • 個人が企業と取引する仲介となるサービス(フリーランス募集サイトやインフルエンサーのいるSNS・配信サイトなど)

このように企業同士だけでなく、個人間あるいは個人対企業間の取引関係が生まれやすくなっており、ビジネスエコシステムにおける収益構造は多様化しているのです。

今後は仮想通貨やNFTといったデジタルデータや、情報銀行が扱う個人情報など、取引対象にも変化が起こり、エコシステムのさらなる進化も予想されます。

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事例をまじえたビジネスエコシステム構築のポイント

ビジネスエコシステムが拡大・多様化しているということは、既存のエコシステムへの参入や、新しいエコシステムの構築が従来より容易になっていると解釈できます。

そこで、エコシステムの構築あるいは構成員としての参入におけるポイントを押さえておきましょう。

企業事例を交え、以下にふたつのポイントについて解説します。

製品やサービスをソリューションとして捉える

一般的に顧客が製品やサービスを選ぶ際、いま抱えている不便を解消したり、いまできていないことを可能にしたりと、何らかのニーズを満たす商品を検討します。

つまり、顧客が見ているのはモノ自体ではなく、その先にあるソリューションであると考えられます。

そのため、企業目線では自社の製品サービスをソリューションとして捉えることで、手が届く市場の範囲が拡大する可能性があるのです。

たとえば、自動動車産業をリードするトヨタ自動車株式会社(以下、トヨタ)は自社の営みを単なる自動車の製造・販売ではなく、より良い移動の形を追求する「モビリティサービス」の提供だとしています

現に、トヨタは近年のトレンドとなっている自動車のサブスク(定額利用サービス)である「KINTO(キント)」のリリースや、法人向けの車両管理サービスなどを提供する子会社の設立など、ソリューションを起点とした幅広いビジネスを展開しています。

自動車のサブスクのように、ソリューションはしくみ化することで、組む側の企業は積極的な干渉が必要なく、そこへ参入する企業にはビジネスチャンスが生まれ、双方にとってプラスとなる点も重要です。

ソリューションに必要な補完財を明確にする

補完財は、主要な製品・サービス(主要財)を補完するものです。自動車を主要財とすると、ガソリンが補完財にあたり、互いに揃わなければ製品として成立しません。

ビジネスエコシステムでは、その中心となるソリューションの補完財をおさえておく必要があります。

主要財と補完財の区分けが正確であれば、前者にかかわる中核プレイヤーはソリューションの提供に集中でき、後者にかかわるプレイヤーは補完ビジネスにより収益を得やすくなるのです。

代表例として、アメリカのアップル社が構築するエコシステムが挙げられます。

同社の主力製品であるiPhoneは、内蔵カメラやスクリーンなどの部品製造や、組み立て・販売などを多くの外部企業に依存しているのが特徴です。

これにより、アップル社は企画・設計・デザインに注力でき、製造・販売を補完する企業には収益が生じるため、ビジネスエコシステムが成立しているといえます。

このように、企画・設計工程と生産工程を分離するビジネス形態を「ファブレス」と呼び、半導体産業などに多くみられます。

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ビジョンを共有し持続可能なビジネスエコシステムをつくる

ビジネスエコシステムは自然界をビジネスになぞらえた概念であり、しくみを構成する者同士は独立しているように見えて、繋がっています。

ただしその繋がりは、企業やグループ企業などの組織のものと比べると緩やかです。

繋がりを維持してエコシステムを持続させるには、経済的インセンティブはもちろんのこと、目指すべきソリューションの方向性をビジョンとして共有することが重要となります。

中核プレイヤーは強い求心力と牽引力を備え、参入プレイヤーはエコシステムのビジョンに共感しフォローすることで、持続可能なビジネスを実現していきましょう。

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